K81.市販品を改造した高精度の通風式温度計


著者:近藤純正
市販品のうち安価な通風筒(Young社製)を購入・改造して、放射影響のほとんど無い 通風式温度計を組み立てた。通風筒は全部で4重の構造となった。Pt1000オームセン サー(直径2.3mm)を用い、取り付け金具を含む重量は1.1kgである。短時間観測 では12V乾電池、長期観測ではACアダプタを用いる。
データロガーは0.1℃単位で表示・出力されるが、20秒間隔で2~4時間の平均気温 を測る場合の総合的精度は±0.03℃である。
通風筒は鉛直に取り付ける仕様となっており、観測する気温は吸気口(通常、地上高度 1.5m)レベルより0.1m低い、すなわち高度1.4mの平均気温が観測される。 (完成:2014年1月15日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2013年12月15日:素案の作成
2013年12月17日:80%仕上がり
2013年12月19日:81.4節の最後に備考を追記
2013年12月25日:備考1(DCケーブル接続部の絶縁)を追記
2014年1月15日:付録を追記


  目次
       81.1 はしがき
       81.2 部品
       81.3 通風筒の改造
       81.4 比較検定
       参考文献

       付録 鉛直通風筒と水平通風筒による気温


81.1 はしがき

野外気温を観測する際の精度を1℃以内にするには容易なことではない。さらに0.1℃ 以内の高精度で観測することは難しく、太陽の直射光を防ぐだけでは不十分である。 岐阜県多治見市で気象予報士が率いる市民グループが用いていた方法では2~4℃の 誤差があった。詳細は「身近な気象」の 「M64.多治見のヒートアイランド:準備観測」の図64.13と図64.14を参照。

自然通風式の一つ、昔の大型百葉箱の場合、風が弱く日射が強いとき1℃ほど高めに 観測されていた。直射を防いだ自然通風式の場合、センサーの大きさによっては 2~4℃程度の誤差は避けられない。理論計算による放射影響は近藤(1982)の図3.4 に示されている(「K16.気温の観測方法」の図16.3)。

温度計に及ぼす放射影響を小さくするために、最近はファンモータを用いて強制的に 空気を吸引する通風式温度計が使われるようになった。手作りできる人は手製の 通風式温度計を使っている。例えば、村上・木村(2010)、福岡ら(2011)、 近藤(2013)がある(近藤、2013、については、「K70.気温 観測用の電池式通風筒」を参照)。

10万円を超える市販品の通風筒には手が出せない。手作りするには時間も掛り、 工作に慣れた人でなければ難しい。筆者も、今回は6台が必要になり、工作時間の 節約から市販品を購入し、加工して精度0.02℃程度の通風式温度計を作ることにした。

市販品では、センサーを除く通風装置のみでも高価である。規格はそれぞれ異なるが、 いくつかのメーカー・代理店に問い合わせた価格は次の通り。

(1)A社:800,000円
(2)B社:320,000円
(3)C社:150,000円
(4)D社: 91,287円(税送料込み)
(5)E社: 79,065円(税送料込み)

(1)は気象庁納入品、(4)と(5)はYoung社製MODEL43502(DC12Vコード 3m付き)である。

価格や重量それに性能を考慮してE社(英弘精機KK)からヤング社製の通風筒を購入 した。取り付け金具を含む重量は1.1kgの軽量、ファンモータはDC12V、500mAである。 英弘精機の形式名では強制通風遮光具43502となっている。Youngのカタログによれば、 日射量1000W/m2 の条件で0.2℃の誤差がある

この通風筒についてどの部分を改良すればよいか検討すると、放射誤差0.2℃に用いら れる通常のセンサーの直径は6~12mmで大きい。前記の近藤(1982)の理論計算に よれば、①センサーの直径を1/3~1/4にするだけで、放射影響は1/2~1/3程度に 小さくなる(通風速度=5m/sのとき)。

②センサーの直径として2.3mmを用いると、センサー取り付けの固定具 (図81.1の部品7)の内部も風が通り抜けるようになり、放射影響は小さくなる。 センサーまわりの通風速度を上げるために、図8.1のアクリルパイプに中穴を4個開ける。 この穴は吊り糸用の穴も兼ねる。センサーから出た導線部を吊り糸で支え、感温部に 熱が伝わらないようにする。

③この通風筒の1番外側の通風筒の外径が途中で細くなる構造のため、外側から1~2番 目間と2~3番目間の通風は十分でなくなっている。2.3mmの細いセンサー・細い導線 を用い、導線を支える部分も空気が通るようにする。

