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愛してるなんて言えない 〜益田義人〜



いつもの年なら、ゴールデンウィークと言えども店は開けっぱなしで、世間様が働きだした頃に2・3日連休にするんだけど。今年からは桃花に合わせて連休中にも休みを取ることに決めた。零一に明日から3日ばかし休むって言ったらば、奴はにやりと笑って自分から1曲弾いて行きやがった。それも甘ったるいラブソングをこれでもかってくらい甘く優しく弾きやがった。


たく、やな野郎だぜ。
自分だって彼女と楽しいゴールデンウィークだろうが。




桃花はオレと違って週休2日(もちろん土曜と日曜ね)のまっとうな会社員な訳で。そうすると、中々オレの都合で平日に休ませるわけにもいかない。だからそんな時は、オーナーの特権でオレの方が店を閉めるって訳。皆が休みで混み合う時にわざわざ混むところに行くなんてそんなのバカのすることだと思ってたけど、それはそれ、これはこれ。
まあ、結局さ、好きな女と一緒にいられるんなら、混もうが混むまいがそんなこたぁ関係ないってことだよ。





で、只今のオレは無理やり休みを取ったあげく、なぜか遊園地に行きたいっていう桃花を隣に乗せて零一の愛車を運転中。レンタル料として向こう1ケ月奴の飲み代はオレ持ちになっちまったけど、そんなもん安いもんさ。
さすがにいつものピックアップは煙草臭くて彼女を乗せるわけにもいかないから、わざわざこの日のために車をレンタルしてしまうという念の入りよう。

ああ、もう笑いたい奴は笑ってくれ。
あの益田がついに呆けたって指差して笑えばいいんだ。
そんくらい今のオレは桃花だけが大切ななんだよ。悪いか。


だけど、それでも『好きだ』とは言えても『愛してる』なんて恥ずかしくって言えないんだな、これが。
あの零一ですら口にするらしいのに、オレにはどうにも荷が重過ぎて言えないんだ。


「義人?」
「あ、ああ、何?もうちょっとだよ」
「ううん、そんなことじゃないの。この車って先生のでしょ?どうしたの?」
「あはははっ、デートするならやっぱこういうごっつい外車の方が楽しいと思ってさ」
「ふーん。わたしは別に気にしないけど。あ、ほら、いつものヴェスパ。あれに二人乗りでもOKだよ」
「だめだめ、危ないから」
「そう?」
「うん、オレの気が散るからダメ。あ、見えてきた。まずは何に乗る?」
「まずはそうねー、やっぱりメリーゴーランド?」
「うわっ、それだけは勘弁して」
「冗談よ。まずはやっぱり」
「やっぱり?」
「ジェットコースターっ!!」
「おーし、いっときますか」


力一杯元気に声を上げてオレ達は子供のようにはしゃぎ合う。だけど、彼女が時々不安そうな顔をすることも知っている。オレが自分の感情に溺れそうになって必死にそっけない振りをしてるってのも自分ではちゃんとわかってる。そして何よりもオレは彼女に『愛してる』なんて言ったことがない。付き合いだす時も、付き合いだしてからも。


ったく、そう易々と言えるかっつの。
ありゃ、そんなに簡単な言葉じゃないんだぞ。
いまどきの若造が映像の中じゃぁ簡単に口にしてるけど、本来そんな軽々しく言っていい台詞じゃない。そんな風に思ってるオレって少し古いのかなと思うこともある。だけど、大切すぎて言えないってことも……ある。コレはマジ。


「義人?何か悩んでるの?まさかねー」
「む、オレさって一人前に悩むことくらいあるさ。何も零一だけのもんじゃないんだぜ、お判りかな、お嬢さん」
「うん、わかってるよ、そんなこと。ただね、何かあるならわたしにも言って。聞くだけだったらいくらでも聞いたげる」
「そうか、うんじゃそのウチ。腹減った。メシにしようぜ」
「うん、食べようか」


一瞬、ドキッとした。
彼女は頭のいい子だから、何かをキャッチしたんだろう。

でもまさか、君に愛してると言えないことが悩みだなんて想像もつかないだろうな。大笑いされても仕方がないくらい、青臭いガキみたいな悩みだなんて、な。

ああ、ばっかみてぇ。





思い切り遊んだ帰り際、彼女がオレに言った。

「義人、わたし言葉で言ってもらってないけど、気持ちはすっごく感じてるよ。まあ、1年に1回くらい言ってくれると嬉しいけどね」
「何を?」
「愛してるって」
「ああ」
「そこは、『ああ』じゃないでしょ。せっかく話ふってあげてるのに」
「わりぃ。愛してるよ、桃花」
「ひゃっ、やだ、もう」
「お休み」

何さらって言ってるんだか、オレ。
こうなったら照れ隠しに驚いて半開きになったままの唇を引き寄せて、キスを落とすしかない。

あーあ、オレってやっぱいかれてる。
やばい、やばい。


遠くでヤバイヤバイがリフレインしてる。
だけど、オレはやっぱり君が好き。
だから、キスする。

例え盆と正月くらいしか『愛してる』って言えなくってもさ。
それでいいじゃん。
いいよな、桃花。



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