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05.流し目



深いブルーの瞳がすっと横に流れる。
意識したわけではないけれど、その憂いを秘めた瞳は自然に大人の色気を漂わせ、見つめられるととたんに動悸が跳ね上がる。


意識せずともそれは曰く「流し目」と言う。




「アンジェリーク。どうかしましたか?」
「えっ?あ、はい。何でもありません」
「そう……ですか?」

顔が熱い、アンジェリークは自分が今真っ赤になっていることに気付き、さっと後ろを向いてしまった。ニクスはそんな彼女のかわいらしい反応に苦笑しながら、果たして何がそんなに彼女の頬を赤らめさせるのか、と考えた。もっとも彼にとってはどんなセリフもどんな仕草も社交辞令の一つ。だから彼女が一々かわいい反応を見せることを新鮮に感じる一方で、何かいけないことをしているような気がして心がざわめくこともある。

すっと視線を彼女に向けて流すだけで、純情なアンジェリークはいつも顔を赤らめる。
流し目だと言われればそうかもしれない。自分で意識するとしないとにかかわらず。

「そうでした。ジェイドが……庭のベリーでタルトを焼いたそうです」
「はい?」
「テラスで食べませんか?」
「えっと、あ、はい」
「うふふっ、あなたはとてもかわいらしい人ですね」
「……!」

こんなにも純情で純粋な少女の双肩に大変なものを背負わせてしまった。ニクスは自分の心に時折刺さる小さな棘の理由を少しだけ自覚した。しかし、これも全て「ノーブレス・オブリージュ」なのだ、そう言い聞かせるしかないではないか。ニクスは判らないように小さな吐息を吐き出すと、アンジェリークをエスコートするために手を差し出した。



また赤くなった。
やれやれ、目が合うたびに顔を赤らめられるのはどうにかならないでしょうかね、かわいいアンジェリーク。




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