K64.観測露場内の地物の仰角測量
著者:近藤 純正
長期的な気候変化を観測する気候観測所は、長期にわたり観測環境を一定に保た
なければならない。それには、観測露場の周辺に存在する地物の仰角を測定し、
樹木等の高さなどが大きく変化しないよう管理することである。仰角の精度は1°程度
あればよく、精密測量ではないが、注意しなければ大きな誤差となり、観測環境の
管理が疎かになる。レーザー距離計(トゥルーパルス360)を用いる場合、測量現場
において測量直前に「水平角度コンパスキャリブレーション」を行わなければ、
必要とする方位角・仰角の精度は得られない。
測量器を設置する位置・地面高度はいつも一定とし、磁気偏角の補正も正しく行う。
測量器の方位角・仰角の精度が下がらぬように、周辺には少なくとも4方位
(または6~12方位)の一定高度に20年以上の長期にわたり「方位・水準標識」を
固定しておく。(完成:2012年9月30日)
本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、
引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを
明記のこと。
更新の記録
2012年8月5日:訂正加筆
2012年9月3日:訂正、加筆
2013年5月2日:本章のファイル消失に気づき、復活再現
目次
64.1 はしがき
仰角測量の目的
本研究の動機
64.2 仰角の比較測量
(2-1) 測量の概要と注意点
(2-2) レーザー距離計とセオドライトの比較
(2-3) 魚眼レンズとセオドライトの比較
(2-4) 仰角の方位10°幅平均値と瞬間値の差
64.3 方位・水準標識設置後の仰角の比較測量
(3-1)測量方法の改良点
(3-2)レーザー距離計とセオドライトの比較
(3-3)魚眼レンズとセオドライトの比較
(3-4)魚眼レンズの歪補正後の比較
(3-5)64.3節のまとめ
64.4 方位角の比較と三脚の使用
(4-1)方位角の比較(青森)
(4-2)三脚の使用
64.5 まとめ
付録 露場の草刈り前後の露場風速
追記(2013年5月2日)
本章では、仰角測量は原則として方位10°間隔で行う方法に従っている。その後、
各地で測量した結果、方位10°間隔では誤差が大きくなる観測所が少なからず
存在することがわかった。
それゆえ、2013年以後の仰角測量では、全方位360°範囲について方位5°間隔で
行うことに変更する。
64.1 はしがき
重要な気候観測所の周辺環境を管理するには、周辺地物の「仰角」を測量することと、
露場面上2m程度の高度で「露場風速」を観測することが必要である。「仰角」の測量
は周辺30~200m程度の範囲を、「露場風速」は周辺0~50m程度の範囲を管理する
ためのものである。
周辺30~200m範囲に生えている樹木等が成長すると、仰角が変化する。樹木等の高さ
を測る精度は±10%でよく、樹高が30%変化すれば環境変化とみなす。露場風速の
精度は±5%程度でよく、10%の変化があれば環境変化とみなし、露場内の気温等の
観測値に影響が現れはじめると考えてよい。
注1: tan10°=0.176、tan11°=0.194、比0.194/0.176=1.10、したがって、
周辺地物の仰角が10°程度の場合、周辺地物の高さの精度10%は仰角を1°の精度
(個人差、測量機器の違いを含む)で読みとればよいことになる。
本章では、露場の環境管理の「仰角」と「露場風速」のうち、「仰角」を長期に
わたり一定の方法で測量する際に生じる問題点について議論する。これは気象庁が
今後、観測所の環境管理の指針・仰角測定の手順書を作成する際の参考として役立つ
ものであり、筆者と同庁観測部と気象研究所が共同で行った。
(a)仰角測量の目的
