ABOUT

NOVELS1
NOVELS2
NOVELS3

WAREHOUSE

JUNK
BOOKMARKS

WEBCLAP
RESPONSE

04.犬っころ、じゃれっころ



実は子犬がうらやましいと思う時がある。
僕はどんなにがんばっても、大きなレトリーバーが関の山。
先生は大きな犬でも好きになってくれるかな。





文化祭で先生は僕とトゲーをかばって火傷を負った。
普段の僕はいつも半分眠っていて、無理矢理頭を覚醒させないようにぼんやりとしたふりを続けていた。だというのに、あの時の僕は一瞬で覚醒した。ぐだぐだ言ってる風門寺にいらついていたのも本当だけど、それ以上に守りきれなかった自分自身に腹が立ったのだと思う。

あの日から僕は毎日先生の左腕ばかり気にしている。
左腕から目が離せないまま、僕はやがて先生自身から目が離せなくなった。



「南先生」
「はい?」
「ね、ねえ!今度の日曜日空いてる?」
「あ、えっと……」
「先生……補習は……」

語学準備室の前を通りかかったら、いつものように子犬が先生を誘ってた。しばらく見てたけど、先生が困った顔をしたから僕はずかずかと部屋に入っていって先生を後ろからぎゅっと抱きしめた。

一瞬びくっとしたけど、トゲーがちっちゃく鳴いたのに気がついて先生の体から緊張がほぐれたみたいだ。
「斑目っ!止めろ、それ」
「ぐぅ…………」
「真田先生、斑目くん寝てます」
「嘘だ、寝てないよこれ」
「うーん、困りましたね。斑目くん、起きて」
「ん……、眠……い……」

本当はちゃんと起きてる。でも、子犬がいなくなるまでこうやって先生を抱きしめて寝たふりをしてやる。だから早くどこかへ行け、子犬。
「真田先生、すみません。えっと何の話でしたっけ?」
「ああ、いや、いいよ。また今度にするよ。斑目、起きろ!南先生がつぶれるだろ」
「ん……わかった……」


大きな犬はこうやってじゃれるしかできないんだ。
子犬みたいに周りでちょろちょろなんてできやしない。

「ねえ、斑目くん。起きてるんでしょ?」
「……わかったの?」
「ええ、何となく」
「そっか……」

ばれてたのか。まあ、いいや。子犬はいなくなったし、この部屋には今先生と僕とトゲーだけ。
状況を確認してから、ようやく僕は抱え込んでいた先生を解放してあげた。ごめんね、ちょっと重かったよね。でもね、こうでもしないと先生を子犬の魔の手から守ってあげられないから。

だから時々僕は大きな犬になって、先生にじゃれつきたい。
先生に頭を撫で撫でされたい。時々は僕も先生にすりすりしたい。

大きくてかわいくないかもしれないけど、たぶん、気持ちいいよ。
ねえ、大きな犬とも時々遊んで。




back

go to top