少子化のあれこれ


目次 おたより

ミクロ経済学から見た少子化の原因

子供には、3つの役割があると、経済学では考えられています。

きょうびの先進国では、一番目と二番目の理由は弱くなっており、 もっぱら三番目の理由で子供を作ります。

さてさて、子供を作る前に夫婦は、 「子供の魅力」と 「子供を産まなかった場合にその費用でできる他のこと」を 天秤にかけ、子供を作るかどうか決定すると考えられます。 後者を、「機会費用」と呼びます。 この計算は、子供が出来るたびに、やり直されます。

機会費用は、子供の養育費(1人2000万円:厚生省調べ) だけではありません。 既婚女性が専業主婦か自営だった以前とは異なり、 雇用されて働くことの多い現在では、 「子供を生むことで稼ぎそこなう費用」が馬鹿になりません。 育児期間中も母親が働けるならこれは、 保育料と、産休・育休中の給料となります。 保育料といっても、どうせ3歳過ぎれば専業主婦の子でも 幼稚園に行くのですから、 3歳未満の分だけ計算すれば良いでしょう。 育児期間中も母親が働けるならば、 「子供を生むことで稼ぎそこなう費用」は、 子供一人あたり数百万円程度です。

ところが育児期間は育児に専念するとなると、母親の 「子供を生むことで稼ぎそこなう費用」は高いものになります。 年収300万円の母親が10年間仕事をしないならば、 3000万円にもなるわけです。 一般に、ブランクが長いほど、復職後もなかなか稼げるようには なりませんから、その分まで考慮すると、もっと高くなります。 育児期間中に母親が働けるかどうかで、「子供を生むことで 稼ぎそこなう費用」は一桁違います。 つまり、母親が働ける方が、子供をより産みやすくなるのです。

これを裏付ける統計があります。 先進国(日、スウェーデン、米、ノルウェー、フィンランド、 英、仏、西独、蘭、伊、ポルトガル、スペイン)の25ー34歳の 女性の労働力率と合計特殊出生率の間には、 相関係数0.78という強い正の相関があります。 もちろん日本は、どちらも低いグループに属しています。
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少子化の巷の反応を見て思うこと

東京商工会議所の少子化のアンケートを見たことがあります(惜しいことに今は消えたようだ)。 なかなか笑えました。

  • 女性のいわゆる社会進出が少子化の原因であることは広く理解されている。
  • どういう政策で出生率が上げられるか、と聞くと、男は「金よこせ」 女は「手を貸せ」と答える。 極楽蜻蛉の男性が多いようだ。
    ちなみにEU諸国では、家族政策の強度と出生率の間に、 相関がないことがわかっている。 日本でも、いくつか比較的高額の 出生手当を支給する自治体があるが、同様の結論が得られたようだ。
  • 企業のトップなどには、少子化の危機感が強い。 将来の国内市場の先細り、就業人口の減少を考えれば当然といえる。 しかし、少子化対策としての、共働きが子供を持てるようにするための 就業条件の整備などは、まったく行うつもりはない。 「フレックスタイム制があるだけでもだいぶ違う」という女性の声は あるのだが。
    まあいい。そのうち、国民負担率は上がるは、雇用が流動化して 片働きのリスクが高まって、社員が共働きだらけになって、家庭負担なしで 働ける社員を見つけるのが至難の技になることであろう。
  • 保育サービスを充実させることに、反対する人がいる。 「保育所の増加」→「キャリアウーマンの増加」→「出生率低下」 という、思考ルーチンのようだ。
    本当にばりばりのキャリアウーマンが、そんなにいるものか(笑)。 働きながら子供を持つのも大変。 「三歳までは母の手で」 という声も気になる。 働かないで子供を持つのも、親元にいるより金銭面でたいへん。 精神面も、都市化・核家族化で、孤軍奮闘の育児もたいへん。 とはいえ、子供はすっぱり諦められるわけでもない。 かくて、結婚や出産をずるずる引き伸ばす。

    こうして、晩婚、晩産化は進むのです。
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    乳幼児所得控除について

    自民党が、少子化対策として乳幼児所得控除を検討しているという。 というわけで、こういう文面でメールを出してみることにした。(97/10/19)

    はじめまして。秋山と申します。少子化に深い関心を持つ、広島在住の32歳 の兼業主婦で、2児の母でもあります。乳幼児所得控除を検討中ということ で、メールすることにしました。

    結論から言えば、乳幼児所得控除を実施するくらいなら、保育予算を増やし た方が、少子化対策として役立つと思います。

    先進国では、子育て世代の女性の就業率が高い国ほど、出生率が高い傾向に あります。ところが日本は、どちらも低いのです。都市圏では保育園不足は 非常に深刻です。共働きでの子育てが難しく、かと言って専業主婦になって 高い所得を失うのももったいない。

    出生率の原因は女性の晩婚化ですが、これでは、出産を引き伸ばしたくなる のも当然のことです。経済企画庁の推計では、厚生省人口研究所の出生率が 中位推計程度に推移するには、今後2050年までに保育所の数が現在の3倍に 増える必要があるとのことです。

    乳幼児を育てている世代は、あまり所得が高くありません。所得税率や住民 税率は、10%といったところでしょう。仮に乳幼児扶養控除が、現状の扶養 控除の同額としても、減税額は子供一人あたり月額5000円程度です。これは、 実効力がないと言われている現在の児童手当と同じくらいです。このくらい 手当てが増えても、出生率増加につながる三人めを産もうとか、早く結婚し ようという気にはとてもなりません。しかし、国と地方自治体の減税額は、 6000億円以上になるでしょう。

    現在の保育所運営費は、国2500億円、地方2500億円です。何千億円も減税で きるというならば、その半分でいいから保育所にまわせば、保育予算は大幅 に増加します。

    厚生省のWEBのページで公開されている児童福祉や人口問題の審議会の議事 録を見ていると、審議委員の先生方はいろいろといいことをおっしゃってい るのですが、いかんせん先立つものがないと実行には移せない。少子化が問 題だというならば、実効性のある政策をとるべきです。

    なお、このメールはわたしのホームページ上で公開しています。返答があれ ば、それも公開させていただきます。では。
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