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I saw Santa Claus kissing mammy



「ママ、ずるーいっ!!」
「ずるくなんかないわよ」
「ずるいよっ!あたしだってパパと一緒がいいのっ!」
「だーめっ!クリスマスのパパはママのものなんだから、譲ってなんかあーげない」
「やっぱりずるーい」
「ふふーんっだ。わかったら大人しく叔父さんとデートでもしてなさい」
「ちぇっ」
「こら、なんですか『ちぇっ』って」
「今日の気持ちよ」





世間様ではクリスマス。
イブは昨日終わってしまったので、まさにイエスキリストのお誕生日なのであります。

そして冒頭のやり取りは氷室さんちの愛娘が物心付いた頃から始まって、毎年毎年飽きもせずにクリスマスには繰り返されてきたもの。この問題ばっかりはどちらかが譲ればいいとかそういう問題ではなく、いつまでもモテモテの氷室パパは愛する妻といとしの愛娘との板ばさみ。そしていつもいつもそんな娘の世話を押し付けられるのは、すっかりお年頃の愛妻の弟:尽くん。
最初の頃こそ、男同士何かと気を揉んだものですが、今となってはクリスマスの恒例行事、これがなければ氷室家のクリスマスじゃないってくらい当たり前の光景になってしまったのです。そういわばクリスマスツリーのようなもの。まあ、この例えは置いといて。



今年のクリスマスの朝も、恒例の女同士のやり取りで幕を開けたのでした。







「綾音(あやね)、いい加減にしとけって。姉ちゃんにゃ絶対に敵わねーんだからさ」
「やっだっ!!!」
「せっかく彼女の誘いを断ってお前に付き合ってやるんだから、あんなおやじあきらめてどっか行こうぜ、なあ」
「じゃあパパ達の後をつける」
「やめとけって。あの人のドライビングテクニックにゃあ付いていけねーって」



氷室さんちの愛娘は『綾音(あやね)』ちゃん、当年とって10歳の美少女です。片や、彼女の注意を違う方向に向けようと躍起になっているのが彼女の叔父:『尽』くん、今年で早や28歳になりました。実は綾音ちゃんには1つ年上のお兄ちゃんがいるんですが、彼は友達の家に遊びに行って不在です。まあ、今ここにいたとしても彼は二人のやり取りにはまったく我関せず、とってもマイペースな少年なのです。

パパとママは結婚して10年以上経つというのに今だに仲良しで、出かける時にはなんだかんだ言っていつも手をつないでいます。ですが、さすがに普段は2人の子持ち。そうそう二人っきりで外出なんてままなりません。その上パパの勤めるはばたき学園では、毎年クリスマスイブは理事長宅を借り切ってパーティが催されるため、その日は昔から二人で過ごせた試しがなかったのです。
そこで妥協案として考え出されたのが、クリスマスは必ず二人で一日外出することだったのでした。





「桃花、用意はできたか?」
「はーい」

膨れっ面の綾音ちゃんをよそにママは綺麗に着飾ってお化粧もバッチリです。パパも今日ばかりはいつものスーツ姿より決まってます。

「じゃあ、行ってくる。尽くん、毎年すまないな」
「いいんですよ。それより早いとこ綾音に彼氏でもできりゃ、駄々っ子じゃなくなるんじゃないの?お兄さん」
「む……それは、まだ早いだろう」
「そうかなー、姉ちゃんなんてもうこの頃には……」
「わーっ!!さ、行きましょう零一さん」

何か言いかけた尽くんの後頭部を軽くたたくと、ママはパパの背中を押して強引に出かける支度を始めました。何か都合でも悪かったんでしょうか?

「ってー、何すんだよ」
「じゃあ、尽よろしくねー」
「では」






いつもは素っ気ないパパの車もこの日ばかりは大きなバラの花束で後部座席が埋まります。そんな甘い香りの漂う中、二人はいつもクリスマスのデートに出かけるのです。

「零一さん、高いんでしょう?この時期のバラって」
「そんなことは気にしなくともよろしい」
「ふふふっ。いつからだっけ、あなたが車をバラで一杯にするようになったのって」
「さあ、いつからだったか」

運転中なので、周囲の交通状況に気を配りながらも照れたような笑顔を見せました。いつだったかととぼけたことを口にしましたが、パパはママに関連する想い出を1秒たりとも忘れたことはありません。なので、実際は何年前のクリスマスからと正確に言えるのです。

「わたしが、大きな花束を持ってる人を見ていいなーって言ったからよね、たぶん」
「ああ、君はとても羨ましそうだったからな」
「ええとっても羨ましいと思ったわ。だけど、あなたがこんな風に花束を買うような人だと思いも拠らなかったのも本当よ」
「まあ確かに君以外に花を贈ろうと思ったことはなかったな」
「本当?」
「ああ、嘘は吐かない」
「信じてほしい?」
「当然だ」

信号で一時停止した隙に、ママはパパのすっきりした頬にそっとキスしました。
まったく君は変わらない、パパは心の中でつぶやくとゆっくりと車を発進させました。頬にほんのりママの口紅を着けたまま。

「今年のバラは白いのね」
「スプレーウィットと言うらしい。なんでも花嫁のブーケによく使うんだそうだ」
「ああ、そういえばそんな感じ」
「君に……似合うと思ったのだ」
「零一さんにも似合ってますよ」
「それは喜んでいいのかどうか微妙なところだな」
「かもね」

結婚した年から数えて12回目の100本のバラ。毎年毎年バラの種類もアレンジも違うのに、必ず本数は100本。どんな顔をして照れ屋なパパが大きな花束を注文するのか一度見てみたいものですが、いつもクリスマス当日にならないと花束は車に乗らないのです。



「あなたと結婚できてよかった」
「どうした、突然」
「うーん、なんとなく口に出して言ってみたくなったの」
「俺も君と出会えてよかった」
「そお?本当にそう思ってる?」
「ああ、君がいつまで経っても俺の中では一番だ」
「あら綾音が聞いたら怒りそうな発言ね」
「子供達はかわいい。しかしいつか子供達は外に向かって出て行く時がくるものだ。また二人に戻ったとしてもずっと俺は君だけを愛していたい」
「ありがとう」


ママは学生時代の片思いを思い出したのか、少ししんみりした顔をしました。確かに二人から始まって今は4人になったけれど、いつかまた二人に戻る時が必ずやってくるのです。これからどんなことがあっても二人で一緒に行きていきたい、口には出さなくてもパパもママもそう思っていました。久しぶりにパパがそんなことを口にするから、ママもまた感激してしまったのでした。

「零一さん」
「愛してます、ずっと」
「俺もだ。だから子供達がどんなに拗ねようともクリスマスだけは俺のために空けておくように」
「当然。あなたも何にも約束入れないでね。あ、そうそう今日だけは携帯切っといてね」
「承知した」


パパは学園ではまず見せたことのない穏やかな笑みを浮かべて、ママに自分の携帯を手渡します。ママは二人分の携帯の電源を落として、ダッシュボードにそっとお仕舞いしました。

大きなバラの花束で埋まった鈍く光るスポーツカーは、順調に海岸沿いの道を走っていきます。
二人が初めてデートした臨海公園を経由して、特別なランチを楽しむための時間は今始まったばかり。


年に一度は娘と息子から離れて二人きりで過ごすとっておきのクリスマス。
でも、根がマジメな二人はちゃーんとお土産を買って、6時までには帰宅するんですけどね。



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