K78 北の丸露場周辺の森林遮蔽率(4月、9月)


著者:近藤 純正
東京の北の丸公園の森林内に設置されている観測露場の周辺には常緑樹が多く落葉樹も ある。現在行われている試験観測によれば、露場周辺は風が弱く、晴天日中の気温は 市街地に比べて高温に、逆に夜間は低温となる。
気象観測値に影響すると考えられる森林環境(樹高や植生密度)を長期間にわたり 記録していく必要から、現時点(2013年)における露場広さと森林遮蔽率を測定した。 周辺樹木の仰角分布から定義される露場広さの平均半径は約30mであり、その範囲内の 平均遮蔽率は30%(4月)と33%(9月)、露場中心部の開けた空間を除く森林部分の 樹木域遮蔽率は71%(4月)と80%(9月)である。いずれも着葉期の9月が落葉期の4月 に比べて大きい値として得られた。 (完成:2013年10月3日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新記録
2013年9月23日:粗筋の作成
2013年10月3日:まとめの「露場風速」に追記


  目次
        78.1 はしがき
        78.2 仰角の測定
        78.3 森林の遮蔽率の測定
        78.4  諸パラメータの経年変化(2012~2013年)
        まとめ―今後の課題

        付録 北の丸露場の周辺環境の測定データ
      表78.2 仰角と露場広さの測定表(2013年3月22日、9月19日)
      表78.3 森林遮蔽率の測定表(2013年4月9日と9月13日)


北の丸露場における諸パラメータの測定は気象庁観測部の協力によるものである。

測定者
植田 享・小池仁治・古宮章次
近藤純正



78.1 はしがき

東京の北の丸公園は、長期にわたり環境の変化が少ないとして、大手町露場の移転先 と考えられ、2011年8月から試験観測が行われている。その結果によれば、晴天日中の 気温は大手町露場より1℃ほど高温、平均値で0.5℃ほど高温となり、夜間は逆に北の 丸露場が平均値で1℃ほど低温となる。また、相対湿度は大手町露場に比べて4~7月は 約3%、11~1月は約10%、年平均値で約7%高い。

詳しくは、「研究の指針」の「K60.森林の開放空間“日だまり” の気温」の図60.7と、「K54.日だまり効果と気温:東京 新露場」の表54.1を参照のこと。

露場空間の広さについては、露場の基準点から周辺樹木の仰角αとその水平距離 X を 測り、X を「露場広さの実距離」、1/tanα=X/h を無次元の「露場広さ」と定義する。 ここに、h(=X×tanα)はαを測った樹木の高さである。

北の丸露場における風速(規格化した風速:露場通風率)は他の森林内の開放空間に おける値の50~80%で、かなり弱い。その原因の一つとして、X の範囲内に樹高 h よ りも低い樹木が多く存在し、森林内の風を弱めていることが考えられる。詳細は 「研究の指針」の「K63.露場風速の解析-北の丸と大手町」 を参照のこと。

こうした観測事実から、露場周辺の森林環境の変化を長期にわたり記録していく必要 がでてきた。

森林環境の変化は仰角、森林遮蔽率、風速比(=露場風速/測風塔風速)または 露場通風率(=風速比/風速比理想値)の測定から知ることができる。

風速比と露場通風率の測定は2012年6月1日から2013年3月31日まで10ヵ月間行なった (「K73. 露場風速の季節変化―北の丸と大手町」)。

また、仰角と森林遮蔽率の測定は2013年4月(落葉樹の着葉前)に行った (「K65. 北の丸露場の風速減率と森林遮蔽率」)。

本章では、着葉期9月における仰角と森林遮蔽率の測定を行い、今後の課題についても 検討する。


78.2 仰角の測定

露場の基準点(雨量計の南1.6m)から周辺樹木の仰角αを方位5°間隔で測定する。

○方位別の露場広さ=X/h=1/tanα
森林など樹木群の場合、仰角αを測る対象物の高さ h は視野内に見えるもっとも高い 樹高の仰角とし、その樹木までの水平距離がXである。ただし視界内の方位2°範囲の 仰角の平均値を読み取る。