重要な気候観測所で露場周辺の地物の仰角αを測る目的には次の2つがある。
その1:周辺環境の管理
観測所の周辺環境が時代によって変化しないか、それを知るために周辺地物の仰角を
測る。変化した場合、樹木の成長などによるものであれば、周辺住民にお願いし
伐採・剪定を行い、可能な限り環境を一定に保たなければならない。
仰角を長期にわたり同じ方式で測り、記録に残さなければならない。毎年測ると
しても、1観測所の50年間の記録は数ページに収めることができる。
必要な仰角の精度は1°であるが、個人差・機器による誤差を含めた誤差はどの程度
あるか、あらかじめ知っておきたい。
その2:仰角と露場風速との関連づけ
露場で観測される気温を決めるのは露場周辺の風速であり、その代表値は露場の
中央付近の高度1.5~2mで観測される「露場風速」である。「露場風速」については
他の章で論じているように、露場周辺の仰角の方位角分布及びごく近傍の環境変化
(雑草などの繁茂)に依存する。ごく近傍(0~50m)の環境変化は仰角の変化には
現れず、露場風速の変化として現れる。
これまで調べてきた結果によれば、現実の風向は左右に振れており、標準偏差
20~30°程度あり(観測所周辺の環境等に依存)、「露場風速」は測風塔風向
の ±20° 範囲の平均値と相関関係が高い。つまり、「露場風速」は方位角10°間隔
で測った5方位の平均仰角と比較する。正しくは1/tanα=X/h(α:仰角、X:露場の
広さ、h:樹木・建物の高さ)の平均値と比較する。
仰角αの測量において、方位10°ごとの平均値を読むか、瞬間値を読むか?
すなわち、
(1)方位角10°幅の平均仰角αについて、1/tanαの5個の平均値
(2)方位角10°ごとの仰角の瞬間値αについて、1/tanαの5個の平均値
の2通りがあり、両者は近似的に等しいが、その違いはいくらあるか、あらかじめ
知っておきたい。もし違いが大きい場合、改善方法を見つけたい。
注2:仰角の瞬間値
これまで使用してきたセオドライト(牛方式のポケットコンパス: レベルトラコン
=LS-25、望遠鏡の倍率12倍)の視野角は2°40’ であり、その視野内に見える
地物の仰角の平均値を読んでいる。したがって、仰角の「瞬間値」は視野2°程度の
範囲の仰角平均値を意味する。樹木など雑多な物体の仰角の「瞬間値」を読むとき
には、方位角2°幅の平均仰角を読み取ることにしよう(後掲の図64.14を参照すると、
方位角3°幅が写真に示されている)。
(b) 本研究の動機
静岡地方気象台の露場風速と周辺地物の仰角の方位分布との関係を解析したとき、
それまでに得られている実験式と大きく違う結果となった。その原因を探るうちに、
仰角の測量値に誤差があることに気づき、他の観測所6か所でも測量してみた。
気象台測量値と筆者らによる測量値を比較したところ、以下に示すように、仰角に
大きな違い(誤差)があり、これでは観測所の周辺環境の管理には役立てることが
できないと思った。
図64.1~64.6は各地の観測所で測量した仰角の方位分布、黒線は気象台による測量値、
赤線は筆者らによるものである。仰角を測量した露場内での位置(測量地点)は、
両者で多少のずれがあり、また測量した月日も違うので、測量が仮に正確に行われた
としても、両者は厳密には一致しないが、それよりも両者間の違いが大きい。
気象台測量値の顕著な特徴は、「仰角ゼロ」の領域が多く見られることである。
ここには示さない他の観測所でも、気象台測量値に仰角ゼロが多地点で見られる。
都市内にある日本の気象観測所において、周辺に何も存在しない場合に相当する
「仰角ゼロ」であることは、ほとんどない(あってもごくまれ)と考えられ、
このことは作業のミスかそうでなければ、仰角測定の作業方法(何をどこまで
測定するか)や測器に問題があると思われる。
これが、本研究を行う動機である。

