K79.都市の地上気温の分布ー新しい視点・解析法


著者:近藤純正
複雑多様な地表面からなる都市のヒートアイランドは、広い場所で観測される「地区広域的な 気温分布」(気温のなめらかな空間分布)と局所的な広・狭によってきまる「局所的な 気温分布」(高温・低温が混在した複雑な分布)が重なりあって形成されている。
この新しい視点にたち、都市のヒートアイランドの観測・解析法を示した。例として、 海岸線が東西に延び、それに直角に南からの海風が吹く相模平野の海岸・平塚について 試験的な観測を行った。8月の涼しい海風の気温は、上陸すると海岸から の距離とともに上昇し、距離4.5kmで3℃ほど高温になるが、おもに水田からなる 郊外・田園地にくると下降する傾向となる。(完成:2013年9月6日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2013年9月4日:素案の作成
2013年9月5日:図79.6を追加



  目次
    79.1 はしがき
    79.2 地表面の種類による気温差
    79.3 地区広域的な気温分布
    79.4 最高気温と平均気温の関係
    79.5 まとめ
        謝辞
        参考文献


79.1 はしがき

風が弱い場所では、日中の気温が上昇する。この現象「日だまり効果」は、気候変動の 解析や観測所の維持管理のほか、農業気象や都市気候の問題でも定量的に解明して おかねばならない課題である。本章では、都市気候の問題として取り上げる。

空間広さによる局所的な気温の違い
地上気温は観測地点の周辺数m~100m程度のごく近傍の環境に依存する。最近、 知られるようになった「日だまり効果」により風通りが悪い地点では気温は異常に 上昇する(近藤、2009;2012)。これを局所的な気温分布 と呼ぶ。

晴天日中の狭い空間における「局所的な気温」は広い空間に比べて1~2℃ほど高温に なる。図79.1は正午前後の3時間程度の平均気温と空間広さの関係を表したもので、 縦軸は広い空間における気温を基準とした狭い空間の気温、横軸は空間広さの差 (対数差)である。

気温差と空間広さの差
図79.1 広い空間の気温を基準とした狭い空間の気温差と空間広さの関係。
プロットは「研究の指針」の「K75. 日だまりの気温―各地の 観測結果」の図75.5、「身近な気象」の 「M65. 多治見のヒートアイランド観測」、及びその後の平塚における観測を 追加してある。
白抜き:晴天時
黒塗り:曇天時
赤塗り:地表面の種類が異なる場合


風通しの良し悪しは、観測点から測った周辺の樹木・建築物などの地物の仰角分布から 計算される空間の広さ「露場広さ」に依存する(「研究の指針」の 「K75.日だまりの気温―各地の観測結果」)。

いっぽう、空間広さの大きい場所で観測される気温から、都市域内の 地区広域的な気温分布を知ることができる。地区広域とは、概略500m程度 以上の空間スケールを指す。

都市には観測に適した広い場所は限られているが、学校の運動場、公園、広い駐車場、 河川敷などがある。これら、空間広さ(露場広さ)が概略8以上の所で観測すれば、 「局所的な気温分布」の影響が小さい。具体的には、風上側の50~100mがほぼ一様な 地表面からなり、その端にある樹木等の高さが5~10m以下、かつ風下側には風止めと なる高い建物・樹木が無ければよい。風下側の空間広さ>5が望ましい。

現実的な少し広い場所を利用して、「地区広域的な気温分布」を測る場合、 「局所的な気温」の影響を受ける。その影響は、図79.1から見積もることができる。 例として、風上側の空間広さ=10と空間広さ=15の地点で気温を測ったとすれば、 両地点の対数差=0.176であるので、気温差=0.3℃程度となる。つまり、地表面種類 などが同じであれば、空間広さ=10のほうが15に比べて0.3℃高温に観測される。 0.3℃は観測誤差(地点を表す代表性の誤差)と見なすこともできる。

この見積もりから、可能な限りほぼ同じ空間広さの適地を見つけて観測することが 重要となる。

新しい視点
都市域内の気温分布は、地区広域的な「滑らかな気温分布」と局所的な「複雑な高温・ 低温の混在した気温分布」が重なった構造である。本章では、この新しい視点に基 づいて都市域内の地上気温を知るための観測・解析法を示すものである。

従来の多くの研究では、「滑らかな気温分布」と「複雑な高温・低温が混在した気温 分布」の区別をしないで観測されてきた。さらに、移動観測や数分間の短時間観測に よる調査・研究も行われてきたが、これらは2~3℃の誤差を含んでいる。

