光子郎が自分に返事を返してくれた事に、ホッと胸を撫で下ろす。
 本当に、何時もと同じような声で二人の事を呼べたのかさえ分からない。

「タイチ」

 そんな自分の名前を呼ばれて、太一は不思議そうに首を傾げた。

「んっ?」
「ヤマトを連れてきてくれてありがとう」

 自分の事を呼んだ相手へと視線を向ければ、少しだけ照れたようにお礼の言葉が述べられる。

「礼を言われる事じゃないよ」

 そんなガブモンに、自分が返した言葉は、きっと嘘なんて存在しない。
 こうして、皆に会えた事を喜んでいるのは、デジモン達だけではない事を、知っているから。

 そう、これは、自分が望んだ事だから……。

 自分の心が……。


 
                                         GATE 26


 光子郎達よりも先に部屋に入った瞬間、悲鳴が聞える。
 それに、太一は慌てて奥へと入った。

「大丈夫よ、ソラ」

 怯えていると分かるを、ピヨモンが必死に慰める。

「驚かせたようだな。すまない……ワタシは、危害を加えるつもりはないので、安心して欲しい」

 悲鳴をあげられた事で、レオモンは、少なからずショックを受けたようだ。
 言っている言葉が、慌てているのが良く分かる。

「そうだよ、こう見えても、いいデジモンだから、安心して」

 困っているレオモンに、アグモンが明るい声でフォローを入れた。
 目の前で見せられたそんな遣り取りに、太一は思わず苦笑を零す。

 自分のパートナーながら、なんと言うか、フォローが下手と言うべきなのだろうか……。

「アグモン、フォローになってない」
「えっ?そうかなぁ?十分フォローになってると思うんだけど……」

 呆れたように呟かれた言葉に、分かっていないアグモンが不思議そうに首を傾げる。
 そんなアグモンに、小さな笑いが起こった。

「どうかなさたんですか?」

 そんな中入って来た光子郎が、不思議そうに質問してくる。

「いや、空が、レオモンに驚いただけだ」

 質問された事に、思わず素直に返した瞬間、自分達の名前が聞えない事を思い出して、苦笑を零す。
 しかし、光子郎は、言われた言葉に、その場の流れを読んで、笑みを零した。

「ああ、そう言う事ですか……それは、仕方ありませんよ」

 納得したと言うように頷く光子郎に、太一が驚きの表情を浮かべた。

「光子郎?」
「この状況を見れば、分かります」

 不思議そうに自分を見詰めてくるその瞳に気がついた光子郎が、少しだけ困ったような表情をしながらも、理由を答える。

「僕は、飲み物でも準備してきますので、武ノ内先輩への説明は、お願いいたします」
「えっ?あっ、ああ……」
「石田先輩にも、説明は必要でしょう」

 何時もの表情で言われる言葉に、太一は、複雑な気持ちを抱えたままも頷いて返した。

「では、後は、お願いいたします。では、手伝っていただけますか?」

 そして、そのままテントモンの前へと行き、質問を投げ掛ける。
 一瞬何を言われたのか理解できなかったのか、数秒の間を置いてから、慌ててテントモンが返事を返した。

「勿論ですがな、ワテで宜しければ、何でもお手伝いさせていただきますよって!」

 ドンと胸を叩いての言葉に、光子郎が笑みを浮かべる。
 名前を呼ばないにしても、それは当然と言うように行われる行動。
 まるで、昔をそのまま見ているようなそんな気がするほど、自然な動作。

ヤマト、遅いよ!」

 何処か懐かしく感じるそれを見つめている中、ガブモンの声で、我に返った。

「す、すまない……」

 振り返った先には、複雑な表情をしながらも、部屋に入ってくるヤマトの姿がある。
 それに、一瞬空気が張り詰めた。
 空が、息を呑んだのが、少し離れた場所に居ても伝わってくる程だ。

「ヤ、ヤマト、くん……どうして……」

 ここに居る筈のないその姿を見詰めて、空が震える声でその名前を呼ぶ。

「空、ヤマトも、同じ俺が見える奴なんだ」
「えっ?」

 不安げに揺らぐその瞳を前に、太一が慌てて口を開いた。
 その言葉に、空が驚きの声を上げて、ヤマトを見る。

「なぁ、空は、俺の存在を認めてくれた。だから、仲間としてのヤマトも認めて欲しい」

 空の気持ちが分かるからこそ、真剣に言葉を伝えた。
 空が、誰に告白をして振られたのかを知っていても、今は、彼等を守る事が、自分にとっては優先される事。

 そう、たとえそれが、空と言う大切な幼馴染である仲間を、傷つけることになっても……。

「なんで………知っているの?」

 自分の言葉に、空が驚きの声を上げる。
 空は誰に告白をしたのかを、話はしなかった。
 それなのに、全てを知っているような太一のその言葉に、驚きを隠す事は出来ない。
 それは、話を聞いていたヤマトも同じようで、その瞳は、驚きに見開かれている。

「空が、誰を好きになるかなんて、俺が一番分かっている事だ。だって、ヤマトは放って置けない奴だから、だから、空が、好きになるって、知っていたでも、ヤマトは不器用な奴だから……」

 寂しそうな笑みが、そっとヤマトに向けられた。

 一人だけ、取り残された時間。
 それが、どんな結果を導き出すか、誰よりも自分は分かっていた事だ。

「言っただろ?振られたって、空は、こいつの事を、嫌いにはなれない、好きなんだろう?」

 優しい笑顔と共に言われた言葉に。空は、そっと息を吐き出す。
 そして、意を決したように、太一の質問に小さく頷いた。

「………そう、好きよ。でも、漸く落ち着いたわ。ヤマトくん!」

 そして、きっとヤマトを睨み付ける。
 突然名前を呼ばれて、ヤマトは驚いたように視線を空へと向けた。

「女の子が告白しているのに、『迷惑』ってなによ!もう少し言葉選んでちょうだい。なんとも思われてなくっても、他に言い様ってものがあるでしょう!!」
「えっ?あっ、いや……」

 きっとヤマトを睨み付けたまま、勢いのままに文句を言う。
 捲くし立てられたその言葉に、ヤマトは焦って、言葉が出てこないようだ。

「すっきりした。泣いているなんて、私らしくないもの。有難う、貴方のお陰で、私らしく戻れたわ」
「俺は、何もしてねぇよ。空が、自分で考えて答えを出したんだ、それでいいじゃんか」

 ニッコリと笑顔で言われた言葉に、太一も笑顔で言葉を返す。

「お話は、一段楽したようですね。では、彼の話を聞きませんか?」

 その瞬間、キッチンから人数分の飲み物を持って戻ってきた光子郎が、声を掛けてくる。

「そうであった!私は、お前に伝える事があって、ここに来たのだ」

 そして、今まで事の成り行きを見守っていたレオモンが思い出したというように、太一の肩を掴んだ。

「そうだったな。レオモン、その話を、聞かせくれ」

 そんなレオモンに、太一の表情が真剣なものへと変化すのだった。



                                                 



   急展開にならなかった……xx
   嘘吐き管理人のharukaです。<苦笑>
   それにしても、話が進んでくれません。
   どうしてでしょう?(それは、私が未熟だから……xx)
   次回こそ、レオモンのお話が聞けます!
   彼の情報が、どんな内容で、あるかは、お楽しみに!
  
   そして、今回も勿論、『裏・GATE』UP予定であります。
   まずは、この方、空さん。そして、勿論ヤマトさん編をUP予定。
   何時UPかは謎ですが、出来るだけ早くUP出来るように頑張りますね。