SUMIKO Starling
MC カートリッジ



アジマスと左右偏差の超精密調整
2020年2月21日追加


SUMIKO スターリング


これは超高精度で作られた日本の誇る工業製品

SUMIKO Starling

 米国、SUMIKOのMCカートリッジ、Starling (スターリング) を入手しました。 ヌードボディーのMC型で、ボロン製カンチレバーに、日本の技術、アマダンド並木精密宝石株式会社の「マイクロリッジ針」を備えます。

 カートリッジの選択にあたって、私のプレーヤー、Thorens TD-126IIIには、大きな制約があります。アームがユニバーサルアームではないため、カートリッジの取付ネジが下側から入れられる必要があるのです。

 現在使っている Ortofon MC*30ωは、穴が下に貫通していないので、そのままでは取り付けられませんでした。そのために、アームヘッドシェル部を改造しています。 

左が改造前、右が改造後

 専用予備アームを一本買ってあったので、そのようなリスキーな改造もできましたが、残る最後の一本は、絶対に改造したくなかったので、
次期カートリッジは、取付穴が貫通したタイプでなければならないのでした。穴が貫通していないものがほとんどのOrtofon製品は、残念ながら、ほぼすべて選択できないと言うことです。

 いまも貫通穴(ネジ)を採用しているのカートリッジも多くありますが、音に加え、価格相応の意匠、工業製品としての完成度の両方で、「これだね!」と思える物になかなか出会えませんでした。

 たどり着いたのが、米国SUMIKOから2018年春に出たばかりの 
Starling でした。20万円以上する価格のわりには、パッケージは素朴。紙帯の下は木箱です。音には関係がないパッケージにお金をかけない合理性が米国らしい。しかし、以下の通り、本体には多くの手間とお金がかかってました。完成度も高い。



 SUMIKOは、米国のメーカー兼輸入代理店で、SUMIKOカートリッジに加え、ターンテーブルのPro-Ject,、スピーカーのSonus Faberなどの米国販売権を持つ会社です。

 
カートリッジブランド SUMIKOは創業40年の老舗と聞きます。海外では、レビューも多く、かなり売れているようですが、なぜか、日本ではほぼ知られていない不思議な存在。
 でも、
中身は完全に made in Japan なのです。



 それだけに、工業製品としての完成度は高く、なぜ日本のオーディオ誌には全く出てこないのかが不思議ですが、まあ、そこには業界の都合があるのかも。
 でも、日本にも正規輸入(逆輸入かな)されていて、問題なく買えます。しかも、その仕様からすると、かなり割安と思いました。

 東京でSUMIKOを取り扱う有名オーディオショップで試聴させていただきました。Ortofon MC-Q20 との比較でした。MC-Q20は、MC-30ωととても近い印象で違和感は全くない音。当然、MC-Q20もかなりよかったのですが、価格3倍のStarlingと聞き比べると、音の繊細感、そして定位など、こんなに違うのか!と驚く点もあるのでした。MC-30ωと同じじゃ意味がないわけですし、良い意味での想像以上の違いがあったので、短時間の試聴で、これに決めたのでした。




 Starlingは、オーソドックスなMC型ですが、本ページトップの写真の通り、保護ケースなしで針部も配線もむき出しの、いわゆる ヌードタイプ です。 

  私が米国のレビューを見て、Starlingが気に入った大きな理由の一つは、音が高評価だったことより(それは試聴で私が決めることなので・・・)、写真のような、
プラスチック保護カバーが付いていることでした (レビューにはカバーの写真はなかったが、文章中に「これなら安心」と書いてあった)。これがなければ、試聴には進めなかったでしょう。

 特に私のようなユニバーサルアームではない人にとっては、このようなカバーがなければ、ヌードタイプの安全な取り付けは、到底不可能だと思うからです。




まずはカバーの加工から


 通常のヘッドシェルのように上からネジを入れられるなら、このカバーのままで問題ないのですが、私の場合には、上記の特殊事情で、下からネジを入れ、下から締め付ける必要があります。そこで、まず私がやったことは、このカバーのネジ部に、ドリルで穴をあけること。カバーをしたまま、下からドライバーを入れるためです。ま、本体じゃないので、このくらいの改造は朝飯前。

 その結果、以下の通り、ネジを通したうえで、カバーをかぶせることが出来ました。これで、取り付け作業での安全率は非常に高まります




商品として完成度は高い
 外箱はそっけないStarlingですが、大事なところにはお金と手間をかけていて、その商品としての仕上がりは、大変よいと思います(なにしろ made in Japanですし)。

 それを感じる部分の一つが、この接続端子。
先が細くなっているのがわかりますね。このおかげで、ケーブル端子を差し込みやすいのです。

 普通は固かったり、ゆるかったり、調整に手間取りますよねえ。よく考えてありますねえ。加工も非常に丁寧です。



発電機構部の完成度も優秀

以下の写真がカンチレバーや発電機構。カンチレバーはボロン製。細い!