図64.1 秋田地方気象台の露場周辺の仰角分布

図64.2 盛岡地方気象台の露場周辺の仰角分布

図64.3 仙台管区気象台の露場周辺の仰角分布

図64.4 静岡地方気象台の露場周辺の仰角分布

図64.5 高知地方気象台の露場周辺の仰角分布

図64.6 室戸岬観測所の露場周辺の仰角分布
表64.1 露場周辺地物の仰角測量値の誤差
観測所 気象台測量値 近藤らの測量値 差±標準偏差
(360°平均) (360°平均)
秋 田 10.8° 10.2° 0.4±11.8°
盛 岡 4.1 5.7 -1.6± 8.8
仙 台* 17.1 16.1 -0.6± 3.6
静 岡 14.4 14.0 0.4±10.3
高 知 15.4 12.6 2.8± 7.8
室戸岬 14.6 10.9 3.7± 9.3
*露場の北方に見える鉄塔を除いた場合の比較
表64.1は図64.1~64.6に示した6観測所のまとめである。誤差が大きくて、現在行われ
ている測量方法では重要な気候観測所の周辺環境の維持管理に使えないことがわかる。
後で示すように、気象庁が使用しているレーザー距離計(阪神交易取扱、トゥルパルス
360:望遠鏡倍率=7倍、測定可能距離=0~1000m、傾斜精度=±0.25°、方位角精度
=±1°)では、測量直前に「水平角度コンパスキャリブレーション」を行うことを
推奨している。これをせずに測ると、大きな誤差が生じることがある。本章では、
失敗を繰り返さないために、こうした経過の記録も残すものである。
注3:同じ目標物を測量したときの個人差・機器の違いによる差
室戸岬において2012年8月3日、筆者は牛方のセオドライトで測量し、高知地方気象
台長(若林和夫氏)はレーザー距離計(トゥルパルス360)によって同時に同じ場所
から測量した。レーザー距離計では、筆者の用いたセオドライトの視野内に見える
目標物を確認し、それと同じ方位・仰角を測量した。対象物はおもに、乱雑な樹木
である。
この場合の両者による誤差は
個人差+器械による差=0.4°±0.4°
であり、この程度の誤差ならば、問題にしなくてよい。
レーザー距離計は内蔵する方位センサー(電子コンパス)で方位を決めている。
最近の電子機器は便利であり、精密器に見えるが使い方によって弱点が現れる心配
がある。心配していたところ、次の記事を目にした。
注4:便利な電子機器に注意
筆者もレーザー距離計を入手すべく、インターネットで探していると、上記の
レーザー距離計(トゥルパルス360)の欠点が書かれた記事があった。「いろいろな
原因で狂いやすい磁気コンパスを用いている。」「通常のトランシットに備わる
オーバック帰零式の水平分度測定は不可能で、使い途・場所はおのずから限定
される。」とあった。
この記事を全面的に信用するわけではないが、一般にどんな測器でも絶対的なものは
なく、使用に際して誤差が生じないような安全対策をしておかねばならない。
本章では、こうした考えから、仰角測量の際に注意すべき点を説明している。
64.2 仰角の比較測量
(2-1) 測量の概要と注意点
2012年8月23日午後、つくば市にある気象研究所の露場において、セオドライト、
魚眼レンズ、レーザー距離計の3種類の測器を用いて周辺地物の仰角分布の比較測量
を行った。
セオドライト(測定者:近藤純正)
牛方式ポケットコンパス=レベルトラコンLS-25、望遠鏡倍率=12倍、
視界=2°40‘、望遠鏡気泡管=高感度両面型5’/2mm反射鏡付、オーバック帰零
レバー付、水平角分度=90mm、分画1°遊標読み(副尺)5’、高低角分度分画1°
設置したときの望遠鏡の地面からの高さ=1.32m
レーザー距離計(測定者:植田享・小池仁治)
トゥルーパルス360、望遠鏡倍率=7倍、視界=6.5°、測定可能距離=0~1000m、
精度=0.3~1m(目標物の反射率に依存)、仰角精度=±0.25°、方位角精度
=±1°
設置したときの望遠鏡の地面からの高さ=1.5m
魚眼レンズ1(測定者:萩野谷成徳・斎藤篤思)
フィシュアイ・ニッコール、焦点距離=8mm、最大口径比=1対2.8、レンズ構成
=8群10枚、画角=180°、有効画面サイズ=23mm円形
設置したときのレンズの地面からの高さ=1.4m
魚眼レンズ2(測定者:植田享・小池仁治)
設置したときのレンズの地面からの高さ=1.5m
図64.7は比較測量の風景写真、図64.8~図64.10は測量地点の近くからそれぞれ
北~東方向、南東~南西、及び南西~北西方向を撮影した写真である。この日は快晴
で日射が強く、つくば(館野)観測所の最高気温は35.1℃の高温であったが、風が
適当な強さであった。

図64.7 気象研究所露場における比較観測の風景

図64.8 露場の周辺、北~東方向の写真(3枚を横に合成してずれもある)。

図64.9 露場の周辺、南東~南西方向の写真(3枚を横に合成してずれもある)。

図64.10 露場の周辺、南西~北西方向の写真(3枚を横に合成してずれもある)。
比較測量では様々な試験が行われた。主な結果について説明する。
測定時の注意:
セオドライトもレーザー距離計も内蔵する磁石によって方位を決めている。そのため、
磁性に影響する大きな鉄塔などが無い場所で使うこと。ほかの注意点として、次の
ような物は0.5m以内で影響があるので、1m以上離れた場所に置くこと。
(内蔵磁石への影響)
(1)携帯電話(電源onでもoffでも影響する)
(2)デジタルカメラ
(3)スチール巻尺
(4)金属製時計バンドなど、磁気に影響する物体
(距離優先モード)
近距離優先モードと遠距離優先モードを切り替える場合、測量者の思いとレーザー光の
反射物が異なることがあるので、距離の指示値と目測距離が一致しているか絶えず
確かめながら測量すること。特に電線や小枝など小物体が視野内に入るときに注意
のこと。ただし、レーザーは距離を測るときのみ使っており、方位を測るときは
この注意は不要である。
(2-2) レーザー距離計とセオドライトの比較
図64.11はセオドライトとレーザー距離計によって測られた仰角αと、それより
計算される露場の広さ X/h について方位分布を比較したものである。

