M68.冬の室戸海岸は高知市内より平均2℃ほど暖かい

著者:近藤純正
室戸市海岸の代表地点として室戸岬漁港「とろむ」を選び、2014年1月23日~3月末までの 68日間、気温を観測し高知市内と比較した。「とろむ」は高知に比べて日平均値で1~3℃ ほど暖かく、特に朝方は3~9℃も暖かな日が多い。また、標高185mの室戸岬気象観測所 (旧測候所)より平均で1.30℃の高温である。
いっぽう標高の高い国立室戸青少年自然の家の駐車場(標高=270m)で観測した1月23日~28日 までの5日間の平均気温は室戸岬気象観測所(標高185m)より0.96℃の低温である。 大きな特徴は、室戸岬観測所と同様に、気温の日変化が非常に小さいことである。 (完成:2014年4月23日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(結果や方法、アイデアなど)の参考・利用に際し ては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。


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更新記録
2014年4月19日: 概要の作成
2014年4月21日:一部に加筆



   目次
         68.1 はしがき
         68.2 観測の方法
         68.3 観測結果
         (1)とろむの気温
         (2)青少年自然の家の気温
         68.4 今後の計画
         68.5 まとめ
         参考文献



        観測協力者(敬称略)
              島田信雄、河上倫子(室戸市観光協会)
       浅川幸子(室戸市観光ガイドの会)
              室戸ドルフィンプロジェクト(理事長:升井俊六)
              石川昇、松田公治 、濱田竹央(国立室戸青少年自然の家)
              森 牧人、早田亮平、能島知宏(高知大学農学部)


68.1 はしがき

高知県東部の室戸の気温は、テレビなどでは標高185mに設置されている室戸岬気象観測所 (旧測候所、略して岬観測所と呼ぶ)の最高気温で報道されることが多く、一般には 「室戸は高知より寒い」と思っている人々が多い。しかし、地元で暮す人々は 「室戸は暖かい」、室戸の海岸沿いの人々は「旧測候所の気温は低い」と感じている。 これを確かめるために2013年秋の短期間観測 (「身近な気象」の「M67.室戸における気温日変化の観測」) に続いて、今回は長期間の観測を行なった。

本報告は、2014年1月23日から3月31日までの68日間の冬~早春のまとめであり、観測は 引き続き行なわれている。夏には室戸は高知より逆に涼しいという結果が得られる ものと期待している。

また、国立室戸青少年自然の家(以下では略して自然の家と呼ぶ)でも気温観測を行 なった。ここは直線距離で、室戸の市街部(浮津)の北西約3.5km、室戸岬の北西 約9kmに位置している。標高が岬観測所より約85m高いことから、気温は年間を通して 低めであると想像できる。

複雑な地形の下層大気を除けば、気温の高さによる変化率(気温の高度減率)は100mにつき 0.65℃とされているが、室戸近辺における気温の高度減率を実測しておくことも必要と 考え、2014年1月23日~28日(5日間)、風通しのよい同所の駐車場で気温を観測した。


68.2 観測の方法

気温は観測地点の周辺数m~100m程度の環境により局所的に変化するので、風通りの よい海岸部の代表地点「とろむ」の「ドルフィンセンター」の駐車場に通風式自記気温計 を設置し、2014年1月23日から10分間隔で記録した。

通風式自記温度計は、ヤング社製の通風装置(MODEL43502)が日射によって0.2℃高く 観測されるので、これを改造し4重の通風筒に直径2.3mmのPt1000オームのセンサーを 取り付け、高精度観測を可能にしたものである(「研究の指針」の「K81.市販品を改造した高精度の通風式温度計」)。

国立室戸青少年自然の家(2014年1月23日~28日)と室戸岬の展望台(1月28日13時20分~ 29日15時30分)における観測では、手製の通風式自記温度計(「研究の指針」の 「K70.気温観測用の電池式通風筒」)をさらに 改良した装置を用いた。この手製気温計も2.3mmのPt1000オームのセンサーが入って おり、高精度観測用である。

図68.1~図68.5は気温計を設置した周辺の写真であり、いずれも風通しのよい場所である。

ドルフィンセンター北と東
図68.1 「とろむ」のドルフィンセンターの周辺写真、通風式自記気温計(白色)はポール に取り付けられている(2014年1月23日撮影)。左:北方向、右:東方向

