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市民公開シンポジウム
2002年のシンポジウムの案内はこちら


「子どもの難病」 −医療の現状と課題− 

日時:2000年1月28日(金)

会場:都道府県会館(東京・赤坂)

公開:定員250名 FAX、e-mailで申し込み

詳細な情報は 難病情報センターのサイトにあり


プログラム

13:00-13:50 子どもの難病〜原発性免疫不全症候群を例にとって 小宮山淳(信州大)
13:50-14:20 国立病院を中心とした行政の取り組み 小田清一(厚生省)
14:20-14:50 「がんと遺伝病」そして「患者と家族への支援」 恒松由記子(国立小児病院)
15:10-15:40 子どもの難病のプライマリー・ケア 和田紀之(和田医院)
15:40-16:10 子どもが難病に罹った時 小出五郎(NHK解説員)
16:10-16:50 質疑応答

関係ありそうなところ

・「子どもの難病」「国立病院〜」で特定疾患治療研究事業や小児慢性特定疾患治療研究事業(先天性代謝異常症も含まれる)についての説明があるようだ。

・「がんと遺伝病」は遺伝病としてのがんの話なので、遺伝カウンセリングなどの話もある。

・「子どもの難病の〜」は、医療費助成、手帳によるサービス、在宅サービスなどに関する全体的な解説があるようです。


参加レポート

 会場は200席ほど用意されていて、その過半数が埋まる、という感じでした。女性が圧倒的に多かったような気がするのは、ケースワーカーや保健婦、福祉施設関係の人が多かったのでしょうか。鴨下先生の挨拶によれば、歯科、産婦人科のような小児科以外の診療科のお医者さん、医学生なども来ていたということです。患者の会の関係者もいくつか参加していました。同じく挨拶をされた東京都医師会会長の佐々木健雄先生によれば、現在東京都では80疾患を小児難病として認定して、397名が訪問教育を受けているとのこと。また、厚生省保健医療局エイズ疾病対策課の麦谷眞里課長からは「調査研究」「自己負担の軽減」「QOLの確立」など五つの柱で47年から進められてきた国の難病対策の説明を中心にした挨拶がありました。


(1)「子どもの難病 ―― 原発性免疫不全症候群を例にとって ――」

 信州大学小児科教授・医学部長 小宮山 淳

 小宮山先生は免疫不全症候群がご専門ということですが、最初に「子どもの難病」をどのように理解するべきかについての概説がありました。「難病」ということばは日常語でもあり、さまざまな意味をもちますが、医療の世界では一般に厚生省の難病対策事業の定める「特定疾患」に含まれる疾患が「難病」である、と考えられています。この「特定疾患」は、現実的には次の二つの条件のいずれかにあてはまるものということになります。

  • 「原因不明で、治療法が未確立であり、かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾病」
  • 「経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護などに著しく人手を要すために家庭の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病」

 これらは基本的に成人を対象にしているわけですが、その中には子どもの頃から発症する疾患も含まれます。たとえば、重症筋無力症、再生不良性貧血などです。また、少ないものの小児期に特有な疾患として原発性免疫不全症候群があります。

 これとまた別に、厚生省が行っている「小児慢性特定疾患研究事業」というのがあります。小児慢性特定疾患の対象となるのは次の10種類の疾患群です。

  1. 悪性新生物
  2. 慢性腎疾患
  3. ぜんそく
  4. 慢性心疾患
  5. 内分泌疾患
  6. 膠原病
  7. 糖尿病
  8. 先天性代謝異常
  9. 血友病等血液疾患
  10. 神経・筋疾患

 全体として500以上の疾患名が上がっているそうです。ここで問題なのは、小児慢性特定疾患研究事業の方は基本的に「子ども」が対象であるため、一定の年齢以上の患者をフォローできないということです。では、特定疾患として指定されている疾患の場合、そちらの認定を受ければいいのかというと、制度の差があるため、小児慢性特定疾患として認定されれば治療費が全額補助になるのに、特定疾患だと自己負担がある、といったこともあり得るといった矛盾があります。