④ヤングの通風筒の外径が途中で細くなっている部分は1重となっており、外壁面の 高温(晴天日中)が内部へ伝わりやすいので、この部分に断熱シートを巻く(図81.4)。

以上の4点を考慮して市販のYoung社製通風筒を改良して放射影響を小さくする。 ただし、工作に長時間を掛けては意味がないので、短時間で済む加工・改良を行う。 工作時間に長時間を掛ける場合は手製することとし、その例は前記した。

81.2 部品

通風式温度計の費用:
1台当たりの値段(112,765円)の内訳は次の通り。

通風筒:Young社製, 販売店は英弘精機(79,065円税送料込み)(6)
センサPt1000, 直径=2.3mm:立山科学工業(MODSO30-01-PT-02, 16,500円)(7)
データロガー:T&D社製,販売店はムーブ(TR-55i-Pt, Pt100/Pt1000対応、16,900円)
雑品:ホームセンター(300円)(8)

(注6)AC電源を含みDCケーブル10mの場合は4,935円高く、税込84,000円となる。 上記の79,065円はAC電源を含まない。もし、AC電源が使える場合は1000円程度の ACアダプタ(12V,1A)を購入して使う(図81.6)。

ACアダプタ使用に際して販売店からの注意がある。注意1: ACアダプタの出力電圧が 公称DC12Vであっても、実際の出力電圧が DC12V以上でかつDC14V以下であることを必ず 確認した上でYoung社製通風筒に接続して使うこと。注意2:AC電圧の変動が充分に 小さいと仮定した上で使用のこと。注意3: もしACアダプタの出力がDC12V未満 (あるいはDC14V超)の電圧を給電した場合には通風筒の仕様通りの通風速度が出ない 可能性や故障の原因となる。AC電源の電圧が不安定な所では、安定化回路を含むAC電源 装置(4千円~5千円)を使うこと。

(注7) 波しぶきが飛ぶ海岸でも使えるように絶縁をよくしてもらい、前回の 10,800円より高価となった(「K70.気温観測用の電池式通風筒」 )。

(注8)アクリルパイプ(外径=21mm、肉厚=1.5mm)88円、VE管カップリング (長さ=63mmm、内径=22mm)79円、アクリル補材三角棒27円、アクリル樹脂接着 剤100円、ほか小計300円

データロガー:
データロガー(PtモジュールPTM-3010付き)は0.1℃単位で記録される方式である。 そのため、分解能は0.1℃であるが、この研究では通常、20秒間隔で気温をサンプリ ングし2時間~4時間の平均気温を求めることにしている。そのため、平均気温は 0.1℃より小さい値まで有効となる。

T&D社(長野県松本市)によると、AD変換方法は次の通りである。
まず予めPt1000センサーのJIS規準抵抗表を10℃毎の抵抗値テーブルに変換しておき、 AD変換から求められた電圧値を抵抗値に直し、抵抗値テーブルの(1)10℃区間ごと に直線近似式から温度値に変換する。(2)0.1℃以下の温度値は四捨五入式に切り あげ・切り下げを同等に行っている。つまり、最終的に記録温度値に直す処理や、 温度アジャストメント演算では四捨五入を行っている。

(1)の10℃間隔の直線近似による誤差を検討してみた。
1℃間隔のPt の抵抗値(0℃で100.00オーム、40℃で115.54オーム)を用いて、T =0~40℃範囲について次の2次式をつくる。

y=aT2+bT+c
a=-6×10-5、 b=0.391, c=99.997

この式による10℃間隔(0℃~10℃、10℃~20℃、・・・・)の直線近似式を作り、 2次式による値との抵抗差を計算する。抵抗差を温度差に換算すると最大0.004℃の 誤差である。この最大誤差は10℃間隔の中間温度で生じる誤差である。

(2)については、製品に組み込まれているプログラム言語では、浮動小数演算処理 の時間がかかるために、0.01℃分解能程度を確保するに足りる有効桁の整数演算が されている。また、測定されるAD電圧値は0.01℃分解能相当程度の幅を持った 整数値である。このため前記の滑らかな直線を0.01℃程度の幅で階段状にしたような 変換イメージとなり、このとき、真の滑らかな直線と階段の差が一番大きいところで 0.01をわずかに超えた値、すなわち、0.01℃と前記の直線近似による最大誤差0.004℃ を加えた0.014℃となる。ただし、まったくノイズ成分が存在せずに理論とおりに 変換されている場合である。

