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lover man



さて問題です。
さん、9月4日は何の日でしょう?




先週君とデートした帰り、僕は少しふざけて君に聞いた。
すると君はじっと僕の顔を見つめて「くしの日、それからクラシック音楽の日でしょ」、なんて言った。
わざと言っているのか、それとも本気でボケてみせたのか、はたまた僕は君にからかわれているのか、判断できないままにさよならを言う時間になった。


残念。
僕が期待していた答えは「あなたの誕生日」という優しい単語だったのに。
それも君のかわいい唇からその言葉を聞きたかったのに。





「ねえ、貴文さん。ちょっと屈んで」
「や、どうしました?」
「いいからいいから」
「はい、これでいいですか?」
「うん」

彼女の家の前、ぼんやりと街灯が夏の終わりの道を照らし出す夜の中で、僕は言われるままに身を屈めた。すると君の唇がゆっくりと近づいて、「9月4日は大好きな人の誕生日」。それだけ言うと、君は振り返りもせずにさっと家に入ってしまった。


今のは一体何だったんだ?



きっと僕は年甲斐もなく顔を赤くしていただろう。
まるで初々しい高校生のように。


君はずるい。
僕が君をとてもとても好きだということをちゃんと自覚していて、時々こんなことをする。

困った、嬉しくて明日からしばらくちゃんと授業できないかもしれないじゃないか。
どうしてくれる?責任取ってくれるよね。

緩む頬をそのままに見上げた夜空には綺麗な月がぽっかり。
いい夜だ。うん、いい夜だ。






金曜日、携帯に君からのメール。

---今日会えますか?

もちろん、どんなことがあっても君に逢いに行くよ。君が卒業して大学生になってからは、逢うのはいつも週末だけ。それも日曜日の昼間に健全なデートをして夕飯までには必ず自宅に送り届けてきた。

別にもう周囲を気にせず、もっと長い時間一緒にいてもいいのだけれど、どうも教師と生徒だった頃からの習慣というのは恐ろしいもので、つい日が暮れてくるとそわそわしてしまう。


---もちろん。7時には部活も終わるし。


---じゃあ、駅前で7時半。どうですか?


---うん、絶対に遅れないから。


---はい、待ってます。



今日は僕の誕生日。
子供の頃は誕生日が来るのが嬉しくて待ち遠しくてわくわくしていた。アメリカに渡って勉強ばかりの毎日を送るようになって、研究室に篭りきりになってからは、ただ過ぎ去る日々の一つに過ぎなくなった。全てを投げ出して日本に帰ってきて、それでも僕の誕生日なんて特別誰も意識してくれなかった。時々プレゼントを差し出す物好きな女子生徒はいたけれど、受け取る気にもならなくて、全て断っていた。

だから、4年前君が僕に誕生日プレゼントを差し出した時は、正直驚いた。
受け取っても構わない、一瞬そう思ったけれど、受け取ることで君が変な誤解を受けてもいけないととっさに思い直してやめた。教頭先生に注意されたからなんて見え透いた嘘を吐いてまで。
だけど、もう今の僕は君に対して何も躊躇わずに済む。

だって、君は僕のものだから。


かつて僕は人をこんなに好きになったことがあっただろうか。
こんなにも誰かを守りたいと思ったことがあっただろうか。
人ごみの中で手を握り締めて離したくない、そう思ったのはきっと君が初めてだ。

付き合った女性がいなかった訳ではない。だけど、心から好きにならなかった。向こうも僕のことを「良質な遺伝子」としか見ていなかった。ぼくと付き合って、僕と抱きあっても、それはただのステイタス。優秀な遺伝子を残すこととか、僕の背後に見え隠れする金銭のこと、そして僕の能力、それだけが目当て。
そんなものが見え隠れする中で本気の恋なんてできやしない。できるわけがない。



だけど、君は僕を見てくれる。
まっすぐなその瞳で。




今夜君に逢ったら、一番のプレゼントをもらわなくちゃ。
それは何かって。
もちろん、抱きしめてキス。


君を好きになって、僕は自分がこんなにもキス魔だなんて気が付いたよ。
初めてのキスは偶然だったけど、2回目のキスは必然。
そして今のキスは僕の全て。



愛してると伝える一番有効な手段。
優しい君の唇が僕を引き寄せて離さないんだ



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