K70.気温観測用の電池式通風筒
著者:近藤 純正
野外における気温を精密に測るには、放射(日射と大気放射)の影響を避けるために
完全な通風装置を用いる必要がある。各地での数時間の短時間観測を目的とした電池式
通風装置を作り試験した。通風速度5.0~5.5m/sの2重の通風筒の場合、放射影響は
最大0.11℃である。これに直射除けを取り付けることにより、放射影響による誤差
を0.03℃程度にすることができる。
(完成:2013年2月16日予定)
本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、
引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを
明記のこと。
更新の記録
2013年2月13日:素案の作成
2013年2月14日:図70.7に右の模式図を加筆、細部に加筆
2013年2月23日:吸引口の詳細図70.11を追加
目次
70.1 はしがき
70.2 通風筒装置の構造
70.3 データロガーと通風装置
70.4 放射影響の試験
70.5 まとめ
参考文献
70.1 はしがき
田舎の観測所であっても、ごく近傍10m~100mスケール範囲内における樹木の成長や
建物の増加によって露場の風速が弱められ、「日だまり効果」で年平均気温は0.1~
0.4℃程度上昇する。この上昇量は地球温暖化量の100年間当たり上昇量0.7℃に比べて
無視できない大きさである。この誤差と局所的な環境変化との関連を明らかにしなけれ
ばならない。
日だまり効果による気温上昇は、こうした気候観測上の問題だけでなく、都市気候や
農業気象の分野でも明らかにしておくべき問題である。日中を例にするならば、
広い場所に比べると、狭い場所では1℃以上の気温差が生じる。
日だまり効果のうち、日々の気温(最高気温、最低気温、日平均気温)に及ぼす影響
を知るには高精度の気温観測が要求される。その準備として前章ではPt-1000オーム・セ
ンサーの誤差について調べた(「K69.気温観測用Pt-センサー
の安定性と誤差」を参照)。
野外の気温を正確に測るには、通風筒は外筒と内筒の2重、さらに直射除けを用いな
ければならない(近藤、1982、図3.5)。通風速度>3m/sが望ましい。AC電源が利用
できる場合、通風筒の実例は「K34.通風式標準温度計2号機」
に示した。
野外の気温観測は多方面で行われており、通風筒を用いずに太陽の直射光のみ防ぐ
方法で観測される例も多い。この場合、直射光は防いだとしても、散乱光や地面反射
および目に見えない赤外放射(長波放射)の影響が大きく、1~3℃も高めに観測
されている。
図70.1は直射光のみ防いだ場合の放射影響による気温の観測誤差と風速の関係で、
有効入力放射量 R-σT4=70W/m2の場合である(R は入力
放射量、σT4は気温 T に対する黒体放射量)。
普通に用いられる温度計の受感部の大きさはd=2~6mm程度であり、自然の風速
が0.5~1m/sのとき、図から読み取ると放射影響は1~3℃となる
(気温真値より1~3℃高く観測される)。
図70.1 温度計に及ぼす放射の影響⊿Tと風速Uの関係。ただし日中は直射光を
防いだ場合。
夜間は⊿Tはマイナスの値となる。パラメータは温度計の直径d、破線
は球状温度計、実線は円柱状温度計に対する関係(近藤、
1982、図3.4)より転載;「研究の指針」の
「K16.気温の観測方法」の図16.3に同じ).