AD変換は、ある温度を挟んで2分される。例えば、24.96~25.05℃までが25.0℃と 記録される。しかし特殊例として、真の温度が長時間の間ずーっと24.96℃であった ときは、算出される平均値は25.00℃となるので、この場合の誤差は0.04℃となる。 しかし、現実の大気中での気温変動は有限幅をもち、その分布計は近似的に正規分布 をしているので、長時間の平均気温の誤差(データロガーによる誤差)は0.02℃以下 と見なしてよい。

通風温度計の取付け支柱(3687円)の内訳
パラソル三脚スタンド―1197円:NorthEagle, 販売店はロッジ(NE911)
アルミ伸縮柄―2490円:TERAMOTO(TM*FXハンドル)

81.3 通風筒の改造

直径2.3mmのセンサー、通風速度>5m/s を用いた場合、放射の影響を0.02℃以下に 小さくするには通風筒を3重以上(直射除け+2重通風筒も含む)とする必要がある。

購入した上記の通風筒は3重構造であるが、日射量1000W/m2 の条件で0.2℃ の誤差があると記載されているので、通風筒内部にさらに外径21mmの通風筒を取り付 け、その内部の中心軸に沿って2.3mmのPtセンサーを糸で吊るす。糸で吊るす方法は、 「K70.気温観測用の電池式通風筒」の図70.7の方法に 類似する。

工作その1
図81.1 内部に追加する通風筒の工作過程(その1)、写真の下が吸気口の方向である。
(1)アクリルパイプ、長さ=1m、外径=21mm、内径=18mm
(2)アクリルパイプを長さ150mmに切断、絹糸を通す小穴8か所と、中穴4か所を開ける。 中穴2か所は互いにパイプの反対側に対になり、他の中穴2か所は10mmほどずれた 位置に開ける。
(3)吸気口の内壁をヤスリで削り、空気を滑らかに吸引する。
(4)センサー端のシリコン収縮保護チューブ(φ5)に対応する小穴8個に絹糸を通し 井型に張る。導線(φ2.9)に対応する中穴2個に絹糸を2列縦に張り、他の中穴2個に 絹糸を2列横に張る。
(5)カップリング:(6)が(7)に固定された後、(6)を通して(7)の中へ 挿入する。
(6)センサーを通風筒付属品のセンサー固定具(7)に固定する。固定具の中は空気 が通る隙間が開いている。センサー先端から155mm±3mmの位置が固定具の止め ねじで固定される位置となる。


図81.1の(6)がセンサーPt1000である。センサーの先端20mmがSUS304測温シース (内部先端にPt封入)、SUSスリーブ(シリコン充填)とシリコン熱収縮チューブ (φ5)の長さは20mm、その上方15mmはチューブ(φ3.5)、それに続くのは シリコンジャケットキャプタイヤ線(φ2.9)である。キャプタイヤ線の内部の導線 はφ0.8×3pFEPコアー(導体:7p/0.16mm-Cu)、キャプタイヤ線は長さ3mである。 このキャプタイヤ線の端はデータロガーに付属するPtモジュール(PTM-3010、 Pt1000-3線式)に結線され、モジュールを経てデータロガー(TR-55i)に接続する ようになっている。

(5)(6)(7)ができ上がったのち、(4)に張った井型の絹糸の中へセンサー部 を通し、固定する。糸で吊るすのは、センサー先端の感温部に他から熱が伝わり難く するためである。

Young社製の通風筒に、新しく作った追加用の内部通風筒を入れて気温観測中に、 その外側と接触しないよう、図81.1の(4)の外面に4か所の小突起(アクリル樹脂) を接着しておく。接着後の写真は図81.2の(8)である。もし、接触したとしても 1~2点のみで接触する。

工作その2
図81.2 内部に追加する通風筒の工作過程(その2)。
(8)内部通風筒の外壁に小突起を付ける。付属品のセンサー固定具(7)に(5)を 差し込み、加工追加する内部通風筒を差し込む。
(9)付属の通風筒内の穴(9)に内部通風筒を差し込む。その仕上がりは(10)。
(10)に付属品(11)と(12)の順序で取り付ける。
(12)の上端にはネジが切られており、時計まわりに回して取り付けるようになって いる。

工作その3
図81.3 内部に追加する通風筒の工作過程(その3)。
左:横からの写真、コードが出る上部にはファンモータなどを取り付ける。
右: 吸気する方から撮影した通風筒入口の写真。赤矢印は加工追加した内部通風筒 を示し、その外壁に付けた小突起(8)は外側の通風筒にほとんど接触しない程度の 大きさである。小突起は外壁のまわりに4個ある。

