tech^dEV マイクロマシン双安定光位相変調器
マイクロマシン双安定光位相変調器の概要と光位相多重多値ホログラフィーメモリシステムへの応用
1
ホログラフィックメモリは数テラバイト(TB)容量の光学ディスクを実現するブレークスルー技術のポテンシャルを持っている。
本プロジェクト申請者は位相多重記録のホログラフィックメモリ方式の可能性に着目し、usecの高速で動作するマイクロマシン双安定光位相変調器
を発明した。マイクロマシン技術によって光反射表面の位置を光の波長より十分短い精度で設定し、その光反射板の表面でレーザー光を反射し、
反射光の光路長を制御し光の位相を変調していく。
レーザーパルス一個で数1000ビットのページ情報をフォトポリマーの体積に光の縞模様として記録し、データの並列処理を可能とする。
空間光変調器により光の位相を変調しデジタルデータを2次元配列に変換した信号光画像(ページデータ)に変換し、
参照光との干渉縞を順次に同一アドレスに感光させ多重化書き込みし、そしてその様に形成した干渉縞に参照光を照射し信号光を再生し、
その光強度をイメージセンサーで検出し書き込み多重化データを同定し読み取っていく。
2
このマイクロマシン光位相変調器の電気的接続を含んだハイレベルの側面を示す(3,4,7)。
基板上に導電性を有す多層の薄膜金属からモノリシックに形成されるミクロンサイズの構造体において、1層目電極板にメモリセルからの
アドレス相補出力電圧の一方を供給、5層目電極板に該アドレス相補出力電圧の他方を供給、
6層目電極板兼光反射板と3層目電極板を5層目電極板に接触しない様に建てた支持柱により接続一体化した構造体の
3層目電極板に上下に撓む梁を接続し、該3層目電極板を1層目電極板と5層目電極板の中間付近の高さ位置の空間に水平に吊り上下に動く可動構造体とし、
該3層目電極板の高さ位置を2層目片持ち梁停止板の高さと4層目片持ち梁停止板の高さの中間付近の高さ位置に、
且つ2層目片持ち梁停止板の自由端と4層目片持ち梁停止板の自由端を該3層目電極板の縁に僅かに重ねて配置し、
該可動構造体と2層目片持ち梁停止板と4層目片持ち梁停止板に共通のバイアス電圧を印可し、該可動構造体と1層目電極板、
及び該可動構造体と5層目電極板に働く静電引力の作用により1層目電極板と5層目電極板方向
に向けてより低いエネルギーポテンシャル状態を形成し、
メモリセルからのアドレス相補出力電圧により該可動構造体の1層目電極板、乃至は5層目電極板のいずれかの方向への移動先を制御し、
該可動構造体を移動し該可動構造体に一体化形成の3層目電極板を2層目、乃至は4層目に形成のいずれかの
片持ち梁停止板の自由端によって停止し保持安定化させ、
該可動構造体を2層目片持ち梁停止板の自由端と4層目片持ち梁停止板の自由端の間を遷移移動させる双安定駆動により、
該可動構造体に一体化形成の6層目電極板兼光反射板から反射される光の光路長差(位相差)を制御することを特徴とする双安定光位相変調装置である。
3
光位相設定Vbiasにより光位相量を設定し、ピクセルスイッチングを制御するマイクロマシン双安定光位相変調器の基本駆動シーケンスを示す(3,4)。
この駆動シーケンスにより生成される静電引力により、マイクロミラー光反射板と支柱と底板から成る可動一体構造体の底板は、
上、または下の片持ち梁停止板に着地・停止し、可動一体構造体は上位置、または下位置に静止するかの2安定状態間をusecの
スイッチング速度で遷移移動する。
マイクロミラー光反射板表面で反射する光の位相を設定し保持する位相変調駆動から、SRAMメモリを書き換えアップデートし、
メモリデータ状態が変わらない場合はマイクロミラー光反射板の位置を保持し、メモリデータ状態が反転する場合にマイクロミラー
光反射板の位置を遷移させるピクセルスイッチング駆動を~15usecで完了し、次の光位相量を設定する光の位相変調駆動に入っていく。
4
アドレス電極と可動一体構造体の間に作用する静電引力によりが可動一体構造体が下から上、、または上から下の位置に移動させ、
停止させるスイッチング遷移動作を示した。バイアス電圧により底板から片持ち梁停止板に静電引力が作用し、
片持ち梁停止板と折り返ししなりヒンジからは弾性しなり復元力が発生し、静電引力とそれら復元力がつりあう高さ位置に停止し安定する。
マイクロミラー光反射板は上方向(または、下方向)駆動で決まる位置のいずれかの高さをとる。
5
バイアス電圧印加可動一体構造体と相補性電圧印加アドレス電極(-)とアドレス電極(+)板間に働く静電引力が一体構造体の底板から
片持ち梁停止板先端に加わった時の、片持ち梁停止板(厚さ0.27um、長さ1.6um、幅0.7um)のしなり量を計算した結果を示す。