Xは水平距離(m)
h は樹高・建物などの高さ(m)
αは露場の中心(または露場の基準点)から測った h を見上げたときの仰角
露場通風率と X/h の関係を表す場合、X/h は方位±20°範囲の平均値を用いる
(方位5°間隔で測った場合は仰角9点の平均値)

備考1 仰角の測量およびその利用上の注意
(1)仰角α<1.8°のときの取扱い
(2)樹木等の場合、仰角の平均値を読む
(3)露場通風率と露場広さの関係を調べるときの、仰角の移動平均値
(4) 遠くの電柱、露場内の機器などの取り扱い
については、次をクリックして参照のこと。

クリックして次の 「仰角の測量およびその利用上の注意」を参照し、プラウザの「戻る」を 押してもどってください。
仰角の測量およびその利用上の注意


図78.1は露場の基準点から撮影した周囲の写真である。方位150°付近のイチョウが 着葉しており、3月29日の落葉時と違っている( 「K65. 北の丸露場の風速減率と森林遮蔽率」の図65.13の番号37と番号38の間)。 写真では見づらいが、そのイチョウの左方のハナミズキと、露場の西~北側の梅も 着葉している。

周辺写真9月13日
図78.1 北の丸露場(雨量計の南1.6m)から撮影した周辺写真(2013年9月13日撮影)。
各3枚を横に合成したため歪がある。東西南北のフェンスはそれぞれ直線状であるが写真 では途中で折れたように見える。
上から順番に北~東方向、東~南方向、南~西方向、西~北方向。

図78.2は2013年9月13日に測定した仰角(上)と、それをもとに計算された露場広さ (下)の方位角分布である。同図には、以前の2012年6月25日と2013年3月22日に測定 された値も描いてある。以前の値で特に方位180°の仰角が大きいのに対し、 2013年9月13日の仰角が小さくなっているのは、方位180~185°にあった背丈の高い 樹木(仰角=23°)が2013年3月25日に伐採されたことによる。

仰角分布図(上)では明瞭でないが、露場広さの図(下)を見ると、TruPulse(緑線) による測定値が他からずれている。これは、レーザー距離計(TruPulse360)の調子が 不調のまま、測定したことによると思われる。そこで、再度の測定を9月19日に行う こととした。

仰角値の経過
図78.2 仰角(上)と露場広さ(下)の方位角分布。
露場広さの各曲線は方位±20°範囲で移動平均した値である。
9月13日のTruPulse(緑線)による測定値は不正確と見なされ、再測量を行う(図78.3)。

図78.3は再測量の結果である。TruPulse360による再測量では、2013年9月13日撮影の 全天写真に描かれた5°間隔の方位線を参考にして、各方位に見える樹木の仰角を 測った。

今回の仰角測定値(黒線)は前回9月13日の測定値(緑線)より小さく、他の測器による 測定値に近い。その結果、前回9月13日の測定値は精度が悪かったことが確認できた。

3種類の測量器(TruPulse:z=1.55m、セオドライト:z=1.33m、全天カメラ:z=1.5m) の設置高度 z が異なるので、z=1.5mに統一して補正すると、全方位平均の仰角は次 の値になる。

TruPulse・・・・・17.1°→17.2°
セオドライト・・・17.9°→17.6°
全天カメラ・・・・17.8°→17.8°(補正量=0)

セオドライトによる測定値を基準にすると、全天カメラは0.2°大きく、 TruPulseは0.4°小さくなっており、これらは測定精度の範囲内と見なされる。 とくにTruPulseは手ぶれがあるので、例えば、アルミ製の三脚に載せて測れば精度が よくなると考えられる(「K64. 観測露場内の地物の仰角測量」 の図64.21を参照)。

全天カメラに用いる魚眼レンズは、小さい仰角で歪があると予想される (「K64. 観測露場内の地物の仰角測量」の図64.19を参照)。 しかし、北の丸露場では仰角は10°以上と大きいので、仰角測定値の誤差は小さい と思われる。