通風筒
図81.4 通風筒の仕上がり。通風筒の中部~上部の1重部分(細い部分)に断熱シート を5重に巻く。

設置方法
図81.5 通風筒の設置の方法。
(左)ポールに取り付ける場合(長期観測用)。
(右)三脚に取り付ける場合(短期観測用)。三脚の端に帯が付いていて、 金属ペグで固定する。風が強いときはさらに砂袋の重石、あるいは支線を張る。

電源
図81.6 電源。左は12VのACアダプターを使う場合の電源、右は単一乾電池8個の 電源。赤と黒のばななジャックにファンモータから出ている電源コードの端(ばなな ジャック)を差し込む。

備考1:ヤング通風筒のファンモータ電線の絶縁
今回購入した通風筒のファンモータ用DC12V 導線の接続回路基板(天蓋を開けると 見える)では、導線がむき出しの裸線になっている。雨天日や霧日には、裸線と端子に 水滴が付着する。通風排気口であるので微粒子も付着する。特に海岸の近くでは、 塩分が付着し絶縁不良となる可能性がある。
絶縁するために、ホームセンターで入手できるコニシ株式会社製の ①「シリコン補修剤-バスボンドQ」(50ml、390円)、あるいはインターネット で入手できる信越シリコン製の②「一液型RTVゴム」(KE-45-W)(100g、1007円)、 または③(KE-45-WS)で絶縁する。これら絶縁材は、いずれも硬化後はゴム弾性体と なる。筆者は、①と②を使いテストの結果、良好であることを確認した。 ③は立山科学のPtセンサー1000オームの導線端末部分にも使われている。

81.4 比較検定

当初、新通風筒は図81.7(右)のように、少しだけ水平から斜めに取り付けて戸外で 比較検定を行った。ところが、夜間には2台の旧水平通風筒による気温に比べて 0.02℃ほど低めの温度となることに気づいた。これは、夜間は高度が低いほど低温で、 新通風筒はやや下方の空気を吸引していると考えられたので、そのデータは不採用 とした。

検定風景
図81.7 通風温度計の比較検定、各通風筒には直射除けが取り付けられている。
(左)全体の写真。下方に白く見える2つのボックス内は電源(DC12V用のACアダプター) とデータロガー(Pt1000用8個)。上方の白板は直射除け、吸気口の地上高=1.15m (ただしK3号~K8号を束ねて入れた新通風筒は少し斜めのため、吸気口の地上高 =1.2m)。
(右)新通風筒の取り付け説明用の写真。上方の2本の塩ビパイプのうちの下パイプは クランプの位置で左右に滑るようにしてあり、通風筒の角度は自由に変えられる。


同じ高さの空気を吸引すべく、以後の新通風筒は旧通風筒と同じように水平に取り 付け、高さも同じ1.2mに揃えて比較検定した。新通風筒の両側に2つの旧通風筒 (センサー:k1、k2)を設置し、k1とk2の平均温度を真値とした。新通風筒内部 にセンサー6個(k3~k8)を束ねて挿入してある。放射除けとして白色のプラダン (ポリプロピレン)(ダンボールの構造)を通風筒の上の塩ビパイプにほぼ水平に 取り付けた。

戸外では16℃以下の範囲、室内では7~35℃の範囲について比較検定した。室内では エアコンにより室温を調節した。等温になるよう2台の扇風機をまわした。天井付近 と床上1mの気温差を市販のデジタル温度計でモニターしながら、温度差が小さい 状態で比較検定した。戸外と同様に、新通風筒(センサーk3~k8)の両側から 旧通風筒(センサーk1)と旧通風筒(センサーk2)で挟むように設置した。

20秒間隔でサンプリングした200個の平均値を1データとした。

センサーk1とセンサーk2の温度差は、全データ数の80%が±0.03℃以内に分布して いた。室内外の延べ9日間の比較検定の結果を図81.8に示した。

器差
図81.8 センサー6個の比較検定、ただしk1補正とk2補正の平均値を真値とした。
縦軸を器差補正値としたとき、「真値=指示値+器差補正値」によって真値を求める。

補正すべき器差を直線近似で表したとき、各プロットのバラツキは±0.02℃である。 この器差を補正して気温の真値を求める計算式は次の通り。温度(真値、指示値) を℃で表して、

〇k8真値=0.9999×k8指示値+0.059℃
〇k7真値=0.9984×k7指示値+0.080℃
〇k6真値=0.9975×k6指示値+0.107℃
〇k5真値=0.9963×k5指示値+0.139℃
〇k4真値=0.9973×k4指示値+0.115℃
〇k3真値=0.9972×k3指示値+0.134℃