(2) 「国立病院を中心とした行政の取り組み」

厚生省保健医療局国立病院部 政策医療課 小田 清一

 小田氏の発表は、小児慢性特定疾患事業の歴史と、昨年から始まった大きな転換についての解説でした。まず、小児慢性特定疾患事業の沿革は次のようなものになります。

1968 先天性代謝異常
1969 血友病
1971 小児がん
1972 慢性腎炎・ネフローゼ・小児ぜんそく
1974 糖尿病・膠原病・慢性心疾患・内分泌疾患などが加わり、9疾患群からなる「小児慢性特定疾患治療研究事業制度」創設
1990 神経・筋疾患
1998 対象疾患の登録管理開始

 このように、まず先天性代謝異常を対象に始まり、徐々にその他の小児難病に範囲を広げていったことがわかります。10疾患群では、補助の対象も異なってます。なお、年齢延長とは、本来18歳までの対象を20歳まで延長することです。

区分 入院 通院 年齢
延長
悪性新生物
慢性腎疾患  
ぜんそく  
慢性心疾患  
内分泌疾患
膠原病
糖尿病  
先天性代謝異常
血液疾患
神経・筋疾患    

 実際にこの事業の対象となっている患者の数は、平成9年度の場合12万人に及びます。このうち内分泌疾患が4万人と約1/3、さらにその半分の2万人が低身長症で、ここに予算全体の40%が投入されています。さまざまな理由で家族の負担も大きい疾患がある一方で、「調べてみると身長178cmの子どもが無料で成長促進剤の投与を受けていたケースもあった」というアンバランスな状態が大きな問題であると厚生省は考えているようです。なお、先天性代謝異常は全部で7〜8千人というところです。

 そのような状況を打破し、効率的、現実的な予算の割り振りを実現するためにも、患者の状態をより詳細に調査する必要があるということで平成10年度から始まったのが「小児慢性疾患の登録・管理・評価事業」です。簡単にいえば、いままでは、病院側から「対象疾患の患者がいる」と申告すれば、政府がその治療費を肩代わりする、というだけの制度でした。そのため、国は治療費を支払いつつ、実は各疾患群の中のどの疾患が何人いるかも把握していなかったわけです。

 平成10年度から始まった「登録・管理・評価事業」では、患者が地方行政機関に認定を申請する段階で医療機関のより詳細な意見書を添付することになり、これによって国は、どんな疾患の患者がどのような医療を受け、どこにいるのかを把握することができるようになります。また、従来はいったん認定されると、その後は特に報告の義務はなかったのに対して、今後は毎年申告する形になるようです。治療を受けていない患者、治療は受けているが小児慢性特定疾患の認定は受けていない患者については把握できないことになりますが、かなりの部分を個人単位で、継続的にフォローしていけるということで、小児難病の家族の抱える問題の掘り起こしや解決の糸口にもなることが期待されます。平成10年度の調査結果はもうすぐまとまるようで、計画では患者もインターネットを通じてその結果については情報提供を受けることができるようになるようです。

 なお、このような方法は、一方で患者の個人情報が国によって管理され、直接の当事者以外に利用される可能性をもっています。政府サイド、医療サイドもその点については十分留意するつもりでしょうが、基本的には、「治療研究事業」の中で「治療費の助成」を行っているのであり、その申請者は自発的に「研究」事業に参加したものと見なす、ということでプライバシー保護の観点からの批判をかわす方向のようです。

 さて、今後の小児慢性特定疾患治療研究事業の課題としては次のものを挙げていました。

  1. 研究事業としての位置づけ
  2. 法令に基づかない事業である
  3. 対象疾患の範囲
  4. 給付内容

 2.について説明すると、この事業は法律に基盤があるわけではなく、厚生省が自由に使える予算の中で医療界などと相談の上で支出しているということです。つまり、予算に余裕がなくなれば、いつ中止されてもおかしくない事業だということになります。このことを問題にして、難病のこども支援全国ネットワークが、患者の会連絡会からということで、この事業を少子化対策法案に盛り込め、という呼びかけをしましたが、形はともあれ、法制化されれば長期的な展望も見えるのではないかと思われます。