仰角9月19日
図78.3 仰角(上)と露場広さ(下)の再測量の結果(2013年9月19日測定)。
露場広さの各曲線は方位±20°範囲で移動平均した値である。

78.3 森林の遮蔽率の測定

樹木の枝・葉を地面に投影したときの空間密度(遮蔽率:しゃへいりつ)を測る。 この場合、放射温度計を用いる方法が容易である。

放射温度計(Hioki 社製のMF12T-4811H、波長範囲=8~14μm)を天空に向けて 森林内を歩き平均放射温度を測定し、検定曲線から森林の遮蔽率を求める (詳細は 「K65. 北の丸露場の風速減率と森林遮蔽率」の65.4節を参照)。

天空に樹木の枝・葉が無い場所(遮蔽率ゼロ)では、放射温度は天空大気の放射温度 となり、天空が見えない密な樹木の場所での放射温度は気温にほぼ等しくなる。 森林内では、これらの中間の放射温度が測定される。

今回の測定は2013年9月13日の13:15~14:15に行なった。途中に5回の検定を行った が、最初の2回は検定板が太陽直射光により35℃の高温になっていたので、後の3回分 の検定曲線を使うことにした。なお、この測定中の気温は31.0~32.0℃であり、 後3回の検定時の検定板の温度(放射温度)は30.4~31.7℃であった。

この測定時間中は快晴、天空の状態はほぼ一定に保たれており、3回の平均曲線を用い て放射温度の読みから森林遮蔽率をもとめる(図78.4)。

検定曲線9月13日
図78.4 森林遮蔽率を測定したときの放射温度の検定曲線(2013年9月13日)。

図78.5は測定された遮蔽率の方位角分布である。前回(4月9日)の測定値も重ねて 描いてある。一番上の図は樹木域(Op~X範囲)の測定値:樹木域遮蔽率、2番目は 0~X 範囲の遮蔽率である。9月の値(黒線)が4月(青線)よりも大きくなっている。 全方位の平均値は次の通りである。

樹木域遮蔽率(Op~X 範囲):
9月13日・・・80%
4月 9日・・・71%

遮蔽率(0 ~X 範囲):
9月13日・・・33%
4月 9日・・・30%

森林遮蔽率9月13日
図78.5 森林遮蔽率の測定結果、露場基準点は雨量計の南1.6mとした。
上端:樹木域(Op~X範囲)の樹木域遮蔽率、実線は3点の移動平均値
2番目:露場基準点からXまで(0~X範囲)平均した遮蔽率、実線は3点の移動平均値
3番目:露場基準点からもっとも近い近接樹までの水平距離
下端:露場広さ X の実距離

備考2 0~X 範囲の平均遮蔽率の計算式
各方位の 0~X 範囲の平均遮蔽率は、露場に近い空間には樹木がないことを考慮して 次式によって計算した。

水平距離 0~X範囲の平均遮蔽率:

遮蔽率=「樹木域遮蔽率」・[1-(Op/X)]・・・・・・・・(1)

ここに、X は露場広さの実距離の平均値: 方位5°間隔で測った X (TruPulse360による 測定値)の方位15°幅の平均値である。

備考3 近接樹までの水平距離 Op
Op は露場にもっとも近い樹木の枝葉の真下から測った露場基準点までの水平距離 である。しかし、今回9月13日には、露場基準点からそれらしい樹木までの水平距離 を方位5°間隔で測ったが、誤差が大きかった。

それゆえ、樹木の状態がほとんど変化していない南東と南西側(方位90~135°と 195~270°)のOp は前回3月29日の測定値 Op を利用することとした。その Op の方位 角分布は図78.5の上から3番目に示してある。


78.4 諸パラメータの経年変化(2012~2013年)

2012年6月1日から2013年9月19日までに測定された諸パラメータの平均値を表78.1に まとめた。この表には仰角のほか、露場風速の観測結果も含めてある。わずか1年余 の短い期間ではあるが、仰角と露場広さに経時変化らしい傾向が見える。

