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Have Yourself A Merry Little Christmas



なあ、お前はまだ覚えてるか?
高校3年の冬、初めて二人で臨海公園のライトアップされた大観覧車を見に行った時のこと。
パーティが引けた後、どうしてもお前に見せたくて寒い中強引に連れていったよな。
着慣れないパーティドレスと履きなれないヒールのせいで、お前は時々つんのめりながらそれでも何も言わずに俺と一緒に歩いてくれた。
俺は手をつなごうとして何度もためらって結局それすらもできなかった。







もうあの頃には俺はお前が子供の頃約束した姫だってことに気付いてた。
気付いてたけど、確かめるのが怖くて何も言い出せないまま時間だけが過ぎていく。
お前と過ごす何の変哲もない緩やかな時間はすごく好きだ。お前の満開の笑顔も半ベソになって悔しがってる顔も、汗かいて他人のためにいろいろ走り回ってる顔も全部好きだ。


大好きなくせに、お前を前にすると結局気の利いたセリフの一つも言えなくなってしまうんだ。




「珪ちゃん、もうクリスマスだね」
「ああ、そうだな」
「やっぱりパーティでしょ?」
「だな」
「だよね。珪ちゃんはお仕事関係でパーティとかあるでしょ。今年もじゃあ会えないね。あ、でも、本来はねぇ大騒ぎする日でもデートする日でもないんだし」
「そう……か」
「だから、大丈夫」


卒業と同時に付き合いだして、今は一緒に一流大学に通ってる。恋人同士になって初めてのクリスマスイブは一緒に過ごせなかった。辞めようと思ってるのに中々辞められないモデルのせいだ。

ああいう業界はクリスマスイブから新年にかけてはパーティばかり。よく飽きないもんだと思う。
俺は基本的に断ってるけど、それでもいろいろ断りきれないものもある。だから、去年は桃花に淋しい思いをさせたと思う。今年だってイブも当日もパーティだ。本当は行きたくない。嫌だって事務所の社長に言ってみたけど、ダメだった。

「桃花……悪い」
「いいっていいって。お付き合いも大事よ。将来デザイナーになるんなら余計にね。だから、心配しないで、家族でケーキ食べるから」
「お前……聞き分け良すぎ」
「?」
「もっと我侭言っていいんだぞ。遠慮……してるのか?」
「我侭だよ、わたし。だって本当は……ううん、何でもない。さ、ご飯食べよう」
「ん……」


この頃桃花は何かを言いかけて途中で止めることがある。そんなことに限って結構重要なことだったりするくせに、途中で自分の気持ちを押さえ込んでしまう。俺もあんまり人のことは言えた義理じゃないけど、それでももっと色々感情をぶつけて欲しいと思うのは我侭か?








クリスマスイブだと言うのに俺はまた上滑りな会話と作り笑いの渦の中にいた。
去年桃花から誕生日にもらった腕時計をちらちら見ながら、黙って突っ立ってた。今頃お前は何やってるんだろう?本当に家族とご飯食べてケーキ食べたりしてるんだろうか?淋しいとか思わないのか?俺は淋しい。連れてこられるんなら、ココにお前を連れてきて付き合ってますって宣言したっていい。もしそれで仕事がなくなるんならそれはそれで好都合だ。

社長への義理はもう果たしたんじゃないか。

時計の針はもう9時をとっくに回ってる。
別に主賓でも主催者でもないから、帰ってもいいか。いいよな。
いや、俺はもう帰る。こんなとこいたって全然楽しくない。



「もしもし?」
「あ……桃花?」
「珪ちゃん!パーティは?もう終わったの?」
「いや……まだやってる。でも、帰る」
「帰るの?大丈夫?」
「うん……そうだ、今から出てこれるか?」
「今から?」
「ああ、タクシーで迎えに行く。用意しとけ」
「うん、わかった」
「うん」