図64.11 レーザー距離計とセオドライトによる測量値の比較。
上:仰角の方位角分布。
中:露場の広さ X/h=tanαについての方位別(プロット)と5点移動平均(折れ線)。
下:露場の広さ5点移動平均値の差「(レーザー距離計値-セオドライト値)/セオドライト値」、
ただし縦軸の差は%で表示してある。南寄りの方位では差(誤差)が20%以上と
なり実用にならない。
周辺の地物の状態を撮影した図64.8~64.10を参照しながら、図64.11を見てみよう。
仰角の比較では、方位80°~180°(東~南)の方向でセオドライトとレーザー
距離計による値が大きく異なる。その原因として次の2つが考えられる。
(1)レーザー距離計の方位角の誤差、特に東と西の方位での狂いが大きい。
(2)南の方位に、樹木が疎な間隔で生えている(図64.9)。
レーザー距離計に方位角の狂いがあっても、仰角が方位によって大きく変化しない
周辺環境では、仰角の測量値の誤差は小さが、そうでない場合には誤差は大きくなる。
図64.11に示すように、誤差の大きい測量値では観測所の周辺環境の管理・記録は
不完全となる。
次に、露場風速との関係をみるとき、このような誤差を含む測量値が利用できるか
どうかを検討してみよう。この場合は露場の広さ(X/h)について方位±20°範囲
(50°範囲)の移動平均値と比較する。図64.11の下図によれば、方位140~190°で
誤差は30%以上であり、利用するのは望ましくない。
いっぽう、方位140~190°以外の範囲では誤差はおおよそ20%以下であり、露場風速
の解析には利用できる。
以上の検討から、測量において方位を正しく決めることが重要であり、後述する
ように、今後は露場周辺に「方位・水準標識」を設置しておくことにする。
(2-3) 魚眼レンズとセオドライトの比較
魚眼レンズの三脚への取り付けに際して、方位は簡単な磁石で、カメラの水準は
水準器で決めた。使用した魚眼レンズでは、全天が1枚の画像に入りきれないので、
3方向の画像を撮影し、それら3画像を重ね合わせて1枚の全円画像にした。
精度よく仰角を読み取るには、東西南北に設置した方位・水準標識(目印)を基準
にして10°毎に方位線と仰角線を書き込む。このとき全天カメラのレンズの端の
設置地上高度1.4mと同じ水平面上が仰角零度になるように標識の高さを決めておく。
しかし、今回は標識を設置しないで撮影し、全円画像を作成した。
ここでは、画像をみて大体この辺であろう、として仰角ゼロの円を描いた。当然、
この円の半径が変われば仰角も変わりうる。この全天カメラの画像は等距離射影方式
なので円の中心からの距離と天頂角が正比例の関係となる。仰角線は、外側から
0、10、20、・・・60°まで描いた。
図64.12は魚眼レンズとセオドライトによる測量値の比較である。レーザー距離計の
場合(図64.11)と比べると、特に大きな差が生じる方位はないが、全体的な誤差の
傾向は同じである。

図64.12 魚眼レンズとセオドライトによる測量値の比較。
上:仰角の方位角分布。
中:露場の広さ X/h=tanαについての方位別(プロット)と5点移動平均(折れ線)。
下:露場の広さ5点移動平均の差「(魚眼レンズ値-セオドライト値)/セオドライト
値」、ただし%で表してある。差(誤差)が20%以上の方位が全方位の1/3の範囲に
ある。
環境管理に利用するには、仰角の測定精度を高めなければならない。それには前述の
標識を設置することである。一方、今回の測量値を露場風速の解析に用いる場合、
図64.12の下図に示すように、方位45°付近、180~230°、310~340°付近で移動
平均値の差が20%以上(37%未満)となっている。つまり全方位の 1/3 の範囲で
誤差が大きいが、誤差の小さな残りの2/3の範囲では露場風速の解析に利用できる。
(2-4) 仰角の方位10°幅平均値と瞬間値の差
魚眼レンズ1で天空を撮影した画像には10°毎に方位線と仰角線が描かれている。
前項の図64.12では、この画像から10°ごとの瞬間値(ただし、方位2°幅の平均値)
を読み取って解析した。こんどは各方位の±5°範囲の平均(10°幅平均)仰角を読み
取り、瞬間値と比較する。
図64.13の緑の四角と破線は前項の図64.12の破線と同じもの(瞬間値)、褐色の三角
と実線は10°幅平均値、小丸印は瞬間値と10°幅平均値の差である。