なぜなら、晴天日中における気温の時間変動の標準偏差は0.4~0.6℃、したがって 気温の変動幅は3℃程度もあり、短時間の観測値にはこの程度の誤差が含まれるから である。

モデル都市としての平塚
新しい視点に基づいた観測を行うには、最初はシンプルな場所で行うことが望ましい。 相模湾のほぼ中央に面した神奈川県平塚は、平坦な平野にあり、海岸線は東西に延び、 春~秋の晴天日の海風は南から吹く。

平塚沖1kmの水深20mの海には、防災科学技術研究所の海洋観測塔(現在は、 東京大学の所属)があり、海面上22m高度の風向・風速と海水温度などが観測され、 インターネットによりリアルタイムで公開されている。そのため、海上気象のデータ を見て、観測に適した日かどうかを決めることができる。

平塚市の西隣・大磯との間には金目川(花水川)が、東隣・茅ヶ崎との間には相模川が ある。これらに挟まれた平塚市街・住宅地は海岸防風林の北側から始まる。金目川の 河口から4.5kmほどの所にある東海道新幹線付近までが市街・住宅地であり、 それ以北はおもに水田からなる郊外・田園地となっており、中都市のヒートアイランド の研究の場として適している。

このシンプルな中都市での成果は、地形が複雑な他の都市におけるヒートアイランド の理解に役立てることができる。

具体的には、内陸盆地の岐阜県多治見市でも夏のヒートアイランドの観測が行われて おり、平塚における観測結果が十分に活用され、複雑な地形における現象の理解に 役立っている(「身近な気象」の 「M65. 多治見のヒートアイランド観測」を参照)。

本章は、平塚における詳細な本観測に先立つ試験観測であり、用いるのは通風式自記 温度計2セットで行う。本観測では4セット以上を用いることが望ましい。

79.2 地表面の種類による気温の違い

都市内の地区広域的な「滑らかな気温分布」を知るには、空間広さが殆んど同じで、 かつ地表面種類も同じ多地点で観測することが理想的であるが、現実には同じ種類の 地表面を多地点選ぶことは難しく、様々な種類の地表面上で気温を観測することになる。 その際の気温の違いをあらかじめ知っておきたい。

10km以上の一様な地表面上での気温は、地表面の種類に大きく依存し、数℃の気温差 が生じることがある。しかし多くの都市では、様々な種類の狭い地表面(100mスケー ル以下)が混在しており、観測地点の地表面の種類による気温差は±1℃程度である。

表79.1は晴天日に観測した気温、気温差、地表面温度、地表面温度差の例である。 芝地で測った高度1mの気温を基準とすれば、裸地の公園・運動場では0.1~0.4℃ 高温、アスファルト舗装の駐車場や小石からなる乾いた河原では0.8~0.9℃程度高温と 見なすことができる。これは晴天が続いたときで、芝地は比較的に乾いた状態に あった。

大雨直後の湿った芝地では、蒸発散が盛んなため芝地は低温に、裸地もそれ相応に 低温になることが予想され、芝地を基準とした気温が変わる可能性があるので、 気象条件に応じて、同様の観測をあらかじめ行なっておくことが必要である。

いずれにせよ、空間広さがほぼ同じ広い所で気温を測った場合、地表面の種類による 違いは±1℃の範囲に入ると考えてよい。

表79.1 晴天が続いた状態における各種地表面上の気温と地表面温度、2013年平塚に おける観測。
  海公園:湘南海岸公園(渚から400m)
 裸:裸地、芝:芝地、駐車場:アスファルト舗装の駐車場、 
  桜ケ丘:桜ケ丘公園、川水上:川の上(風上70mが幅15mの水面)、
  河原:東雲橋しも80mにある乾いた小石の河原(風上110mが幅20mの小石)、 
  花菜:花菜ガーデンの中央広場、水田:水神橋東の水田、 ( )内は推定値
 (1)5月7日10:00-12:00、 (2)5月9日10:00-13:00、
 (3)5月17日12:35-13:35、 (4)8月31日10:00-14:00、
 (5)9月1日10:00-14:00

番号 高温点の 低温点の 高温点 低温点 芝地基準 高温点の 低温点の 芝地基準
   地面種類 地面種類 気温℃ 気温℃ の気温℃ 地面温℃ 地面温℃ 地面温℃

