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11.溜息



「ニクスさん?」
「アンジェ、こういう時は呼び捨てて構わないんですよ」
「えっと、その、あの……」

真っ赤になって向こうを向いてしまったアンジェリークの背中を抱きしめながら、ニクスはその柔らかな髪を指に絡ませる。こういう時と彼は言ったが今二人はニクスの部屋の大きなベッドの中だった。昨夜の情熱が残るままに、彼は彼女を抱きしめこのまま朝を過ごしましょうかと耳元で囁いたのだ。それに答えてアンジェリークはいつものように「ニクスさん」と呼びかけ、いつものようにニクスは呼び捨てて良いのだと答える。
何度夜を共に過ごしても、このかわいらしい恋人はいつまでたっても自分の名前を呼び捨てにはできないらしい。そんなところをかわいいと思わない訳ではないが、それでもやはり甘い時間の中では吐息とともに名前を呼んでほしいと思うのだった。

「無理に……とは言いませんが、いつかは、ね」
「は……ぃ」
「…………」

ふとニクスはため息を漏らしたが、それをアンジェリークが聞き逃すはずもなく。
「ごめんなさい……」と呟いて羽根布団の中で一層小さく丸くなって後ろを向いてしまう。「アンジェ?」、ニクスは背中からゆったりと抱きしめながら優しい声で名前を呼んでみた。こちらが悪かったかもしれないとニクスはため息をついたことを少し後悔したが、それはもう後の祭り。
どうやってこの愛しい彼女の機嫌を直せるのだろうか。
名前を呼んで欲しいのは山々だが、それはまたいずれ。

「ファリアンからおいしいお茶とお菓子を取り寄せたんですよ。だからさあ、機嫌を直して、ねえ、アンジェ」
「でも……」

「いいんですよ、いつかその内に、ね」
私はあなたに甘い声で名前を呼んでほしいと思いますが、その前に笑顔が曇ってしまう方がもっと淋しいのです。だから、こっちを向いて、愛しいアンジェリーク。



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