図64.13 魚眼レンズ1による仰角の瞬間値の読みと10°幅平均値の比較。
緑色の四角と破線:仰角の瞬間値
褐色の三角と実線:仰角の10°幅平均値
小丸印:差=(瞬間値)-(10°幅平均値)
南の方向には背丈の高い樹木が疎に生えており(図64.9)、読み方の違いによって
仰角が大きく異なり、方位160~180°では仰角に3~11°の差がある。その他の方位
では、読みの違いはおおよそ±1°の範囲内に入っている。
なお、仰角の360°範囲の平均値と標準偏差、及び差についてまとめると次の通りで
ある。
仰角の瞬間値の平均値=6.4°±3.4°
10°幅平均の平均値=5.7°±2.6°
差(瞬間値-10°幅)=0.7°±2.2°
表64.2はセオドライト、魚眼レンズ1、及びレーザー距離計のよって測られた仰角と
露場の広さ(X/h=1/tanα)の全方位平均値のまとめである。セオドライトによって
測られた仰角の平均値がもっとも大きい理由の一つは設置高度が低いことによるが、
定量的には差は大き過ぎる。より精度の高い測量は次の64.3節で示される。
表64.2 各種方法によって測られた仰角と露場の広さ X/h の全方位平均値
設置高度 <α> 1/<tanα> <1/tanα>
セオドライト 1.32m 7.3±3.6° 7.8 10.2±5.6
魚眼レンズ1 1.4 6.4±3.4 8.9 12.1±7.0
レーザー距離計 1.5 6.5±3.5 8.7 11.8±6.7
魚眼(10°幅平均) 1.4 5.7±2.6 10.0 12.7±6.6
64.3 方位・水準標識設置後の仰角の比較測量
(3-1)測量方法の改良点
前節の誤差の多い測量結果から、改良点その1は、気象研究所露場の南方向に高い
樹木が疎に存在し、僅かな方位差で仰角変化が大きい場合の精度を上げる方法、
その2は露場周辺に方位30°間隔で方位・水準標識を設置しておく方法である。
その1:仰角変化が大きい場合の改良「部分平滑化」
(1)まず、方位10°ごとに仰角を測り記録する。
(2)記録を見て、ある方位 A の仰角が、その前後に比べて4°以
上の差がないか調べる。
(3)4°以上の差がある場合、その両方位について
±5°の2方位の仰角を測る。
(4)方位 A の仰角修正値は、前後を含め3方位の仰角の平均値とする。
この方法「部分的な平滑化」によって求めた仰角を「部分平滑仰角」と呼ぶ。
例として、方位70°と80°間で仰角差=9.1°あるとき、方位65°と75°、及び
方位85°の仰角も測る。すなわち、方位60°と70°間で仰角差が大きくなくても、
方位65°の仰角を測る理由は、この方位は仰角変化が大きく変動する可能性がある
ことと、あとで機械的に3方位の仰角を平均して方位70°の修正仰角を得るためで
ある。
追記(2013年5月2日)
その後、各地で測量した結果、樹木が疎に立ち並ぶ観測所が少なからず存在する。
そのため、今後、2013年以後の仰角測量は360°範囲について方位5°間隔で行うこと
に変更する。
その2:方位・水準標識の設置
今回気象庁が用いているレーザー距離計(トゥルーパルス360)は取り扱いが簡単で、
注意すれば精度±1°以内で仰角測量が可能である。しかし8月23日の比較測量では、
この距離計では方位の指示値に最大±5°程度の誤差があった。
そこで今回は、セオドライトで水準ゼロを固定して覗きながら、長さ2mの木柱を
北方向から30°間隔に12本を立てる。木柱は地中に打ち込んだ鉄製杭に縛りつけた。
次に、セオドライトの同レベルの高さ(1.4m)に白色のプラスチック円板(植木鉢の
置き皿、直径150mm)を止める。12個の標識は同じ水平面上に並ぶことになり、
仰角ゼロの基準となる。