 1    海公園裸 同 芝    20.27   19.91    0.36      37.8       24.3       13.5
 2    海公園裸 同 芝    19.57   19.51    0.06      43.2       28.7       14.5
 3  駐車場  桜ケ丘芝  20.03   19.17    0.86      ---         ---      (13.0)
 4  河原    川水上    33.04   32.03   (0.80)     46.3      29.3       (17.0)
 5  花菜芝  水田      32.87   31.95  -0.92      40.9      29.4      -11.5


8月に測った水田上の気温は芝地に比べて0.92℃低温であるが、その地表面温度 (放射温度計で斜めに測った放射温度)は芝地に比べて例外的に11.5℃も低温である。

79.3 地区広域的な気温分布(500m以上の空間スケールの気温分布)

本章では試験的な観測であるため、通風式自記温度計の2セットを用いた。その1セット は庭に作った小空間の気温を測ることにし、他のセットは毎日移動して定点の平均気温 を測った。庭の気温を基準にして平塚市内の海岸からの距離とともに気温がどのよう に変化するかを求めた。

小さな庭の空間
図79.2 庭に作った「小さい空間」。この写真では、通風式自記温度計が内側と外側に、 超音波風速計が外側に設置されている。白い囲いは市販の不織布で作った。 風で壊れないように、囲いの上端から針金を四方に張り固定してある。

庭に作った小さい空間は、半径=1.3m、高さ=1.6m、したがって空間広さ(露場広さ) =1.3/1.6=0.8である。この周辺は、ほとんどが2階建ての住宅地である。庭の南側に は東西に幅4mの道路があり、東隣からの道路幅は6mに広くなる。西隣2軒目の西側 は南北の2車線・両側歩道の広い道路である。写真に一部が見えるように、 「小さい空間」の南側は三叉路となり幅4mの道路が南へ伸びている。

通風装置
図79.3 通風式自記温度計の装置一式、花菜ガーデンの中央広場で観測。

平塚では晴天日には南からの海風が吹き、平塚沖海洋観測塔の海面上22m高度での 風速は10m/s前後のことが多い。風の強い渚での観測にも耐えられるよう、通風式自記 温度計装置の直射除けは糸で支線を張って固定してある。渚では三脚は砂袋で重石とし、 公園など広場では三脚は長さ25cmの鉄のペグで固定した。この装置の精度など詳細 は「研究の指針」の「K70.気温観測用の電池式通風筒」 に掲載されている。

気温観測は正午前後の原則3時間とした(天候状態により2~4時間)。

図79.4は気温と海岸距離との関係である。観測期間中の平塚沖海水温度(水深3mの 水温)=26.6℃で日中の平均気温よりも低温であった。渚での高度1mの気温= 27.66℃であり、海水温度が約1℃低温、海上大気は安定である。

注:海面水温
海上風速が5m/s以上であれば、日中の水深3mの水温と表面水温は0.2℃以内で一致する と見なしてよい(Kondo et al. 1979)。

渚の気温は湘南海岸公園の南側にある海水浴場で観測した。この海水浴場の沖100mに はテトラポットで造った防波堤がある。測器に及ぼす波しぶきの影響を少なくする ため、汀線から15mの距離の砂浜(海水で湿った砂浜)の高度1mで気温を自記記録 した。この付近の砂浜の幅は約180mあり、その北側は防風林となっている。防風林 の中には東西の2車線道路がある。

涼しい海風が砂浜に上陸すると、熱い乾いた砂浜で加熱される。防風林の北側には マンションを含む住宅地、市街地へとつながり、気温は上昇を続ける。海岸から約 4500mには東海道新幹線があり、その北側はおもに水田からなる田園地となる。

平均気温と海岸距離
図79.4 海風が吹くときの海岸からの距離と気温の関係(2013年8月の晴天日)。
各プロットは1日の値(日中の正午前後の2~4時間の平均値)、通風筒吸気口の地上 高度z=1m(水田の場合は、ゼロ面変位 d を考慮したz-d=1m)。
緑丸印:海上風、および芝地での観測値
四角印:裸地や河原での観測値
実線:市街地範囲における傾向
破線:郊外のおもに水田からなる田園地における傾向

注意:
観測期間中の毎日の日中の平均気温(基準とする庭の平均気温)は変化し、 その標準偏差=1.1℃であった。図79.4の縦軸の気温は各地点で観測された生の値では なく、その日その日の庭の平均気温を基準として作成した平均気温の水平分布図で ある。