片持ち梁停止板のしなりにマイクロミラーの高さ位置が連動して動くので、マイクロミラーの位置をバイアス電圧印加量で0.12umの範囲
で任意の位置に制御できる。
MOEMS双安定光位相変調器ピクセルはアルミニウム(Al)薄膜による立体構造体(図1)で形成し、
構造体内に折り返しヒンジによりマイクロミラー光反射板、支柱、底板からなる一体構造体を空中に吊り、
この一体構造体を上位置と下位置の二つ(双)の安定状態間を1 usecでスイッチング遷移させ、下位置、または上位置に
設置の片持ち梁停止板の先端に着地させ、一体構造体から片持ち梁停止板に加わる静電引力と片持ち梁停止版のしなり
復元力が釣り合う位置に一体構造体を停止・静止させる。バイアス電圧を増やしていくと静電引力が強くなり、
片持ち梁停止板がよりしなり(上図)、そのしなりにマイクロミラー光反射板の高さ位置が連動し、マイクロミラーが上位置状態から
の反射光位相はより進み、マイクロミラーが下位置状態からの反射光位相はより遅れていく。
6
CMOS基板上にこのマイクロマシン双安定光位相変調器ピクセルをアレー配列させ、各ピクセルのCMOSメモリデータ状態によりマイクロミラー位置を
上、または下位置に設定したマイクロミラーアレーから反射光面は、論理1、0状態を光位相変調量に対応させた2次元デジタル光面となる。
マイクロマシン双安定光位相変調器のマイクロミラーアレーから反射する
2次元位相変調光面
7
光位相多重多値記録再生ホログラムメモリシステムの心臓となるマイクロマシン双安定光位相変調器である。ピクセルの21um
四方角マイクロミラーは常に上位置か下位置かのいずれかの安定状態にあって、ピクセル駆動シーケンスにおいてマイクロミラー
位置を保持するか、対抗位置にスイッチ遷移させるか駆動する。スイッチ遷移時間は~1usecで、ピクセルスイッチング駆動を
~15usecで完了する。ピクセルがマイクロミラーが安定状態にあって、印加バイアス電圧を増やし片持ち梁停止板のしなり量を
増やすと、上位置マイクロミラーの高さ位置はより高くなりマイクロミラー表面で反射する反射光位相を進め、
一方、下位置マイクロミラーの高さ位置はより低くなりかマイクロミラー表面で反射する反射光位相を遅らす。
マイクロミラーの高さ位置は0.1umの範囲で任意の値に設定でき、400nmレーザー光を使用する場合、マイクロミラー表面で反射
する光の位相を0からπ、乃至は0から-πの範囲で任意の位相値に変調する性能がある。
上位置マイクロミラーからの反射光位相は進み、下位置マイクロミラーからの反射光位相は遅れる。ピクセルを2次元に
配列させ、各ピクセルのマイクロミラー位置の上、または下の双安定動作を、デジタル論理データ1、または0に対応動作させ、
マイクロミラー表面で反射する光の位相を、400nmレーザー光を使用の場合、π(半波長) の範囲で任意の値の位相進み量と、
位相遅れ量に対応させた2次元光面画像(ページデータ)を毎秒数万枚フレーム発生させる性能を持つ。
この高速光変調性能は、データ並列処理を基本とするホログラムメモリにおいて 超大容量と同時に超高速なデータレートを
要求するシステム開発に適合する。
8
1アドレスに多値を書き込む多重多値ホログラフィーメモリ技術は数テラバイト(TB)容量の光ディスク実現への鍵である。
このマイクロマシ双安定光位相変調器を基としページデータを順次生成し1アドレスに複数データを記録・再生するホログラフィーメモリ光学系(8)
マイクロマシン双安定光位相変調器を基とする光位相多重多値ホログラフィーメモリ光学系を示す。
また、400nmレーザー光を使用の場合、このマイクロマシ双安定光位相変調器を使用し1アドレス(メディアの同一体積)に3ビット深さデータ
(8個のデータ)を記録・再生するホログラフィーメモリへの位相光波の1設計(10)マイクロマシ双安定光位相変調器を使用し1アドレス(メディアの同一体積)に3ビット深さデータ
(8個のデータ)を記録・再生するホログラフィーメモリへの位相光波設計を示す。
マイクロマシン双安定光位相変調器設計
このマイクロマシン双安定光位相変調器のピクセル(ピクセルサイズ:縦22um、横22um、高さ6um)はアルミニウム(Al)金属薄膜6層から成る
立体構造で構成している。この立体構造は、低温ウェハー工程によりアルミニウム(Al)金属薄膜をパターン化しその上に有機犠牲層を積み
上げる工程を繰り返すことによりAl金属薄膜6層から成る積層構造を形成し、最後に有機犠牲層を除去しAl金属薄膜による立体構造を空間に
解放することで実現していく。バージョン37設計のマイクロマシン双安定光位相変調器ピクセルの最下層から各層を順に積層した