ドルフィンセンター南と西
図68.2 図68.1に同じ、ただし左:南方向、右:西方向

自然の家北と東
図68.3 国立室戸青少年自然の家の駐車場の周辺写真、各写真のほぼ中央に通風式自記 気温計が写っている(2014年1月23日撮影)。左:北方向、右:東方向

ドルフィンセンター南と西
図68.4 図68.3に同じ、ただし左:南方向、右:西方向

岬海岸展望台
図68.5 室戸岬海岸の展望台(室戸市観光案内所)(2013年10月29日撮影、横に2枚の写真 を合成)「(「身近な気象」の「M67.室戸における気温日 変化の観測」の図67.8に同じ)。


68.3 観測結果

(1)とろむの気温
各地点の気温日変化を図68.6に示した。この図は室戸岬の展望台の上(気温計の海抜は 約22m、地上から10m)、とろむ(気温計の海抜は約6m、東側の道路から2.8m、駐車場 地面から1.8m)、室戸岬気象観測所(旧測候所:以下では岬観測所と呼ぶ)の3点で同時 観測した気温の比較である。上図は気温、中図は気温差(展望台と岬観測所、とろむと 岬観測所)、下図は岬観測所の風速である。

風速計は岬観測所の南南西580mの室戸岬灯台の北側、標高約150mの場所に建つ鉄塔の 地上21.8mの 高さにある。

「とろむ」での気温変化は「展望台」における傾向と似ているが、例外的に風が弱い夜間 には岬観測所より気温は低くなり(29日の1時~4時)、3時ころには2℃ほど低温になって いる。

展望台の上(地上高度10m)で測った気温の日変化幅は小さく、風が弱いときを例外と すれば、岬観測所より平均約1.3℃の高温である。

1月28~29日の気温の比較
図68.6 室戸岬の展望台、とろむ、岬観測所における気温の比較(2014年1月28日~29日)。
上図:3地点における日変化
中図:気温差(室戸岬の展望台-岬観測所、とろむ-岬観測所)
下図:岬観測所の風速

前記の28~29日を含む1月23日~2月1日の10日間における岬観測所、とろむ、高知の 気温日変化を図68.7に示した。 この図は冬の特徴を表しており、高知では日々の最高気温が高く、 最低気温が低くなる傾向が顕著であるのに対し、とろむの日変化幅は山の尾根に位置する 岬観測所とほぼ同じく小さい。とむろでは、特に朝方の冷え込みが少なく気温は高知に 比べて3~9℃も暖かいことが多い。これが、室戸の海岸域で暮す人々の実感であろう。

図68.7の下図に示す「とろむ」と高知の日平均気温の差は2~4℃(平均2.8℃)で、 冬の室戸は暖かい。

1月23日~2月1日(10日間)の平均値について、
気温差: 「とろむ」-高知=2.8℃


1月23~2月1日の気温の比較
図68.7 岬観測所、とろむ、高知の気温の比較(2014年1月23日~2月1日)。
上:3地点の気温
中:気温差(とろむ-岬観測所、とろむ-高知)
下:日平均気温の差(ちろむ-高知)


3月31日までの長期間について同じ関係を示したのが図68.8である。「とろむ」は平均的 には高知より暖かいが、高知で日中の最高気温が高いときは「とろむ」は高知より 低温となる。高知は都市化の影響もあり、都市独特の気候の特徴となっている。 朝がたの「とむろ」は冷えにくく、高知に比べて3~9℃ほど高温のことが多い。

全期間について、室戸の沿岸域の気温の日平均値が高知より1~2℃暖かい日が多い。

今回観測した全期間(1月23日~3月31日)の平均値は、
気温差:とろむ-岬観測所=1.30℃
気温差:とろむ-高知=1.23℃


1月23~3月31日の気温の比較
図68.8 2014年1月23日~3月31日までの68日間の気温の比較、前後90分間(合計3時間) を移動平均し、滑らかにしてある。
上:3地点の気温
中:気温差(とろむ-岬観測所、とろむ-高知)
下:日平均気温の差(とろむ-高知)


