1 また旅が始まる
サイドミラーに映る景色が好きだ。
…いつから好きになったんだろう?
昔は、車に乗るのが苦痛以外の何物でもなかった。…車酔いするのでね(笑)。
高校のとき、よく山中湖へドライブに連れて行ってもらった。門限がまだ早くて、夕方には山中湖を出て自宅へ向かわなければならない。
あぁぁ、と、がっかりしているところで、ふとサイドミラーに目がいった。車のワインレッドと、そこに映る夕日、そして富士山がすごくすごく、悲しいくらいきれいだった。
そこから、きっと好きになったんだと思う。
4/29(土) 0:30。ウチを出発。
東名高速→名神高速→中国自動車道→広島自動車道と、走って広島入り予定。
3:30頃、浜名湖SA(サービス・エリア)までノブが運転して、その後交代。
だんだん夜が白んでいく…。
普段の生活において、太陽は沈んでいき、そして夜がやってくるのが常である。
こんな時間に起きていることは稀なので、夜が明けていくのを見るのは変な感じだ。ビデオテープをゆっくり巻き戻ししながら見ているような気分である。
あまりにも目の辺りだけ明るいので、後ろの車にあおられているのかと思った。
サイドミラーを覗くと、昇り始めた太陽が、いやにくっきりと映っている。
ミロのヴィーナスのような色の太陽だった。
サイドミラーに映るそれは、四角く切り取られて、私のすぐ傍にある。
…きれぇーだなぁぁ。
…なんて思っていたら、まんまと道を間違えてしまった。
名神高速道路に乗らなきゃいけなかったのに、何と中央道に乗ってしまい、危うく東京に引き返すところだった…。せっかく名古屋の近くまで来たっていうのに、東京に戻ってどうするのよ!ってな感じで。
ノブの奴「これじゃ、おちおち寝てられない!」と、怒っている。…確かに。
次のインターまで行って、Uターンして本線に戻った。
やれやれ。
…途中で寝たりなんかしながら、広島入りしたのは14:00。
平和記念公園近くのパーキングメーターに車を止めて、原爆資料館を見に行った。
うぅぅむ。相変わらず、グロい。
始めのうちは、どのようにして広島の街が発展してきたか、などの説明なのだが、最後の方は原爆による建物及び人的な被害について展示されたものが多く、夢に見そうだった。
ふぅぅ。
1時間ほど見学して、その後宮島へ向かう。
広島在住の友だち(大学時代の友だちで「久美子」という)と、そのお母さんに「広島に来たなら、是非宮島に行ってみて!」と、見どころを色々教えてもらったのだ。
ちょうど行きたかったことだし、久美子と久美子のお母さんと会う(広島に来た第1の目的は、彼女に会うことなのだ)まで時間があったので、行くことにした(半端な時間に広島入りしてしまったので、もう行かれないかも、と半ば諦めていた)のだ。
…と、いうわけで、国道2号線(自動車専用道路になっている。無料の高速のような道。バイパス)で廿日市(はつかいち)インターへ。
インターを降りてすぐに「←
宮島」と、いう看板が出てくる。
その看板に従って走っていくと、わりとすぐに宮島行きフェリーの乗り場に着く(電車で行くと、山陽線の「宮島口」駅下車。すぐ目の前)。
フェリーに乗る前に、久美子に勧められた穴子飯屋に行く。
フェリー乗り場の駐車場(宮島へは身一つで渡る。車は広島側に置き去り)を背にした時、どでかい煙草の看板が見える。その看板が掲げられている2件隣りの「うえの」(広島県佐伯郡大野町宮島口1−5−11)が、噂の穴子飯屋である。
さすがにお腹いっぱい食べてしまうと、久美子との夕食を食べられなくなってしまうので、お弁当を1つ買ってノブと分けっこする事にした。
フェリー乗り場へ。
今、まさに出航しようとしている船を捕まえて、チケットも買わずにダッシュで飛び乗る。セーフ。
船内でしばしの休息である。
…ゔ、ウマいっ!
