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02.フェロモン全開



上着を脱ぎ、ぱりっと糊の利いたシャツの袖をまくり外出中に少し乱れた髪を結わえ直すと、ニクスは足早にキッチンへと急ぐ。アンジェリークと二人になったこの広い屋敷の中で、変わらないものはよく手入れされたキッチンとほのかに漂うおいしそうなスープの香り。5人で暮らすようになるまでは、ほとんどキッチンに立ったことのなかったニクスだが、交代で料理を作ることも、当然片付けをすることも抵抗なく受け入れてうまくやってきた。
今は婚約者となった彼女を手伝うことも当たり前のこととして、こうして外出から帰ると着替えも早々にキッチンへと急ぐ。

「アンジェリーク、今日は何を作っているのですか」
「あ、ニクスさん」

振り返ったアンジェリークは、思わずその頬が赤らんだことに気付いた。いつもきちんとしているニクスがこういう時には袖をまくりシャツ一枚でいることに今だに慣れないのだ。自宅なのだから、キッチンで水仕事があるのだから、そんなことはわかっている。それでも、適度に鍛えられたその腕や、少し筋張った細く長い指、そして何よりシャツのボタンを外しているためにはっきりとわかる美しい鎖骨と引き締まった胸元に目が留まり、どきどきするのだ。

「ああ、失礼。あなたの邪魔になっていますね」
「いえ、そういうわけでは……」
「では、何かお手伝いしましょう。指示をお願いします」
「はい」

……どきどきするから向こうに行って。
本当は喉元まで出掛かっていた言葉をようやく飲み込み、どうにかチキンに塩コショウを頼むことができた。それでも、隣でにこやかに手伝うフェロモン過多の男は彼女の動悸に気付いているのかいないのか。
気付いているのだろう。

きっと。




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