図64.14 標識と方位3°幅を示す写真(方位330°を見た望遠写真)。
地面に立てた木柱:方位30°間隔の方位標識
白色円板:測量器の地面上1.4mと同じレベルの標識(直径0.15m)
横帯:方位1°を白黒で示し、全体の角度幅が3°(赤縦線は加筆)
2012年8月30日、気象研究所の露場において8月23日と同じ地点に測量器を設置し、
再度の比較測量を行い、標識によって仰角の精度が向上するか確かめた。この再測量
では、すべての測量器の地上高=1.4mに統一した。
注5:測量器の設置高度が違うときの誤差
測量器の設置高度を一定にした理由は測定精度を上げるためである。設置高度の違
いによる仰角のずれをδ=α’-α、ただし、α’は測量器(望遠鏡)の地面からの
高さが0.1m低い場合の仰角、αは地面からの高さが基準の1.4mの場合の仰角とする。
水平距離=20m、h=0の場合:tanα’=0.1/20, tanα=0からδ=0.29°
水平距離=50m、h=10mの場合:tanα’=10.1/50, tanα=10/50からδ=0.11°
水平距離=100m、h=10mの場合:tanα’=10.1/100, tanα=10/100からδ=0.06°
測量器の地面からの高さは、上記とは逆に0.1mだけ高い場合は、仰角の値は、
それぞれ0.29°、0.11°、0.06°小さな値として測られることになる。
今回は、レーザー距離計(トゥルーパルス360)の取扱説明書にしたがい、測量現場
において測量直前に「水平角度コンパスキャリブレーション」を行ったのち測量した。
後述するように、このキャリブレーションを現場で行えば、方位角と仰角の値がほぼ
正しくなり必要な精度が得られた。
(3-2)レーザー距離計とセオドライトの比較
レーザー距離計を現場でキャリブレーションしてから測り、かつ仰角が方位によって
大きく変化する場合に「部分平滑仰角」を用いれば、仰角測量値は大きく改善され、
図64.15に示す通りである。

図64.15 レーザー距離計とセオドライトによる測量値の比較(2012年8月30日)。
上:仰角の方位角分布、仰角は方位によって部分的に平滑化。
中:仰角の差=(レーザー距離計による値)-(セオドライトによる値)。
下:露場の広さ5点移動平均値の差「(レーザー距離計値-セオドライト値)/セオ
ドライト値」、ただし縦軸の差は%で表示してある。
図64.15によれば、仰角の差=(レーザー距離計による値)-(セオドライトによる値)
はほとんど±1°範囲に入る。差が±1°範囲外(最大1.7°)となるのは南東~南西
方向である。この方向には枝打ちされた松が疎に存在しており、仰角が大きく変動
する特殊な場合と考えてよい。
露場空間の広さと露場風速を比較するときに用いる、±20°範囲の移動平均値は
図64.15の下段に示されている。この図によれば、両測量器による差は必要とする
精度±10%の範囲にほとんどが入っており、例外的に南西(210°と220°)方向で
差12%がある。
図64.16は大きな差を生じた南方向を撮影した写真である。僅かな方位差で仰角が
上下に大きく変動する例は、他所では多くはなく、例外的と見なしてよいだろう。

図64.16 南方向を見た写真(図64.9の中央部と同じ写真)
以上の比較をまとめると、方位360°範囲の36個の差の平均値は次の通り。
仰角の差=0.0°±0.7°(最大1.7°)
露場空間の移動平均値の差=1.0%±5.7%(最大12%)
樹木の上端付近は個葉の集合体であり、望遠鏡の視野内で仰角が変動し、仰角の読み
取り値に個人差が生じる。一方、建物など外見上の形がはっきりしており、仰角の
読み取り値には大きな個人差はなく、器械の誤差が読み取り値の差となる。
そこで、建物の端・角など目標物を決めて方位角と仰角を測った結果を表64.3に
示した。この結果によれば、方位角と仰角とも±0.8°以内の精度(器械の精度)
で測られており、系統的ずれは0.1°前後と小さく無視できる。
表64.3 目標物と方位角・仰角の比較、レーザー距離計とセオドライト(角度は °)。
目標物 セオドライト レーザー距離計 (レーザー)-(セオ)
方位角 仰角 方位角 仰角 方位角 差 仰角差
高層気象台右上端 35.4 2.4 35.6 2.5 0.2 0.1
気象研本館左上端 73.9 11.0 74.5 11.2 0.6 0.2
同上 右端 90.7 8.7 91.0 8.5 0.3 0.1
松の上端 132.1 7.2 131.8 7.3 -0.3 0.1
街灯上端 177.7 7.8 177.0 7.3 -0.7 -0.5
街灯上端(2回目) 178.0 7.5 177.2 ― -0.8 ―
街灯上端 215.3 6.3 214.8 6.3 -0.5 0.0
マンション右上端 325.2 4.5 325.2 4.0 -0.0 -0.5
平 均 -0.15 -0.07
標準偏差 ±0.50 ±0.30
(3-3)魚眼レンズとセオドライトの比較
前節で説明したように、磁石と水準器を使って魚眼レンズを三脚へ正しく取り付ける。
写真撮影のために、ファインダーを覗くと、方位30°間隔に配置された方位・水準
標識は仰角ゼロにあるためすべてが見えない。そこで装置を少し傾けて、6方向の
画像を撮影した。それゆえ、方位・水準標識が十分に活用されなかった。
これらの写真は天頂が画像の中心にないため仰角測定には使用できず、水平レベル
の確認用として使用し、方位角と仰角測定には旧写真(8月23日撮影)を用いた。
仰角測定の方法
(1) 表64.3の目標物の方位角・仰角と旧写真から読み取った方位角・仰角を比較し
補正値を求める。
(2) 仰角補正値は方位角依存性を考慮する。
(3) 旧写真の方位角を補正して、10°毎に新たに仰角瞬間値(2°幅)を読み取る。
(4) 仰角読み取り値に補正を施す。
(5) 隣り合う仰角補正値の値が4°を超える場合は方位5°毎に仰角を読みとり、
それを補正する(部分的な平滑化)。
(6) 方位角の補正値が1°未満だったので10°幅の平均仰角は、前回の結果に仰角
補正のみを施す。
この方法によって得た仰角の測量値を図64.17に示した。8月23日の図64.12に比べて
精度はあまり改善されていない。

