ゴーシェ病の現況とQ&A
第4回日本リピドーシス研究会公開討論より |
■ ゴーシェ病患者調査報告
大和田操(日本大学医学部付属駿河台病院小児科)
ゴーシェ病の酵素療法が確立したことで、日本の患者の実体を調査する必要に迫られた。どれくらいの患者がいるのか、どんな診察科で診療を受けているのか、どんな症状で困っているのか、亡くなった人はどれくらいか。200床以上の病院7千について調査。回収率は7割でかなり信頼できる。報告はイニシャル。生年月日、症状など。
- ゴーシェ病患者はトータルで72名が見つかった
- 診療科は内科、整形外科もいるが、その場合も小児科がフォローしている
- 神経症状は0〜10歳で47%。神経症状を認めない人も年長者には多い
- 脾腫、肝腫などが90%。骨の症状が60%、貧血が20%
- 10歳までには8割が診断されている。I型の2割は成人してから
- 脾臓摘出は5歳までに56%がしている
- 調査結果から考えると、全体の発生率は1/32万人、I型が1/56万人、II型III型が1/72万人
- I型の患者は現在良好な状態にある。酵素補充療法、一部は骨髄移植が効果をあげていることを想像させる。
→第4回日本リピドーシス研究会のプログラムと内容
■ 患者さんとの公開討論
以下のQ&Aは、リピドーシス研究会の公開討論において、ゴーシェ病患者の家族から出された質問と、それに対するセミナー参加の医師・研究者からの回答をレポートしたものです。ゴーシェ病の場合、骨髄移植と、セレザイムという製品名の合成酵素を使った酵素補充療法という2つの治療法が既に確立されており、質問内容もそれに関係したものが中心となっています。
Q:兄弟で同じような症状になるのでしょうか?
A:原則としてはそうだが、ごく稀な例としては、兄弟でI型、II型という例も報告されている。
Q:I型が成人後に発症したときの予後はどうなるのでしょう?
A:成人後の発症は症状の進行は一般的に緩やかになる
Q:なぜユダヤ系にゴーシェ病が多いのか?
A:アシュケナージ・ユダヤ人は人口が少なく、それがある時期に人口的に拡大したことが理由であろう。このユダヤ系のゴーシェ病の主要な原因となっている遺伝子の変異(N370S)は、ユダヤ民族の成立よりもさらに古いものであることが研究によってわかっている。
Q:第一子が患者で、第二子出産後に、検査の結果たぶん大丈夫だろうといわれたが、その信頼性は?
A:出生前診断は100%とはいえないが確立している。
Q:ゴーシェ病の場合、体外受精卵の遺伝子診断は認められるか?
A:技術的には胚珠の診断は可能だが、信頼性は落ちる。
Q:酵素補充療法を受けて1年が経過しているが、視覚障害の進行や、そこから来ると思われる歩行困難がある。
A:酵素補充療法の場合、神経症状の改善は期待できない。視覚障害が改善したという報告もわずかではあるが存在するが、難しい。
Q:現在気管切開を受けて人工呼吸器をつけている。酵素補充療法を続けることで自発呼吸が復活する可能性は?
A:神経症状によるものだと思われるので、非常に難しい。
Q:酵素補充療法のやり方で痙攣を抑えられないか?
A:痙攣のような神経症状には効果がないことがわかっている。
Q:長期にわたる酵素補充療法は抗体によってしだいに効果が落ちるのでは?
A:追跡調査を行った結果、30%の患者で抗体が陽性になっていた。しかし、そのことで効果が落ちているという現象は観察できない。ただ、それまで順調に酵素補充療法が効果を発揮していたと思われる患者が、突然悪化して、その原因が抗体と考えられるという報告もまれにではあるが、存在する。
Q:2週間に1回セレザイムの投与を受けているが、家族の都合を考えると夜間外来での投与を希望したい
A:夜間外来や休日外来を行っている病院もある。個人的にはそのような方向に行くべきだと思うが、主治医しだい、病院しだいである。
Q:骨髄移植を受けて6年たったが神経症状は進行している。さらに酵素補充療法を受けている患者はいないのか?
A:両療法を併用した場合、効果はあるが、理論的に予想されたほどではなかった。基本的には骨髄移植を受けていれば酵素補充は不要と考える。
Q:骨髄移植後の長期にわたる酵素活性の変移のデータが存在するのか?
A:骨髄移植後の酵素活性は、ドナーの細胞の活性レベル、その生着率などを考慮することで予想がつく。
Q:患者は現在高校生だが、18歳を過ぎると小児慢性特定疾患の対象をはずれるので、医療費の自己負担に絶えられなくなり、治療を中止せざるを得ない
A:現状で言えるのは、東京都だけが唯一リピドーシスを一生難病として認定し、援助する自治体であるということで、そこに移り住むのも一つの選択だ。もちろん、他の自治体にも同じようにするように働きかけるべきだし、現在の政府の状況から、東京都の方針も変わる可能性もある。
Q:IPAAはそのような状況の日本の患者を援助できるのか。また、そのためには日本の企業が寄附するといったことが必要なのか?
A:どちらもイエス。そのために日本に支部を置いている。
Q:国家財政が苦しい中で、小児慢性特定疾患の対象が縮小されたり、医療費補助の減額や上限の引き上げが今後ないだろうか
A:成長ホルモンの投与が同じような形で自己負担化され、論議を呼んだが、あれはそもそも助成金の1/4程度までふくれあがってしまったから。リピドーシスの場合には患者の数が少ないので、助成金の総額は全体と比較すれば微々たるものであり、あまり心配はいらないと思う。
→第4回日本リピドーシス研究会のプログラムと内容
→Gaucher House めがぽんさんのページ

|