この配線の引き回しが素晴らしい。

 ヌードタイプは、配線が外に出ていて、触れると断線の恐れがありますが、Starlingは、最短の配線引き回しで、コイルからの線を切れ込みの内部に引き込んでいるのがわかります。他のヌードタイプと比較すると、そのものづくりの姿勢がよくわかります。十分に考えて設計されていると思いました。



 オーソドックスなMC型の構造も、奇をてらわない標準的なMC型として、高い完成度であると私は思いました。十字のコイルがきちんと巻いてありますねえ。精度も高そう。



 上記のカバーのおかげで、ヘッドシェル部の改造なく、事故もなく、無事、取り付けに成功しました。なかなか繊細で美しい姿に思えました。精密感あふれるのもヌードタイプの魅力。
 針がよく見えるので、針清掃はやりやすくなりました。
 針を護るガードはないので、MC*30ωよりはなにかと気を使いますが、まあ、慣れれば同じでしょう。

 横から見ると、針がむき出しなのはともかく、それ以外には、ちょっと触っただけで何かを壊すようなリスクを感じるところがない作りになっていると思います。これはよく考えられた
完成度の高い工業製品であると、私は思いました。


その音は

 最初はダンパーが馴染んでいないのか、定位が試聴時より不安定でしたが、LPを3面ほど聴くうちに、たちまちピンポイント定位に収束してきて、試聴のとおり、非常に鮮明な音になりました。でも耳ざわりな音などありませんし、もちろんハイ上がりだったりはしない、ワイドレンジでかつ低重心の音です。

 チャンネルセパレーションが良いのか、定位が一段と改善されます(下記の通り、それはスペック値でも示されています)。 声楽の口や、楽器が小さく収束する上に、遠近感が明確で、空間が広く感じます。ボロンカンチレバーの効用はわかりませんが、マイクロリッジ針の威力は間違いないところでしょう。その高音質のイメージは、ハイレゾに似てはいますが、音にアナログらしい隈取の濃さをしっかり持っています。

 MC*30ωで少し古い音だなと感じていた古い録音の盤でも、鮮明感を増します。ただし、アナログの滑らかさがますます感じられる方向への変化です。デジタル録音みたいになるわけではありません。

 また、マイクロリッジ針で音溝との接触線が長く、さらに先端を丸く削ってあるので音溝の底のごみも拾わず、S/Nは一段と良いです。これは理屈からの想像通りでした。

 試聴ではスピーカーが中型だったために、超低域は聞き取れなかったので、MC*30ωの「はずむ重低音」に勝るのか、ちょっとだけ心配でしたが、それは杞憂でした。低域も全く不足はありません。全音域にわたり、不満なしです。

 マイクロリッジ針は、摩耗しても接触面積が変わらず、長寿命です。アキュフェーズの報告書によれば、同じアマダント並木精密宝石(株)のマイクロリッジ針を搭載する同社AC-5カートリッジでは寿命2000時間以上を確認しているとあります。SUMIKO Starlingは、けっして安いカートリッジとはいえませんが、長く使えるなら、よい買い物だったかもしれないです。

 これまでのSUMIKOの製品サイクルを見ても、この会社は良いものを末長く売ってくれる会社で、しかも、Starlingは、そのFlagshipの新製品。ゆえに、将来の針交換の時に、「ディスコン(廃版)品なので針交換は別のモデルで代替です」って言われないで済みそう。
 とてもよいものに出会えた気がします。



SUMIKO Starlingの主要スペック
 SUMIKOのサイトによれば以下の通りです。

出力が0.5mVあるのはMC*30ωとそろっていて、S/Nも稼げてありがたい。
チャンネルセパレーション35dBは(数字で音は語れないとは言え)かなりの性能です。
推奨負荷が100Ωなのは、私のフォノアンプ Phasemation EA3-IIにはピッタリかと。
重さも9.5gと、重すぎず、軽すぎずです。

Stylus: Micro-Ridge
Cantilever Material: boron
Wire Material: pure copper
Internal Impedance: 28Ω
Load Impedance: >100Ω
Frequency Response: 12Hz - 50kHz
Output Voltage: 0.5mV
Channel Separation: 35dB @ 1kHz
Channel Balance: <0.5dB @ 1KHz
Weight: 9.5g




アジマスと周波数特性を精密調整

ドイツのLowBeatsというサイトに掲載されている Starlingの特性チャートすごい。
https://www.lowbeats.de/site/wp-content/uploads/2018/09/Sumiko-Starling-Frequenzgang_Uebersprechen_.png

この特性は、ちょっと驚きですね。周波数特性がフラットで左右がそろっていることに加え、1kHzでのチャンネルセパレーションが本当に「-35dB以上」を達成しているではありませんか。
 これに刺激され、私も、日本オーディオ協会によるオーディオ計測用LPレコード、AD-1(3500円)を入手し、ピンクノイズとDEQ2496のRTA機能を使って、左右の周波数特性を計測してみました。



 さらにアジマスの調整方法も治具(上の写真)を発明して(ってほどでもないが)クロストークが左右でそろうところまで、アジマスを追い込みました。

調整と計測は別ページに移動しましたので、ご覧ください。。
カートリッジのアジマス調整と測定

ここでは、微調整後の計測結果だけを示します。
上が周波数特性、下がクロストーク。 Lが青、Rが赤です。



   SUMIKO Starlingの周波数特性実測値

ドイツのサイトにある通り、Starlingの左右偏差の少なさはすごいです。
ボーカルも、独奏バイオリンも、なるほど、ぴたりと真ん中に定位する。

 クロストークは、-35dBにはわずかに及びませんが、-30dBを超える範囲が非常に広いのが驚異的です。通常の定位が安定しているだけでなく、クロストークもそろっていると、ソプラノが声をはりあげたときに、ホールエコーと思っていた附帯音も左右対称性が崩れず、すごい安定性です。
 前のが20万円、こちらが100万円のカートリッジです、といっても、きっと信じてしまいます。あくまで調整しただけで、かかったお金はゼロなんですが。

(2018年10月21日記)
(2018年11月1日追記)
(2019年4月13日追記)

(2019年6月1日追記)

 

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