仰角αの測定では、測量器の設置高度 z(レンズの露場面からの高さ)が異なるので、 統一高度z=1.5mに換算したときの補正αも掲載してある。

表78.1 諸パラメータ平均値の経時変化一覧表
   着葉(着葉期):2012年6月1日~2012年11月30日
   落葉(落葉期):2012年12月1日~2013年3月31日 
   測定位置(測器の位置):雨量計からの方向と距離

   全天:全天写真、ニコンD3200+シグマ魚眼4.5mmF2.8による測定
      WS:ウインドソニックPGWS-100-1
   セオド:セオドライト、牛方式レベルトラコンLS-25による測定(視界2.7°)
   Tru: レーザー距離計、TruPalse360による測定(視界6.5°)
   距離計:レーザー距離計、ニコンレーザー550AS による測定
   露場広さ1:1/<tanα>・・・「tanαの全方位平均値」の逆数
   露場広さ2:<1/tanα>・・・「各方位の 1/tanα」の全方位平均値
      露場広さ2は、風道があるとき大きくなり、露場通風率と相関関係がよい

      α補正:測定高度=1.5m に統一したときの仰角の補正値
   X: 露場広さの実距離、仰角αを測る樹木までの水平距離
   Op:露場にもっとも近い近接樹枝葉までの水平距離
   風速比:科学技術館屋上の測風塔風速に対する比、ただし測風塔風速>3m/s
      通風率:露場通風率=風速比 / 風速比理想値
   同120~150°:測風塔風向が120~150°のときの露場通風率
   同150~180°:測風塔風向が150~180°のときの露場通風率

 番号     (1)   (2)   (3)   (4)    (5)   (6)    (7)    (8)  (9)  (10)  (11)
  年        2012  2012  2013  2013   2013  2013   2013   2013  2013  2013   2013
 月/日       6/25  着葉  落葉  3/22   3/22  3/29  9/13   9/13  9/19  9/19   9/19
 測定位置    南1m              南東1m 同左  同左  南1.6m 同左 同左 同左  同左
 測定高度  0.5m   2m    2m   1.4m   1.5m   ...   1.5m   1.6m  1.55m 1.33m  1.5m
 測定器    全天  WS    WS   セオド 全天  距離計 全天  Tru   Tru  セオド 全天


仰角α(°)  18.0   ...   ...  17.6   17.4   ...   17.4   16.1  17.1  17.9   17.8  
同偏差(°)   3.9   ...   ...   3.6    3.6   ...    3.6    3.4   3.7   3.8    3.7
露場広さ1    3.06   ...   ...  3.13   3.18   ...   3.18   3.45  3.25  3.09   3.10 
露場広さ2    3.23   ...   ...  3.30   3.36   ...   3.34   3.63  3.43  3.26   3.26
同 偏差      0.81   ...   ...  0.83   0.86   ...   0.78   0.87  0.82  0.79   0.77

α補正(°)  16.3   ...   ...  17.4   17.4   ...   17.4   16.3  17.2  17.6   17.8

X(m)       ...    ...   ...  28.9   ...    ...   ...    27.4  29.9  ...    ...
偏差(m)    ...    ...   ...  13.1   ...    ...   ...    10.8  12.6  ...    ...

Op(m)      ...    ...   ...  ...    ...    16.1  ...    ...   16.9  ...    ...
偏差(m)    ...    ...   ...  ...    ...     4.5  ...    ...    4.7  ...    ... 

風速比        ...   0.211 0.232 ...    ...    ...   ...    ...   ...    ...   ...
同120~150°  ...   0.202 0.247 ...    ...    ...   ...    ...   ...    ...   ...
同150~180°  ...   0.198 0.239 ...    ...    ...   ...    ...   ...    ...   ...
通風率(%)  ...   29.2  31.2  ...    ...    ...   ...    ...   ...    ...   ...
同120~150°  ...   28.0  34.1  ...    ...    ...   ...    ...   ...    ...   ...
同150~180°  ...   27.3  33.0  ...    ...    ...   ...    ...   ...    ...   ...

