ABOUT

NOVELS1
NOVELS2
NOVELS3

WAREHOUSE

JUNK
BOOKMARKS

WEBCLAP
RESPONSE

雨の日と月曜日は



鬱陶しいくらいざばざばと雨が降っている。
朝はたぶん曇りだったはず。なのに今のこれは一体何?
バケツをひっくり返したようなっていうのはきっとこの事を指すのだろうと、ぼんやりと分厚い雨のカーテンを眺めながらやけに感心していた。


はばたき学園なんてところに高等部から入学してあっという間に1年経過。
入学前の説明会で出会ってからずっと仲良くしてる山口紗和には、早々に彼氏なるものが出来てしまった。もっとも彼女自身とても可愛らしいと思うし、頭もいいし、何より私と違っていつもにこにこしている。片や相手の男、氷室零一はほとんど笑わない奴で、成績は常にトップ、どんなことがあっても冷静沈着を崩さない変な男。その親友だと言っているのがこれまた別の意味で変な奴。

だけど、最近ちょっと気になるんだな、これが。
その上時々ドキッとしちゃうんだな、あいつに。



あいつ……もうとっくに帰っちゃったよね。
紗和も氷室と一緒に帰っちゃったしね。
そう、気が付けば私は、傘も持たないままこの雨の中一人だった。

月曜日からこれじゃあ、堪らない。
かと言って誰かの忘れ物を失敬するのも大いに気が引ける。
さて、どうしますか、篠崎恵美さん。
濡れて行きますか、それとも小言を言われるの覚悟で迎えを呼びますか。
はてさてどうしたものか。





「あっれー、篠崎じゃん。どした?ああ、傘持ってねぇのか、お前」
「益田……君?」
「帰るの?帰らないの?どうするんだ、お前」
「帰るわよ」
「ふーん、でも傘ねえんだろ」
「うるさいわね、もう」

どうして私ったらいつもこんな風にしか口を聞けないんだろう。
さっきまで少し益田のことを考えてたのが恥かしいから?
たぶん、それはある。
でもね、そればっかりじゃないんだと思う。


うるさいって言われたのに彼は一人で帰ろうとしない。
じっと見ていたかと思うと、おもむろに大きな黒い傘をばさっと開いて、私の手首を掴んだ。

「いたっ、何すんのよ、益田」
「お前ねぇ、そんな心細そうな顔してよくそんなこと言えるよな。さっきオレの方振り返った時ほっとした顔してたぜ」
「し、してないわよ、そんな顔。そうよ、私まさに今から覚悟決めて走り出すとこだったんだから」
「走るって……まさかお前、家までって意味か?」
「そうよ、悪い?」
「悪かねえけど、やめとけ」
「なんでよ」
「風邪引く」
「勝手でしょ」
「オレがよくない」
「だから……!」

ふいに傘が益田の手から離れたと思ったら、次の瞬間には私は彼の腕の中。高校生のくせにうっすらと香水の匂いがする彼の胸に、頭を埋めるような形で抱きしめられていた。
ちょっとこんなのずるいよ、益田。

「お前なあ、強気なのも大概にしとけ」
頭の上から益田の呆れたような笑ってるような不思議な感じの声が降ってくる。

「オレだけにはお前を守らせろよ」
「な、なんで……?」
「そりゃぁ、好きだからだろ」
「誰が誰を?」
「益田が篠崎を」
「うそ」
「なあ、オレのこと嫌い?」
「わからないわよ、そんなこと」
「じゃあいいじゃん。オレと付き合え、篠崎」

なんて強引な男。
なんて優しい男。
大っ嫌いよ、あんたなんか。

だけど、私は返事代りに頭だけをこくこくと動かすのが精一杯だった。
そんな私の頭をそっと撫でて、もう一度強く抱きしめる益田。
何付けてるのかわからないけど、雨の匂いと混ざり合って甘い香りがする。



「うんじゃ、篠崎。帰るぞ」
「うん」
「ああ、そうか。篠崎って言うのもやっぱ変か。名前……呼んでいいか?」
「仕方ないわね」
「じゃあ、恵美。帰ろう」

そう言って全身で微笑むと黒い傘を持ったのとは反対の手が差し出され、そっと手を乗せると握り返された。益田はそのまま私の手をぎゅっと握り締めると、もう一度にっこり笑って歩きだした。



雨の日は……憂鬱。
それはこれからも変わらない。
でも、少しだけ楽しいこともあるんだって最近思う。


きっとそれは隣に益田がいるから……ね。



「恵美……お前、また傘忘れたの?」
「うん。走って帰ろうかと思ってさ」
「バカ、風邪引くじゃんか」


今日もまた私は益田の傘の下。
少し呆れ顔の益田はそっと私の肩に手を伸ばす。
こら、調子に乗るんじゃないの、まったく。



back

go to top