DIARY



    
10月29日 2003
     アウトブレイク

   映画ですっかりおなじみになった言葉
恐怖の感染症が、人類の存在を脅かし、
それを絶滅させるために核爆弾を使用する寸前まで言った話。
この映画の元の素材は、アフリカで今も時々発生しているエボラ出血熱である。

  これまで、人類は数十年に一回くらいの頻度で未知のウィルスなどの感染症の脅威にさらされてきた。
たとえばそれは、チフスだったり、天然痘だったり、コレラだったり、インフルエンザであった。
最近では、エイズであり、エボラ出血熱であり、西ナイルウィルスであり、SARSである。
そして、更に驚異に感じているのは新型のインフルエンザである。
新型のインフルエンザが猛威をふるうと、世界中で何百万人もの人が死ぬ。
そして、このことは歴史上繰り返されてきたし、今後もそうである可能性が高い。
そして、時期的には、新型のインフルエンザがいつ発生してもおかしくない時期に来ている。
だから、数年前の台湾で発生した鳥のウィルスで起こったインフルエンザに世界中が大騒ぎしたのだ。
人類は未知の感染症(特にウィルス)にはきわめて無力である。

  自然界には、人類がまだ遭遇していないウィルスが無数に存在している。
それらのウィルスは、自然界で野生動物とそれなりに共存している。(たとえば、鳥のインフルエンザ)
それらのウィルスが感染している野生動物に人類が接触して、
運悪くそのウィルスが人類にも感染性を持っていれば、
人類に感染して広まりやすいものは広まってしまう。
野生動物にかまれたり、引っかかれたり、また、それら野生動物の生肉を食べたりすることは、
その人だけではなくて、人類にとっての驚異でもあるわけだ。

たぶん、今回のSARSは、中国の広東省でその地方の人たちが
野生動物と濃厚に接触したり、野生動物を生食したことで発生したのではないかと言われている。
そして、映画やSARSでもそうだったように、
それら感染症は、あっという間に飛行機に乗って世界中に散らばる可能性がある。
映画「アウトブレイク」で、
感染している患者が映画館で咳をしていた光景が脳裏に焼き付いている。
(運良く、エボラ出血熱は空気感染ではないようなので、
映画館に偶然居合わせただけでは感染しないみたいだが・・・。)
野生動物を簡単なチェックだけで輸入するのも大変に危険だ。
愛くるしい顔で、首をかしげてカメラを見つめていた綺麗な野生の猿が、
飛行機で輸出されていくシーンもゾッとした迫力であった。


 そうして散らばった感染症が、それまで、その感染症のない地域で発生したら
それを、アウトブレイクと呼ぶ。





     11月27日 2003
     
今年は、マスク!
     SARSは、一時姿を潜めているが、根絶されたわけではない。
感染が終息したのも、感染予防対策が功を奏しただけではなくて、
暖かくなって、ウィルスの活動が治まったからと言う説もある。
いずれにしても、また、気温が下がり、空気が乾燥すると、
このウィルスの活動性が上がり、感染が起こる可能性がある。
   
     とりあえず、その危険が高いのは中国である。
日本には、SARASウィルスは今のところ存在していないと考えて良い。
日本で感染者が出るとすれば、海外から持ち込まれた場合だけである。

 また、
おそらく、SARSウィルスの空気感染は
”よほどの条件下”以外ではおこらないようだ。
つまり、一般的には、飛沫感染か、接触感染である。

     空気感染とは、感染性のある病原体が空気中を漂って、
健常者の呼吸の吸気に混入して、気道や肺に感染が起こるものである。
空気感染が起こる条件は、感染能力のある核が空気中を漂うことが必要なわけだ。
患者から排出された病原体を含んだ体液(たとえば、目に見えないくらい小さなつばなど)が
飛んでいく過程で水分が揮発して核だけになる。
この後、その核に感染能力がある場合は、空気感染が起こる。
核に感染能力のないものは、飛沫感染(後述)となるわけだ。
飛沫が飛んで落下する距離は、大体90cmくらいである。
具体的には、結核やはしか(麻疹)・水痘(みずぼうそう)が空気感染する。

