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すき×すき 1周年記念プレゼント第二弾♪



人と人との出会いって、やっぱり運命なのかなって思うことがある。
たった十数年しか生きてないのに、あの日体育館で担任の先生を見てわたしは絶対にこの人を好きになるなと思ったの。もちろんそんな気持ちに何の根拠も理由もありはしない。本能なのか、運命なのか、わたしは絶対にこの人を好きになるだろうって何だかよくわかならいけれど、とにかく予感がしただけなの。

だけど、どれだけわたしがこれを運命かもしれないと思っても、相手は無敵のヒムロッチ。担任教師とその教え子。この関係が変わらない限り、この恋は永遠に片想いのまま。


それでも、誰かを好きって言う気持ちは、それだけで世界中の人に優しくなれそうな気がする。
何もかも許してしまえるような気がするから不思議。
どうしてなんだろう、ねえ誰か知ってる?




「ねえねえ、桃花ってば」
「……えっ?なーに、なっちん」
「なーにじゃないわよ、あんた最近ぼんやりが過ぎるよ。どした?好きな男でもできた?」
「な、な、な、なに言ってんのよっ!そんなことないってないないっ!!」
「ふーん、いるんだ」
「ちがっ!」
「わかった!奈津美さんの勘はよく当たるんだー」
「違うってば、せんせいじゃない!」
「おっ、教師ですか。それはそれは険しいですなー。まさか……ヒムロッチだったりして」
「ちがーうっ!!!」

だめだ、なっちんにはこれでばれた。
あー、全部おしまい。
そう思ったわたしは、思わず本気でがっくりとうなだれてしまった。だって、なっちんに知れたら先生にまた何かよからぬことを仕掛けそうなんだもん。で、そん時にはわたしまでネタにされちゃうんだ、きっと。
と、思ったけれどなっちんはなぜかかなり真剣な顔をしてわたしを見ていた。そして目の前のアイスティーをずずずっと飲み干すと、わたしに向かって信じられないことを言う。

「桃花……たぶんヒムロッチもあんたのこと気にしてるよ」
「ええーっ!でも、でも、わたし」
「好きなんでしょうが、奴のこと」
「……うん」
「えっと今日は何日だっけか。たぶん今夜ヒムロッチ学校にいるよ。行ってみたら」
「行ってどうするのよ」
「そだねー、いっそ好きですって言っちゃいな」
「なっちん、楽しんでない?」
「そんなことないよー」
「うそだ」
「さあ、どうだか。でも……黙っといてあげるよ、みんなには。やっぱまずいっしょ」
「たぶん」
「結構結構。うんじゃ健闘を祈るっ!じゃねー」
「……」

いくら今夜先生が学校にいるからって押しかけてどうするの。
本当に好きですって言っちゃう?
できっこないでしょ、そんなこと。せっかく最近は時々一緒に帰ったりできるようになったところだし、休みの日に会うことだってあるんだし。ここでわたしが下手に告白なんてして、この緩やかな関係が一瞬にして終わるのも嫌。絶対に嫌。


でも、長い夏休みに一度くらい会いたいのも真実。
行くだけ行ってみてもいいかな。
もし会えたらそれはそれでやっぱり嬉しいし。
会えなかったらそれはそれで仕方がないし。

行こっか。
やめよっか。
やっぱ、行こっか。



えーい、行っちゃえ。
まだ夏休みになってから1週間だもん、もし何か失敗しても9月までには立ち直れるわ。たぶん……ね。





とか思ったけれど、先生は宿直当番なのか、それとも部活の立会いなのかよくわからないから居場所もわからない。こんなことならわたしも何か部活に入っとけばよかったかも。あれこれ考えながら、夕暮れの学園内をうろうろうろ。一応制服を着てきたからそれほど違和感はないと思うけど、それでもあまり遅くまでいて他の先生に見つかってもまずい。

まだ少しだけ蒸し暑い夏が夜に差しかかる頃、涼を求めてついふらふらと学園の裏手にある教会の前に足が向いていた。ここの前でわたしったら入学早々葉月くんに会ったんだっけ。その後大慌てで体育館に駈け込んで、そこで先生に一目ボレしちゃったんだった。朝日の射し込む中ですっと立っている先生の横顔があんまり綺麗で見惚れてたから、名前を呼ばれてることに一瞬気付かなかったくらい、見つめてたっけ。

「あ〜あ」
「何をしている、北川」
「へっ!?」
「こんなところでこんな時間にどうした?君は部活動もしていないはずだし、補習を受ける必要もなかったと思うが」
「せ、せ、せ、せん……?」
「先生はどうしてここに、とでも言いたいのか?」
「はひ……」
「本来なら宿直室に詰めているべきなのだが、あまりにも蒸し暑いため少し涼みにきた。そして君を見かけた、それだけだ。特別理由もない。ところで、北川はどうしてここにいる?」
「わたしは……」
「どうした?」
「いえ、何でもないです。ただ学校に来たかっただけです。ごめんなさい」
「何も謝る必要はないだろう。ここにじっと立っていては蚊に食われていけない。校舎に戻るが君も少し付き合うか?ジュースくらいおごろう」
「いいんですか?」
「ああ、そのくらいかまわない」
「はいっ!」
「元気だな」
「それだけが取柄ですから」
「大変結構」

さっきは突然のことで焦ってたけれど、よく見ると今の先生はいつものスーツじゃなくて涼しそうな白い半そでシャツ姿だ。下は黒っぽいズボンで当然ネクタイなんてしてなくてちょっとカジュアルな感じ。でも、すっと背筋を伸ばしてまっすぐに歩いていく後ろ姿はやっぱりわたしの大好きな人。

少し風が出てきたのか、前を歩く先生からはふんわりといつものいい匂いがする。先生が何か香水をつけているのか、使ってる洗剤の匂いなのかはわからないけど、いつだって邪魔にならないくらいかすかに同じ優しい香りがする。

校舎の片隅の自動販売機で先生は立ち止まると、コインを入れて好きなのを押しなさいって言ってくれた。そしてわたしが買うのを見届けると、自分もウーロン茶を1本買ってそのまま壁にもたれて飲み始める。わたしも一緒に夏の日差しでほどよく暖まった校舎の壁にもたれかかって、買ってもらった冷たい紅茶を飲む。

「先生、今日はスーツじゃないんですね」
「ああ、暑いからな」
「もう3年生になったんですよね」
「そうだな。どうかしたのか?」
「いえ……先生と会える時間がもうすぐなくなっちゃうと思ったらちょっと淋しいかな」
「そうだな。しかしいつでも会いに来ればいいだろう、今日のように」
「いいんですか?」
「ああ、構わない。君ならば……」
「えっ?」
「いや、何でもない。さあ、飲んだら帰りなさい」
「はい、ごちそうさまでした」
「送っては行けないが、くれぐれも気を付けて帰りなさい」

そう言って先生はふんわりと微笑むとその大きな手のひらを、わたしの頭にそっと置いた。夏の暑さのせいなのか、先生の手のひらはとても温かくて、とても優しい。


だから、好きですって言いかけて止めちゃった。


なっちん、片想いが一番楽しいんだよ、きっと。
そんなことわかってるわよって笑われそうだけど、好きっていう気持ちだけでわたしは大丈夫。
それだけでちゃんと前を向いて歩けるから。

そして……卒業したらその時には当たって砕けろ。
『先生が好きです』って言うんだから。

それまでもう少しだけ片想いを楽しもう。



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