図70.2 第1通風筒(内筒)と第2通風筒(外筒)から作られた通風筒に、直射除けを
付けた模式図。
直射除けだけでは気温センサーの指示温度が、日中なら高くなるので、センサーは
強制的に通風する2重の通風筒の中へ入れなければならない。図70.2はその模式図である。
今回の「日だまり効果」による気温の局所的な観測は長期間ではなく、数時間~数日
程度、場所を変えて行う観測であり、観測装置は乾電池式で手軽に持ち運びでき、
設置も楽でなければならない。本章では、通風装置の製作と放射影響の試験を行う。
70.2 通風筒装置の構造
通風筒装置付き気温計を2組作る。通風筒などを作る材料はホームセンターで入手
した。
Pt-1000センサー:
立山科学工業製のPt-1000オーム・センサー(10,800円)を用いる。白金素子は外径=2.3mm、
長さ=50mmのSUS保護管に封入されており、リード線(長さ=1.5m)はフッ素樹脂
被覆電線、使用温度範囲は-20~200℃(形式はSTP-02(T57592-06)である。
リード線は、後で、保護用チューブに通す(図70.5)。
備考 価格はリード線などにより、多少の差がある。
白金素子はSUS保護管先端の数mmにある。SUS保護管の他方の端、つまりリード線の
出口付近のリード線に手で触ると、伝導熱で温度指示値が上昇する。このことから、
後述するように、リード線は通風筒から外へすぐ出さないで、
150mmほどを通風筒内に残しておく。
データロガー:
T&D社製の小型データロガーの「おんどとり」TR-55i-Pt(PtモジュールPTM-3010 付き)
(16,900円) と、コミュニケーションポート(TR-50U2)(13,300円)を利用する。
Ptモジュールは、データロガーとPtセンサー間をつなぐ部品で、0.1℃単位の器差の
調整(アジャストメント)をすることができる。コミュニケーションポートは読取装置
であり、PCと接続して気温データの吸い上げる際に用いる。
備考 部品の価格は取引店により、多少の差がある。
ファンモータ:
三洋電機製の標準ファン(San Ace 92、型番109P0912H402、2,300円)を用いる。
定格電圧=12V、定格電流=0.21A、定格入力=2.52W、最大風量=1.45m3
/minである。ファンの外枠四角形の寸法=92mm×92mm、回転部直径=82mm、
厚み=25mmである。これを通風筒の外筒の排気口に取り付ける。排気口はダンボール
構造のポリプロピレンを折り曲げて作った箱型である。当初、これよりワット数の
小さいファンモータを用いたが、通風速度が弱かったので、このファンモータに取り
替えることにした。
備考 秋葉原の電気店に、300円前後で同じワット数の品が出ていることもある。
外筒の断面を絞り通風速度を上げるために、弾力性のあるポリプロピレン板
(肉厚=0.75mm)で作った円錐台の直径の大きい端(図70.3の部品2の下端)が
箱型の内側(ファンの近く)に接着させる。
備考 以下の各種材料はホームセンターで安価に入手できる
通風筒:
円錐台の直径の小さい端に繋ぎ具(図70.3の上端、褐色)を被せ、それに外筒(部品3)
を繋ぐ。外筒の内径=52mmである。外筒の内部に内筒(部品4)を入れる。
図70.3 通風筒の外筒と内筒の組み立て。
(1)はダンボール構造(プラダン、ポリプロピレン)、折り曲げて内壁が
92mm×92mmの角柱を作り、中にファン
モータを入れる。(2)は弾力性のあるポリプロピレン板(肉厚=0.75mm)を扇形
に切って作った円錐台を作り、それに繋ぎ具(雨どいの繋ぎ具、部品2の上部の褐色)
を接合。この(2)に(3)外筒の内壁円筒(長さ=190~230mm、内径=52mm、
肉厚=1mm、雨どい)を差し込む。(4)内筒(長さ=80mm、内径=32mm)の
中には井型に糸が張られ、糸の間にPt-センサーを差し込む。内筒の外側には、
弾力性の輪が2つ固定されており、輪は外筒(3)の内壁の上下2か所のレールには
められる(図70.4)。
内筒は、塩ビ管(長さ=80mm、内径=32mm)で作る。吸引口に近い端は流れが
なめらかに流入するように内壁面の角をやすりで削って流線型にする。内側にセンサー
を支えるための糸を井型に2か所張る。
内筒の外側にはめる弾力性の輪は(図70.3の部品4の右上図)、細長い長方形に切った