     飛沫感染とは、、病原体が、患者の咳や呼気とともに喀出されて、
それを、直接に吸い込んでおこる感染である。
前述のように、面と向かって90cm離れていれば飛沫感染は起こらない理屈であるが、
一応、2mの距離で直接向かい合う様な接触がある場合は「接触歴有り」と考える。
SARSの主な感染形態はこれに当たるわけだが、
過去の例から考えて、町ですれ違ったなどの
具体的でないはっきりとしない接触で感染した症例は、
”例外的な事例”を除けば、ほとんどない。
例外的な事例とは、SARSが最初に蔓延したきっかけとなったホテルの場合と
アモイガーデンという高層マンションでの集団感染である。
前者は、”スーパースプレッダー”といって、ウィルスを多量に排出する重症患者が、
ホテルという閉鎖空間を咳をしながら歩き回ったことが問題のようだ。
スーパースプレッダーは、感染の極期(高熱が出て、肺炎が進行している状態)で
そうなる人がいるようだが、誰がそうなのかという判別は、今のところ不可能。
一応、高熱が出て、2−3日経っていて咳をしている人は要注意だ。

  後者は、排便中のウィルス(SARSは下痢も併発することがあり、
下痢便中のウィルスはその量も多く、
下痢便の中ではSARSウィルスは長期に生存する。
しかも、便のPHがウィルスの生存に適していて、
適度に湿度を保った状態が得られる。)が陰圧の浴室の空調
(浴室で換気扇を回すと、浴室は陰圧になり下水管から空気が逆流する。
しかも、下水管のU字管は、普段水を流さないので乾燥していて、その用をなさない。)
によってまき散らされたため、すなわち、
適度に湿度を保ったウィルス粒子を含んだ下水管の空気が
浴室に逆流して蔓延したためと考えられている。

接触感染とは、患者の体液に触れて、その手を洗わないで、
食べ物などをつかんで口にするなど、
病原体を含んだ体液が直接体に入り込んでおこるものである。

    SARSの感染は、前述のように、具体的なはっきりとした接触歴のない人では
ほとんどおこっていない。
そして、今まで言われていたようなN95マスクでなくても、


外科用マスクで十分に予防できることがわかってきた。


今年の冬は、これから、厚労省の指針が出ると思うが、
外科用マスクをしていれば、万が一SARS患者と接触しても、
10日間自宅待機をしなくてもいいことになるそうだ。

まとめ。
SARSは、主に、飛沫感染と接触感染で広まる。
潜伏期は      2−7日 まれに10日        ・・・・・・・・・ 感染性無しか非常に低い
前駆症状期    1−2日 (発熱・筋肉痛・咳・頭痛) ・・・・・・・・・ 感染性低い
下気道症状期   咳・呼吸困難              ・・・・・・・・・ 感染性は非常に高い

死亡率:4%くらいだが、56才以上は50%以上。逆に、17才以下は0。
(以前は、10%くらいといわれたが、そこまで多くないようだ。)
予防は、マスクと手洗い。水道の水で良いからよく洗うことが必要。
体液(血液・喀痰・尿・便・膿)は、感染性がある。
消毒は、消毒用アルコール(噴霧ではなく、拭くことが必要)・家庭用漂白剤・
(50−100倍に希釈した漂白剤)
中性洗剤も可

(界面活性剤が含まれる合成洗剤を水で二百倍に薄めた中に、百万個の同ウイルスを約二分間入れた。その後、ウイルスをサルの細胞に触れさせ感染力を調べると、まったく感染しないことが判明した。
 合成洗剤を薄めた水に浸したぞうきんでふき掃除をしたり、複数の人が共用する食器や衣類を洗うのに使うと、感染の危険性を減らすのに役立つ。)


衣類等は、80℃以上で10分の熱湯消毒。
(上記の理由によって、ふつうの洗濯でもいいようだ。)

というわけで、今年は、インフルエンザが流行り始めたら
職員も含めてマスク姿になることにした。
ある程度知識があれば、万が一の時、パニックにならないですむ。





    11月24日 2003
    
どうでもいいと言えばいいけど・・・
    最近、見ていて嫌なCMがある。
どうでもいいと言えばいいのだけど・・・。
像が2頭水際にいて、子供の方の像が水にはまって、
「何があるか分からないから、保険に入れ!」
というやつだ。
何が、「何があるか分からない。」だ!
おまえが落としているんじゃないか!
像は、嫌がって前足を折って踏ん張っているのに、
後ろから押して落としている。
像は、極端に下向きの段差を嫌う。
そりゃあそうだ。
あの体重なんだから、一つ間違えば、致命傷だ。
それをあんな仕打ちをするなんて、
どうしても、受け入れられない。



「スター生命には死んでも入るものか!」
と思う。



死んだら入れないけど・・・。
動物愛護団体は、どうして黙ってるんだろう?
誰も、非難しないのだろうか?






