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スは大好きのス



「ヤボを承知で聞くけどさ」
「何だ?」
「お前、紗和ちゃんへのお返しはもう用意したのか?」
「な、な……なぜ、お前に心配されなくてはいけないんだ」
「なぜって……オレもさ篠崎からもらったんだけど何返していいものかわかんなくってさ。参考になるかなーなんて思っただけ」
「実は……まだだ。一体何がいいものやら俺もわからない」
「ふーん。じゃさ、明日物色にいかねー?今なら色んなとこでホワイトデーコーナーやってるしさ」
「仕方ない、付き合ってやろう」
「なーに言ってんだか」
「るさい」
「へいへい、うんじゃ明日1時に駅前広場ね。チャリで来いよ、いろいろ回るんだから」
「わかったよ」
「じゃーねー」
「ああ」



先月、紗和からバレンタインのチョコレートをもらった。

確か昨年ももらった。
だけど、昨年はまだ付き合っていたわけではなかったから、他の女子生徒と同じくデパートで買った一つ500円くらいのクッキーを返したような気がする。
しかし、今にして思えばあの時もっとちゃんとしたものを返した方がよかったのではないかと、いささか後悔している。
あの時もう俺は彼女、山口紗和に心惹かれていて、機会があれば付き合いたいと思っていたのだから。


そして、今年。
付き合い出してから初めてのホワイトデーを迎えた。
そこではたと考えた。
昨年同様クッキーの詰め合わせを返してはまずいのではないかと。

例え、去年が500円程度で今年が1000円程度にランクアップしたところで彼女が本当に喜んでくれるかどうかは、はなはだ疑問である。きっと紗和は優しいから笑って受取ってはくれるだろう(お菓子は大好きだそうだから)。だが、『彼女』にそんなものしか返さない俺を嫌いになったりはしないだろうか。と、そこまで考えてみてふいに煮詰まってしまったのだ。

とりあえず、ここで益田に誘われたのは渡りに船。
あいつもくっついたり離れたり忙しいが、それでも篠崎とは付き合っているようだし、『彼女』に何をあげたら良いのか一緒に悩む相手がいてよかったと思う。普段の態度は少しくらい大目に見てやっても良いだろう、この際だ。


「で、何にするんだ?」
「お前去年はどうした?」
「500円程度のクッキーだ。そっちは?」
「オレもそのくらいのキャンディーだ。今年はさすがに差つけなきゃなーと思ったんだけど、思いつかなくってさ」
「俺も同じだ。だが、何がいいんだ」
「さあね。オレらまだ金ないからなー、高いもんは買えないし、かと言っていかにも安っぽいもんもどうかと思うし」
「どこから行く?」
「そうさなー、ロ〇トとかか?」
「そうだな」

同級生であるには違いないのだが、いかんせん俺達は男子であって女子ではない。したがって彼女の喜ぶようなもので、できるだけ小遣いで買えるようなものを探さねばならない。紗和の誕生日には前から欲しいと言っていたCDをプレゼントしたし、クリスマスには子犬の写真集が欲しいと言っていたのを思い出してそれを贈った。そうやって考えてみると、紗和は何も聞かないのにちゃんと欲しいものをくれるのだが、俺は彼女が欲しいと言ったものを買っているだけのような気がした。

だからせめてホワイトデーくらいは自力で何か選びたいと思ったのだ。
などと決意だけはしたものの、いざとなるとよくわからない。
実はプレゼントしたいものはある。
だが、まだそんなものを贈るような関係でも、年齢でもない。
まだまだ先の話だ。

結局、最初の店でこれというものが見当たらず、益田が義理用のお菓子を数個買っただけに終わった。

「次は?」
「〇越か?〇島屋か?それともパ〇コ?」
「わかった。まず〇越からにしよう」

デパートの中に特設されているそれらしいイベント会場に向かい、それぞれに贈り物を物色する。しかし、デパートではやはり高価過ぎて俺達には手が出せない。カルティエだの、エルメスだの、グッチだのと言ったところでそんなもの簡単に買えるような値段ではない。宝飾品が人気なのか、大人は結構真剣に選んでいるが、所詮高校生の俺達では時計すらも買えない。こんなことなら、何かアルバイトでもしておくんだった。今更だが。



「零一、ちと茶でもどうだ?」
「そうだな」


「で、どうする?お前何かいいのあった?」
「いや……小遣い程度ではたかが知れている」
「だよなー、まだ親の脛齧ってる身だもんな。つらいよなー、ホント」
「益田、お前は何を買おうと思ってるんだ?」
「うーん、何かアクセサリーでもと思ったけどいいのないや。いいと思ったら高いしな」
「そうだな」
「商店街にも雑貨屋くらいあったよな、確か」
「ああ、あったと思うが、俺達二人じゃ入りにくいだろう」
「この際背に腹は変えられないだろ、二人だから大丈夫なんじゃない」
「そうか?」
「ああ、行くべ、行くべ」
「……行くか」


結局、女の子ばかりの中に男二人強引に入りこみ、その店で見つけた可愛らしいリングを購入した。当然益田も何か購入していた。訳知り顔の店員に贈答用の包装をしてもらい、なぜかリボンの真中に小さな白い薔薇の造花をつけられてしまった。その可愛らしいパッケージをまた可愛らしい小さな紙袋に入れられた。確かに女の子受けしそうだ。だが、もう2度と男同士ではこんな店に入ることはないだろう。紗和と一緒なら別だが……。




そんなこんなでようやく手に入れたプレゼントは今、紗和の胸元で揺れるチェーンの先にくっついている。
ホワイトデーになんとか彼女に手渡したものの、彼女のどの指にも入らなかったのだ。いや、正確に言うと左の小指には辛うじて収まりそうだった。
そう、俺はばかげたことに号数というものがあることを失念していて、適当に見た目だけで買ったものだから小さすぎて彼女の指にはきつすぎたのだ。
それでも紗和は怒ったりせず、そのまま雑貨屋に行き、自らシルバーの細いチェーンを購入した。
そして、指輪にシルバーの細いチェーンを通して、首から掛けてにっこりと笑ってくれた。


「零一くん、ありがとう。大切にするね」
「ごめん、紗和」
「いいって、いいって。でも次回があったらその時は9号にしてくれると嬉しいかな」
「覚えておく」
「じゃあ、ご飯食べにいこっ」
「ああ」

胸元に指輪をゆらゆらと揺らしながら、歩き出す紗和の手を慌てて握りしめた。
ごめん、今度はちゃんと左手に入るように買ってくるから。

その時まで待っててくれる?
待っててほしいんだけど。
いいかな。



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