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03:デコぴた 〜reiichi× parallel heroine



紗和の顔が赤い。
心なしか空元気だ。

「紗和、ちょっとそこに座りなさい」
「何?これからわたし生徒会の引継ぎ……」
「いいから、そこに座るんだ」
「えー」
「えー、じゃない」

すぐさま出て行こうとする彼女を半ば強引に引き止めて、放課後の人気(ひとけ)のない教室で隣合わせに座る。いや、やはりこの位置では届かない。移動しよう。
俺は思いなおして、彼女と向かい合えるように机を挟んで向かい側の椅子に腰掛ける。


ああ、やっぱり。
思ったとおりだ。目が潤んでる。


きっと彼女は即座に風邪なんて引いていないと否定するだろう。そして、無理にでも生徒会長としての職務を続行しようとするだろう。もちろん副会長としては、会長が仕事をすることを止める気はない。むしろしない方が好ましくない。だが、俺個人としてはすぐにでも家まで連れて帰り、薬を飲んで寝てもらいたい。今のうちなら、まだその程度で済む。



少しむくれ気味の彼女の肩に手をやり、そっと辺りを見回す。誰もいない。

「なーに?待ってるわよ、次の生徒会が。そのために今打ち合わせしてたでしょ。益田くんや恵美ちゃんも待ってるし」
「紗和。少し黙って目を閉じて」
「はぁ?」

不審そうな顔をする彼女は、素直を目を閉じたりしない。いいや、構わない。別に今ここで彼女にキスするわけじゃない。だから、そのまま彼女の前髪をかきあげて、熱っぽいであろう額に自分の額を押し付けた。
恐らく38度くらい。明らかに平熱を上回っている、と思われる。

「紗和。帰ろう」
「でも」
「では、コホン、副会長命令で会長の帰宅を命じます。さっさと帰って寝なさい」
「あー、職権乱用」
「大いに結構。俺はちょっと生徒会室に顔を出して今日はあの二人だけの引継ぎにしてもらう。会長は明日。無理をして後で困るのは君の方だ。だから、大人しく待っているように。わかった?」
「う……ん」


教室を出る前に再度念押ししてから、俺は急いで生徒会室に向かい、途中でミネラルウォーターを買って教室に戻った。彼女の家は確かご両親が共に働いていると言っていた、弟はさすがにもう帰宅しているだろう。一度連絡を取ってから、送り届けた方がいいかもしれない。いや、とりあえず一旦帰宅させてそのまま保険証を持って医者に連れて行ったほうがよくないだろうか。俺は廊下を早足で歩きながら、様々に考えを巡らせる。


開きっぱなしの教室の扉から中を覗くと、彼女は机に突っ伏して居眠りをしていた。


生徒会長は大変だ。


俺も中等部の頃に経験した。あの頃はまだ子供の領分を抜け切っていなかったため、さほど重い責任が伴うわけではない。むしろ半分はごっこ遊びのようなものだ。しかし、この学園の高等部は格段に生徒の自治権が増す。その分考えねばならないことや、しなくてはならないことがどっと増える。

それを彼女はこの1年がんばったのだ。



「紗和……ごくろうさま」

夕陽の中で赤味を帯びてつやつやしている彼女の髪をそっと撫でた。
わたしはいい加減だ、などといつも言っているがそんなことはない。君は中々どうしてがんばり屋だ。勉強もスポーツも生徒会も、全て一生懸命やっていた。

俺はそんな君が大好きだ。

だから、ついつい心配して言い過ぎることもある。そして、些かご機嫌を損ねてしまうこともある。
後10分経ったら彼女を起こして送って行こう。今はまだ少しだけ、君の向かい側で見つめていたい。小さな子供のように眠る君を。



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