 
  11月20日 2003
   
癌ワクチン
   ついに、癌ワクチンが現実のものになり始めた。
グリーンペプタイドという福岡の会社が、
国内初の癌ワクチンの医薬品申請に向けて、後期第2相の治験に着手し、
06年末には、承認申請する予定だ。
この会社は、久留米医大の助教授や教授が設立した大学発ベンチャーである。

   有効な治療法のない癌を対象にしている。
癌抗原ペプチド(生体が「こいつは癌だ」と認識する癌細胞の一部分と思ってもらえばいい。)
は個人によって様々である。そのために、
まず、患者のキラーT細胞(癌を直接攻撃するリンパ球)が認識する癌抗原ペプチドを見つけ出し、
それと同じペプチドを患者に皮下注射して、患者体内のキラーT細胞を増殖させる。という方法である。
もっとも、ここで、患者のキラーT細胞が認識するペプチドを同定するのがとても難しいのだが・・・。
ペプチドは化学合成で作られるためワクチンの製造コストは低い。

  現在は、早期第二相の治験を実施して、累計113人の患者にワクチンを注射した。
6割以上の患者に免疫反応が出たと書いてあるが、効果があったかどうかは?
3割の患者で癌の進行が止まった。
5例で癌の大きさが半分以下になったという。

  いずれにしても、打つ手がなかったところに打つ手が出てきたのだからいい。
それに、うまくペプチドが同定できさえすれば、もっと発展する可能性があるし、
他の治療(ミニ移植のような他の人の免疫を移植する方法)と組み合わせれば、
より効果が期待できるかもしれない。
まだ、始まったばかりの治療だが、将来に期待できそうだ。

ウォーターピローは、USからの送料は27ドルだった。
合計で7000円ちょっとだからこっちの方がお得である。




   
11月18日 2003
   頭の中の爆弾
   最近は、MRI  の普及で無症状の脳動脈瘤が発見される機会が増えてきた。
この脳動脈瘤は、「頭の中の爆弾」とよく言われる。
この動脈瘤が破裂すると、いわゆる”くも膜下出血”である。
40才以上で3%から5%の頻度で発見されて、
破裂率は、1年間約1%である。
破裂してくも膜下出血になると、3分の一から2分の一の患者さんは死亡する。
日本では、年間約1万3千人がくも膜下出血で死亡している。
この数は、最近の交通事故死よりも多いと記憶している。
  そうなると、「MRIを受けて、脳動脈瘤を破裂する前に発見して、
クリッピングという、動脈瘤を破裂しないようにクリップで留めてしまう手術
を受けた方が良い。」ということになって、一時は脳ドックが流行った。
しかし、実際にそのクリッピングの手術を受けると、
その手術の合併症ために様々な障害を抱えてしまうことがあった。
データー上は、予防手術を受けて障害を抱えてしまう場合と、
受けないでくも膜下出血が起こって障害が起こる場合の確率は
10年後ではあまり違いがないことがわかってきた。

  しかし、実際に、脳動脈瘤が発見されて、このデーターを見せられたら、
患者はどうして良いか困ってしまう。
現在は、
1.動脈瘤が大きくない。(10mm未満)
2.部位が脳底動脈瘤でない。
3.高齢でない。(70才未満)
4.発見理由が脳梗塞でない。
以上の4条件が揃えば、手術合併症の危険は非常に低いことがわかってきた。

  ちなみに、
突然の強烈な頭痛の出現(何時何分何秒から頭痛が出現したと言えるような頭痛)
があると、くも膜下出血を疑う。
血縁にくも膜下出血の既往がある人も要注意だ。







