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01.キスとキスの合間に



フランシスは自室の大きな窓から外を眺めてはため息をついていた。それと言うのも愛するエンジュが唐突に視察に出かけてしまったからだ。それもたった1通の簡単なメールだけを残して、だ。

「レディ……あなたはいつも唐突だ」

窓の外にはエンジュの好きな淡い色の薔薇が咲き、空は何処までも青く高い。自分の生まれ育った惑星とは違ってここ聖地は基本的にいつも良い天気だ。そうはいってもたまに雨が降ることもあるし、冬になれば季節感の演出なのか雪が舞うことさえあると言う。それでも基本的には気候は温暖で霧に包まれたあのキリエの街のような鬱陶しさはない。

確か今回は往復4日だとメールには書かれてあった。恐らく今朝一番に発ったのならきっとここをエンジュが訪れるのは金の曜日。それまで私は日々の執務を平常心でこなせるのだろうか、とフランシスはふと考えた。だがフランシスはエンジュがいないからと言って執務を疎かにしたことはなかった。むしろ、9人いる聖獣の守護聖の中では比較的まじめに執務をこなしている方だろう。ある意味自画自賛に近いのだが。


この前エンジュに甘いキスを送ったのはいつのことだっただろう。
私はいつでもあなたをこの腕に抱き、そのかわいらしい唇にいくらでもキスを贈りたいというのに……。


キスとキスの間にあなたはいつもするりと私の腕を抜け出して、他の星へと軽やかに飛び立って行く。
置いてけぼりを食ったような気持ちさえ覚えるというのに、それでも帰ってきたあなたを抱きしめるとそれでまた満足してしまう。キスとキスの間に私はとりあえずあなたに捧げる薔薇の花束とおいしい紅茶、そして居心地の良い空間を用意して待っていることしかできない。それでもいいのだ。フランシスは彼女が必ずここへと戻ってきてくれるという真実だけで十分に幸福なのだ。


フランシスは大きな窓から射しこむ陽射しに一瞬だけ目を細めると、静かに執務室へと向った。

「書類をチェックしましょう。持ってきてください。あ、それから……いや、今はまだ止めておきましょう」
補佐官へ声を掛けてペンを手に取り、フランソワはいつものように用意された書類に目を通し始めた。




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