備考1: 番号(8)はTruPulse360の不調により測定値は使用せず、再測量(9)する。
備考2: 番号(11)は焦点調整不良(ピンボケ)のため精度が低い可能性あり。
備考3: 測定高度が0.1m低い場合(X=30m, h=10m)、仰角は0.18°大きく測定される。
        測定高度が1m低い場合(X=30m, h=10m)、仰角は1.71°大きく測定される。
備考4: 季節(着葉・落葉)変化が明瞭なのは、風速比または露場通風率である
     「K73.露場風速の季節変化ー北の丸と大手町」の図73.5を参照。


図78.6は仰角の全方位平均値(補正α)の経時変化である。小プロットは生の測定値、 大プロットは補正値である。

2013年3月22日の測定によれば、露場広さの実距離 X の平均値=28.9m、樹高の 平均値(測量器のレンズ高度を基準のゼロとしたときの平均樹高)h=8.8mである (「K65. 北の丸露場の風速減率と森林遮蔽率」の表65.5 参照)。

この数値を参考にして、2012年1月1日に X=30m、h=9mの樹木が1年間当たり0.3m/年 で成長するとしたときの仰角の経年変化を緑の点線で示した。

仰角の経年変化
図78.6 仰角の全方位平均値の経年変化。
小印:仰角の実測値(測定器の設置高度が異なる)
実線と大印:測定高度=1.5mに統一したときの仰角の補正値
緑破線:樹高9m(2012年1月1日)が 0.3m/年で成長したときの仰角の計算値 (X=30mとする)

図78.6によれば、2012年6月25日から2013年3月22日にかけての変化が大きいのは、 測定誤差による可能性もあるが、露場の開設に際し周辺樹木の一部の先端を切り落と す作業が行われた。 その部分が急成長したことにより、仰角が大きく変化した可能性もある。

まとめ(今後の課題)

気象観測所は、地域を代表する気象を観測するためのもので、日当たりと風通しがよい 所に設置される。周辺地物の影響が無視できる理想的な観測所は周辺地物の仰角が 1.8°以下である。例えば水平距離 X=100mの所の樹木・建物の高さ h が3m以下、 つまり露場広さ X/h が約30以上である。しかし、日本では理想に近い観測所 は稀で、X/h>8であれば、やや好環境の観測所と呼べるだろう。

観測環境を一定に保つことが重要であり、測定すべき環境パラメータとして次の 3項目がある。

(1)露場広さ範囲内の森林遮蔽率の測定: 北の丸露場について数年ごとに実施
(2)周辺地物の仰角と水平距離を方位5°間隔で測定: 全観測所について数年ごとに実施
(3)露場風速の観測: 重要な気候観測所について数年ごとに同じ季節に実施

今回は北の丸露場において(1)と(2)を行い、すでに測定済みの諸パラメータの結果 も含めると以下のようにまとめることができる。

森林遮蔽率
北の丸露場周辺の森林遮蔽率を測定した。周辺は大部分が常緑樹であるが部分的に 落葉樹もある。着葉期の9月の森林遮蔽率は80%(樹木域)と33%(露場近くの 開放空間を含む平均遮蔽率)であり、着葉前の4月の測定値(71%、30%)より、 いずれも大きい値として得られた(図78.5)。

今回の測定方法では、放射温度計を天空に向けたまま樹木の下を歩きながら平均放射 温度を測ったが、次の2つの理由により、高精度の測定は難しい。

その1: 露場の近くには高さ1mほどの生垣が数か所あり、測るべき範囲を自由に 歩けない。そのため、方位15°間隔ごとの森林遮蔽率の測定精度は低いと 考える(表78.3)。

その2: 樹木群の縁は不規則な形状であり、近接樹までの距離 Op を正確に決める ことは難しい。Op が不正確であれば、パラメータ(1-Op/X)が不正確となり、 式(1)から計算される遮蔽率の精度が低くなる。