図64.17 魚眼レンズ1とセオドライトの比較。
上:仰角の方位角分布、仰角は方位によって部分的に平滑。
中:仰角の差=(魚眼レンズによる値)-(セオドライトによる値)。
下:露場の広さ5点移動平均値の差「(魚眼レンズ値-セオドライト値)/セオド
ライト値」、ただし縦軸の差は%で表示してある。
魚眼レンズによる全天写真による測量において、方位・水準標識を設置しても大きな
改善が見られない理由として次のことが考えられる。
(1)方位・水準標識が十分に活用されていない。
(2)レンズは非対象で歪があり、画像は完全な等距離射影方式になっていない。
(3)3画像または6画像を用いたときのズレ。
この問題について、次の項「(3-4)魚眼レンズのひずみ補正後の比較」で改善する。
図64.18は部分平滑化の効果を示したもので、部分平滑化をしない図64.13に示した差
を重ねてプロットしてある(小円の黒印)。仰角が大きく変化する南寄りの方位では
部分平滑化の効果があり、最大差11.5°であった方位170°の値が-1.1°に改善され
ている。

図64.18 魚眼レンズ1による仰角の瞬間値の読みと10°幅平均値の差。
ただし、瞬間値は方位2°幅の仰角平均値である。
36方位の平均値については、
仰角の差の平均値=0.1°±0.9°
となり、部分的な平滑化を行わない場合(図64.13丸印)の
仰角の差の平均値=0.7°±2.2°
に比べて改善されている。
なお、表64.4は魚眼レンズによる旧写真の旧読取値の較正値である。この較正値を
旧写真に用いて方位・仰角を補正した。
表64.4 魚眼レンズによる旧写真の旧読取値と較正値(角度は °)。
目標物 セオドライト 魚眼旧写真 較 正 値
方位角 仰角 方位角 仰角 方位角 差 仰角差
高層気象台右上端 35.4 2.4 34.7 2.2 -0.7 -0.2
気象研本館左上端 73.9 11.0 73.3 9.7 -0.6 -1.3
同上 右端 90.7 8.7 90.0 7.3 -0.7 -1.1
松の上端 132.1 7.2 131.5 6.5 -0.6 -0.7
街灯上端 177.7 7.8 176.8 6.2 -0.9 -1.6
街灯上端(2回目) 178.0 7.5 ― ― ― ―
街灯上端 215.3 6.3 214.6 5.2 -0.7 -0.9
マンション右上端 325.2 4.5 324.5 3.4 -0.7 -1.1
平 均 -0.70 -0.99
標準偏差 ±0.10 ±0.45
(3-4)魚眼レンズの歪補正後の比較
魚眼レンズ1による全天写真は等距離射影方式のレンズであるが、仰角の小さい
ところで歪が大きい可能性がある。そのため、次によって歪を補正する。
(1)新写真(8月30日撮影)の画像の中から、方位角30°間隔に設置した標識
(方位・水準標識)が円形画面の端に3箇所以上確認できるものを抽出。
(2)画像の中に標識が3点以上あれば円(水平線)を描くことが出来、円の中心
(天頂)を決定することができる。
(3)その後、天頂と水平線の間を90°として仰角線を描く。また標識に合わせて
方位角線を描く。
(4)写真を重ねる時の誤差が入らないように画像を重ねないで1枚1枚の画像に
上記の操作を施して、仰角を読み取る。
(5)水平線上に1°の仰角目盛りが写っているものもあるので、上記(3)で
読み取った仰角の精度比較をする。仰角について表64.3との比較をする。
方位角のずれ
画像に描いた方位線と方位の目印のずれは最大で0.9°である。
仰角を読み取る時は方位角のずれを補正して読む。
仰角線の歪み
(6)目標物の位置(表64.3)を参考にして、魚眼レンズ画像上の写真仰角(x軸)
とマニュアル読み取り値の比(y軸)を図64.19にプロットする。画像上の写真仰角
1°以下のところのプロットは1°の仰角目盛りの値、それ以外のプロットは表64.3の
値を使用した。
写真仰角10°以下では、この比すなわち補正関数 f(x) は単調増加の関係にある。
すなわち仰角が小さいほど等距離射影方式の歪みが大きい。