図79.4の横軸 5600m のプロットは花菜ガーデンの芝地、横軸 4900m のプロットは 金田小学校運動場(裸地)における平均気温である。海風が市街・住宅地から郊外・ 田園地にくると、平均気温は低下する傾向となる。

9月1日の正午ころに測った地表面温度(放射温度計を45度程度傾けてはかった 放射温度)は次の通りであった。

29.4℃・・・・水田の地表面温度
40.9℃・・・・芝地の地表面温度
53.8℃・・・・アスファルト舗装面の温度

したがって、涼しい海風が市街・住宅地で温められ高温になり、それが郊外・田園地 (おもに水田)にくると、今度は逆に冷却されることになり、気温(地区広域的な気温) は下降をはじめることになる。

なお、水田の高度1m(ゼロ面変位を考慮した有効地表面からの高度1m)の気温は 31.95℃(10:00~14:00の平均)、32.33℃(11:30~12:30の平均)であり、 水田の地表面温度より2~3℃ほど高温であった。そのため、水田上の大気安定度は 安定であり、緩慢に起きる冷却であると考えられる。

以上の通り、今回の試験観測の結果によれば、平塚の夏のヒートアイランドは シンプルで2次元的な構造をしており、気温は海岸からの風下距離とともにいったん 上昇したのち、郊外・田園地では下降傾向になる。気温の上昇・下降量が定量的に わかった。

79.4 最高気温と平均気温の関係

ここでいう平均気温とは、正午前後の2~4時間の平均気温を指す。

最高気温は偶然性の強い値であり、統計的・確率的に起きる値と見なして解析する 必要がある。

一般のアメダスについては、2008年ころから観測方法・統計方法が変更されて、 10秒ごとの観測値の気温のうち、1日の最高値を最高気温とするようになった。 センサーは以前と同じで、直径=6.4mm(2005年度更新の地点)または6.0mm (2006~2007年度更新の地点)である。時定数は約56秒である。

気象官署(気象台と旧測候所)については、2008年3月からは、従来と同様に受感部 直径=3.2mm、長さ=100mm、通風速度=5m/s、時定数=36秒のものを用いるが、 データ処理の方法が変わった。すなわち、10秒ごと瞬間値の6個のデータの平均値の うちの最大値・最小値(つまり平均化時間=1分間のデータのうちの最大値・最小値) を日最高気温・日最低気温とするようになった(「研究の指針」の 「K23. 観測法変更による気温の不連続」の表23.1を参照)。

本研究で用いる温度センサーは直径=2.3mm、通風速度=5.0~5.5 m/sである。 アメダスや気象官署で用いているセンサーに比べて時定数は短い。

これらの理由により、アメダスの最高気温との比較は難しいが、本研究では以下で 定義する平滑瞬間気温の最高値がアメダスの最高気温に概略同じと見てよい。 本研究では気温変動の標準偏差を用いて最高気温と3時間平均気温の差を確率的・統計 的に表すことにする。

・平滑瞬間気温
気温は直射除けを付けた2重の通風筒内に設置した白金抵抗温度計(電気抵抗= 1000オーム)の指示温度である。指示温度の時定数はセンサーの大きさと、通風速度 に依存する。本観測では、連続する指示温度値5個の移動平均値(1分20秒間の平均値) を平滑瞬間気温と定義する。

・最高気温 Tmax
3時間にわたり観測された平滑瞬間気温の最大値を最高気温とする。測器による時定数 の違いを除くために平滑瞬間値を用いて最高気温をもとめる。ただし、次項の気温 変動の標準偏差の計算では、平滑しない生の瞬間値を用いる。

・気温変動σ
20秒間隔で記録された気温変動の標準偏差を30分ごとに求め、その6回分(3時間) の平均値を気温変動の標準偏差σと定義する。30分ごとに求める理由は、長い時間 のトレンドを除去するためである。

気温変動の大きさσは、本来は摩擦速度、摩擦温度、大気安定度、高度の関数で表 される(近藤、1982;または「研究の指針」の「K75.日だまり の気温ー各地の観測結果」の図75.7とその前後の説明を参照)。

ここで対象としているように、「夏の晴天日の日中、陸面上の不安定、高度1m」の ように条件を限れば気温変動の大きさは「空間広さ」の関数として表すことが可能 である。