ポリプロピレン板をΩ型(枝のついた U 型)に曲げる。これを2つ作り、枝の部分を
接着剤で貼り合わせ、外れないようにつなぎ目を絹糸でしばる。出来上がり断面は楕円
形であるが、内筒にはめると円形になる。
内筒の断面模式図は後掲の図70.7の右に示されている。
図70.4 外筒の内壁構造。
外筒内壁の上下に内筒を挿入・固定するためのレール。ダンボール構造
(プラダン、ポリプロピレン)をカッターナイフで切り、2つ割りして2本のレール
を作る。2本のレールは外筒の内壁の上下に貼り付ける。このレールに内筒を挿入
する(図70.5)。
図70.5 外筒のつなぎ方。
内筒の中心にPtセンサーを入れ、外筒の後部からリード線を出す。
Ptセンサーから出たリード線は内筒後部で折り曲げ内筒外壁に沿わせて前方へ、
さらに折り返し内筒の後部まで、ここでφ3.5mmの保護用チュウブに入れ、
固定する(図70.7右)。保護用チュウブに入れられたリード線は外筒後部から外へ出し、
Pt-モジュールを経てデータロガーにつなぐ。リード線をすぐ外に出すと、
伝導熱がリード線を経てPt-センサーに影響するので、受感部に近い長さ
約150mmの部分は通風筒の中に入れておく。
図70.6 外筒の外側に巻く断熱シート(厚さ1mm、発泡ウレタン)。
図70.7 通風筒前面から見た断面図と横から見た断面模式図。
左:中心に糸で支えられたPt-センサー
(直径=2.3mm)があり、内筒(内径=30mm)と外筒(内径=52mm、
肉厚=1mm)から成る。外筒の外側には断熱シート(図70.6)が巻かれ、
その最外側はアルミホイルを巻いて仕上げ、放射の反射をよくした。断熱シートの
仕上がりの外径=70mmである。外筒入口の内壁には厚さ0.2mmの半透明の
ポリプロピレン・フイルムを丸めて作った円筒が挿入されており、その先端は断熱
シートより10~20mmほど先に出ている。これは、空気流がスムーズに吸引されるよう
にしたものである。後掲の図70.11は吸引口の拡大写真である。
右:横から見た断面の模式図、外からの伝導熱がセンサーに影響しないよう、
リード線は通風筒内に150mm残す。
通風速度:
センサーを入れて通風筒が完成し、熱線風速計により通風筒吸気口で測ると、
通風速度=5.0~5.5m/sである。
外筒の内径=52mm(断面積=21cm2=21×10-4m2)
であり、カタログによる
ファンの最大風量=1.45m3/minから計算すると通風速度の最大値=11.5m/s
となる。したがって、実測の通風速度は最大値の約50%に相当する。カタログの風量・
静圧特性図によれば、風量が最大値の50%のときの静圧=18Paである。
70.3 データロガーと通風装置
ファンモータの部分を含めると通風装置の全長=450mm、外筒内壁の円筒部の内径
=52mm、外径=54mm(肉厚=1mm)、その上に発泡ウレタンを巻いて仕上げる。
外筒の排気口に近い部分の外径=70mmであるので、発砲ウレタンで巻いた部分
の厚さ=(70-54)/2= 8 mm、したがって外筒の厚さ= 1 + 8= 9 mmである。
直射除けはダンボール構造(白色のプラダン、ポリプロピレン)の材料で作った。直射
除けは L-字木具に水平に固定され、塩化ビニール管(長さ=150mm)が垂直に固定され
ている。それゆえ、直射除けは、塩化ビニール管により、支柱の周りを水平に自由に
回転させることができる(図70.10を参照)。
データロガーとPt-モジュールは、直射光が当たらないよう紙箱に入れ、さらに
直射除けの覆いをつけた。このための直射除けは同じ白色のプラダンの材料で作った。
図70.8 通風装置とデータロガーの一式。
通風筒の上につける直射除けは取り付けていないときの写真。直射除けの完成図は
図70.10に示してある。ただし、この写真では、データロガー用の直射除けは付けて
ある。
70.4 放射影響の試験
室内実験
通風筒に及ぼす日射影響について、まず室内実験により調べる。2台の扇風機で部屋
(8畳)の空気をかき回しながら、ガラス越しに直射光を通風筒の真横から当てる。
直射光を真横から当てるので、放射影響の最大値を調べることになる。
直射除け有・無の2つの通風筒の吸引口を互いに向かい合わせに0.3m離して設置し、
排気口は反対方向に向けて気温を測る。室内では、場所によって室温の違いがわずか
に存在するので、直射除けの有・無は、交互に変えて実験した。