何が美味しいかって、それはさっき買ったばかりの穴子飯(1,470円)。
船が宮島に着くまでの10分くらいの間に試食してみたのです。
まだ少しぬくもりの残っているそれは、非常に美味しかった。お店でほかほかのを食べたら、もっと美味しいのだろうなぁぁ…と、少し残念に思った。
穴子のたれは甘味が押さえてあり、出汁の風味の利いたさっぱりとした味わい。穴子自体も軟らかく、身が厚い。骨が気にならないところを見ると、結構丁寧に下ごしらえしてるなぁ、と思う。
ごはんにもひと工夫。餅米入りなのはもちろんのこと、ごはんも穴子の出汁で炊いてあるらしい。うっすら出汁の味と、穴子の甘じょっぱいたれ、(釜炊きなのかなぁ?)香ばしい香りがたまらない。
舌鼓をうっている内に、あっという間に宮島着。
着いて、改札口で乗船料金を払う。…本当は、渡る前に払って、切符をもらうところなのだが、飛び乗った関係上、下船してから料金を払った。
…安い。大人1人170円。
宮島に着いてから、これまた久美子おすすめのもみじ饅頭屋「藤井屋」(広島県佐伯郡宮島町1129)へ行く。
改札口を出て、右へ歩いていくと、土産物屋が軒を連ねている。その土産物屋街の中、右側にある。
…ここで、出来たてのこしあんのもみじ饅頭を食べるべし、なのだ。
店先にお茶が出来るオープンスペースがあり(私たちが行った時、目の前には丁度ゴミ収集車がうなりをあげてゴミを回収しているところだった。…まったく、風情も何もあったもんじゃない)、そこに腰掛けると売り子がやってきて注文を取る。
「こしあんのもみじ饅頭2つ下さい。」…1こ80円(内税)だから、2つで160円。しかも、お茶までついてくる。
あつあつを早速頂く。おいしぃ!お土産のとは全然違う!
外皮がかりっとしていて、中がふわっ。非常に香ばしい。皮の厚みも、お土産用のものの半分以下の薄さ(お土産にすると、水分で皮の香ばしさは消えてしまうし、ふやけてぶよぶよになってしまうらしい)である。
あんも、こしあんを更にさらした「さらしあん」。甘味は強いが、暖かいせいであまりくどい感じはしない。出来たてはとにかく上品な感じのするお菓子だった。
さて。宮島といえば、日本三景の内の一つ。本当は秋に紅葉を見に来るのがオツとされているのだけれど(「紅葉谷」なんていう地名もあるくらいだ)、まぁ春も新緑が綺麗である。
行って来ましたよ、厳島神社。
あの大鳥居、平安時代に初めて建立され、現在突っ立って居るのは、8代目。
杉の巨木(鳥居の胴回りは10mである)で作るらしい。
海中に基礎があるかと思いきや、砂の上に自分の重み(8t)だけで自立しているだけだという事だ。…ほっほう。
厳島神社の朱色の回廊。
たくさん立ち並んでいる朱色の柱が、神秘的な雰囲気を醸しだし、何枚もシャッターを切った。
吹きさらしの能舞台もあり、ここで薪能を見てみたいなぁと思いを馳せる(JRかなんかのCMで、ここで薪能をしているシーンが使われていたような気がする。ここで能を見るのにすごく憧れている。もちろん、特別な時しか催されないのだろうから、見るのはほぼ不可能なんだけど…)。
…と、まぁ、そこまで見たところでタイム・アップ。
本当はロープウェイに乗ったり、日本名水100選の内の一つである湧水の所に行ったりしてみたかったのだけど…。残念である。
とにかく景色と雰囲気がいいので、一度ゆっくり泊まりに来てみたいなぁと思った。
夕焼けのよく似合う、美しい島だ。
厳島神社を後にしたところで、ふと海岸線を見ると、今まさにフェリーが到着しそうなところであった。
走って改札口まで行き、今度はちゃんと切符を買う。…切符!
このフェリー、JRが運行している。フェリーなのに、扱いは電車と一緒らしい。
切符の販売機も切符の形式も電車と同じ。宮島口駅からの電車の切符まで購入することが出来る。しかも驚くべきことに、オレンジカードが使える(笑)。
切符買って、フェリーに乗り込んだら、5分くらいで出航。
ぼんやりと宮島が遠ざかっていくのを眺める。
今はもう、手の平に収まってしまうくらいの大きさになっている。
周りの人々は、景色も見ずに熱心にアイスを食べている(どういう訳だか、誰も彼もがアイスを食べている)。
もったいないなぁ。綺麗な景色なのに…。私の頭に浮かぶフレーズは、もちろん「猫に小判、豚に真珠…」。
やれやれ。
10分で着岸。
只今18:00ちょい過ぎ。
久美子との待ち合わせは、19:00に平和記念公園前である。
車を飛ばして現地へ向かうぞっ。