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光害マップの活用方法


天体写真の撮影や観望に出かける際は、できるだけ光害の少ない暗いところへ行きたいものである。 そのためどの辺りが適した場所なのか、事前に調べることが重要となる。
今では実測に基づいた高精度なLight pollution mapという光害マップを利用することで、 容易に撮影地の仮想ロケハンをすることができる。 更にGoogleMapも合わせて利用すれば、視界等の判断も行うことができる。 ただし機材設置する傍らに非常に明るい照明があったとしても、それをマップ上で判別することはできない。 マップ上で目安をつけたなら、実際に現地で確認することも必要である。
気象庁|過去の気象データ検索を見ると、 その地域の雲量を確認できる場合がある。 恒常的に年間雲量が多い場所は、避けたほうがよいかもしれない。 (経験的に月間雲量が7を越えるような場合は、撮影機会がかなり減少し、8を超えると1回でもできれば御の字くらいな感じ)


【Light pollution map】

使い方はいたって簡単である。 画面右上のオプションメニュー(Toggle menu)のなかからATLAS2015を選択し、マップ上で任意の場所を左クリックするだけ。 そこに該当場所の天頂部輝度情報等が表示される。

[項目の説明、計算]
全てExcelの数式で表示。 SQM,Brightness間の変換式の元ネタはこの辺り
コピペして文字列(赤字の部分)を数値に変えれば解が出る。 なお背景等級は22mag/arcsec^2としている。

[要点]
天頂部輝度情報等から着目すべきことは以下の事項となる。

[事例]
主副の観望地の状態を考察してみた。

主観望地
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副観望地
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【備考】

[参考]
光害.net|The world atlas of artificial night sky brightness 2016

【付記】

▼Light pollution mapとは別に、デジカメ星空診断でも国内の夜空の等級測定を行っているが、 互いの結果が一致するわけではない。 大きな要因としては計測時間が違うためである。 星空診断は薄明終了後2時間程度の間に測定しているが、ATLAS2015は前述のようにAM1時で補正している。 北海道や四国の都市部から離れた場所では、時間の違いにも拘らず結果が近似しているところもある。 基本的にATLASは、一番暗いときの状態を示したものという理解でよいだろう。

例えば私の自宅の例(冬季)だと下記の通りである。 参考資料でも薄明終了後、時間経過とともに計測等級が暗くなっている。

時間 mag/arcsec^2 典拠・方法 備考
01h 20.1 ATLAS2015
20h 17.9 星空診断
17.6-17.1 方式A 基準星の取り方によってバラツキ
17.6 方式B
03h 20.1 方式A
19.7 方式B
[参考]
デジタル一眼レフカメラを用いた夜空の明るさ調査手法の提案
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次に星空診断は参加者が指定された機材や方法で撮影したデータを投稿しているが、ある程度幅をもたせているため 必然的にバラツキが生じてしまう。 ATLASではVIIRSのデータを元に、最尤推定により上方への拡散を関数として定義し、変換しているようである。 これは観察データ全体に対して、最良の統計的適合をもたらす関数であるとのこと。 ただし先に記載したように500nm以下の感度が不足しているため、周辺の光源がLEDに切り替わっているような場所だと、 齟齬が生じることもあるだろう。 また気象条件による変化も考慮されていないので、比較する場合にはその点も留意すべき。

[参考]
元論文のFig.1
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青黄緑の三つの光強度分布から、最も適切であろう赤い部分を生成するということのようである。

▼天頂部輝度情報のBrightness(mcd/m^2)と放射輝度情報のValue(10^-9 W/cm^2*sr)は、ある程度暗い場所だと (単位を無視すると)数値が似通ったものになることもある。 そういう場合に上記のような単純式で等級の計算をすると近似するが、より暗いところや明るいところではブレてくる。 他の指標との辻褄も合わなくなってしまう。 ValueをBrightnessに変換した上でないと等級の算出はできないはずで、そのままValueの値を元に計算するのは適正とは言えない。

▼ATLASの背景等級22mag/arcsec^2の根拠は以下の通りである。

[元論文(意訳)]
天の川や対日照、黄道帯の光から離れて、7等級よりも明るい恒星を除く太陽活動極小期の夜空の背景の典型的な明るさとして、 174μcd/m^2に対応する22.0mag/arcsec^2を選択した。 同一場所で同じ時間帯に測定しても自然光が変化すると、無光害地では背景の明るさが半分以上も変化することがある。 広視野計器(SQMやSQM-L等)を使って行われる計測は、肉眼で見ることのできる星の明るさを含むため、検出される空の明るさを増やすことがある。 これを考慮に入れないと、アトラスとの比較に偏りが生じる。

従来22.1mag/arcsec^2ということが言われていたが、これは平成10年3月に環境庁より報告された 「光害対策ガイドライン 〜良好な照明環境のために〜」が初出ではないか。 22等級と22.1等級ではNature.Brightは18μcd/m2の差が生じるが、単に数字の押さえ方の違いに過ぎないと思われる。

[光害対策ガイドライン P21]
黄道から離れた最も暗い夜空の明るさは、「大気光」と「星野光」の合計として、一平方秒角当たりの光度は、 22.1等級に相当すると考えられている。

▼その他
• ATLASのBrightnessは最小値が<0.171となる。
• 放射輝度はゼロにはならないはず。

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初出:2019-04-07 改訂:2019-11-13
(C) YamD