DirectXを利用した
Virtua-Labシステムの構築

 

堀ノ内 貴志


1.はじめに

 20世紀に起こった大量生産による生産革命において、 工場にはコンピュータ制御のロボットや加工機械が導入された。 自動化による無休稼働かつ効率良い生産体系、そして省人化がすすめられ、 ばらつきのない良質で安い商品が安定して供給されるようになる。 そうして現在の産業界は、 物不足の時代に適合した少品種大量生産形式から、 物充足に至り個性化の時代に適合する多品種少量の生産形式に移行しつつある。 多品種少量生産ラインにおいては、 精密な加工はもちろん品種切り替えに柔軟に対応できる、 情報化・知能化されたロボットおよび生産システムが求められる。 それに対応できるロボティクスと、 さらに他分野技術との融合の研究が行われている。

 21世紀にむけてのキーテクノロジーとして、 マルチメディア技術とネットワーク技術が急速な発展をみせている。 特にインターネットの普及により、 高品質な画像・音声といったマルチメディア情報が、 高速通信回線を利用してユーザーに与えられることで、 インパクトのあるさまざまなサービスが提供されるようになった。 そこでロボットシステムの新しい発展を目指して、 これら技術とロボティクスの融合という新しいアプローチが 研究者によって行われている。 ロボット学会誌1997年5月号の特集 「マルチメディアネットワーク(MMN)」が記憶に新しい。

PUMAN Robot-Simulatorの紹介 特集の概要については以下のとおり。

  1. インターネットでロボットを遠隔操作… ユーザーはホームページ上で操作し、 ロボットカメラから映像がユーザーへ転送される。
  2. モーバイルコンピューディングとロボット… 移動体通信と移動ロボットとの相互通信。
  3. MMNとエージェント… MMNによって構築されるサイバースペースの中で、 多くの人々と距離・時間・文化を越えたコミュニケーションを行う、 またはコンピュータと自然なコミュニケーションをお行うのに必要な 擬人体(エージェント)を3DCGと情報で生成。
  4. アールキューブ: R3(Real-time Remote Robotics:実時間遠隔制御ロボット)… 世界各地に作業目的にあった人型ロボット、 たとえば災害救助型、医療介護型、宇宙環境型などを配置し、 家庭の入力器からあたかも自分の分身のように遠隔操作しようというもの。

 このように新しいロボット・生産システムの確立を目指し、 大学をはじめとする日本の研究機関では、 CAD/CAM/CAE/FA/CIM 、ロボティクス、情報化・知能化、 Virtual-Reality(VR) といったコンピュータによるシミュレーションを主体とした研究開発が行われている。  CAEにおいて人工現実感(VR)技術は、 コンピュータが実現する仮想空間内での設計活動に人間を能動的に関与させる。 現実にはない仮想生産システムの設計においても、 いままでの経験で得た知識あるいは感性および五感を動員することを助け、 生産設計の最適化に大きく貢献する。 このようなバーチャルファクトリーシステムは、 産業用ロボットを中心とした3DCGシミュレータとして構成される。

 ロボットシミュレータに求められるの基本性能は、 「物体の運動イメージ把握」と「環境物体との干渉チェック」である。 これら2つの機能により、 新しい設備導入時に前もってロボットの運動計画を確認し、 他設備との干渉を避けることができる。 従来のシミュレータは非常に高価でVR提示部は大抵、 シミュレータ作成したロボット運動データをもとに、 レンダラーで静止画像データを作成したのち、 アニメーターで画像データを連続再生させるといった、 複数の手順を踏んでアニメーションを行っていた。 この方法では1分もかからないアニメーションでも レンダリング計算に数時間もかかり、 出力された画像データファイルは巨大なモノになる。 これでは、少し実験条件をかえたり、カメラ視点などを変えるだけで、 アニメーション作成だけで膨大な時間を要す。 動的レンダリングできるものも数点あったが、 描画が低速で十分な性能をもつものでなかった (1996 Nov)。 しかしごく最近になって、 カメラ視点や実験条件の変更に対して即座に 物体の運動イメージ把握や干渉チェックなどを リアルタイムに行えるソフトウェアが現れてきた (1997 Apr)

私の知るリアルタイムレンダリングを可能とする ロボットシミュレータソフト(百万〜一千数百万円)として、

  1. IGRIP Deneb Robotics Inc.製 …UNIXで動作するオフラインシミュレータ。 日本でNo1のシェアを誇る。 シミュレータ上で簡易言語によるティーチングを行い、 そのプログラムを実ロボットの言語へ変換可能。 3DCGシステムにOpenGLを使用。
  2. CODE Cimetrix Inc.製 …WindowsNTで動作するオンラインシミュレータ。 リアルタイムOS上で稼働し、 オンラインで実ロボットのリアルタイムのモニタリングやティーチングが可能。 さらにCODEはコンパイル機能を有し、 自分好みのインターフェースや機能を追加させて、 独自のソフトを作成・配布できる。
  3. Workspace …WindowsNTで動作するオフラインシミュレータ。 わかりやすいインターフェース。モデリング機能が充実。 簡易言語処理機能を有する。3DシステムにOpenGLを使用。
  4. Rasty 安川電機製 …日本製Windows用ロボットシミュレータ。 安川のロボットMotomanがリアルタイムアニメーションする。 ロボットに加えFAシステムのラインも表現可能。 3DCGシステムにRenderWareを使用。

 これらロボットのオンライン・オフラインティーチングまで可能とした 高機能ソフトばかりで、VRの構築には高い演算能力をもつマシンが必要とされるため、 通常ワークステーションレベルのマシンを用い、 価格も百万円を越える非常に高価なシステムとなる。 自動工場の設計者が扱うとしてその利用内容と頻度とを考えると、 特に中小企業のロボットユーザーやVFの研究開発を行う教育機関に対しては、 けしてリーズナブルな価格とは言い難いというのが現状である。

