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春の嵐?



「会長、もう遅いですから僕に送らせてください」
「えっと……?」
「あ、失礼しました。僕は」
「君は確か1年E組の佐々木融くんだったな」
「はいっ!あっれー、副会長まだいらっしゃったんですか?」


あ〜あ、零一くんの眉間にシワが2本、そしてこめかみがぴくん。
この状況じゃ1年生なのに中々度胸のある子だこと、なんて思ってる場合じゃない。

「あの……佐々木くん?」
「はい、なんでしょうか」
「わたし一人でもちゃんと帰れるから大丈夫よ。あなたも早く帰りなさい」
「そうだ、そんなに君が心配せずとも俺が送り届ければいいのだから、君はさっさと帰りたまえ」
「えー、でも、副会長に襲われたら……」
断じてそのようなことはしないっ!


いや、そんなに力一杯断言しなくっても、ねえ零一くんってば。
あの一応わたしあなたの彼女なんだから、ちょっとくらいは……ねぇ?

佐々木くんはそれでもまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、零一くんはわたしのかばん毎腕をつかんでどんどん歩き出しちゃったからその日はそれでおしまいになった。





でもそれが、ちょっとした春の嵐の始まりだったのだ、今思えば。



わたし達が付き合ってることは、同級生の間では半ば暗黙の了解のようになっている。そしていつも一緒にいたとしてもそれは一応『生徒会長』と『副会長』という役職のせいもある。だから下級生になればなるほど、役職の方だけが一人歩きしていて、わたし達が付き合っているとは思わないらしい。

でもね、今までこんな風にあからさまにわたしを誘ってきた下級生はいなかったはず。もちろん同級生だってそういうことはしない。何せ、彼氏である零一くんの一睨みが怖いらしい。
そりゃぁね、一応本人は非暴力主義で平和主義なんだとか言ってるけど、確かにじろりと一瞥されたらちょっと怖いかも。それに背が大きいからなおさら迫力あるし。

でも、さっきの一年生ったら本気で眼中になかったみたい。
あの氷室零一を目の前にして。
ある意味大物かも。

その後も何かにつけ佐々木くんはわたしの後を付いて回っては、零一くんの眉間のシワを増やしまくっていて、睨まれてるんだけど。でも彼は懲りずに何かと理由をつけては生徒会室にまでやってくる。まあ、後輩に慕われるってのは悪い気分じゃないけれど、ちょっとこれはどうなんだろう……?

今日もわたしと零一くんは生徒会室で打ち合わせをしていた。
来月には1学期の大物行事『体育祭』があるからだ。

「会長の挨拶はこれでいいんじゃないのか」
「えー、ちょっと固くない?」
「このくらいで丁度いいんだ。それからこれは晴天の場合、こっちは曇天の場合、そしてこれが小雨の場合の挨拶文だ。すべて暗記しておきなさい」
「副会長代りにやってよ。わたしこんなに覚えるの嫌だよ」
「何を言う。君が会長なのだからしっかりしなさい。では、次。競技内容についてだが……」
「やっまぐちせんっぱい!」


ひゃっ、また来た。
佐々木くんだ。


彼の軽そうな声を耳にした途端、零一くんのこめかみがぴくぴくしてるのがわかる。それから眉間にすーっとシワが2本。いや、今日は3本。
「何か用事でもあるのか、佐々木くん」
「山口先輩と一緒に帰ろうと思って誘いにきました」
「以前にも言ったと思うが……」
「はい、副会長が送って行かれるんですよね。でもたまには僕と一緒に……」
断るっ!
「えーっ、副会長横暴ですよ、それ」
「横暴で結構だ。山口うるさくていけない。場所を変えよう」
「どこに行くの?」
俺の家だ

今度は佐々木くんのこめかみがぴくぴく。
やっばー。

「どうしてそうなるんですか?」
「どうして……って?それは……その……」

零一くんはこいつまだわからないのかって顔で、一つ大きなため息をついた。
佐々木くんだってバカじゃないんだから、さすがにちょっとくらいは気付くんじゃないのかな。


「わかりましたっ!氷室先輩も山口先輩が好きなんですね。そっか、じゃあ僕達ライバルだ」
「だから……」
「山口先輩は氷室先輩と僕とどっちがいいですか?1回デートしてから決めてください」
「だからそう言うことじゃなくって……」

ああ、そうか。この子は恐ろしく鈍いんだ。ってわたしもあんまり人のことは言えないけど、でも、気付かないんだ。これははっきりと言わなきゃわからない、ううんもしかしたらわたしがはっきり言ったところでまだ勘違いしてるかも……。

うわー、ちょっとどうしよう?
ねえ、どうしよう、零一くん?

「これ以上勘違いされては困る。『生徒会長』は公共物だが、『山口紗和』は俺のものだ。今後一切手出し無用だ。判ったな、佐々木」
「えー、でも……」
「紗和。こっちを向きなさい」
「えっ?」

半ば強引に零一くんの方に向かされたと思ったら、佐々木くんの目の前でキス。
な、な、な、なんてことするのよっ!
氷室零一っ!!


こら、離しなさい。
こんな人前でこんなのって、ちょっと。

「ふっ……これでわかっただろう。君は俺達の間に付け入る隙すらないのだ。とっとと帰るんだな」
「……」

たぶん呆然としてるだろう佐々木くんは、そのまま出て行ったと思う。わたしは零一くんにぎゅっと抱きしめられてるから見えなかったけど。恐る恐る見上げると、いつもは冷静な顔の彼が勝ったって顔して笑ってた。あのー、今のこの状況って笑ってていいもんなの?

「紗和……ごめん」
「何が?」
「いや、その、あれ……だ。強引にキスを……」
「いいわよ。ちょっとびっくりしたけど」
「そうか。しかし、毎回このようにして寄ってくる奴を退けるわけにもいかない。やはり俺がいつもそばにいなくては……」
「じゃあ、いつもそばにいて」
「ああ、当然だ」






-----1週間後。
「山口先輩!」
「うわっ、な、な、なに?佐々木くん」
「先輩って妹とかいません?いたら紹介してくださいよ」
「紗和には弟しかいない。弟でよければ俺が紹介してやろう」
「うげっ、氷室先輩っ!け、結構です」



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