Every Year, Every Christmas
どうしていつも優しくできないんだろう。
クリスマスなんだから、もっとちゃんとしたいのに
お前のことがこんなに好きなのに……俺ってカッコ悪い、やっぱ。
「なあ、24日お前暇だろ。駅前のツリーの前で5時集合」
「えー、何それ。ちゃんとデートだって言えば?」
「何で?」
「瑛はどうしてそんなに強引で自分勝手なのよ」
「だって、お前俺の彼女なんだろ。なら、空けとけ」
「やだ」
「何だと、おい、ちょっと待てよ」
「やだっ!!」
素直にクリスマスだからデートしようって言えばいいものを、俺はと言えばいつも照れ隠しなセリフばっか言ってる。卒業して告白して受け入れてもらって、同じ大学に通ってもう10ヶ月。あいつはそれでも誘ったらついてくるし、一緒にいればやっぱり楽しい。だから、もう少しマシな態度をとればいいものを。
俺だってホントはもっと優しくしたいよ。
クリスみたいにはできないけど、それでも少しは優しくしようと思うんだよ。
でも、いざあいつを目の前にすると照れくさいのと、恥ずかしいのとが先に立ってついついぶっきらぼうになってしまう。
やっぱ、俺ってバカじゃん。
プライドなんて捨てて桃花がいなきゃダメなんだって素直に言えればいいんだよ。
あ〜、バカだ、俺。
クリスマスイブに大事なことを言おうと思ってたのに、肝心のあいつが来なきゃダメじゃん。
イブまで後3日しかないってのに、何やってんだ俺。
24日の9時には実家へ帰るってのにな。
24日、それでも俺は大学の授業を終えて、ダメもとで駅のコインロッカーに荷物を預けて5時前にはこないだ一方的に約束したツリーの前に向った。あいつ、結構怒ってたから来ないかもしれないよな。でもひょっとしたら来てくれるかもしれないし、来た時に俺がいなかったらマジで逃げられそうだし。
コートの右ポケットにはあいつのために買ったプレゼントの小箱。今日どうしても渡したかったけど、来てくれなかったら仕方ない。バレンタインかホワイトデーにでも渡そう。いや、その前に愛想着かされてたりして……。ははっ俺ってどこまで行っても間抜け。
いない方に100円とか思いながら、ツリーの方を見ると、大きなイルミネーションの下に見慣れた姿が目に入った。何だ、結局来てんじゃん。かなり嬉しい。
「瑛、遅いよ。寒いし、何かおごってよね」
「おまえ……」
「何よ、約束したでしょ、5時にツリーの下って」
「あ、うん、そうだ」
「可哀想だからデートしてあげる。瑛の彼女だから、わたし」
「さんきゅ」
「何?熱でもあるの?」
「ないよ。ご飯でもたべようぜ、あ、でも予約とかしてないから大丈夫か」
「ちゃんとおさえといた」
「そっか。じゃあ、いくぞ。どっち?」
「モールの方」
嬉しい。
やっぱ、嬉しい。
来てくれて嬉しいよってちゃんと言えばいいのに、また俺は無駄口ばっか叩いてるし。
それでもさりげなく取った手がひどく冷えていて、結構早くから待ってたんだってわかった。嬉しいって言う代わりにぎゅっと握ってプレゼントの入ってない方のポケットに俺の手と一緒に入れて温めてやるよ。
いきなり手の平を握ってポケットに入れたら、一瞬びっくりしたような顔をしたけど、すぐに嬉しそうな顔になった。こいつも中々素直じゃないな。ま、そんなとこが可愛いんだけど。
「やっぱり、カップルだらけだね」
「まあな」
「イタリアンにしたけどよかった?」
「うん、いい。それよりお前今日化粧してる?」
「まあね、惚れ直した?」
「なわけあるか」
あるよ、今日の唇はほんのり桜色でかわいいよ。
まつげも長くて、今日はいつもよりちょっと甘い匂いがする。膝丈のワンピースにブーツ、今年流行ってる白いふわふわしたコートに大学入ってから伸ばし出した髪がよく似合ってる。俺はこのまま電車乗り継いで帰るから割とラフだったけど、これだったらもうちょっとカッコつけてくればよかったか。
「ごめん、俺今日ご飯食べたらもう帰るんだ」
「そうなの?」
「うん、実は……実家帰るんだ、年末まで」
「珍しいね」
「ちょっとな」