これらの精度を上げるには、測定に費やす時間を現在の数倍ほどに増やす必要がある。

なお、森林遮蔽率の測定が必要な観測所は北の丸露場に限られており、他の観測所では 不要である。

仰角の経時変化
仰角の測定では、魚眼レンズを用いた全天カメラ、セオドライト、及びTruPulse360の 3種類を用いた。2012年6月25日から2013年9月19日までの1年余の短い期間であるが、 経時変化らしい傾向が見える(図78.6)。

北の丸露場における仰角や露場広さの測定結果は、全国の観測所で測定する際の 参考となり、問題点もわかるので、当面は年に1回の頻度で測定を続けることが 望ましい。

魚眼レンズは低い仰角で歪があり、レンズごとに異なると考えられるが、仰角測定は 環境変化を知ることが目的であるので、同じレンズを用いて同じ方法で 長期間にわたり写真として記録していくことが重要となる。

露場風速(露場通風率)
図78.5の樹木域遮蔽率、遮蔽率の図と、表78.1のWSの着葉、落葉期の風速比・通風率 を見比べてみると、風上側よりも露場のすぐ近くまで樹木のある風下側の遮蔽率の 変化が風速比・通風率に効いているように思われる。

風下側の影響が効くことは、 すでに津山や深浦の露場風速の解析でもわかったことである (「K66. 露場風速の解析ー深浦御仮屋」「K68. 露場風速の解析ー深浦2」「K71. 露場風速の解析ー津山1」「K72. 露場風速の解析ー津山2」)。

露場風速は、1シリーズにつき数ヵ月以上にわたり長時間の観測を行う(データ数が多い) こともあり、樹木の成長や季節による落葉・着葉の影響が明瞭に現れる (表78.1の番号(2)、(3)の列を参照)。さらに、 「K73. 露場風速の季節変化―北の丸と大手町」 の図73.5も参照のこと。

つまり、露場風速は環境変化に敏感であり、精度の高い信頼できるデータとして得られ る。それゆえ、重要な気候観測所については、数年に1回の頻度で決まった季節(例えば 降雪時間の少ない4~10月)に露場風速の観測を行うことが望ましい。



付録 北の丸露場の周辺環境の測定データ

表78.2 仰角と露場広さの測定表(2013年3月22日、9月19日)
  α(°):仰角、周辺樹木の最大値、セオドライトで測定
 X(m): αの目標物までの水平距離(=露場広さの実距離)、レーザー距離計で測定
  X/h=1/tanα: 露場広さ(無次元)
  X/h の±20°範囲平均:前後9方位の移動平均(露場風速の解析に利用)
   測量地点は雨量計から南東1m(3月)、雨量計から南1.6m(9月)
      セオドライトの望遠鏡の高さは1.4m(3月)、1.33m(9月)

     3月  3月  3月   3月         9月  9月  9月   9月
 方 位   α    X    X/h    X/h の±20°   α    X     X/h    X/h の±20°
  °    ° m  1/tanα   移動平均       °  m  1/tanα   移動平均

   0      22.4  22.2   2.43     2.91        23.0  24.9  2.36    2.91          
   5      21.6  24.2   2.53     2.87        23.0  25.3  2.36    2.93
  10      19.8  26.3   2.78     2.92        20.9  27.7  2.62    2.95
  15      20.1  22.5   2.73     2.97        20.2  23.4  2.72    2.91
  20      19.5  24.5   2.82     2.94        18.7  25.2  2.95    2.87
  25      17.6  17.2   3.15     3.00        17.2  17.7  3.23    2.92

  30      16.2  18.2   3.44     3.02        15.8  43.2  3.53    2.95
  35      15.3  15.4   3.66     3.02        17.9  15.9  3.10    2.92
  40      18.7  16.1   2.95     2.98        18.7  15.1  2.95    2.87
  45      18.7  14.2   2.95     2.93        19.4  15.2  2.84    2.80
  50      20.3  18.8   2.70     2.87        21.0  16.7  2.61    2.73
  55      19.7  20.7   2.79     2.88        23.5  19.2  2.30    2.70