   11月14日 2003
   
今日は切れかけた!
   ちょうど一週間前に、肺炎の女性を診察した。
肺の音がおかしいのでレントゲンを撮ると、
案の定、右の肺に影が認められた。
一週間分の薬を渡して、調子が良ければ、
一週間後に受診するように言っていた。
肺炎は順調に治ってきており、熱も数日して下がったようだ。
しかし、今日診察していて、どうも、僕の話に突っかかってくる。
「けんかを売られているみたいだな。」と思ったが、
たいして気にもとめなかった。

  後で、看護師さんが真相を話してくれた。
前回の診察の時に、「先生に触られた。」と言っていた。と言うのだ。
前回の診察の時も、その看護師さんの勤務だったが、
診察中は彼女は横には付いていなかった。
今日は、彼女は気をきかして介助に付いていてくれた。
僕は、女性の診察に際して、ブラジャーは着けたままで診察する。
(注:誤解する人がいるかもしれないので、念のため確認しておくが、
   僕がブラジャーを着けたまま診察するのではない。)
どうやら、この患者は、僕が背中の音を聞く時に
「僕の指が背中に必要以上に触れた。」と怒っているらしい。
ブラジャーのひもがじゃまになるので
ひもの下に聴診器を滑り込ませたことと、
聴診器が動かないように、小指と薬指を皮膚にあてがって
聴診器を固定したのが気に入らなかったそうだ。
(皮膚上で聴診器が滑ると音がして聞き取りにくいから、
そうするのは、基本的な手技で、
学生の時初めて聴診器を持った時にそのように指導されるのだ。)
  
  だいたい、「肺炎かもしれないぞ!」と思っている最中に
”エッチ心”が出てくるほど、僕は達人ではない。
見逃せば、えらいことになるし、
そうであったらそれで、おおごとなのだから、いっぱいいっぱいである。

  しかし、そうはいっても、この患者が訴えでも起こしたら、
裁判ではまず間違いなく勝つことが出来るだろうけど、
勝ち負けと関係なく、
僕の所のような小さな診療所は、
一発で変な評判が立って、つぶれちゃうかもしれない。
それに、裁判官の中にはやはり変なのがいるから、
運悪くそれに当たれば、どうなるかわからない。
さらに、「火のないところに煙は立たない。」
という定理のようなものが世間にはあるので、
白い目で見られてしまいそうだ。

  誓って言うが、変なことはいっさいしていないし、
必要以上に触ったりもしていない。
火のないところに煙が立つことだって有るのだ。
化学の実験で、「火のないところに煙が出た」ことは何度もあったはずだ!
さらに、舗装してない道を走れば砂煙が立つし、
露天風呂には湯煙が立っている。

  この商売をしていて、世の中には、
”本当に変な人”がいる(患者にも医者にも)ことは
イヤってほど思い知らされてきた。
信じられないかもしれないが、
白いものを本気で”黒”だと主張する人がいるのだ。
なるべくそんな人とは関わりを持たないようにしていても、
この商売は、関わらざるを得ないことがある。
今回も運悪くそういう人に当たったわけだが、
そのためのリスク管理が必要なのだろうか?

  元々、今の診療所を作った時、
患者さんのプライバシーを考えて、
診察室は、「なるべく個室になるように」作った。
しかし、やはり、看護師さんが横に付く方が良いのだろうか?
もう一度、考えてみようと思う。

  まぁ、とりあえず、今日は看護師さんに感謝だ。
診察前にこの話を聞いていたら、
ぶち切れてけんかしていただろうから・・・。

  それにしても、腹立たしい! まだ、ムカムカする!
二度と顔も見たくないが、
「5日後にレントゲンと血液検査をして治癒確認しましょう。」と言ってしまった。
もう肺の音は良くなっていたから、今度は指一本ふれないでおこう。








   11月12日 2003
   
ウォーターピローはいいかも!
   最初に、10月31日の日記の統計処理に計算間違いがあった。
ここに、お詫びして訂正します。
内容は、さらにややこしい話になってしまったが、
要約すると、
インフルエンザワクチンの感染予防率80%とは、
2001/2002年の統計から推測すると、
9.7人にワクチンをうつと
一人がインフルエンザに罹らなくてすむという計算である。
詳しい内容は、コラムを。