 この他、行政側の取り組みがいくつか紹介されました。たとえば、いままで医療機関ごとにバラバラな取り組みだったのを「政策医療ネットワーク」というネットワークで対応していこうという提案です。これによると、専門医療施設を地域ごとの基幹医療施設が統括し、さらに高度専門医療施設が全国の基幹医療施設を束ねるという構造です。高度専門医療施設としては、「成長」が成長医療センター、「神経・筋疾患」が国立精神・神経センター、「免疫異常」が国立相模原病院という分担になるようです。この他、医療情報センターとして国立医療センター、遺伝子解析施設としてガンセンターなどが参加するなど、手分けして情報の共有、発信、分析などを行う仕組みが計画されています。成長医療というのが聞き慣れないかもしれません。小児難病の場合、胎児の時点で病気が始まっていることもあり、また、慢性化して成人にいたることもあるわけですから、その過程全体を見通し、また各診療科の枠を越えた総合的な治療を実現する必要がありますが、こういった総合的な医療を行うのが成長医療ということになります。

【質問】

 「登録・管理・評価事業」が今後どのような形で行われ、患者を巡る状況がいままでとどう変わるかは患者の家族とも大きな関係があるところなので質問してみました。これについては長くなるので別にまとめます。


(3)「『がんと遺伝病』そして『患者と家族への支援』」

国立小児病院 血液腫瘍課 恒松 由紀子

 恒松先生の講演は、子供が小児がんのような難病であることがわかった時点での親の動揺と、それをケアする医療側の姿勢に関するものでした。現在、日本では小児がんは75%が治癒し、これは世界でも最高水準だそうです。このような状態を実現できたのは、小児慢性特定疾患治療研究事業などの成果が大きかったわけですが、一方で、メンタルな面、スピリチュアルな面でのサポートは十分でなく、恒松先生のグループはそれを改善すべく、患者の親の面接調査を行いました。

 患者の親の反応は一般的に「ショック」「否認」「怒り」「再建」といったプロセスをとります。その中で、患者が自分自身のことを知ろうという態度をとることがスピリチュアルなケアにつながるといいます。実際の面談の結果では、「良質な情報を得ること」「同室の難病の子供の家族との交流」「友だちと一緒に泣いたこと」「アメリカのケアブックを読破したこと(日本には適当なものがない)」「なにかを言ってくれる人ではなく、ただ、こちらの話を聞いてくれる人に話した」、といったことが気持ちの再建につながったという人が多いということです。ここで、なにが患者にとって「良質な情報」かというと、ともかく最新の研究まで盛り込んだ質の良い情報が与えられるということです。ただし、もちろん、それには心理的な配慮が必要で、あるだけの情報を手に入るまま渡すというのでは問題があり、そこに、患者にとって、「知る権利」と同時に「知らない権利」もあるということに留意する必要があると強調していました。

 小児がんの場合、遺伝との関連性が成人がんよりさらに強く、最近の遺伝子治療やヒトゲノム計画などのニュースによって遺伝についての(不十分な/誤った)知識が広がったため、逆に誤解を招いている部分が問題になってきているということです。

 われわれ小児難病患者の親としては、得てして、医師や病院が、病気の物理的な治療についてはやるべきことはやっていても、メンタルなケアや、患者やその家族が抱える病気に起因する人格的な危機については専門家として頼りにならない、あるいはじゅうぶんな配慮をしてくれないという不満があるわけですが、恒松先生のグループの研究は、この問題を専門家の立場から見直し、改善を図っていこうという動きであり、非常に注目されると思います。


(4)「子どもの難病のプライマリ・ケア」

和田医院院長・東京都足立区医師会理事 和田 紀之

 和田先生のご専門は小児リウマチということですが、この病気の場合、たとえば学校側がレバー式の水道を用意する、洋式便器を用意するといったちょっとした配慮(ユニバーサルデザイン)をすることで、患者の社会(学校集団)参加が可能になるのに、なかなかそれが理解されないということです。また、小児リウマチの場合、午前中の体育の授業は辛いから見学していた子どもが、昼休みは活発に遊ぶといったことも病気の性格からすれば当然なのですが、そのあたりが理解されず、「ズルイ」といった誤解を受けることがあります。こういった状況を変えていくためには、子どもの日常をよく理解した専門家(医師)が間に入ってコーディネートすることが重要になってくる場合も多いということでした。

