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青空いっぱいの笑顔 〜姫条まどか〜



「桃花、今度の休み、ツーリング行かへん?」
「わたしバイクの免許とか持ってないよ」
「かめへんかめへん。ツーリングっちゅうてもバイクやのうて車」
「車?持ってたっけ?」
「ぽんこつやけど、中古で買うてん。ちょーっと遠出せえへん?お嬢さん?」
「いいけど」
「けど?」
「日帰りだよ」
「そんなんわかってるって」

そないに念押しせえへんでもわかってるて。一応お付き合いしてるけど、まだまだ今のところごっつい清い関係やし。まあそれでも一応ちゅーくらいはしたけど、でもそれやって信じられへんくらいかるーくやで。
昔の、ちゅうてもほんの2・3年前のオレからは考えられへんくらい純情可憐な交際っちゅうの、させてもろてるし。

別にオレは桃花んとこのオヤジさんが怖いわけでも、あの弟が苦手なわけでもなんでもあらへん。
ただ、こいつだけは本気なんやってことで、中々簡単に手ぇを出せへんだけや。なんかもう一旦手ぇ出してしもたら、そのままかっさらってどっか二人っきりになれるとこまで連れ去りとうになりそうやから、キス以上に進めへんねん。



あー、何やってんねん。




とか言うて悶々としとっても別にまあなるようになるって思うてる。
そんでなるようになった時は、一生オレがそばにおってこのお姫さんを守ってやる時やて思うてる。

せやから、もうちょっとの我慢や我慢。




5月の連休やからなんか、結構市内の道は空いている。今年は暦の関係で10連休とか11連休とか言うとったから、皆さん海外に出て行かはったんかもしれへん。そういやこないだテレビで今年は久しぶりに海外旅行が増えた言うてたな。

「桃花、どうや、オレのハンドルさばき」
「うん、結構うまいのね。びっくりした。でも、いつ免許なんて取ったの?」
「内緒やねんけど、実は高3の夏休みに取ったんや。ヒムロッチには告げ口せんといてや。ほんまはあかんねんから」
「へぇ、そうだったんだ。わたしも取りに行こうかな」
「どやろ、自分時々ごっついとろいからなー」
「あ、ひどーい。これでも文武両道、氷室学級のエースだったんだからね」
「せやったなー。あー懐かしい。ただのドライブやし帰りにでも学校寄る?かめへんで」
「うーん、どうしよう。時間あったらね」
「ほな、決まり」



高校時代、オレはとりあえず中学までとは違うお調子者を気取って、手当たり次第に女の子に声を掛けては適当にお茶を濁してばかりいた。本気で付き合おうやなんて全然思うてなくて、とりあえず日々かわいい女の子をてがってたまにエッチできたらそれでええやんって思うてた。

せやから、桃花に声掛けたんもそれだけのことやった。
なんや、3組に中々にかわいい子がいてるっちゅうから声くらい掛けるんが礼儀やろ。そんな感じ。
確かに桃花はまあかわいい方やった。くるくる変わる表情とか他人のことでも真剣なとことか、せやけど反面ぼけぼけやったりするとことか、そんなんが何や目離されへんようになって。



いつの間にかちょっとでもこの子から目を離したらもったいないんちゃうかっちゅう気になってしもうて、そんで気が付いたらごっつ好きやってん。今までにも女の子を好きになったことなんて、星の数ほどようけあるけど本気なんは後にも先にもこいつだけかもしれへん。

高校ん時かてデートらしいことは何回かしたけど、なんやはっきり『好っきゃで』ってよう言わへんかった。せやから、卒業式のあれはほんまにほんまの一大決心。せやのに、この子にはいっぺんお断りされてしもて、カッコ悪いことにごっつい頭下げてうんって言うてもろた。


「なあ自分」
「何?おなかでも空いたの?」
「あ、いや、そやないねん」
「ふーん、じゃあ何?」
「あんな、オレのことどない思てる?」
「どないって、好きだけど」
「そうか。あ、あははっ、あはははっ、せやな、せやったな、あはははっ」
「もう、何なのよ一体」
「何でもあらへんがな」
「ほんまに〜?」
「ほんまほんま」




へーんなのってつぶやいた桃花は、そのまま笑い転げるオレを尻目に窓の外に目を向けてしもうた。
まあ、桃花にしてみりゃ今更何言うてんねんってとこなんやろけど、時々こないして何気ないふりして聞いてみたぁなる。聞いたところでどないもならへんのは判ってるし、逆に『もう好っきゃない』なーんて言われてしもうた日にゃ、オレ頭真っ白になってまうんちゃうかと思うんやけど、せやけど確認だけはしときたいねん。





「なあ、桃花。今やから一つ聞いてもええか?」
「うん」
「あん時、オレが好っきゃでて言うた時……」
「信じられなくて試しちゃったんだ、実は」
「へ?」
「だってそうでしょ?まどかってかなりモテてたんだよ。いろんな噂もあったし。だから、好きや付き合うてくれって言われても嘘でしょとしか思わなかったの。だから、ここで断ってそれでも好きだって言ってくれたら……」
「言うたら?」
「絶対に信じようって思ったの」
「ほんまか?」
「うん。だからね、何回も頭下げさせてごめんね」
「かまへん、かまへん。全然かめへん」
「ほんとに?」
「ほんまや」

あんまりにもかわいいことを言う桃花。久しぶりに立ち寄った教会の前は、夕方でもう誰もおれへん。抱きしめてキスしたかてかめへんよな。ええよな、こないなかわいいこと言うてくれる彼女を抱きしめたかて、神さんやて目つぶってくれはるよな。

「桃花、好きやで。愛しとうで」
「うん」



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