平均気温の1℃の差は小さいように思うかもしれないが、イネなど農作物にとって 夏3か月間平均気温が平年に比べて1℃以上低い年は大冷害となっている(近藤、1987、 第18章を参照)。また人体実験によれば、静かにして場合、暑さ寒さは1℃の差で感じる ことがわかっている。

(2)青少年自然の家の気温
図68.9は自然の家と岬観測所の気温と両地点間の気温差である。両地点の標高差は85m あり、

5日間を平均すると、
気温差:自然の家-岬観測所=-0.96℃



図から見られる大きな特徴は、岬観測所と同様に、気温の日変化が小さく、天気図規模の 広い範囲の気象変化をかなりよく表しているようである。自然の家は山の中腹に位置して いるが、こうした特徴は孤立峯で見られる特徴に近いといえよう。

自然の家と岬観測所の気温の比較
図68.9 室戸青少年自然の家(略称:自然の家)と岬観測所の気温(上図)と両地点の 気温差(下図)。前後の20分間(合計40分間)の移動平均を描いてある。

観測期間が5日間と短いので確定的ではないが、標高による気温減率は0.96℃/85m =1.13℃/100mであり、通常の自由大気中の気温減率(0.65℃/100m)より大きめである。 自然の家での気温減率が通常より大きいことは、夏の自然の家は標高の割に涼しい所 だといえる。

図68.9の下図を見ると、昼夜に関わらず気温差は0~2.5℃の範囲に分布しており、 日中と夜間の違いも5日間の観測では明確なことは言えない。長期観測を行なう 必要がある。

夏には長期観測する予定であり、気温減率が季節によって変るかどうかを確かめたい。

68.4 今後の計画

室戸の気候は沖合を流れる暖流「黒潮」の影響を大きく受けており、少し内陸にある 都市・高知に比べて冬は暖か、夏は涼しい温和な気候である。「とろむ」では夏~秋まで 気温観測を継続し、季節による違いを確認したい。

その予備解析として、図68.10に岬観測所と高知の日々の気温日平均値の季節変化を示した。 2013年1月1日~2014年3月31日までの15か月間の気温差である。

岬観測所と高知の気温季節変化
図68.10 室戸岬観測所と高知の気温日平均値の差の季節変化、2013年1月1日~2014年3月 31日(15か月)。

2013年秋の観測では室戸岬展望台と岬観測所の気温差は1.33℃(2013年10月29~30日) (「M67.室戸における気温日変化の観測」)、今回の1月~3月 の「とむろ」と岬観測所の気温差は1.30℃(2014年1月23日~3月31日)であるので、 「とむろ」と高知の気温差は図68.10の縦軸=ゼロの横線を下に1.3℃下げた値であると 推定される。

すなわち、室戸の海岸域の代表の「とろむ」の気温は高知と比べると、11~1月は平均 2℃暖かく、6~8月は逆に平均約1℃涼しいことが予想される。

現在、とろむで観測中の気温計による結果、および、本年(2014年)の5月ころから 自然の家にも長期観測用の通風式自記気温計を設置し、各地点の気温差や標高の違いに よる気温減率を確かめたい。

68.5まとめ

テレビなどで報道される最高気温の値から、室戸は高知に比べて寒いと思っている人々が 多いのではないか? しかし地元室戸で暮す人々は「室戸は暖かい」と感じている。 最高気温は瞬間的な短時間の気温であるのに対し、生活で感じるのは平均気温に重みを おいた気温ではなかろうか。

室戸の平均気温が高いことを実測により確かめるために、室戸市海岸の代表地点として 室戸岬漁港「とろむ」を選び、2014年1月23日~3月末までの68日間、気温を観測し 高知市内と比較した。「とろむ」は高知に比べて日平均値で1~3℃ほど暖かく、特に 朝方は3~9℃も暖かな日が多い。また、標高185mの室戸岬気象観測所(旧測候所)より 平均で1.30℃の高温であることがわかった。

いっぽう標高の高い国立青少年自然の家の駐車場(標高=270m)で観測した 1月23日~28日までの5日間の平均気温は室戸岬気象観測所(標高185m)より0.96℃の 低温であった。

気温観測は夏~秋まで続けて行ない、気温の季節的な違いを明らかにする予定である。

参考文献

近藤純正、1987:身近な気象の科学-熱エネルギーの流れ.東京大学出版会.pp.189.



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