 難病であるからこそ、最先端の医療設備の整った病院や専門医に担当してもらいたいという難病の子どもと家族の希望は当然のこととして、実際にはそういった大規模な専門病院ではカバーできない要素$,=EMW$K$J$C$F$/$k6ILL$bB?$/!"$=$3$K?H6a$J$+$+$j$D$1$N0e.;y2J3+6H0e$K$h$k!V%W%i%$%^%j!&%1%"!W$N0UL#$,$G$F$/$k$o$1$G$9!#M}A[E*$J7A$O!"!V6a=j$K$"$k!W!V0[>o$,$"$C$?$i:G=i$K9T$/!W!V2?$G$bAjCL$G$-$k!W!VIB5$$K$D$$$F$o$+$j$d$9$/@bL@$7$F$/$l$k!W!VI,MW$K1~$8$F:GE,$J@lLg0e$r>R2p$7$F$/$l$k!W$H$$$C$?@-3J$r$b$D>.;y2J3+6H0e$,$$$F!"$5$i$K!"@lLg0e$N>R2p8e$b45pJs$dF|>o$N>u67$O%U%)%m!<$7!"@lLg0e$H>pJs$r8r49$7$F$$$/!"$H$$$&7A$G$O$J$$$+!"$H$$$&$3$H$G!"$3$l$O;d$N8D?ME*$J7P83$+$i$bG


(5)「子どもが難病に罹った時」

NHK解説委員 小出五郎

 NHKの遺伝関係の特番などでもおなじみの小出さんの話は、以前、番組で視聴者参加の医療相談番組を放映したときの経験を中心に、医療に関する情報は今後どういう形で伝えられていくべきか、という話でした。番組を作る立場から強く感じたのは「医療情報というものは、他の自然科学に比べて、不確実なものが多く、相対的なものである」ということだそうです。ある病気がどういった症状を示すか、その症状にある薬が効くか、といったことも個人差が多く、「絶対」ということが言えないということが生身の人間の身体を対象にしている医学という科学の特徴であり、たとえ専門家の言葉であっても、ある判断を神の声のように絶対的なものと聞くのはよくない、と感じたということです。従って、番組も「正しい、絶対的な情報」を伝えるというより、むしろ、情報の正否を本人が判断するための手助けをする、といった方向性になります。しかし、そういう観点で医療情報というものを見ると、実は頼りになる本というのが非常に少ない。特に専門家が書いたものが少ないわけです。その理由の一つは、たとえそういうことをしても、それが専門家の仕事として十分に評価されないということがあります。

 小出さんの意見としては、こういった状況の背景には日本人の「お上意識」、つまり、難しいことや専門的なことは権威のある人に任せっきりにしてしまう傾向があり、今後は民間の組織や患者の側からの自主的な働きかけで状況を変えていくことができるのではないか、ということでした。小出さんによれば、こういった変化は医療界だけのものではなく、むしろ世界が今、大きな転換期にあり、その全体的な流れがそちらに向かっているというべきだろうとのことです。


まとめ

 医学の専門家(医者)と、それ以外の医療、福祉の専門家、そして患者という広い範囲の聴衆を集めて、小児難病のような非常に専門性の高いテーマについて議論するというのは新しい試みであり、専門性の垣根を突き破ってさまざまな観点から「子どもの難病」をよりよい方向に導くための方法を考えていこうという動きの具体的な第一歩になったことは素晴らしかったと思います。一患者の親としては、日本ではこういった動きがいままでほとんどなされてこなかったということが不思議にさえ感じられるのですが、いろいろ首を突っ込んでいると、それを現状の中で実現するのにはどんな壁があるのか、一人一人は高い意識をもった専門家がいても、それを組織化して新しいシステムを立ち上げるのはいかに大変かというのもだんだんわかってきます。そういう意味では、今回のような「市民公開シンポジウム」が開かれた意義は大きかったし、関係者のみなさんのご尽力にも頭が下がる思いです。今後、続いていくかどうかは今回の成果しだい、といった冗談交じりの話もありましたが、ぜひとも続けていただきたいと思います。


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