01.蕩ける笑顔
その人の笑顔には女性の心を蕩けさせる何かがある。
優しく甘い微笑みの向こう側にあるのは、彼の心に巣食って離れない深い闇。
その闇に気付かせることなく、かの人は慇懃無礼な態度を崩さない。
そうすることで絶対に自分の内側へと踏み込ませることはない。
だがそれさえもただ一人を除いてのこと。
彼の天使は今木陰で猫を膝に乗せてうたた寝中。安心しきった顔で眠る大切な眠り姫。
ニクスはそっと上着を脱ぎ、健やかな寝息を立てる姫の上に乗せる。
気付かれるかと思ったが、気付いたのは猫のエルヴィンのみ。彼女はぴくりともしない。
かつて女性達を虜にした甘い笑顔の持ち主は、心からの笑顔で彼女を見つめる。
とてもとても幸せな笑顔で。
社交界のご婦人方が揃って嫉妬の炎を燃やしかねないほど、魅力的な蕩ける笑顔は、天使のもの。
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