 しかし近年のMMNの普及にともない、 ビジネス・ホビーユースでも高演算処理を可能とした 安価なマシンが入手できるようになり、 さらにはVRを実現する新しいテクノロジーが現れてきた。 そのひとつがMicrosoftの提供するDirectXである。 DirectXは本来アミューズメント向けソフトの開発ツールだが、 もっとも普及しているOSであるWindows95上で、 2次元描画・3次元描画・通信・入力・出力といった 最新コンピュータの基本機能を呼び出し、 それぞれが高機能かつ統合されたものであり、 使い方次第では研究者にとっても多くの恩恵を受けられるものと考える。

 ここではDirectXの一機能であるDirect3Dを利用し、 リアルタイム3次元描画機能をもつ産業用6軸ロボットシミュレータ 「PUMAN Robot-Simulator」を制作している。 PUMANは、 産業用6軸ロボットによる生産工程を実現させることを主眼を置き、 運動イメージ把握および干渉チェックに必要な機能を持たせることに取り組んでいる。 6軸ロボットにくわえ、 生産機械や構造物さらには人体モデルを配置し動作させることことで 自動化工場のレイアウト検討を行うといった バーチャルファクトリー(VF) の構成要素である、ロボットによる仮想生産を可能としている(図.1)。 本ソフトをVFの縮小版である生産設備の仮想実験室 バーチャラボ(Virtua-Laboratory)システムとし、 ロボティクスほかVRに関わる研究者のシミュレーション支援ツールの 開発と普及を目指す。

 

 

2.PUMANの機能


2.1.DirectXに対応

 ビル・ゲイツ氏の謳うゲームマシンとしてのパソコン、 真のインタラクティブメディアの普及のためには、 高速処理・高速大容量通信・高速画像処理・リアルサウンドが必要だろう。 これらを実現するソフトウェア技術開発にくわえ、 それに対応するドライバを内蔵し満足いく稼働条件を与えるような ハードウェアが開発される。

 これら最新テクノロジの恩恵を残さず受けるのに、 世界のスタンダードMicrosoftの提供する 開発ツールDirectXを用いて プログラミングを行うことが効率よいと考える。 ここで利用する3DCG描画エンジンDirect3DはDirectXの一機能であり、 高速描画に加えさまざまな描画設定、 ワイヤーフレーム、ソリッドモデル表示、 テキスチャマッピング、遠近投影、干渉表現、グーローシェーディング、 ライティング効果などなど豊富な機能を有している (別紙参照Direct3D機能)。

 ハードウェア面も劇的な勢いで性能を向上させている。 たとえば1997 Janには、 MMXテクノロジーPentium が発表されている。 このMMX規格に対応したアプリケーションを生成することで、 MMX特有の命令を呼び出し一部処理が高速化される。 MMX-PentiumにつづきPentium-IIも発表されるなど、 これからもCPUの高速化はすすみ、 3DCGのような負荷の大きい処理はさらに軽減される。 くわえてDirect3Dのような3DCG描画処理を支援する 3DCG対応ボード が標準装備されたマシンも、製品のラインナップに上げられている。

 このように普及型パソコンはリアルタイム3DCGに足るレベルに達しつつあり、 VR技術は今以上に一般にも浸透していくだろう。 いままでUNIXベースで高価なソフトを用いていたロボットシミュレートを、 PUMANはDirectXに対応したことで Windows95をOSとする普及機で容易に体験できる。

 まだまだつづく…


3.Virtua-Labシステムの評価

 利用する画像です。

4.今後の課題



5.おわりに



6.APPENDIX

  1. CAD(Computer aided design) …コンピュータ支援による設計。 ディスプレイを用いて会話形式で部品形状や製図などを行う。
  2. CAM(Computer aided manufacturing) …コンピュータ支援による生産。 CADで得られた設計から、NC工作機械の指令データや 自動組立装置の制御データを作成する。 CAD/CAMシステムともいう。
  3. CAE(Computer aided engineering) …コンピュータ支援により部品構造の設計や解析評価を行うシステム。 CAD設計データに有限要素法を適用するなど。
  4. FA(Factory Automation) …自動制御の装置や機械を用いた工場の自動化。
  5. CIM(Computer integrated manufacturing) …経営戦略から生産までをコンピュータによって統合し、 一貫した情報システムとして構築するもの。
  6. 人工現実感(Virtual Reality) …実としてそこにないものを人工的な仮想物に置き換え、 人間に体感させることで臨場感を高める技術全般。 3DCGによる視覚、3Dサウンドによる聴覚、 疑似芳香による嗅覚、力フィードバックによる触覚など。
  7. バーチャルファクトリー(Virtual-Factory) …要素から生産物を生み出す生産機能と、 それをとりまくすべての事象を数理モデル化することで、 「工場のすべて」を仮想空間に実現し生産をシミュレートするという技術全般。 上記コンピュータ技術の集合体ともいえる。 たとえばVFで生産工程をシミュレートし、 そこで得た加工条件を実工場にダウンロードすることで、 生産設計の効率化をあげ時間の短縮化や最適化をはかるなど。
  8. MMXテクノロジーPentium(Multi-Media-eXtention) …マルチメディアデータの処理を高速化するCPU。 主に写真のような画像や音声の再生を助ける機能が従来のPentiumに追加され、 内部キャッシュも増えている。
  9. 3DCG対応ボード …3DCG描画を支援する拡張ボード。 高速3DCGエンジンDirect3D、3DR、RenderWare、OpenGLなどの、 3D描画に特化した処理の一部を3DCG対応ボードに受け持たせることで、 全体の動作を倍以上にあげる。

 

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