MINI VOL.5
R 246
前のポルシェ いやに飛ばしてる
排気ガスの臭いを含んだ風が髪を揺らす
白い丸形のタコメーター 針が“4”の近くで振れていた
三つのメーターが今夜は妙に白く鮮やかだ
赤や くすんだオレンジの
街の灯に彩られ キラキラと輝いて頬を伝わる
ずいぶんの時間 溢れて止まらない
妖しいほどに美しい横顔がぽつりと呟く
「MINIって楽しいわね」
〈う ぅん〉
2人で数え切れないほど走った 青山
最初に交わしたグラス マルガリータの甘酸っぱっさも
そしてあの時の あの笑顔も
ざわめきや雑踏 独特の煌びやかさのこの街も
初めての ときめき 胸の痛み 切なさ 哀しさを知ったのも
そう遠い過去ではない
「このへんでいいわ」
美しい横顔が言った
銀杏並木に突きだした カフェテラスの灯が
頬に伝わるものを輝かせた
「もう電話も?」 〈そのほうが……〉
安っぽい金属音を残してドアーは閉まった
踏み込むアクセルに エンジンは重そうに反応する
艶やかな栗色の長髪が 靡いて
街の灯を浴びて金色に輝いた
ルームミラーの中で 小さくなっていく姿
動 か な い
脇の無人のシートで 携帯が鳴り続く
ミラーの中の姿 潤んで……
ケータイが鳴り続く
h.o.
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