   先週末の日曜日は、内科学会の後、東急ハンズで枕を買った。
水を入れる枕なのだが、買った時は、そんなに期待はしていなかった。
使ってみて驚いた。
数年前に首が痛くなってから、ずっと、(ましな時期はあっても)
常に首は痛くて、振り返ることは出来なかった。
左腕はいつもしびれていた。
寝ている時も首の位置が気になっていたし、
目が覚めても首の具合が悪かった。
何年ぶりだろうか、「首が何ともない!」という状態で目覚めた。
手のしびれもほとんどない。痛みもない。
起き出して、夜には少し痛みが出てきたが、
それでも、かなり楽である。
気のせいかもしれないし、偶然かもしれないと思って、すでに3日目である。
夜中と朝は、とても具合が良い。
夜中に首の具合が悪くて寝返りを打つために、
なんとなく目が覚めるということがない。
起きて、何やかやしているうちに、また具合が悪くはなってくるが、
今までとは較べものにならないくらい楽である。
首も含めて枕がサポートしてくれるせいだろうか。
水枕なのでボヨンとした感じがあって、
最初は少しとまどったが、5分で慣れた。
僕が今まで使った枕では、ダントツ一番である。
おかげで家は枕だらけだ・・・。
メディフロー社のウォーターピロー 日本では、12000円
直接買うと 38.95ドル (送料は27ドル。7000円ちょっとだからこっちの方がお得。)
一週間前後で着く。
ただし、すっぽりと頭が埋もれる感じなので、夏は暑いかもしれない。
でも、まだ夏は経験してないから実際にどうなのかは不明である。






   11月10日 2003
   
時代は変わる
   この週末は、内科学会の講演会に出席した。
認定医の単位取得に必要なのだが、それだけではなくて、勉強になることが多い。
現在の最先端の医療について、いろんな知識が得られるので、
日曜日をつぶしてでも、行くことはやぶさかではない。
今回は、血液学と、腎臓学についての講演が主なものであった。

  思えば、30年近く前、僕がまだ学生だった頃に、
「人類は、後10年もすれば、癌を克服する道を見つけるであろう。」
と人類は豪語していた。
確かに、強力な抗ガン剤や、
癌に栄養を供給する栄養血管を
抗腫瘍剤で塞いで、ガン細胞を兵糧責めにする治療が開発されたが、
根本的なものではなかった。
10年後には、「人類が、癌を克服するのは、後、ん年・・・。」
という言葉は聞かなくなった。
そんな偉そうなことが言えないことがわかってきたからだ。

  僕が医者になった時、担当の教授は、
「白血病は、ほっておけば必ず、しかも、近い将来に、患者は死んでしまう。
 白血病は、腫瘍をメスで切り取るようなことも出来ない。
 全身の血管の中に白血病細胞がいるのだから、
 それを徹底的にたたくしか患者は生き延びることは出来ない。
 非常に、シビアな戦いである。
 白血病が治せるようになれば、
 人類は、癌を克服する道を見いだせるであろう。」
と口癖のように言っていた。
僕が白血病の治療をしていた時は、そうやって、
徹底的に白血病細胞をたたくしかできなかった。
そしてそれは、患者にとっても、地獄の日々であった。

  時代は変わり、骨髄移植が出来るようになって、
白血病が治るようになってきた。
それでもまだ、治療はそういった強力な戦争のような武力闘争であった。
骨髄移植は、徹底的に抗ガン剤で白血病細胞をたたいて、
骨髄に強力に放射線照射をするのであるから・・・。

  この数年、事情が変わってきた。
遺伝子解析が出来るようになって、白血病に関わる遺伝子がいくつも発見された。
白血病細胞が、異常に増えないで、正常細胞に分化するように誘導する薬や、
異常な遺伝子の作るタンパクを働かなくするようにしてしまう薬が開発されてきた。
後者の薬は、まさにコンピューター上でデザイン開発された。
今や、医学の進歩は、医者が支えているのではなく、
ハイテクノロジーが支えている時代になった。
そして、癌を人類が克服するかもしれないとい光明も、新たに見えるようになってきた。

