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02.あなたを守りたいのに



僕はあなたを守りたい。
でも、僕の手は臆病だからあなたをいつも捕まえておくことができない。
だからできるだけそばにいる。






「先生、寒そう……」
「あ、えっとコート忘れちゃったの。でも大丈夫。寒くないから、ね」
「嘘……ついちゃだめ。唇が震えてる」
「そんなことないって……っしゅん!」
「こっち」

先生は僕の前で一生懸命強がってみせる。けど、指先は寒さで真っ赤になってるし、話す唇は微かに震えてる。嘘はダメ、僕には判る。何かあったんだってことが。朝挨拶した時は確か白っぽいウールのコートを着てたはず、だけど今の先生はいつもの淡い色合いのスーツだけ。

トゲー付でよかったら先生にコートを貸すけど、嫌がったりしないかな。
「クケー!クケクケー!」
「うん、そうだね、そうしようか。トゲーも大人しくしててね」
「トゲトゲー」
「ん、いいこいいこ」

「瑞希くん、どうかしたの」、先生は無意識に両手で体を抱きしめながら僕を見上げる。トゲーも寝てるよって言ってくれたから僕はゆっくりとコートを脱いで先生の寒そうな肩に掛けてあげた。びっくりした先生は僕を見上げながら「だめよ、受験生がそんなことしちゃ」って少し怒ってみせる。

「大丈夫」
「大丈夫じゃありません」
「じゃあ、手をつなごう」
「ちょ、ちょっとダメよ」
「手をつないでくれないと僕が風邪を引く」
「……仕方ない、わね」

ようやく先生はあきらめたのか、僕のわずかな体温が残るコートを羽織ってくれた。僕のサイズだから先生の小さな体にはかなり大きいし、きっと重いだろうと思う。でも、その重さが僕の気持ち。長すぎるコートの袖の中で手をつなぐと意外に暖かくてちょっとびっくりしたけど、この手をこの先もずっと守っていきたいと切に願った。

あんなに人が嫌いで、触れられることを嫌悪していた僕があなたの手だけは握っていたいと思うようになった。
僕はあなたを好きだ。閉じこめて大切な宝物にしてしまいたいほどに。
でも、そんなことをしたらあなたはあなたで無くなってしまうから、たぶんしない。



その代わり、
僕がいつも守ってあげたい。
うん、守ってあげるよ。




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