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夜空の等級測定
光害の影響を調べるために測光をしてみたので、その手順を記しておく。
方式(A)は(星空公団で行っている)デジカメ星空診断に準拠した方法をまとめたもの。
この方法で算出される等級は、過去に環境省で行われていた全国星空継続観察の結果と互換性があるとのこと。
しかしながら、やや面倒であるので、もっと簡単な方法として方式(B)を検討してみた。
デジタルカメラを使用して、Sky Quality Meterのように安直に計れないかというのが趣旨。
【手順 - 方式(A)】
- 基準星の設定
- 赤緯15°から+55°の範囲であること。
- ±0.6 °以内に、8.0 等級より明るい恒星が無いこと。
- 変光星でないこと。
- 4.0〜5.0等星であること。
- スペクトル型が「B,A,F,G,K」であること。
- 設定に基づいて撮影日時を決定
- 天の川が写野(天頂)に入っておらず、基準星が選択できる時間であること。
- 撮影
- 画像処理(変換のみ)
- 算定
- 撮影位置、範囲を確認する。
- 基準星を選択する。
- カウント値を求める。
- ピクセルあたりの立体角を計算する。
- 基準星の天頂角を調べる。
- 大気減光を計算する。
- データに基づいて計算する。
【手順 - 方式(B)】
カメラの露出に係る原理を応用し、適正露出となったときの露出値から、所定の計算により等級を見積もろうという試みである。
- 撮影
- 機材の準備、撮影方法等については(A)と同様。
- シャッタースピードの制御は、外部リモコン(バルブ撮影)で行うこと。
- ここでは基本的に長秒ノイズリダクションをかけない。
- ピントを最短側にズラし、ピンボケ状態にして撮影する。
- 方式(A)と同じ露出設定で撮影しておくと、RAWで比較することにより実際の空の状態がわかる。
- 次に適正露出となるよう露出値を調整して撮影する。
- 適正露出とは118/2^8のこと。128ではない。
- カメラのヒストグラムを表示して確認する。
- 露出をズラしながら複数枚撮っておく。
- 118に対する誤差は、±5程度に抑える。
カメラの生成するJpeg画像の露出と輝度の関係は、適正露出からズレると線形でなくなるので、ズレが大きいと精度が落ちる。
- 画像処理
- ImageJでJpegのG画像を取り出す。
Image > Color > Split Channels
- 算定
- ImageJで撮影画像のヒストグラムを表示し、最もModeの値が118に近似したものを選ぶ。
- RGBを分解しない場合は、オプション設定の重み付け有無で、若干数値が変わる。
重み付け有りはSDTV相当、無しは単純平均となる。
Edit > Options > Conversions: "weighted RGB Conversion"
- 上記で選択した画像を、次式に当てはめて計算する。
露出値の修正は下記の検証結果に基づく。
- 露出値の算出
- EV=LOG2(A^2)+LOG2(1/T)-LOG2(ISOspeed/100)
- 露出値の修正
- データの最頻値の輝度が118より高い場合
- EV'=EV+(Mode-118)/(118*2^0.5-118)
- 低い場合
- EV'=EV+(Mode-118)/(118-118*(2-2^0.5))
- 等級の計算
- LOG((2.5*2^EV'*0.18/PI)/108000)/-0.4
- その他
- ModeとMeanの値が近似している程、状態が良いと見なすことができる。
【検証】
Jpegにおける露出設定と輝度の関係を見てみるため、シャッタースピードを1秒ずつズラせて撮影し、最頻値の輝度を測定してみた。
- RGBとGの輝度は、ほぼ一致する。
- Jpegは適正露出値近辺でのみ線形を維持している。
- RAWはリニアな状態である。
[表1]
[グラフ1]
[グラフ2]
[グラフ3]
【実例】
デジカメ星空診断にあわせて、方式(A)と(B)の測定をしてみた。
[表2]
(画像をクリックで拡大)
bk |
バックグラウンドのカウント値 |
S |
星像全体のカウント値 |
Mref |
基準星等級 |
θ |
単位画素辺りの角度(秒角) |
Δm |
大気減光 |
Mbk |
バックグラウンド等級(空の明るさ) |
使用ソフト |
方式(A) |
マカリ |
|
方式(B) |
ImageJ |
※bk(mode)の数字は8bit(12bit)である。
※場所2の方式(B)では、ピンボケ状態にするのを失念。
【考察】
- 方式(A)
- 基準にする恒星の等級によって、バラツキが生じる。
- 星空診断の結果を真とするならば、何らかの補正が必要となるものと思われる。
- 方式(B)
- 星空診断との差異は小さい。
- 粗測光としては自分の要求精度を満たしている。
- 使用するカメラの素性を確認する必要がある。
- 星空診断や方式(A)の結果と比較照合し、概ねそのバラツキの範囲内に収まっていること。
- デジタルカメラの感度規定(CIPA DC-004-2004)により、所定のデジタル出力値を得るための
入力露光量の規定が為されている。
しかし標準出力感度と推奨露光指数のうち、どちらを採用するかはメーカーに任せられているので、
どの機種でも同じというわけではないので注意が必要。
どちらを採用しているかは仕様書に記載されているはず。
- サンプル数不足という問題はあるが、どちらの方法にしても明るい場所では、星空診断と比べた場合の誤差がやや大きくなる傾向がある。
- 大気減光
- 解説にある計算式は、標高や季節による差が殆ど出ない。
いわば定数のような感じになる。
- PM2.5
- 測定期間中、少ない日で5μg/m3、多い日は30μg/m3くらいであったが、それが等級にどのくらい影響するのかはよくわからない。
- 経験から判断するならば、天体写真を撮影する上では、PM2.5が多いと淡い部分が写り難くなるのは間違いない。
【その他】
- Sky Quality Meterについて
- SQMマップを見ると、怪しそうな数値が散見される。
製造元のデータベースでも同様である。
理論値では22.1等級辺りが一番暗いはずなのだが。
元々の分光特性によるものなのか、きちんと校正して出荷されているのか、単なる個体不良なのか、
あるいは使用者の測定に問題があるのか等々の疑問がある。
推測であるが雲の影響を受けていたり、大気の状態が悪いときに測定すると実際より暗くなり、
近隣の光源の影響が強い状況だと明るくなる傾向があるようだ。
またSky Quality Meterのデータだけでは、撮影時の空の状態がわかないので、測定時にカメラでの撮影は必須であると思われる。
Light pollution mapのATLAS2015のSQM値よりも、暗い値が出ている場合は疑ってみた方がよいだろう。
製造元では、ボートルスケール(NELM)への換算式を公開している。
ちなみに22.1(MPSAS)をNELMに換算すると6.7、ボートルスケールでは「田舎の空」ということになる。
- いわゆる光害マップ
初出:2017-03-28 改訂:2019-05-20
(C) YamD