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君を探しに 〜三原色〜



「春ね〜」

と、ある日突然君が言った。
だから、ボクは君を誘って森林公園まで仲良く手をつないで散歩にやってきた。
今日はとてもいい天気だから、緑が濃くて空が青くて花が赤い。
そして隣で嬉しそうに笑ってる君の笑顔は、どんな花よりも美しくて甘やかだ。

ボクは春っていう季節が好きだ。秋も色彩に溢れていて嫌いじゃないけれど、春の方がもっともっと明るくて澄んでいてボクに似合ってると思うから。でもね、他のどんな季節より、春というシーズンは桃花に一番良く似合う季節なんだ。だから、ボクも一番春が好き。



ああ、今日の森林公園はいつも以上に色が溢れてるね。
ここでなら、君の色もボクの色も見つかりそうだね。
二人でいつまでも二人だけの色彩に囲まれて生きていけたら、なんて幸せなんだろうってこんな時は切に思う。
当然、いつまでも隣にいるのは君一人だけさ。





桃花はボクの手を握ってなんだか楽しそうに鼻歌なんか歌ってる。ボクはふだんあまり歌を歌ったりしないけど、でも何かを口ずさみたくなるくらい今日のお天気は上出来だ。うん、そうだね。太陽さん、ボクが褒めてあげる。

「ねえ、桃花。それ何の歌?どこかで聞いたことあると思うんだけど」
「ああ、これ。小さい頃おばあちゃんがよく歌ってくれたのよ」
「で、なーに?なんて歌?」
「当ててみて、色」
「えーずるいよ、桃花」
「うふふっ」

ああ、なんて今日の君は楽しそうなんだ。散歩にでかけて本当によかった。

卒業してからのボクは、思いつくままにふらりと旅に出かけてはまた君の元へ戻ってくる、そんな生活をずっと続けていた。君と過ごしている時には無性に出かけたくなるくせに、実際君の顔を見ない日がたった一日続いただけですぐにつまらなくなってしまうんだ。だから、結局1週間くらいで君のもとに戻ってきてしまう。

君に出会う前のボクはこんなじゃなかったような気がするんだ。
なのにどうして今のボクはこんなにも君を愛しているんだろう。
ひと時も君の声を聞かずに、顔も見ずに過ごせなくなってるなんて、おかしいよ。絶対におかしい。
だけど、それが今のボクにはとてもとても自然で、当たり前の感情なんだ。


その笑顔も、その声も、その仕草も全てをボクは愛してるんだ、きっと。



♪〜♪♪〜〜♪〜



君はまだ鼻歌を歌っている。さっきからずっと。そんなにその歌が好き?


うん、それじゃあボクも一緒に歌ってみようかな。
だけど、何の歌かボクにはまだ見当もつかないんだ。



「ねえ色。わかった?」
「うーん、ちょっと待って。もう少し」
「ヒント、いる?」
「大丈夫。きっと当てるよ。そうだ、もし当たったら何かご褒美くれる?」
「うん、いいよ。なんでも言って」


♪〜♪♪〜〜♪〜

このメロディはなんだっけ?確か学校で習ったような気がするけど、それはずーっと遠い昔のこと。
記憶の扉を何枚も開けて、ボクはようやく答えにたどり着いた。

「桃花、わかったよ!きっとそう、コレだね」

ボクはあんまり嬉しかったから、桃花をそっと抱きしめて耳元に答えを囁いた。
そうしたら君は『当たり』と言って、ボクの頬にキスを一つくれた。




抱きしめた君の髪からは、春の陽だまりの匂いがする。
そして唇は甘いデザートの香り。


「桃花、愛してる」
「色ったら……どうしたの?」
「どうもしないよ。時々ボクは君にきちんと伝えなくっちゃって気持ちになるんだよ。ボクが君をどんなに愛してるかって」
「わたしの答えは聞かないの?」
「聞くまでもないさ。君もボクを愛してる」
「大当たり」




春風の中、君の歌声が一段と楽しそうに響く。
そしてボクは君の笑顔と君の歌声を目一杯抱きしめて、世界中に叫ぶんだ。


誰よりも君を愛してるって。

ああ、そうか。そうだったんだ。
今日ボクは君をどんなに愛してるかを見つけに来たんだよ、きっと。



「ねえ、桃花」
「なーに?色。どうかした?」
「ううん、なんでもない」
「変なの」
「今度さ」
「うん」
「朧月夜に散歩しようか。きれいな菜の花畑を見つけておくからさ」



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