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Under The Christmas Tree



君との出会いはいつも突然で……、
そしていつも僕は肝心なところで間が抜けていて……、
結局卒業式まできちんと名前すら聞けずに、携帯番号もメールアドレスも聞けなかった。











卒業式の後、また偶然僕達は出会って、そしてその日は別々の方向へ歩き出したけれど、今は彼女の『知り合い』、いや、氷上の友人の一人としてもう一度一流大学で出会ってしまった。



誰かと付き合ってるという話は聞かない。好きな男がいるって話も聞かない。
あの日ふられてしまったくせに、まだ僕は君が好きだった。
合コンに誘われて出かけていっても、やっぱりなんだかピンとこない。どんなにかわいい女の子がいても、どうもこの子だって思えない。

たぶん、僕は君じゃなきゃダメなんだと思う。

君は何も言わず、何も聞かずごくごく普通に笑い掛けてくれる。
だから、僕も何事もなかったかのような顔をして君に笑い掛ける。
でも、本当はその笑顔が僕だけのものだったらどんなに嬉しいか、なんてまだ思ってるんだ。






「もうすっかりクリスマスなんだな」
「氷上もそんなことを言うんだな、ちょっとびっくりした」
「そうかな、さすがに僕だってこれだけ世間で煽られれば、恋人と二人で過ごすのも悪くないんだろうなと思うよ」
「へぇ……そんなもんかな」
「赤城くんはどうなんだい?好きな女性がいるなら思い切って声を掛けてみたらどうだい?」
「な、何を言ってるんだよ、そっちこそどうなんだよ」
「僕はもうふられた。例年通り家族で過ごすと思うよ。あ、従兄弟が呼んでくれてたけど、彼女さんとの時間を邪魔するのも無粋だから遠慮したし」
「ふーん」
「だから、北川さんのクリスマスイブはフリーだ。まあ、がんばりたまえ、赤城君」
「!!」
「じゃあ、お先に失礼するよ」


氷上……、ひょっとして君がふられたっていうのは彼女なのか?
まあ、同じ高校で同じ生徒会だったんだから、あの氷上が好きになったとしてもおかしくはない。と言うかむしろありえる。



クリスマスイブ……か。



もう一度奇跡を望んでもかまわないのかな。聖夜くらいはちょっとだけ夢を見させてもらってもいいのかな。
もう一度君に好きだと言ってもいいかな。クリスマスを理由にしてもう一度本気を見せてもいいかな。






「ごめん、待った……よね?」
「そうでもないよ」

24日の午後3時、僕ははばたき駅前の大きなクリスマスツリーの前で君と待ち合わせの約束を取り付けた。うんって言ってくれた時、心の中でガッツポーズを決めたのは秘密。だけど、すごく嬉しくてその日のプランをあれこれ考え過ぎて氷上にからかわれてしまったくらい舞い上がってたと思う。

思った以上に人が多くて、待ち合わせ場所を失敗したと思ったけれど通りの向こうに見えた彼女はきらきらとしてすぐにわかった。勢いよく走ってきた彼女に手を振りながら、内心ドキドキで、また余計なことを言わないようにしなくちゃって思ってた。

「どうしようか?」
「そうね、まずお茶しない?結構寒いし、暖まりたい」
「そうだね」

大急ぎで予約したイタリアンンレストランは少し早めの6時。その間に少しでも君と近づきたい。手なんかもつなげたら嬉しい。だけど、僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は一定の距離を開けたまま隣を歩いていく。

「ねえ、北川さん」
「ん?なあに?」
「僕のこと…………」
「?」
「いや、いいんだ」
「変なの」

カフェの窓際のカウンターに並んで座って、君がまだ好きだってことを伝えたいのにうまく伝えられない。これでも結構思ってることをはっきり言う方だったのに、何ぐずぐずしてるんだろう。

