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文化祭狂騒曲



文化祭、文化祭、文化祭。

ついこの間修学旅行が終わったばかりだというのに今度は文化祭の準備だ。まったく、この学園は行事が少々多すぎるのではないか?もっと学生なら学生らしく学業に専念するべきではないのか?俺は少なくともこんなことのために初等部からこの学園に通っているわけではない。もっとも、初等部より中等部、中等部より高等部と上がるにつけ、行事が派手ににぎやかになっているような気がするが、気のせいだろうか?

この間の修学旅行では図らずも、コホン、紗和との距離を少しだけ縮めることができたのだが、その後が悪い。どこでどうなったのかよくわからないまま紗和が生徒会長に当選し(俺の彼女なのだから当然と言えば当然なのだが)、彼女の指名により俺は副会長に就任予定だ。まあ、益田と篠崎も一緒なのは少ししゃくだが、それはそれだ。

そんなことはもうこの際どうでもいい。

2週間後の文化祭において現生徒会と引継ぎを行う予定になっていて、もっかの悩みはその際に何をするかということだけだった。

この学園は何か間違っている、と少なくとも俺は思う。引継ぎ、お披露目というなら素直に舞台で挨拶でもすればいいじゃないか。どうして俺達がその、なんだ、新生徒会として芸をしなければならないのだ!そんな必要性がどこにあるというのだ。

「ねえ、零一くん。ねえってば!」
「ん?ああ、紗和。どうした?」
「だからね、何をする?文化祭でわたし達4人」
「4人?」
「うん、なんかね、生徒会長さんが言うには執行部4人は絶対に何かしなきゃいけないみたいなの」
「絶対に?何を?俺達が?」
「そう、絶対に。何しよっか」

紗和は満面の笑みで俺を見つめる。普段ならその笑顔は非常に魅力的だし、とてもかわいいと思う。だが今の君の笑顔が俺にとっては拷問だ、絶対に逆らえなくなるから。もちろん見つめられても何も思い浮かぶわけがない。とりあえず、そうだな、過去の例を調べるしかないだろう。別にウケる必要もないだろうから、普通歌でも歌うか何かだろう。

「紗和、とりあえず去年のことは聞いたのか?」
「うん!去年はね、コントだって。それからね、その前はバンドとか、演劇とか」
「……」

覚えていない。
去年そんなことをしていたのか。
クラスの展示が忙しくて全くもって記憶にない。
そもそもどうして生徒会役員が芸人の真似事をしなくてはいけないのか?もっとこうなんというか格調のあることするべきなのでは?俺だったらそんな妙なことをする生徒会長なんてリコールだ。紗和は別だが。

「でね、わたし零一くんのピアノ聞きたい」
「俺の?」
「うん」



で?
どうしてこんなことになってるんだ?
どこでどう間違ったら「ろっくばんど」なるものになってるんだ?
誰か明確に説明してくれ。

俺の前にあるのはグランドピアノではなく、いわゆるキーボードというもので、益田が持っているのはバイオリンではなくギターというもので、篠崎の前にあるのはティンパニではなくドラムセットで。

確かにこのくらいのメロディーなら初見でも弾けるさ。だが、どこでどうまちがって紗和が唄うのがアリアではなく、流行りの曲なのだ?どこでどうすりかわったのだ。益田と篠崎お前ら紗和に何を吹きこんだんだ、一体。

確かに文化祭の準備が佳境に入るにしたがって俺は自分のクラスが忙しくなり、生徒会の方にはほとんど参加できていなかった。だからと言って急に俺抜きで方針変更するなどどうかしている。相談しろ、2番目に偉いのはこの俺だろう。練習に参加できないから益田に楽譜だけは先に貰っていた、だがそれは確か歌曲が2・3曲だったはず。しかし、その際に妙なことを言われたことは覚えているが、まさかあれがこのことだったとは。やられた。

「零一、お前絶対なんとかってあるんだろ?初めて見た楽譜でも弾けたりするよな?」
「それを言うならperfect pitch、絶対音だ」
「で、弾ける?弾けない?」
「なんでも弾ける」
「OK、OK。さすが零一だよな」

こんな時、こんな能力などなければよかったと思う。せっかく母が教育してくれたものはこんなところで使うような代物ではないはずだ。しかし、紗和があまりにも楽しそうにしているから、今更嫌とは言えない。もちろん、俺のプライドもある。

まんまとやられた感は否めないが、まあいいだろう。年に1度くらいこんなことをするのも悪くはない。何より、生徒会長の命令は絶対だ。それ以上に俺が今まで紗和の笑顔に逆らえたことが1度たりとしてあっただろうか…たぶん、ない。

そうなのだ、好きになった時点で俺は紗和には敵わないんだ。


「いやー、楽しかったな!」
「うん、とっても楽しかった」
「どした?零一。あ、もしかして仲間外れになったの怒ってたりする?」
「いや……なかなか楽しかった
「じゃあ、来年もやろうね、零一くん」


はぁ?
今来年と言ったのか?紗和。

「来年さー、オレら生徒会辞める時またさよなら公演するらしいぜ。あれ、聞いてなかった?レイイチクン?」

また、やるのか。コレを。
まあいいだろう、今度は俺もきっちり練習に参加させてもらうからな。覚えてろ益田、今度は氷室零一の名に賭けてもっと完璧に演奏してやるからな。



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