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my honey valentine



「はい、プレゼント」
と、言いながら僕が小さな薄い桜色のリボンがかかった小さな白い箱を君に手渡すと、きょとんとした顔をして固まってしまった。何をそんなに驚くことがあるんだろう。僕はこの日のためにショッピングモールの宝石店をくるくる回って君に似合いそうな物を一生懸命選んできたっていうのに。

「あの……これ、何ですか?」
「えっと、バレンタインデーだから君にプレゼント」
「…………」
「どうかした?」

日本に戻ってきてびっくりしたことの一つにバレンタインデーに女性が男性にチョコレートをプレゼントするという習慣があった。僕がまだこっちにいた頃はそんな習慣はまだなくて、というかバレンタインデーなんて子供に関係なかったっていうのもあるけど、いつの間にかそんなことになっていたからびっくりした。
向こうではプレゼントと言えばチョコじゃなくて花束だったりアクセサリーだったりしたし、女性からだけじゃなくて男性からだってプレゼントはしていた。この日にこじつけてプロポーズしたりもしていた。
もっとも君が学生の頃は素直にお菓子屋さんの陰謀に乗っかっておいしいチョコレートを頂いた。だけど本音を言えば僕の方から君に何かあげたいと思っていたんだ。

だから、卒業した君にこうやってプレゼントを渡そうと思ったんだ。

「チョコレートはさっきあげましたよね」
「うん、もらった」
「ホワイトデーは来月ですよ」
「うん、知ってる」
「じゃあこれは?」
「バレンタインのプレゼントだよ。きっと君に似合う。今開けてもいいよ」
「はい、ありがとうございます、ってどうして?」

目を大きく見開いて好奇心旺盛な顔で僕に尋ねる君。とてもかわいい。

僕は台所に立って、コーヒーを淹れなおしてから彼女にバレンタインデーのことを説明した。説明に納得したのか彼女は少し冷めたカフェオレを二口くらい飲んで、またしても僕をじっと見つめてくる。

どうしたの?
まだ何か気になることでも?

「まあまあ、開けてみたらどう?きっと気に入るよ」
「じゃあ、遠慮なく」

日本の女の子は実に丁寧にリボンをほどいて包装紙を綺麗にはがす。彼女もごたぶんにもれずゆっくりリボンを解いて、くるくる巻いて真ん中で1回結わえてから、丁寧に包装紙を剥がしてこっちも折り目正しく折りたたむ。
小さな箱の中に入っているのは花の形にピンクダイヤがちりばめられた小さなペンダント。本当は指輪の方にしたかったけれど、まだ左の薬指のサイズを知らなかったから買えなかったんだ。

「かわいい」、と小さな声で言って彼女は嬉しそうに笑ってくれた。

「気に入ってくれた?」と僕が聞くと彼女は大きく頷いてくれる。

「でも貴文さん、高くなかったんですか?」
「大丈夫、こう見えても社会人ですからね、そんな心配は無用だよ」
「本当に?」
「うん。何なら将来の参考に通帳見る?」
「はぁ!?」
「それはまたそのうちにね」


そんなに心配しなくても今の僕にはきちんと収入があるんだから。とは言え、大昔に比べたら些細なものだけれど、それでも君と猫くらいは大丈夫、食べていけるよ。それにきっと君は大人しく家庭の主婦に納まるようなタイプじゃなさそうだし。それなら尚の事生活は大丈夫だ。

そうだ、聞いておかなきゃ。
大事なことを。

「ねえ、君の左手の薬指は何号ですか?」
「えっ?たぶん、9号……かな」
「ふーん、そうなんだ」
「そうなんだって何ですか?」
「さあ何でしょうねぇ。さ、コーヒー飲んだらどうします?どっか行く?」

それともこのままここで一緒にお昼寝でもする?
猫をおなかの上の乗せると暖かいんだよ、すごく。あ、でも、君を抱きしめる方がもっともっと温かいか。
来月の14日には君の薬指にペンダントのおそろいの指輪をはめよう。実はもう目を付けてあるんだよ、君に似合うと思ったから。その時はもっともっと喜んでくれるよね、きっと。



僕の隣に座る君をぎゅっと抱きしめると、カフェオレの甘い匂いと一緒に日なたの匂いがした。



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