「そういえば、氷上くんとは今も仲いいんだね」
「あ、ああ、生徒会だったからね。それより君こそ氷上と仲いいんだね。あの頃も思ってたけど」
「まあね、でも、好きだったわけじゃない」
「ふーん、今は?」
「友達。向こうもそう思ってるしね。誰かをすごく好きになるのってエネルギーいるじゃない。わたしは彼にそんな気はない。それより赤城くんこそ、もう好きな人はできた?」
「…………」

そんな満面の笑顔で僕のことを聞きますか、君は。
お生憎さま、僕はまだ君のことを引きずってる。むしろ、あの日よりもっともっと好きになってる。

無言でコーヒーを飲み干して、僕は彼女を促し外へ出た。ショッピングモールの雑踏から抜け出して、臨海公園へと足を向けた。空気を感じ取ったのか、彼女は何も言わない。何も言わずにどんどん歩く僕の後ろを黙々と着いて来る。


「ごめん、わたしまた余計なこと言っちゃたね」
「ねえ、もう忘れた?あの卒業式の日のこと」
忘れてない、と彼女は小さな声でつぶやいた。そうなんだ、忘れてないんだ、じゃあ、まだ僕のことは何とも思ってないってことか。じゃあ、クリスマスイブを空けとくなよ。こうやって一緒に過ごして変な期待をさせるなよ。


空いたベンチに並んで腰掛けると、思いの外ひやりとした。ここで本物の恋人同士なら肩でも抱き寄せるんだろうけど、きっとまだ僕の片想いだ。そんなことをしたら怒られる。

「もし、嫌だったら帰ってもいいよ」
「?」
「僕はまだ君が好きだ。大好きだ。同じ大学だったからちょっと驚いたけど嬉しかった。もしかして、これは神様がくれたリベンジのチャンスなんじゃないかなんて思った」
「……えっ?」
「とりあえず、最後まで聞いて」
「うん」
「今日君を誘ってOKしてくれたら絶対にもう一度好きだって言おうと思ってた。好きだ」


実は昨日氷上に言われた。まだ本当に好きなんだったら、目を見てちゃんと言えばいいってね。あいつもなんだかんだ言って結構熱いところがあるし、ロマンティックなところがある。もし、また振られたら、知り合いの店に連れていってやろう、特別に未成年だが飲みたければ飲めばいい。付き合ってやる、なんて。

それに背中を押されたわけじゃない。
クリスマスイブの空気に浮かれてるわけじゃない。




「赤城くん……わたし、奇跡なんて信じないよ。偶然ってのも信じたくないよ」
「えっ?」
「だってそんな不安定なもの欲しくないもの。あの日のわたしは嬉しかったくせになんだか不安だったの。こんな奇跡のような偶然で赤城くんに出会って、赤城くんに好きだって言われて混乱したの」
「北川……さん?」
「好きだよ、すごく好きだよ、本当は」
「本当に?」
「うん、だけど奇跡なんてそう何度もないじゃない……きゃっ!!」

そうさ、奇跡なんてそうそうあるもんじゃない。
そんなことはわかってるさ、だけど、僕は確かに君が好きだ。好きなんだ。
寒そうな彼女をぎゅっと抱き寄せて、冷たくなった頬にキスをした。
かなりびっくりしてたけど、構わない。僕はちょっと変なんだ。

「君を好きになったことがもう奇跡なんだ、僕にとって」
「それが嫌なの、すぐに消えてしまいそうで」
「絶対に消えない。消さないよ、この奇跡は。消すもんか、だって奇跡はこうやって形があるし、何よりとても温かい」
「もう」

抱きしめられてぷーっと頬を膨らます君はとてもかわいい。
クリスマスに舞い降りた僕の奇跡。
僕の天使。




遠くでクリスマスソングが聞こえる。
でも、僕には君の鼓動しか聞こえない。
大好きな君を抱きしめたぬくもりと、甘い香りと心臓の音。
何年経っても忘れないよ、きっと。



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