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Happy Birthday



「何をやってるんでしょうねぇ」
ニクスは数日前からアンジェリークが隠れて何かを企んでいることに気づいていた。一体何をしているのかと声を掛けてみうかと思ったが、あまりにも一生懸命に隠しているものを詮索するのも気が引けてそのままにしていた。

そして、よくよく注意をして観察してみると他の3人まで、最近は何か隠し事をしている様子だった。


「ああ、そういえばレイン君、何かあるんですか?」
「えっ?い、いや、何でもねぇよ。それより依頼はないのか?」
「生憎と今日は何もありませんねぇ」
「じゃ、じゃあな」


怪しい。
怪しすぎる。


ヒュウガは元々あまり話さない方だが、それでも何かこそこそと動いている気配がある。ジェイドに至っては鼻歌まじりにキッチンで何やら作っては、ご機嫌な笑顔でにこにこしている。最近のキッチンはジェイドのせいなのか、やたらに甘ったるい匂いが漂っている。そして、アンジェリーク。彼女はエルヴィンを伴ってフルールに出かけたり、クウリールまで足を伸ばしたりしている。あくまで名目は「探索」だ。これまで「探索」に出かけるのも「依頼」を片付けるのも空いていればいつもニクスが一緒だった。それがこのところレインだったり、ヒュウガだったり、ジェイドだったりする。ニクスはこの数日一度も共に出かけていない。


「はて、嫌われたのでしょうか?」
ニクスは一人陽だまり邸のテラスで香り高い紅茶を楽しみながら、いつものように新聞に目を通していた。しかし内容など一向に頭に入らず、お気に入りの紅茶の味すらおいしいと思えない。深く深くため息を吐くとニクスは遠くを見つめた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ニクスさん、気がついてしまったかしら」
「ちょっとヤバかったぜ、さっきニクスに呼び止められた時」
「貴様はすぐに顔に出るからな」
「そっちこそ不自然に黙ってるから余計怪しまれてんじゃないのか」
「まあまあ、二人とも。ニクスは何かに気づいても気づいてないふりをしてくれるよ」
「それって……」
「後1日だ」
「そうだね」
「レイン、ベルナールに連絡は?」
「ああ、大丈夫だ。夕方までにはベルナールから連絡が来る」
「ウォードンタイムス社の取材で半日は拘束されるだろう」
「そうですね。その間に用意しなくちゃ」
「喜んでくれるといいね、アンジェリーク」
「はい!皆さんでがんばりましょう」
「ああ」
「ラジャー」
「了解」
「にゃ〜」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「皆さん、すみません。ベルナールから至急ウォードンタイムスまで来て欲しいと頼まれましたので出かけてきます。依頼があった場合には3人で。アンジェリークをよろしく頼みます」

ニクスは急過ぎる呼び出しにいささか疑問を感じなくもなかったが、ベルナールの誠実な言葉遣いに嘘はないだろうと判断し出かけることにした。
4人の顔に浮かんだ満面の笑顔が気にならないといえば嘘になるが、彼らの企みに乗ってしまうのもこの際悪くないとニクスは思った。だからこそ見え見えな招待にもこうして応じることにしたのだ。

さて、どのくらいの時間をつぶしてくれば良いのでしょうね、ニクスは誰に言うともなくつぶやくと上着を羽織り陽だまり邸を後にした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さて、最後の仕上げにかかるとするか」
「僕はアンジェと一緒に食事とケーキの用意だよね」
「オレは頼んであった花を取りに行けばいいのだろう」
「レインはサルーンを少し綺麗にしてね。それからプレゼントの用意をお願い」
「OK。ニクスがこっちに戻る前にベルナールが連絡くれることになってるから、安心して準備しようぜ」
「はい!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さて、何を企んでいることやら」
ニクスは夕刻になってからようやく陽だまり邸へと戻ってきた。結局ウォードンタイムス社で2時間程拘束され、その後カルディナ大学で学生達と会い、最近の研究成果を見せてもらったりした。大学で女学生にもらったささやかな花束を手にニクスは長いアプローチをまっすぐにポーチに向かって歩き始めた。いつもなら、ヒュウガが夕刻の鍛錬をする声が聞こえてくる時刻だったし、ジェイドが通いのメイドと食事の用意をしながら歓談する声が聞こえる時間でもあった。だが、今日に限って何も聞こえない。
と言うよりも陽だまり邸は明かりが消され、まるでみんなでどこかへ出かけた後のような寂しさだった。


「今度は置いてけぼりですか……、まいりましたね」
誰もいないだろうと思いながらも、それでも手は習慣でドアノブに伸びる。




「お帰りなさい!!」
一瞬扉が軽くなり、内側に勢いよく開かれた。思わずニクスはよろけそうになったが、とっさに踏ん張り転ぶような失態は見せなかった。が、表情とは裏腹に内心はかなり驚いていた。

「ニクス、今日誕生日だろう」
「うんうん」
「めでたい日だ。皆で祝うべきだ、とアンジェリークも言っている」
「せーの!」

お誕生日おめでとう!
4人が満面の笑顔でニクスにおめでとうと言う。言われた方は「ああ、そういえば……」と呟いたきりそのまま動きを止めてしまった。本来ならこんなことをされて軽く文句の一つも言う場面なのかもしれないが、今はほんのりとした暖かい感情が渦巻いている。

レインがサルーンの方を指し示すと、いつもの場所が花で彩られ、なにやら甘い香りが漂っている。


「さあさあ、そんなところに立ってないで食堂へ行こうよ」
「そうだな、せっかくの食事が冷める」
「ニクスさん、生まれてきてくださってみんなと出会ってくださってありがとうございます」
「……どうしたんだ?ニクス。怒ったのか?」

怒ってなどいませんよ、ただ驚いただけです。
誕生日にこんな気持ちになったのは……いつのことだったでしょう。

ニクスは甘やかな気分でいつもの微笑を浮かべた。そして、アンジェリークの手を取って跪くとその指先に小さなキスを落とした。赤くなった彼女を見上げて「ありがとうございます、こんなに嬉しい誕生日は初めてです」と感謝の言葉を述べた。


「では、夕食会にしましょうか」
「ああ、うまいぞ」
「楽しみですね」
「はははっ楽しいねぇ、オレも嬉しいよ」
「うむ」
「にゃーんv」


9月21日は陽だまり邸主人の生まれた日。
そして臨時に開かれた楽しい夕食会の夜。


こんな日々が早く日常になりますように。




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