気温は20秒間隔でサンプリングした。
表70.1は雲のかからない快晴のときの実験結果である。直射除け有り通風装置を
基準にすると、直射除け無しは室内実験で0.08℃程度、野外実験で0.05℃程度の
温度の上昇がある。野外実験(平塚市西公園の裸地運動場)では、気温の時間的な
変動が大きく、各シリーズ1時間の比較では0.01℃の桁をもとめるには時間が短く、
各シリーズ間の差が大きい。
表70.1 通風装置に対する直射の有・無による指示気温への影響。
K01、K02:センサーの番号、数値はともに器差補正済みの気温指示値(℃)
* 印: 直射除けを付けた通風筒
直射影響(℃):(直射除け無し気温指示値)-(直射除け有り気温指示値)
通風筒外風速(m/s):扇風機による通風筒付近の風速、熱線風速計による、
野外実験は目測による。
番号 月/日 時刻 K01 K02 直射影響 通風筒外風速
#1 2/3 8:30- 9:30 20.545 20.489* 0.056 約1m/s
#2 2/3 9:30-10:30 23.475 23.417* 0.058 同上
#3 2/3 11:30-12:30 25.778 25.696* 0.081 同上
#4 2/4 9:00-10:00 19.225* 19.298 0.073 同上
#5 2/10 8:00- 9:00 18.757 18.712* 0.046 約0.5m/s
#6 2/10 10:30-11:30 24.573* 24.698 0.124 同上
#7 2/10 11:30-12:30 26.131* 26.250 0.119 同上
平均 --- --- --- 0.078℃
野外実験
#11 2/11 8:30- 9:30 4.502 4.458* 0.043 0.5~3m/s
#12 2/11 11:00-12:00 8.424* 8.503 0.079 同上
#13 2/11 12:30-13:30 9.335 9.311* 0.024 同上
平均 --- --- --- 0.049℃
図70.9 野外における実験。
直射除け有り(左側)と、無し(右側)の試験(2013年2月11日)。
室内及び野外実験の結果を要約すると、直射除け無しでは、最大0.08℃程度の放射
の影響がある。
今回の実験は2月上旬に行ったものである。日射量が異なる他の季節では、直射除けの
効果はどうなるか検討してみよう。
近藤(2000)の「地表面に近い大気の科学」の付録Eのプログラムによって、
快晴日の直達光や散乱光を計算する。2月10日と太陽高度の高い6月21日(夏至)
についての比較を表70.2に示した。
2月10日の気象条件として横浜地方気象台における観測値を参考にすれば、
気圧=1020hPa, 日平均気温=5.5℃、日平均水蒸気圧=3.9hPaである。
大気混濁係数β=0.1、周辺一帯の平均的なアルベドREF=0.2とする。
緯度LAT=35.5°とし、1月1日からの日数DAY=41である。
6月21日の気象条件として横浜地方気象台における2012年6月の快晴日(4、8、26、30日)
の平均値を参考にすれば、気圧=1010hPa, 日平均気温=22.0℃、日平均水蒸気圧=
18.0hPaである。β、REF、LATは上記に同じとし、DAY=172である。
表70.2 日射量各成分の季節による違い、地方時12時の計算結果(緯度=35.5°)
2月10日 6月21日
大気路程M 1.569 1.019
直達光I(W/m^2) 842 827
水平面日射量S(W/m^2) 620 904
散乱光D(W/m^2) 80 94
散乱光と地面反射(W/m^2) 204 275
散乱光の割合D/S 0.13 0.10
散乱光の割合D/I 0.10 0.11
地面反射の割合ref*S/I 0.15 0.22
(散乱+反射)/I 0.24 0.33
注1:直達日射量は、水平面ではなく、太陽光に垂直な法線面に受ける量である。
注2:散乱光については、付録Eのプログラムには含まれていないので次式を加えて計算した。
散乱光=S-I(p/p0)/ M
ただし、大気路程 M =(p/p0)secθ、p0は標準気圧、
θは太陽の天頂角である。
表70.2によれば、日射量(=全天日射量)は季節によって違うが、直達光は大きな
違いはないとしてよい。すなわち、夏は太陽高度が高いが水蒸気量が多く、それぞれの