  60      23.2  23.0   2.33     2.80        23.8  22.9  2.27    2.66
  65      22.9  24.0   2.37     2.79        23.0  23.6  2.36    2.63
  70      20.9  24.3   2.62     2.81        20.9  25.0  2.62    2.68
  75      15.8  19.2   3.53     2.88        17.0  18.2  3.27    2.72
  80      18.9  20.8   2.92     2.92        20.1  20.4  2.73    2.82 
  85      18.9  20.8   2.92     3.10        20.6  21.4  2.66    3.01

  90      17.7  22.9   3.13     3.39        16.8  21.6  3.31    3.24
  95      17.0  23.0   3.27     3.59        18.5  21.8  2.99    3.41
 100      17.3  22.0   3.21     3.71        17.4  21.5  3.19    3.51
 105      14.2  38.8   3.95     3.82        14.3  37.6  3.92    3.62
 110      11.5  42.1   4.92     3.93        12.6  39.9  4.47    3.76
 115      12.8  46.8   4.40     4.05        13.5  44.8  4.17    3.85

 120      12.2  45.0   4.63     4.04        13.6  45.8  4.13    3.90
 125      14.3  45.5   3.92     4.01        14.9  44.5  3.76    3.85
 130      14.2  51.4   3.95     4.01        14.4  49.8  3.90    3.77
 135      13.5  53.5   4.17     4.07        13.8  50.9  4.07    3.84
 140      17.4  28.6   3.19     4.19        16.2  27.8  3.44    3.97
 145      18.6  29.4   2.97     4.28        19.5  27.1  2.82    4.09

 150      14.3  29.1   3.92     4.50        17.4  26.8  3.19    4.24
 155      10.4  56.1   5.45     4.54        11.1  27.8  5.10    4.29
 160      10.3  21.6   5.50     4.33        10.6  53.4  5.34    4.30
 165      10.5  23.6   5.40     4.26        10.9  23.3  5.19    4.31
 170       9.6  25.6   5.91     4.30        11.1  22.6  5.10    4.38
 175      13.0  26.5   4.33     4.27        12.9  55.8  4.37    4.36

 180      23.6  16.5   2.29     3.93        13.6  55.1  4.13    4.06
 185      21.5  16.7   2.54     3.59        15.6  53.5  3.58    3.70
 190      16.7  55.6   3.33     3.25        16.5  56.7  3.38    3.37
 195      15.4  57.8   3.63     2.86        18.0  20.0  3.08    3.03
 200      22.5  23.1   2.41     2.70        22.8  20.4  2.38    2.80
 205      22.4  22.2   2.43     2.78        25.3  21.6  2.12    2.65

 210      22.7  22.1   2.39     2.86        24.4  21.9  2.20    2.58
 215      22.9  22.1   2.37     2.88        26.1  21.3  2.04    2.60
 220      18.8  30.3   2.94     2.78        24.0  22.5  2.25    2.55
 225      18.6  31.3   2.97     2.79        19.3  30.1  2.86    2.56
 230      17.0  41.1   3.27     2.81        18.7  28.0  2.95    2.58
 235      16.0  31.7   3.49     2.91        15.9  39.6  3.51    2.64

 240      19.9  19.7   2.76     3.03        20.6  58.5  2.66    2.79
 245      21.8  19.5   2.50     3.02        21.9  19.9  2.49    2.89
 250      21.2  20.5   2.58     3.02        24.2  19.8  2.23    2.87
 255      16.9  45.0   3.29     3.07        19.8  19.6  2.78    2.91
 260      16.2  35.5   3.44     3.22        16.3  21.8  3.42    3.06
 265      19.2  19.8   2.87     3.28        17.8  36.8  3.12    3.16

 270      18.4  20.9   3.01     3.43        20.3  20.5  2.70    3.28
 275      15.2  50.2   3.68     3.59        17.0  21.7  3.27    3.46
 280      11.7  67.6   4.83     3.59        11.5  43.9  4.92    3.68
 285      16.8  26.8   3.31     3.58        15.9  28.3  3.51    3.60
 290      14.5  46.5   3.87     3.57        15.8  27.0  3.53    3.78
 295      14.1  45.6   3.98     3.54        14.3  46.6  3.92    3.81

