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case of Yoshihito Masuda 3周年記念企画



君の家のインターフォンなんて、まず押すことがないからなのか、改めてここに立つと妙に緊張する。まるで、中学生の頃に好きだった女の子を誘おうとして、誘えなくて門の前で30分ばかしつっ立ってた頃みたいに……。




そんなこと言ったら、今のオレからじゃ想像もつかないって君は笑うかもしれない。だけど、どんなに慣れた男だって好きな女の子とどこかに出かける時ってのは少なからず緊張してるもんなんだぜ。


軽やかな音がして、君はばたばたと玄関を飛び出してくる。そして、オレはそんなあわてんぼうの君が飛び出してくるのを、そっと抱きとめる。たったそれだけのことがこんなにも、胸を暖かくしてくれることにようやく気が付いた。いや、気付かせてもらったんだ、君に。


これが……いわゆる幸せって奴なのかな、なんて。


「益田さん、お待たせしました!」
「お嬢さん、お手をどうぞ」
「えっと、今日は……」
「海へ行こうか、いい天気だし。きっと風が気持ちいいよ」
「はい」
「うん、いい返事だね」

彼女と付き合うようになってから、自分の車で煙草を吸わなくなった。
なんでかって?そりゃ、せっかく彼女が気合入れてお洒落してくるのに、煙草の臭いを染み付けちゃうのもどうかなって思ったから。まあ、いろんな意味で便利だからピックアップを買い替えやしなかったけど、臭いが抜けるまで暑い日も寒い日も窓開け放ってたんだ、このオレが。
バカだね〜、まったく。


「さぁ、桃花ちゃんどうぞ。足元気を付けてね」
「はい」

と、言ったそばからちょっとだけ頭をぶつけちゃう君。痛かったね、我慢してるけど、涙目になってるよ。

「あはははっ、痛いの痛いの飛んでけ〜ってか」
「もうっ、幼稚園児じゃないんですよ、わたし。こないだようやく20才になったんだからっ!」
「わかってるって。じゃあ、これで勘弁して」

止まった時涼もうと入れっ放しの大きなうちわで隠しながら、オレは君の頬にそっとキスをした。
真っ赤になってる君を横目でちらっと見て、やっぱりかわいいなと思う。でも、あんまりかわいいかわいい言ってるとこの年頃の女の子は背伸びしたがってるから、また少しほっぺたを膨らますんだろう。

さて、っと。

エンジンかけて出発しますか。いつまでもここに車を止めてたら、違法駐車で持ってかれるとかっこ悪いことこのうえなし。

つーんと横を向いて、そんなことでごまかされないぞって顔をしてる君。
高校を卒業して、無事念願の大学に入学して、毎日毎日きれいになっていく君。確かにお化粧もうまくなったし、制服着て笑ってた頃よりは大人っぽい服装も似合うようになった。

だけど、オレの中では永遠にかわいい女の子なんだよ。
改めて口に出して言ったりしないけど。


とりあえず、午前中は海辺のデッキをぶらぶらして、店ひやかして、お昼食べたらタワーでも登っとくか。夕方からはまた仕事だから、5時くらいまでしか一緒にいられなくて悪いけど。

「ねえ、益田さん」
「ん?なんだい?」
「わたしってまだ子供だね、ムキになっちゃってごめん」
「別にいいよ、気にしてない」
「ほんと?」
と、いいながら、君はバックミラー越しにオレの目を覗き込む。

怒ってないさ、オレだって君くらいの頃には、早く大人になりたくて毎日毎日もがいてたし、その一方で子供じゃなくなる恐怖感だって感じてたよ。
だって、そういうお年頃なんだから、20歳くらいの頃ってさ。

信号で止まった隙に、彼女の丸い頭をぽんぽんと撫でる。
艶やかなその髪を、柔らかなその頬を、オレはいつだって独り占めしていたい。そう思わせるほどに君はどんどん綺麗になっていく。


「大人も好きだけど、オレはそんなことどうでもいい」
「何、それ」
「桃花は桃花のままでいいんだってこと」
「子供っぽくてもいいてこと」
「ああ、オレの隣じゃ何も考えなくていい、ただそばにいてくれたらいい。大人でも子供でも関係ない」
「……」


そんな顔するなよ。
このオレが君のことを好きなんだぜ。それも君と出逢ったことがまるで天の配剤だったみたいに、ただ君だけを。

最初の頃、零一には随分と迷惑を掛けた。っつうか、あいつがあまりにも君のことを心配するから、ちょっとだけいらぬ心配をしたくらいだ。だけど、あいつはただ純粋に自分の教え子を心配してただけだったんだ。それがわかってからは、なお一層この子をきちんと守らなくちゃなって思ってしまった。

できることなら、彼女がオレの最後の女であってほしい。
なーんて思うほどに。


「ねえ、とりあえずさ」
「何ですか?」
「今はオレのことだけ見ててよ。今オレと君の二人しかいないって思ってくれない?」
「それって一体何?」
「まあそうだな。臨海公園っていう無人島に二人っきりってね」
「ほんっと、益田さんって変」

そういうと君は今度こそ心からの笑顔を見せてくれた。
まあ我ながら陳腐なことを言っちまったなーと思わないでもない。だけど、恋する男はみなちんけなセリフを無意識に吐いちまうもんなのさ。





「そうそう、一つお願い」
オープンデッキで手をつないで歩きながら、オレは平静な顔を装って言ってみた。

「そろそろ名前で呼んでみない?桃花ちゃん」
「へっ!?あ、いや、その、あの……暑い、そう、今日は暑いですね〜」

「義人、よ・し・ひ・と。言ってごらん」
「む、む、無理〜!急にやめて」

そんな悲鳴上げて拒否するほどのことでもないと思うけどな〜。

ま、いっか。
そのうち嫌でも言うようになるさ、何せオレのお姫様は氷室学級随一の努力家なんだから、ね。


さーて、そろそろメシでも食いにいくか。



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