効果が逆に働き直達光の違いは小さくなる。
以上の見積もりを参考にして、今回の実験結果を日射量の多い夏の快晴日に適用して
みる。日中の太陽高度が高いときを想定すると、太陽の直射光(830W/m2
程度)に対して、天空散乱光と地面反射光は約200W/m2(2月)、
280W/m2(夏至)である。
今回の実験では、直射除けによって、直射光(830W/m2程度)を防いだ効
果が最大0.08℃であり、残り200W/m2に相当する分(0.02℃)は防げて
いないことになる。
これを夏至に適用すると、直達光を防ぐ効果はほぼ等しく最大0.08℃に対し、
残り280 W/m2に相当する分は0.03℃となる。
要約すると、直射無し通風筒では、
・ 2月:気温は最大0.10℃高めに観測される(今回の実験)。
・ 夏至:気温は最大0.11℃高めに観測される(日射条件から計算)。
つまり、2月も夏至も大きな差はないと言える。気温を精密に測るには直射除けを
付けなければならない。
改良した直射除け
上記の野外実験では、風速が3m/s以上になる時もあり、直射除けの板が支柱のまわり
を回転して直射除けをしない時間もあった。そこで、直射除けは改良して、風圧を
小さくするために折り曲げ部分をなくし、平板のみとした。
図70.10 改良した直射除け、縦・横の寸法は0.7m×0.3mである。
観測時は直射除けが垂れないよう支柱先端に糸で吊ってある。持ち運ぶときは、
図に示すように回転させて重ねるようにしてある。
図70.11 通風筒の吸引口の詳細。
外筒入口の内壁には厚さ0.2mmの半透明のポリプロピレン・フイルムを丸めて作った
円筒が挿入され、その先端は断熱シートより10mm(上部)~20mm(下部)
ほど先に出ており、スムーズに空気流を吸引するようにしてある。
図70.10は、直射除けを通風装置の上に取り付けたときの写真である。直射除けは0.45m×
0.3mと0.3m×0.3mの2枚のダンボール構造(プラダン、ポリプロピレン)の
プラスチック板をネジで重ねてある(全長=0.7m、幅=0.3m)。支柱は伸縮自在の
丸棒、それを三脚(図70.9の黄色:ホームセンターで入手)に結びつける。
直射除け、及び通風装置は、それぞれ長さ0.15mの塩ビパイプに固定して
あり、支柱の周りを自由に回転できる。風が強い時は、それぞれの回転部は支柱に
固定し、風で回転しないようにする。
70.5 まとめ
通風筒を用いずに太陽の直射光のみ防ぐ方法で野外の気温を観測する場合、直射光は
防いだとしても、散乱光や地面反射および目に見えない赤外放射(長波放射)の影響が
大きく、1~3℃も高めに観測される(図70.1)。今回、日だまり効果による気温上昇
を精密に観測するために、2重の通風装置を作って実験した。
今回の通風装置は乾電池式、通風速度は5.0~5.5m/sである。Pt-センサーからの
リード線は、外からの伝導熱がセンサーに影響しないよう、すぐ通風筒から出さ
いで、受感部から150mmの部分は通風筒内に入れた構造とした。
(1)2重の通風筒の上に直射除けを付けなければ、日中の快晴時には放射影響
によって気温は最大0.11℃高めに表示される。
(2)直射除けをつけた場合でも、散乱光と地面反射の影響があり、0.03℃の放射
の影響が残る。
(3)この誤差は、地面のアルベドが0.2の場合である。アルベドが大きく 0.8 程度
(新雪)であれば、散乱光も地面反射も共に増え800W/m2程度、直達光に
匹敵する大きさとなる。そのため、直射除けを付けても放射影響は0.08℃ほどになる。
(4)上記の見積もりは通風速度が5.0~5.5m/sのときであるが、もし、通風速度が
1m/s程度に弱くなった場合、放射の影響は2倍以上になると推定される。
したがって、直射除けを付けなければ放射の影響により気温は0.2℃以上も高く
観測されることになる。
通風筒の通風速度は大きければ大きいほどよいが、電池式の場合は電池の消耗のこと
もあるが、ファンモータは2ワット以上のものを利用することが望ましい。
参考文献
近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.
近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学―理解と応用.東京大学出版会、pp.324.