大きな通りに出てタクシーを拾う。思ったより冷え込んできた。タクシーの車内ではクリスマスソングがずっと流れてた。どうして、クリスマスソングってちょっと淋しくなるんだろう?
俺はいつもクリスマスと言えば家族と過ごすより、爺さんと一緒が多かったからこんな曲より賛美歌だった。一緒に近所の教会へ行ってミサに参列して、賛美歌を歌って帰ってくる。それから、いつもの絵本を読んでもらって気が付いたら朝。大きなクリスマスツリーの根元には爺さんと両親からのプレゼントの包みがあって……。

でも、どんなプレゼントより本当は大好きな人と一緒にいたかった。
昔はもちろん両親と。今は……当然桃花だ。


「どこ行くの?」
「秘密」

なーにそれ、桃花はちょっとだけ笑って俺の顔を見上げる。
俺も柄でもないけど桃花には笑って見せる。




なあ、覚えてるか?
あの夜のこと。初めて二人でライトアップされた観覧車を見た夜のこと。
手をつなぎたいのにつなげなくて、好きだと言いたくて言えなかったあの夜。




「ついた」
「うん」



寒いな。
そっと桃花の手を取ると、離れないようにぎゅっとつなぎ返してきた。
あの夜から進歩したことは、こうやって自然に手をつなげるようになったこと。

「2年ぶりにドレスなんて着ちゃった」
「えっ……?」
「高校3年のクリスマスイブと同じだね。合ってる?」
「正解」
「嬉しいな、また珪ちゃんと同じ風景を見られるなんて」
「ああ」

2年前は履きなれてなくて転びそうになってたけど、20歳になったお前はもうヒールで躓いたりしない。だから、心配で手を取るようなことはなくなった。でも、好きだから手をつないで、腕を組んでお前の肩を抱き寄せて甘い時間を過ごしたい。


俺は観覧車の正面になるてすりの前で、桃花の細い肩を抱き寄せた。そして、寒さでほんのり赤くなった頬にキスをした。一瞬びっくりした顔をしたけど、桃花は背伸びして俺の頬にキスしてくれた。


「桃花……もっとわがまま言ってくれていいんだぞ」
「わがままだよ、わたし」
「そんなこと……ないだろ」
「だって今夜だって携帯に掛けて無理やりパーティ会場から連れ出そうかと思ってたくらいだもの」
「そうしてくれたらいい」
「困るでしょ、珪ちゃんが」
「困らない……むしろ嬉しい……すごく嬉しい」
「そう……なの?」
「ああ、俺はお前だけだ。一秒でも長く……一分でも多く……お前の時間がほしい」
「珪ちゃん……」
「ダメ……か?」
「……ううん、ううん、そんなことない!」
「サンキュ、桃花」



俺はもっともっとお前に笑っていてほしい。
お前がもし泣きたい気持ちになったとしても、絶対に隣にいて何も言わずに抱きしめていてやる。お前が笑ってくれるまで俺はずっとずっと抱きしめて頭を撫でていてやる。

淋しい時は淋しいって言ってもいいんだって教えてくれたのはお前。
楽しい時は一緒に笑おうって言ってくれたのもお前。


「桃花、メリークリスマス」
「うん、珪ちゃんにとっても素敵なクリスマスでありますように」
「お前がこうやっていてくれたら、それが一番のクリスマスプレゼントだ。だから、来年は携帯で呼び出してくれ」
「うん、そうする。だって……」
「お前は俺の彼女だから……そうする権利がある……だろ?」
「ん……そうね」


桃花、もしも許されるなら、一生隣で笑っていてほしい。
こんなところでこんなことを言うのもなんだけど、お前にプレゼント。

「これ……!」
「まだ早いけど、これ、受け取ってくれるか?」
「でも、これ」
「卒業したら……卒業してもずっと一緒にいたい。……俺の気持ち」
「…………」

泣くなよ、そんなことで。
泣き止むまで抱きしめてるから。
笑顔を見せてくれるまで何時間でも何日でも何年でも俺がお前を抱きしめてキスしてやるから。
愛してる……桃花。



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