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君と聖夜と贈り物



生徒会活動のせいでイブは静かに過ごすどころか、大騒ぎだった。
嫌だと言ったところで紗和が哀しい顔をするだけだから、諦めて俺はサンタの衣装に身を包み、益田と共に会場を回り、パーティに参加する学生から集めたプレゼントを適当に配って歩いた。その度に珍しがられて、やたらに写真を撮られ、引きつった顔の無愛想な写真だけが増えていく。

もう二度としない。
もっとも来年のクリスマスには生徒会を引退しているからこんなことは今回限りで終わりだ。
来年はもっと静かに過ごすんだ、絶対に。


「紗和、25日は何か予定があるのか?」
「うーん、あるようなないような」
「どっちなんだ?」
「それはね、零一くん次第だよ。誘ってくれたら予定は埋まるし、誘ってくれなかったらわたしが誘うだけだし。だから、あるようなないような、なの」
「では、ウチに来ないか?二人で過ごしたい」
「うん、行くっ!またカレー作ったげるっ」
「では決まりだな」

23日に紗和に呼び出されて買い物に付き合った帰り道、一応俺は彼女の予定を確かめた。恐らくOKしてくれるとは思っていたが、またしても益田や篠崎までついてきたのでは面白くないからだ。そしてついでに今回は紗和にあいつらには黙っておくように口止めした。


わかってるとか言っていたけど、本当に大丈夫か。
いつもいつもあいつらは俺の邪魔ばかりするからな。
お前らはお前らで二人で過ごしたらいいだろう、邪魔するな。

結局高校生らしく午前10時に彼女を迎えに行き、出迎えた弟に7時までには帰すと約束をして連れ出した。一応弟の前では二人きりだということは伏せておくことにする。変に勘ぐられても嫌だから、と言っても俺自身何らやましいことなど……考えていない。

そしてやってきた紗和は、例によってまたウチのキッチンでカレーを作っている。クリスマスケーキはデパートでおいしいショートケーキを散々悩んで二つ買った。本当に君は何かあるとカレーばかり作る。おいしいのだが、もしかして他には何も作れないのだろうか。1週間毎日カレーってこともあり得るとか、そこまで考えて急に俺は顔が赤くなった。

何を考えてるんだ、一体。
まだ、キスだけなのに、俺は。
だめだ、だめだ。じっとしていたらろくなことを考えない。
手伝ってこよう。

「紗和、何か手伝うことは?」
「うーん。零一くん包丁とか大丈夫?」
「まあ、授業でやる程度ならば」
「じゃあね、たまねぎ切ってくれない。皮むいて半分に切ってそれから薄切りにして」
「わかった」


彼女は別の包丁で人参を切り、ジャガイモを切り、そして牛肉に小麦粉をまぶしている。俺は涙ぐみながらたまねぎを薄切りにしている。ウチのキッチンが無駄に広くてよかった。二人が並んでも狭く感じない。いつか、いつか遠い将来も君とこうして台所に立てるといいのだが。そんな日が来るのだろうか。

「零一くん、ありがとう。目が痛かったでしょ。わたし家だと水中めがねつけてするんだけど、大丈夫だった?」
「目が痛い。顔を洗ってくる」
「うん、そうした方がいいよ」

心配そうな紗和を残して、洗面所で顔を洗う。涙のついでに赤くなった俺の顔も冷やしてしまおう。冷たい水でいろんなものを洗い流してキッチンにもどると、彼女は鍋で牛肉を炒めていた。いい匂いだ。


君のカレーを食べるのは誕生日以来だな、確か。
あの時もおいしかったけれど、今日のカレーもきっとおいしいだろう。
なんてったって君のお手製なんだから、まずいはずがない。


どこかで高級な食事をするのもいいだろう(いつかその内)。
おしゃれなバーに行くこともあるだろう(これもその内)。
そして正装して出かけることもあるだろう(これだってその内)。


でも、俺にとって一番のクリスマスは君とこうやって一緒に過ごすことなんだ。
君がここにいることが一番の贅沢で、一番の贈り物なんだ。

「紗和、好きだよ……」
「ちょ、やだ零一くん、危ないってば」
「大丈夫だ」

そう思ったら俺はそのまま鍋を掻き回す君の背中を抱きしめていた。
離したくない、本気でそう思ったから。
最初は驚いたのか少しもがいていたけれど、諦めたのか抱きしめられるままになった。
そのまま紗和は料理を続けている。鼻先にはいい匂いだけが漂ってくる。

「紗和、ありがとう」
「えっ?何?わたしまだ何もあげてないよ」
「もうもらった」
「何を?」
「紗和との時間をもらった」
「……もうっ!」

何を言ってるんだろう、俺は。
どこかの恋愛映画のようなことを言ったりして、柄にもなく。
でも、君に感謝しているのは本心だ。


君がいなければ今日という日は楽しい日にはならないから。
君がいなければ今日という日が嬉しい日にはならないから。

だから、ありがとう、紗和。

「あ、そうだ、ケーキ半分ずつね」
「ああ、わかった」



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