だから、5時に待ち合わせしてたったの3時間ちょっとしか一緒にいられない。お前さえよければそのまま一緒に電車乗って連れていきたいくらいだ。でも、まだそんな時期じゃない。その前に俺には両親とちゃんとけじめをつけることが残ってる。だけど、不安だから今日どうしてもお前に会って、約束しておきたかったんだ。
食事なんてどんなにゆっくり食べたって1時間半もかからない。
その後遅くまで開いてるモールをぶらぶらしてたら、あっという間にもう8時半だ。
もうそろそろ駅に行かなきゃ。
でも、まだ一緒にいたい。
「悪い、俺9時の電車なんだ」
「あ、もうこんな時間。早く行かなきゃ」
「うん。なあ……」
「何?」
「何でもない」
プレゼントは渡すタイミングが計れなくてまだコートのポケットの中だ。ぐずぐずしてないで、いつもみたいに強引に押し付けてしまえばいいんだ。だけど、今日はそれじゃダメなんだ、ちゃんと俺の気持ちを伝えておかなくちゃいけないんだ。特別な夜だから。
慌しく駅について、急いでコインロッカーから荷物を取り出しても俺の右ポケットにはまだ小さな箱が入ってる。このまま渡せないまま帰るのか?それこそバカって言うんじゃないのか。
自分の切符はもうあるけど、券売機であいつの入場券を買う。手渡すと戸惑った顔をしたけど、意味はわかってくれたみたいだ。
ホームで電車を待ちながら、なぜか俺たちは無言で。
別に永遠の別れってわけでもないのに、どういうわけかイブの夜の電車待ちの時間は切なくさせる何かがある。
「ねえ」
「なあ」
同時に呼びかけてまた黙る。
「お前から言えよ」
「瑛、遅くなったけどこれ」
「えっ?」
「プレゼント」
「あ、ああ、ありがと」
「うん」
そのまままた線路の向こうを見つめる桃花。またやってきた沈黙。ホームの時計は8時55分。後5分しかない。
「桃花、これ」
「何?」
「プレゼント」
「ありがとう!」
「なあ、いつまで待っててくれる?」
「何言ってるの、瑛」
「何でもない」
「変なの」
「悪かったな」
入線のアナウンスが聞こえてきた。後2分だ。
その時、ふいにあいつが振り向いた。そして「わたしはいつまででも瑛を待ってるよ。だって瑛が大好きだから」、って言った。何でもない口調で言ってのけた桃花の顔をマジマジと見つめるしかできなかったけど、すごく嬉しい。時間があって人目がなかったら抱きしめたかもしれない。
さーっと冷たい風が吹いて、ホームに電車が入ってきた。
後、1分だ。
そう思ったら勝手に体が動いて俺は桃花をぎゅっと抱きしめて、びっくりして目を見開いたままのお前の唇にキスをしていた。自分でも信じられないけど、結局3回キスをした。そして、とどめに「愛してる」って耳元で囁いてしまった。
持ってたかばんがホームのコンクリートに落下してやけに大きな音を立てたし、周りの視線も感じたけど今そんなことはどうでもよかった。ただ桃花を抱きしめてキスしたかった。このままぎゅっと抱きしめていたいと思った。
発車のブザーが鳴って、慌てて荷物をひっつかんで桃花を離した。
悪い、俺変なことした。
「瑛、唇ピンクだよ」
「マジ?!」
「うっそ。気を付けてね」
「お前もな」
ドアが閉まる瞬間、桃花の唇がゆっくり動いた。
アイシテル
俺も……アイシテル
プレゼントは一粒だけの真珠のペンダント。
指輪は卒業したらやる。
それまでの魔よけだ。
大切なことを外さずに教えてくれる桃花に、真っ白な真珠を一粒。
今夜だけは、今夜くらいはお前のことだけ考えててもいいかな。
親の顔見たらすぐ帰ってくるから。
そしたら、またキスしような。
ぎゅっと抱きしめような。
世界なんてうざったいだけだと思ってた俺に、この世界には楽しいことがいっぱいあるって教えてくれた。
何かであったよな、人生を愛しなさいって。
人生を愛するには、桃花がいなくちゃ始まらない。
だからいつまでも桃花の右手は俺のもんだ。
メリー……クリスマス、桃花
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