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サンタは君にキスをする



今日は12月23日、天皇誕生日だ。
明日は12月24日、世間ではクリスマスイブだ。
明後日は12月25日、いわゆるキリストの誕生日だ。


朝から俺は彼女の山口紗和とはばたき市内のショッピングモールに買出しに来ている。午前9時に突然携帯が鳴り、洗濯をしていた俺が慌てて電話を取ると紗和だった。そしてクリスマスの買い物に付き合ってくれと頼まれたのだ。もっとも洗濯を済ませたらその後は特に予定もなかったから、ホラー映画でも借りに行こうと思っていただけだったので、付き合うことにした。もちろん毎日学校で顔を合わせてはいても、休日を紗和と過ごしたかったから、急いで着替えて洗濯物を庭に干して駆け足で彼女の待つショッピングモールに出かけた。

街はすっかりクリスマスの色に染まり、あちこちからクリスマスソングが聞こえ、道行く人達もなんとなく浮き足立った感じがする。もちろん俺も急に降って沸いた紗和とのデートで気分が少し高揚しているようだ。時間さえ許せばいつも一緒に過ごしたいが、まだ俺達は高校生でそれほど何もかもが自由になる訳ではない。だから今日みたいな日は全てが明るく見える。不思議な気分だ。



「紗和、次はどの店に行くんだ?」
「えっと……あ、あそこ!」
「ちょ、ちょっと待て。走るんじゃない」


紗和と10時に待ち合わせてからずっとこの調子だ。ちょこちょことモール中を走りまわり、その度に紙袋が増えていく。ひょっとして、俺はただの荷物持ちか?いや、そんなことは……あるかもしれない。だが、まあいいだろう。紗和と過ごす休日は楽しい。それにこれだって一応はデートだ。そうだ、デートなんだ、例え俺が荷物持ちとして借り出されただけだとしても。

「ねえねえ、零一くん。これなんてどお?」
「どおって、紗和これは何だ?」
「サンタガールだよ。あれ?言ってなかったけ、明日わたし達サンタさんになるんだよ」
「……わたし達、と、いうのはもしかして……?」
「そう、わたしと零一くんと益田くんと恵美だよ。あれ、益田くんに言っといてって言ったのに忘れたのかな?」

おい益田、お前わざとだろ。わざと何も言わなかったんだろう。誰がそんな扮装をするというのだ。この間の文化祭で十分生徒会役員として芸を披露したばかりだろうが!

「怒ってる?零一くん」
「いや、ちょっと驚いただけだ」
「よかったー。で、どっちがいい?」
「紗和、一つ聞いてもいいだろうか?」
「何?」
「これもその、生徒会活動の一環なのか?サンタに化けることが義務なのか?」
「らしいよ」
「君はそれでいいのか?」
「だって……楽しそうじゃない。そうそう零一くんにはこれね。じゃーん!!」
……じゃーんじゃない。

何だか頭が痛くなってきた。
紗和が学園生活を楽しむのを妨げるつもりはない。しかし、こんな生徒会がどこにあるというのだ。俺ははばたき学園が伝統ある進学校で、一流大学への合格率も高いと言うからわざわざ中学受験までして入ったのだぞ。自由な校風だと言うこともちらりと耳にはしたが、これは何か間違っていないだろうか。これでは生徒会ではなく芸人ではないか。もしくはただのイベンターだろう。

だが、何はともあれ楽しそうな紗和。
まったく君は、あまりにも環境に馴染むのが早すぎる。

「紗和にはこっちがいいだろう」
「そお?わたしもこっちかなーって思ってたの。じゃ、一緒に買ってくるね」
「……そうしてくれ」
「うん、じゃ、並んでくる。ちょっと待っててね」

結局俺は紗和の笑顔には太刀打ちできないってことだ。今日と言う今日はよーくわかった。君の笑顔を曇らせたくないないのだ。好きになった時点で俺は彼女には敵わない。

明日はクリスマスイブ。なのに俺はサンタの衣装を着せられて学園のパーティに出席し、他人のクリスマスプレゼントを配ってやらなくてはいけない。本当ならイブの日くらい紗和と二人で静かに過ごしたかったのに……生徒会なんて大嫌いだ。生徒会長は大好きだが、生徒会なんて俺は嫌いだ。

しかし、会計に行っただけの紗和が帰ってこない。一体何をしているんだ?

「会長、それかわいい!」
「でしょでしょ!でもねこっちもいいっと思わない?これはね副会長の衣装なんだ」
「えー、氷室先輩こんなの着てくれるんですか?」
「着てくれるよ。で、これ着て副会長がプレゼント配ってくれるからね」
「「きゃー!ホントですか!?」」


「何をしている?」
「あ、副会長だ。氷室先輩、明日楽しみにしてまーす」
「ああ、君達も気をつけて帰りなさい」
「失礼しまーす」
「ばいばーい!また明日ねー!」
「紗和、一体あれは?」
「うん、1年生みたいよ。先輩だって。きゃー!照れる照れる!!」

何を今更そんなに照れることがある?君ははばたき学園の生徒会長でもう何ヶ月もしないうちに最上級生になろうというのに。まったく自覚のない生徒会長だな。もっとしっかりしなさい、こんなだから俺は君から目が離せないんだ。


「ぶっ、はははっ!」
「何よ?」
「あはははっ!!」
「もう、何笑ってるのよっ!こら零一!」

なぜだか紗和がかわいいと思ったら急に笑いがこみ上げてきた。
どうして君はそういつも楽しそうなんだろう。
どうして君はそういつもかわいいんだろう。
ここがショッピングモールでなければこのまま君を抱きしめたいくらいだ。
突然笑い出した俺を紗和は少し頬を膨らませてじっと見ている。
あーだめだ、ますますかわいい。

「す、すまない。で、紗和、次はどこだ?」
「次は零一くんち」
「俺の家!?」
「そ、でもその前においしいものおごってもらうんだから」
「わかったから、もうふくれるな。かわいいだけから」
「……もうっ!」


今日は天皇誕生日。
明日はクリスマスイブ。
明後日はクリスマス。


明日は二人で過ごせそうもないけれど、明後日は二人でおいしいケーキでも食べようか。そして君のリクエストで何曲でもピアノを弾こう。

生徒会なんて大嫌いだ、けれどこんなにもかわいくて楽しい生徒会長は大好きだ。

紗和の手を取ろうとして両手が買い物袋でふさがっていることに気付いた。そうしたら、半分紗和が持ってくれた。君の右手は俺の左手の中にすっぽりと収まり、その手が冷たく冷えていることに今さら気付いた。

明後日は一緒にいよう、紗和。
君へのクリスマスのプレゼントはもう買ってあるんだ。君が気に入ってくれるかどうかはわからないけれど。
君は俺に何をくれるんだろう。でも、ものよりも何よりも一番のプレゼントは君と過ごすことだろうな。

「紗和、何が食べたい?」
「えっとね、いいとこ知ってるんだー」
「そうか。じゃあ、そこにするか」

また俺の手をすり抜けて駆け出しそうな君の冷たい手のひらを俺はぎゅっと握り締め、ついでにほんのり赤いほっぺたにキスをした。
大好きだよ、みんなの生徒会長さん。
大好きだよ、俺の紗和。



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