ABOUT

NOVELS1
NOVELS2
NOVELS3

WAREHOUSE

JUNK
BOOKMARKS

WEBCLAP
RESPONSE

stardust




星降る夜はなんか切ないから、嫌いだ。





なぜかって、それは昔失くした恋のほろ苦さを思い出させるから。
そのくらいで勘弁してくれないかな。一応今日はオレの誕生日なんだからさ。




「益田、何かリクエストはあるか?」
「どうしたんだ?珍しいな。熱でもあるのか?」
「ない。お前の……誕生日だろう。いいから早く決めろ、何でもいい」
「ふーん、優しいのねんv 零一くんてばvv」
「ったく、気色悪い」
「ちょっと考えさせてくれ、すぐには思いつかない」
「わかった」


5月23日も後1時間ほどで終わり。そんな時間にふらりと一人でやってきた、この無愛想なピアノマンは突然ぼそりとリクエストを聞いてきた。まあ、奴くらいの腕ならオレがどんな曲を聴きたいと言ってもちゃんと弾いてくれるだろう。あんまり甘いのは、今日は勘弁してほしい。客は気付いてないかもしれないけど、今日かかってる曲の中に甘いラブソングは1曲もない。


今日はそんな甘い気分には浸れない。
だってさ、夜空があんなにきれいなんだぜ。
満天の星空なんて、オレはあれ以来どうも苦手なんだ。





あまりいい思い出が無いもんでね。
生憎と。





「益田、今夜はいい星空だ」
「知ってるよ」
「もういいんじゃないか」
「何がだ」
「彼女のことだ」
「わかってるよ。もう10年だからな」
「もう……そんなになるか。早いものだな」
「……時間が癒してくれるなんてバカなこと言ったら、出入り禁止にするぞ」
「わかっている」


もう10年、まだ10年。
オレは一番いい時に一番好きだった女性を亡くした。ただ別れただけならまだよかった。だけど、物理的に目の前からいなくなったんじゃ、気持ちの持っていきようが見つからない。きれいな思い出だけが彼女の顔が無いままに降り積もり、心の奥底にひっそりと溜まっていく。もう顔は写真でも見なけりゃ思い出せない。なのに、彼女の言った言葉、してくれたこと、そして彼女が身に纏っていた香りは忘れられない。



「零一、Stardustだ」

一瞬、カウンターでちびちびとジンを舐めていた零一の顔に驚きの表情が浮かんだ。
なぜに奴がこうも驚くのか。
それは、彼女が最も好きだった曲だからだ。そして、昔よく零一にリクエストしては弾かせていた曲だったから。
だけど、あれから10年が経って、オレと奴はまだ存在しているけれどもうここに彼女はいない。





----あの日、突然彼女はオレの目の前で、この世からいなくなってしまった。

きっかけは本当に些細なことだったと思う。思い出そうにも思い出せないほどに、小さなことだったんじゃないかと思う。そんな小さな事でちょっとしたいい争いをして、いつもしっかりとつないでいた手を思わず離してしまった。そして、彼女は勢い良く降るような星空の下走り出した。振り向きもせず逆方向に歩き出したオレの耳に背中から飛び込んできたのは、急ブレーキの音とタイヤが地面を擦り上げる音、そして最後に……大きな衝突音。


ごめんね、と彼女は救急車の中でつぶやいた。オレもごめんなって伝えようとしたけれど、うまく言えないまま終わってしまった。
後悔してるかと言われれば後悔していると思う。だから忘れちゃいけないと思ってしまう。他の誰かに真剣になりそうになる度に、罪悪感を感じるのも確かだ。
だけど、もうそろそろ彼女から卒業するべきだと思う。あれから10回目の誕生日を迎えた今日、ケリをつけようと思う。
その景気付けに10年零一に弾かせてこなかったStardustを弾かせようと思う。






「Stardustだな」
「ああ、すっげーカッコ良く弾いてくれよ。今日あの日だから」
「了解した。最高のStardustを弾いてやろう」
「さんきゅ」

彼女を失くしたのは、5月23日。運がいいのか悪いのかオレの誕生日。
一生忘れるなって彼女の遺言だと思い詰めていたのは、きっとオレの中の未練だったのだと思う。だけど、いつまでもこんな風に思い出してもらうのは、きっと君の本意じゃない。君はもっとずっと強い女性だから、もういい加減にしなさいよって言うだろう。





ああそうか。今思い出した。
あの日言い合いになったのは、見上げた星がスピカかどうかだったんだ。

あまりに星が多すぎてオレにはよくわからなくて、なのに知ったかぶりして明後日の方向を指差してあれがスピカだ、なんて言ってしまった。それに珍しく彼女が真剣に反論したから引っ込みが付かなくなって、小さな喧嘩になってしまったんだった。
ああ、何てバカだったんだろう。

原因を忘れてたくせに、夜空を見上げる度に嫌な気分になってたのはこの所為か。





さっきから零一は神妙な顔付きで、Stardustを弾いている。
これからは毎年この日に弾いてもらおうか。きっと夜空の向こう側で彼女も聞いてくれてるだろう。


来年の誕生日はまだたぶん一人だろう。
でも君ごと受け止めてくれる女性をいつかきっと見つけるから。だから、その時までもうしばらくこのどうしようもない男の我侭に付き合ってくれないか。
今夜は君を思って星空を見上げてみよう。そして小さな声でStardustを口ずさんでみよう。

いつか、素直に見上げた星空をきれいだと思えるように。




これは3年前のカオポンさんのお祭りにだしたもののサルベージ品です。
最近サイトを整理したのですが、PCの中にはちゃんと残っていたのでこれを機会に掘り起こしてみました。

益田の恋模様として過去の苦い恋。ここに零一を絡めてみたくてこんな話を。誕生日だというのにこんな話を書くわたしって一体?
まあ、でもこっから新しい恋へとつながるといいなぁ、なんて。

3年前の作品ゆえ文章が拙いような気もしますが、微妙に関連しているので再アップします。



back

go to top