なお、k8の器差は温度依存性がほとんど無視できるので、次式でもよい。

〇k8真値=k8指示値+0.06℃

備考2: センサーを束ねた比較検定
(1) Ptセンサーは細いので、k3~k8は束ねて1つの通風筒に入れて検定した。 もし、各センサー(k3~k8)を各々の通風筒に入れて検定すると、場所による 気温・室温の0.1℃程度の違いが生じ、ばらつきが大きくなり、検定に要する 延べ時間が数倍必要となる。

真値(基準値)とは、k1の補正された値とk2の補正された値の平均値のことである。
なお、k1とk2の器差は「K69.気温観測用 Pt センサーの安定性 と器差」の図69.2と図69.3、式(3)(4)に示してある。

(2) センサーによって器差が異なるのは、Pt素線ごとのわずかな違いと回路(モジュール) によるわずかな違いによるものである。したがって、使用に際しては「センサー」と 「モジュール」の組み合わせを変えてはならない。

組み合わせを変えたときの器差は、「K69.気温観測用Ptセンサー の安定性と器差」の付録に掲載してある。

参考文献

Kondo, J., 1962:Observations on wind and temperature profiles near the ground. Sci. Rep. Tohoku Univ., Ser.5, Geophys., 14(2), 41-56.

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

村上雅則・木村富士男,2010:可搬型簡易自作強制通風式気温計作成マニュアル. 筑波大学陸域環境研究センター報告,11:29‐33.

福岡峰彦・桑形恒男・吉本真由美・山田幸則、2011:建築資材を活用した 低コスト強制通風筒「NIAES-09」の製作法.生物と気象、11: A10-16.


付録 鉛直通風筒と水平通風筒による気温

ファンモーターを用いた強制通風式温度計を大別すると、空気を下から吸い上げる鉛直 通風筒と、ある高度の空気を水平に吸引する水平通風筒がある。前者では、どの高度の 気温を測っているか、正確には不明である。

図81.9に例示すように、夜間の安定時(左端の分布)や日中の不安定時(右端の分布) では、地上からの高度が0.1m違うと気温は約0.1℃の割合で変る。このことを意識して 観測データを比較し、理解しなければならない。 安定度別気温鉛直分布
図81.9 大気安定度ごとに分類したときの高度2m以下の気温鉛直分布6例。 見やすくするために、互いに重ならないように横軸はずらし、高度2m 以下の高度範囲みを示してある。Kondo(1962)のO'Neill-1956データのシリーズ2、 4、・・・17のプロット(安定から不安定の順番)。

今回、Young社製の通風筒(Model43502)の改良加工品1台を鉛直に取り付けた場合 (鉛直通風筒)と、同改良加工品3台を水平に取り付けて試験を行った。鉛直通風筒 の吸気口の高さを1.5mとした。水平通風筒の高さは1m、1.2m、1.4m、1.9mなど 変化させた。

その結果、鉛直通風筒は実質的に吸気口高さ1.5mより0.1m低い空気の温度、つまり 高度1.4mの気温を測っていることがわかった。昼夜による違いは見出せなかった。

参考:通風筒の取り付け方法
Young社製の正規取り付けは鉛直通風筒の仕様となっている。長期間の観測では、しっかり したポールに取り付ける。しかし、1日ないし数日間の短期間観測では簡単な 軽量三脚に取り付けるほうが便利なことがある。

軽量三脚の場合、通風筒の重心が中心ポールから0.22m~0.25mほどズレ、三脚が 風で倒れる可能性がある。もちろん、三脚には長さ0.2~0.25mの鉄製ペグを打ち込む のだが、風速が8m/s以上では、安心できないので、支線を張るなど対策を行う。

通風筒の重心を中心ポールから離れないようにする対策の一つとして、通風筒 を斜めに取り付ける方法がある。その例を図81.11に示した。水道管に使われる塩ビ管 は、ガスコンロなどで暖めれば自由な角度に曲げることができる。この部材を中心ポール に取り付け、それに通風筒留め具を固定すればよい。

斜め取り付け
図81.10 鉛直通風筒と斜め通風筒(手前の写真)の取り付け。

図81.10の手前の写真は、塩ビ管を120°ほど曲げ、それに通風筒を斜めに取り付け た例である。

水平通風筒、斜め通風筒で観測する場合の観測誤差
Young社製通風筒を非正規の水平または斜めに取り付けた場合、風向が排気側から吸気 口側に向かう場合、高温な排気を吸引するために気温は0.1~0.2℃ほど高めに観測 される。

したがって、吸気口は必ず風上側に向くように設置し、かつ太陽直射光が吸気口内壁 に射し込まないよう注意しなければならない。

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