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君の瞳に恋してる



「だめだ、だめだ、だめだ!だめに決まってるだろう。まったく、君は……!」
「でも、みんなに頼まれちゃったんだもの、すっぱり断れないよ、わたし」
「だめなものはだめだ!」
「でも……やってみたいんだもん
「ふぅ……、すまない取り乱してしまったようだ」


俺は取り乱したせいで少しずれてしまった眼鏡をもとにもどしながら考えた。まったく、君は相変わらず何もわかっていない、この学校のことも、俺のことも、もちろん君自身についても、だ。どうしていつもそうなんだ、頼まれても嫌なら断ればいいだろう。みんなって誰だ、あいつかこいつか、それとも……?

2年の秋、修学旅行も終わり、残す大きな行事は文化祭だけという時期だった。彼女と(きちんと)付き合いだしてから約1年、俺達は久しぶりに邪魔者もなく、放課後の教室で二人きりで過ごしていた。少し緊張するがやはり君と二人きりで過ごす放課後は嬉しかった。なのに、君がとんでもないことを言い出すから、つい大声を出して取り乱してしまったじゃないか。

ウチの学校の生徒会選挙は来月だ。文化祭で前生徒会と引き継ぎになる。だが、なんだって君が生徒会長にならなくてはならないのだ。確かに君は成績も良く、人望もあり、コホン、かわいらしい、が。だからといって周りにうまく乗せられて君が生徒会長に立候補などしなくてはならないんだ。生徒会なんてところに足を踏み入れたが最後二人の時間が減るではないか、そうでなくてもいつもあいつらに邪魔されてばかりで、ゆっくり二人で過ごせないというのに。だいたいにおいて、ウチの学校は生徒会が非常に強力な学校だ、ましてや高等部の会長ともなれば下手をすれば一介の教師よりも自由度が高く権限もそれなりにある。その上、会長の特権として、執行部の人選まで自由なのだ。そんなところに彼女を差し出せるものか。

「ねぇ、零一くん、やっぱりだめ?」
だめだ
「どうして?」
「……」
「でもね、もうポスターとかあるし、届けちゃったし……」
なにぃ?

はぁ、その笑顔は頼むからやめてくれ、うっかりOKを出してしまうじゃないか。その天真爛漫な瞳で見つめないでくれ、なんでも許してしまって痛い目にあうのはいつも俺なんだぞ。なのに俺はその瞳に恋をしたから……その瞳で見つめるのは勘弁してくれないか。


「零一、はっきり言っちゃえよ、君との時間が減ることが嫌だってさ」
「そうそう、言っちゃいなさいよ、まったくこの優等生はそんなことも言えないの?」


この声は……?益田と篠沢?
ゆっくりと振りかえると、とっくに帰ったはずの二人がにやにやしながらこっちを見ていた。いつからいたのだ、そんなところに。

「うるさい!早く帰れ」
「へーい。じゃさ、紗和ちゃんに会長特権で指名してもらえよ」
「それいいわね。そんで会長特権で副会長かなんかに指名してもらえば、一緒にいられるわよ。義人もたまにはいいこと言うわねー」
「だろ、だろ?オレって頭いい?」
「ばーか」

そうか、その手があったか。そうすれば仮に紗和が押しきられて生徒会長に祭り上げられるようなことになっても、俺が守ってやれるじゃないか。
本来ならそんな姑息な手段を使う気はなかったが、そうすれば丸く収まるような気がした。仕方なかったんだ、彼女の嫌と言えない性格とその無邪気な笑顔とうるんだ瞳には勝てないから。それに彼女が当選するとは限らないのだから。

「山口、いや、紗和。君が会長になったら俺が副会長になろう。それでいいだろう?」
「えっ、いいの?さっきまであんなに……」
「君が会長なのが嫌なわけじゃなく、その、つまり、一緒にいる時間が……」
「一緒にいる時間が増えるね。嬉しい」
「送っていこう、遅くなった」
「うん」

まさか、そのときは本当に自分が生徒会なんて魔窟に足を踏み入れることになろうとは思っていなかった。ただ、俺は紗和との時間を減らしたくなかっただけなのだ。かわいい俺の彼女とゆっくり過ごしたかっただけだったんだ。

「手、つないでもいい?」
「あ、ああ」

彼女の手をそっと握る。君は俺のことを本当に好きなのか?俺はこんなにも君が好きなのに、いつも何というか振りまわされているような気がする。だけど、いいんだ、一緒にいられるなら、それだけで。





「うそだろ?」
「ホントホント。いやーめでたいねー、長年親友やってきたけどこりゃめでたいわ」
「嘘だ……」

そして1ケ月後、彼女は圧倒的勝利を収め生徒会長になっていた。彼女の隣にいるのは副会長に指名された俺、これは予定とおりだ。だが、しかし、どうしてお前が……お前が書記なんだよ!その上なんで篠崎が会計として一緒にいるんだよ……!
「だって、みんな一緒の方が楽しいでしょ。わたしが決めちゃったの」
「……なぜ、そうなる」



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