図79.5は気温変動σと空間広さの関係である。図中の右下方の青塗りプロットは 夏の渚で観測した海面上の値であり、例外として大気安定度が安定のときの観測値 である。σ=0.074℃(2013年8月18日10:30-13:30)で気温変動は非常に小さい。

図中の破線は全体の傾向を示し、空間広さが狭くなるほど気温変動は激しくなること がわかる。空間広さ>30は、無限に広い場合の相当し、σ=0.3℃程度に収束している。

   気温変動と空間広さ
図79.5 晴天夏の正午前後における、空間広さと気温変動の標準偏差の関係。

破線の傾向から、次のように平均値を読み取ることができる。

σ=0.60℃・・・・・X/h=1
σ=0.57℃・・・・・X/h=2
σ=0.50℃・・・・・X/h=5
σ=0.40℃・・・・・X/h=12
σ=0.30℃・・・・・X/h>30

⊿=(最高気温Tmax-平均気温)とすれば、今回観測した8月の晴天日中の観測値から、 次式が得られる。

⊿/σ=3.2±0.9℃

したがって、

最高気温Tmax=平均気温+(3.2×σ)

から最高気温が推定できる。

以上のことから、狭い空間ほど平均気温が高くなり、最高気温はさらに高くなる。

例:広い空間と狭い空間で観測される平均気温と最高気温
広い所に設置されている理想的な気象観測所で晴天日の正午過ぎに観測された 平均気温=30.00℃、最高気温=30.96℃(σ=0.30℃)だったとする。
この近くに環境の悪い観測点(空間広さ=2)があったとすれば、そこで観測される 平均気温=31.5℃(図79.1参照)、最高気温=33.32℃(σ=0.57℃)と推定される。 平均気温は1.5℃高め、最高気温は2.36℃高めに観測されることになる。

空間広さ≒2の例として岐阜県多治見アメダスがある(「身近な気象」の 「M65.多治見のヒートアイランド観測」 を参照)。


79.5 まとめ

都市の地上気温の分布について、夏の海風が吹く相模湾に面した平塚を例として示 した。

(1)「地区広域的な分布」と「局所的な分布」が重なった気温の構造
都市内には広い所(風通しのよい所)と狭い所(風通しの悪い所)が混在している。 風通しのよい所では、平均気温は図79.4の破線で示すように海岸からの距離の関数で 表され、滑らかな分布「地区広域的な気温分布」となる。海岸からの距離=0~6km の範囲における気温の変化幅は3℃程度である。

これに、各地点の広狭の度合いに応じて「局所的な気温分布」が重なる。重なりの 気温の変動幅は図79.1に示されたように、1~2℃程度、最大3℃と見なされる。

(2)狭い所ほど最高気温は高温
晴天夏の正午前後のように、条件を限定すれば、気温変動の大きさは空間広さの 関数として表される(図79.5)。狭い所ほど気温変動が大きくなり、それに応じて 最高気温が高くなる。空間広さの広・狭による平均気温の差が1~2℃程度に対し、 最高気温の差は2~3℃程度となる。

(3)中都市の正午頃の気温分布模式図
本章で得られた観測に基づき、沿岸中都市における晴天夏の正午頃の平均気温の分布を 図79.6に示した。緑実線は地区広域的な気温分布である。建築物など都市の密集度に 応じて風通しが悪くなり平均気温は高くなりオレンジ破線、または赤破線で表される 値となる。

公的な気象観測所(気象庁管理の観測所など)は、「地区広域的な気温」が観測される ように風通しと日当たりの良い場所に設置されている(ことが本来の姿である)。

平均気温の分布模式図
図79.6 晴天夏の正午前後の沿岸中都市における平均気温と海岸からの距離の関係。


今後の目標
本章では通風式自記温度計2セットを用いて都市の地上気温の分布例を示したが、 4セット以上の測器を配置して同時観測を行えば、より詳細で正確な結果が期待 される。来年の夏を目標に本観測を行いたい。


謝辞

平塚市内にある花菜ガーデン、水神橋東の水田、金目小学校校庭、平塚市の公園、 海水浴場砂浜、ほかにおいて気温の観測をさせていただいた。


参考文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、2009:気温観測の補正と正しい地球温暖化量.アリーナ(中部大学)、 第7号、144-161.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、224号、 25-56.

Kondo, J., Y. Sasano and T. Ishii, 1979: On wind-driven current and temperature profiles with diurnal period in oceanic planetary boundary layer. J. Phys. Oceanogr. 9, 360-372.

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