 300      16.6  17.3   3.36     3.37        12.0  47.0  4.71    3.71
 305      16.7  17.2   3.33     3.13        15.7  18.7  3.56    3.50
 310      19.7  23.5   2.79     3.07        14.3  49.1  3.92    3.44
 315      20.6  21.5   2.66     2.96        18.9  24.0  2.92    3.39
 320      24.6  42.7   2.18     2.91        22.5  43.6  2.41    3.29
 325      20.2  19.7   2.72     2.87        18.6  44.0  2.97    3.15

 330      20.3  18.8   2.70     2.85        18.3  22.1  3.02    3.13
 335      19.1  35.9   2.89     2.90        17.9  20.8  3.10    3.07
 340      15.9  15.4   3.51     2.87        18.3  31.9  3.02    3.00
 345      18.4  16.1   3.01     2.91        16.4  16.7  3.40    3.00
 350      17.3  16.2   3.21     2.92        16.3  17.0  3.42    2.96
 355      17.3  15.3   3.21     2.92        16.7  17.4  3.33    2.92

 方 位   α    X    X/h     X/h の±20°   α    X    X/h     X/h の±20°
  °    °  m  1/tanα    移動平均     °  m  1/tanα    移動平均

全方位平均17.6  28.9   3.30     ....        17.9  29.9  3.26     ....
標準偏差   3.6  13.1   0.83     ....         3.8 12.6  0.79     ....



表78.3 森林遮蔽率の測定表(2013年4月9日と9月13日)
  X (m):露場広さ、方位間隔15°範囲の平均値
  Op(m):露場近くの開けた範囲、露場基準点から近接樹までの距離
 遮蔽率(%):検定板による検定曲線から求めた遮蔽率、樹木域 Op~X 範囲の平均値
 遮蔽率平均値(%):露場基準点から X までの平均値=遮蔽率×[1-(Op/X)]
 露場基準点:雨量計の南東1m(4月)、雨量計の南1.6m(9月)

          4月 4月  4月   4月  4月       9月  9月  9月   9月  9月
 方 位   X   Op   1-(Op/X) 遮蔽率 遮蔽率      X   Op  1-(Op/X) 遮蔽率 遮蔽率
  °   m  m            Op~X  平均値      m  m            Op~X 平均値

  0~15    24   14    0.42      91     38        26   14    0.45      95    43           
 15~30    21   15    0.29      89     25        25   14   0.47      96    45

 30~45    16   12    0.25      76     19        20   13    0.37      95    35
 45~60    19  11    0.42      78     32        18   13    0.31      96    29

 60~75    23   11    0.52      57     29        23   12    0.46      94    44
 75~90    21   12    0.43      71     31        21   13    0.35      95    34

 90~105   26   16    0.38      88     33        24   16    0.34      96    33
105~120   43   27    0.37      85     32        42   27    0.36      34    12

120~135   48   28    0.42      42     18        48   28    0.41      64    26
135~150   35   19    0.46      44     20        31   25    0.19      62    12

150~165   33   18    0.45      84     38        35   17    0.52      96    50
165~180   31   18    0.42      65     27        39   22    0.45      73    33

180~195   36   20    0.44      70     31        49   22    0.55      56    31
195~210   30   19    0.37      73     27        21   19    0.10      70     7

210~225   26   17    0.35      84     29        23   17    0.27      75    20       
225~240   32   15    0.53      66     35        37   15    0.60      82    49

240~255   26   14    0.46      60     28        26   14    0.47      74    35
255~270   30   16    0.47      64     30        26   16    0.39      83    32

270~285   46   19    0.59      67     40        30   19    0.36      79    29
285~300   38   14    0.63      87     55        37   16    0.57      73    42

300~315   22   14    0.36      28     10        34   14    0.59      77    46
315~330   27   12    0.56      59     33        37   13    0.66      77    51

330~345   22   11    0.50      70     35        24   12    0.49      82    40
345~360   17   14    0.18      93     17        18   14    0.23      95    22

全方位平均 29   16    0.44      71     30        30   17    0.42      80    33


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