透過パターンレイアウトと断面形状を示す。
マイクロマシン双安定光位相変調器の最上面層が21um四方角マイクロミラーであり、積層構造は13本の細く長い支柱により支える。
変調器の研究開発モデルはこのピクセルを8行8列に64個配列している。
a) 静電引力は距離の二乗に反比例し、作用する距離が短くなるにつれその力は急激に増加する特性である。片持ち梁停止板
のしなり量が増えていったときに、片持ち梁停止板復元力と底板からの静電引力の間に釣り合い条件の存在しない領域に入り
一体構造体が片持ち梁停止板を超えてアドレス電極に向け暴走し、ピクセル破壊が引き起こされる。この問題に対し、
片持ち梁停止板を非線形復元力特性(図4)とし、急激に増加していく静電引力特性に対抗している。
b) 片持ち梁停止板、折り返しヒンジに歪―応力特性の優れたAl-Ti合金薄膜を使用する(9)。
c) Al金属薄膜立体構造体を支える~1um径の細く長い13本の支柱は、各層形成毎に積み重ね形成していくスタック構造を採り、
各部分支持柱はアスペクト比の低いコンタクト孔へのAl薄膜スパッタリングにより形成、堆積時に孔壁、孔底へのAl薄膜
つきまわり量を得て、機械強度を確保する。
d) 立体構造体のAl薄膜表面に特殊単分子層コーティングを施しAl薄膜表面エネルギーを低く制御する。
e) 有機封止剤はハーメチック性が無く、外部雰囲気が封止層を浸透しパッケージ内に侵入し、パッケージ内雰囲気を汚染し、
やがて可動構造体のスイッチング遷移動作不良を引き起こす。そして、封止工程には立体構造体のAl薄膜特性を保持するため、
200度以上の高温工程は使用できない。よって、室温でガラス化硬化し無機SiO2を形成する液体ガラスにより光学窓をセラミッ
クパッケージにハーメチック封止(密封)していく(5,6)。
これから
このマイクロマシン双安定光位相変調器の開発モデルの最終設計を行い、民間も利用できる微細加工施設・産業総合研究所NPF施設の半導体製造装置
を使用し、表面積層マイクロマシン製造工程開発と変調器立体構造製造、そして、製造試作変調器素子の動作実証を行う。
参考
1. 米国特許番号US7692841登録 Toshiyuki Kaeriyama, System and Method for Regulating Micromirror Position 2010 4/6
2. 日本国特許番号5109013号登録、歸山敏之、ガラス化硬化材料とそのパッケージ封止構成への応用2012 10/19
3. 日本国特許番号5135505号登録、歸山敏之、双安定光位相変調器 2012 11/22
4. 米国特許番号US 8610997 B2登録 Toshiyuki Kaeriyama, MICRO-ELECTROMECHANICAL DEVICE 2013 12/17
5. 学会発表 歸山敏之、“室温でガラス化硬化するSiO2 膜の封止スペース内形成”, 第62回応用物理学会春季学術講演会, 11a-D8-9, 05-010, 2015
6. 学会発表 歸山敏之、“室温において封止スペース内に形成したSiO2 接着層の封止性”, 第63回応用物理学会春季学術講演会, 22p-H103-8, 04-357, 2016
7. 学会発表 歸山敏之、“MEMS 光位相変調装置に関する検討”, 第64回応用物理学会春季学術講演会”, 16p-P14-1, 03-535, 2017
8. 学会発表 歸山敏之、“MEMS 双安定光位相変調器を使用した場合の位相多重ホログラフィーによるデジタルデータの書き込みと読み取りの検討”, 第65回応用物理学会春季学術講演会, 19a-P2-4, 03-344, 2018
9. 学会発表 歸山敏之、“MEMS双安定光位相変調素子-スパッタ堆積Al薄膜による片持ち梁停止板設計”, 第35回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム, 電気学会E部門大会・センサシンポジウム,.10.30~11.1 2018
10. 学会発表 歸山敏之“位相多値ホログラフィーメモリにおける3ビットデジタルデータ記録・再生への位相光波の1設計”, 第66回応用物理学会春季学術講演会, 10a-PA1-3, 03-246, 3/10 2019
11.学会発表 歸山敏之“マイクロミラー位置を設定するスタックカンチレバー停止板の設計”,電気学会E部門総合研究会 マイクロマシン・センサシステム研究会, MSS-22-026, 2022 6/7
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改定日: 7/14 2022