  僕が、医者になって初めて担当した患者は、慢性骨髄性白血病の少女だった。
けなげで、素直で、本当にかわいらしい子だった。
何とかして助けてあげたかった。
彼女の血小板の数が減って、出血が止まらない時には、
周りの反対をおして、僕自身の血小板もあげたことさえあった。
でも、とうとう助けてあげられなかった。
助けてあげるすべがなかった。

  今は、コンピューター上でデザインされたカプセルの薬を飲むだけで、
80%の慢性骨髄性白血病の患者は、正常の状態になることが出来る。
(治っているかどうかは、まだわかっていない。時間が結論を出すだろう。)
この薬は、他の固形癌にも効果がある可能性があり、
現在、世界中で治検がおこなわれている。
そして、いろんな癌の、様々な遺伝子が発見されて、
その遺伝子治療が多方面から研究されるようになってきた。







   
   11月8日 2003
   
なまけちゃった!
   ずいぶん滞りがちな日記になってしまった。
書くことはいっぱいあるのだが、
時間と体力(気力)が足りなくなってしまう。
月末から月初めは、医師会の出動表(予防接種や健康診断など)
を作らないといけないので、これにかかりっきりになってしまう。
だいぶ、慣れてきたが、みんなの都合を優先しながら、
みんな平等になるようにするのはパズルの世界だ。
出来れば、来年の3月で理事をやめたいが、難しそうだ。
任期は2年なのだが、誰も辞めそうにない。
「辞める。」と言うと、一人だけ逃げ出すみたいだし・・・。

  他にも、時間がない要因がある。
ツゥームレイダーY である。
Yは、以前のものに較べると、ずいぶん易しくなってしまった。
以前は、行き詰まると3日も4日もかかったが、
今回のものは半日もあれば解決してしまう。
おかげで、もう少しで攻略できそうだ。
今までは、攻略するのに3ヶ月くらいかかったが、
今回はせいぜい2週間だ。
まだまだ、楽しみたいので、この数日は、
少し進行するとやめるようにしている。
攻略したいが、したくない状況である。

  それから、インフルエンザワクチンの接種が始まったので、
診察が忙しくなってしまった。
僕の所は、「効かないですよ!」と言っているのに、この有様だから、
よそはさぞや大変だろうと思う。
診察が終わるとぐったりして、日記を書く気力はなくなっている。

  さらに、どうも、今年は、マイコプラズマ肺炎が流行りそうだ。
この一週間で、3人も診た。
外来で肺炎を診る頻度は、統計的には、
一シーズンに一人くらいのものなのだが・・・。 
そんなわけで、ばたばたと診察をしているので、
終わるとぐったりしてしまう。





   
11月 4日 2003
   
下手物は食わない方がいいみたい。
   グアム島のチャモロ族では、かって、
筋萎縮性側索硬化症−パーキンソン痴呆複合(ALS/PDC)
の発症率が、異常に高かった。
博物館に50年間保存されていたオオコウモリの標本が
その原因を解明する大きな手がかりになりそうだ。
このオオコウモリの皮膚組織に含まれる
βメチルアミノ−L−アラニン(BMAA)(アミノ酸の一種)が
培養神経細胞を死滅させたことから、
このBMAAがALS/PDCの原因と推定されたからだ。
かっては、このオオコウモリは、チャモロ族が食用としていた。
現在は、絶滅危惧種として保護されている。
チャモロ族のALS/PDCの発生率の低下と
オオコウモリの生息数の減少は非常に良く一致している。
オウコウモリの皮膚には、BMAAが高濃度に含まれている。
おそらく、その食物であるソテツに含まれるBMAAが
オオコウモリの体内で生物学的濃縮を受けたものと推測されている。

   僕たちも、パラオに行くと、種類は別だが、
フルーツバットというコウモリを食べる機会がある。
フルーツばかり食べるコウモリで、フルーツの香りがするそうだ。
まだ、食べたことないが、
これからも食べたくないとつくづく思うのであった。

   しかし、コウモリばかりではない。
僕たちが、日常に食べている牛だって・・・。
昨日の新聞でBSE(狂牛病)に感染している牛がまた、報告されていた。
他の種を食べて生きていくのは、できるだけ控え気味にした方が良さそうだ。
(もっとも、同じ種を食べたらもっと大変だけど・・・。)


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