図64.19 魚眼レンズの歪を補正する補正関数(縦軸)と写真仰角(横軸)の関係。
プロット:写真仰角と目標物の測量値(表64.3)の比較から求めた補正関数
赤曲線:2次曲線で近似した補正関数
黒実線:1次式で近似した補正関数(今回の補正に用いた)
(7)仰角が0°~10°では補正関数 f(x) は1にならず、この図から次式によって
歪みの補正を施す。
補正後の仰角=写真仰角 / f(x)
x:写真仰角
f(x):補正関数(図の直線の式を用いた)
(8)方位角10°毎に2°幅で仰角を読み、歪みの補正を施す。
(9)方位角10°ごとに読み取った仰角の値が前後で4°を超える場合は5°毎に
仰角を読みとり、歪みの補正を施す。
(10)方位角10°幅の平均仰角(部分平滑仰角)を求めて歪みの補正を施す。
以上のひずみ補正を行ったところ、結果は大きく改善された。図64.20(上)は仰角
測定の誤差の方位角分布である。南の方向で1.2°~2.5°の誤差があるのは、疎に
生えた背丈の高い松によるものである、その他では必要とされる誤差±1°以内の精度
で測量されている。

図64.20 歪補正後の魚眼レンズの測量値。
上:仰角の差=(魚眼レンズによる仰角)-(セオドライトによる仰角)
中:露場の広さ5点移動平均値の差(%表示)=(魚眼レンズ)-(セオドライ
ト)/ (セオドライト)
下:魚眼レンズによる仰角の差=瞬間値(方位2°幅平均)-(10°幅平均)
図64.20(中)は露場空間の広さの差の方位角分布である。必要とされる精度
±10%以内にほとんどが入っており、ただ1点(方位170°)のみが±10%の範囲
をわずかに外れている。
(3-5)64.3節のまとめ
測量器の設置高度を1.4mに統一し、方位・水準標識を設置、部分平滑化を行った
8月30日の3方法によるまとめを表64.5に示した。当初の比較測量(表64.2)と比べて、
方法の違いによる測量値の差(誤差)は小さくなり、改善の効果はあった。
表64.5 各種方法によって測られた仰角と露場の広さ X/h の全方位平均値
表64.2に同じ、ただし8月30日の再測量の結果、部分平滑化
設置高度 <α> 1/<tanα> <1/tanα>
セオドライト 1.4m 6.9±3.2° 8.2 10.9±6.8
レーザー距離計 1.4 6.9±3.2 8.2 11.1±7.1
魚眼レンズ1 1.4 6.7±2.7 8.5 10.4±5.3
魚眼(10°幅平均) 1.4 6.6±2.7 ― ―
魚眼レンズ1歪補正 1.4 7.0±3.0° 8.1 10.5±6.2
魚眼(10°幅平均) 1.4 6.8±2.9° ― ―
セオドライト、レーザー距離計、魚眼レンズ1の歪補正の3つを比較すると、
仰角の平均値はそれぞれ6.9°、6.9°、7.0°で差は0.1°の僅かである。露場の
広さ1(=1/<tanα>)については8.2、8.2、8.1で差は僅か、しかし露場の
広さ2(=<1/tanα>)は10.9、11.1、10.5で差は少しあるが、最大と最小の
違いは5%以内である。
64.4 方位角の比較と三脚の使用
(4-1)方位角の比較(青森)
レーザー距離計=トゥルーパルス360は現場において測量直前に「水平角度コンパス
キャリブレーション」と「デクリネーション値の入力」(磁気偏角の補正)を行う
こととなり、気象庁では新たに作成された仰角測定の手順書が全国の気象台に配布
された。
2012年9月19日、青森地方気象台の露場において、筆者はセオドライトで、気象台
職員A氏,B氏、C氏の3名はトゥルーパルス360で方位角の比較測定を行った。
(1)トゥルーパルス360の読み取りの個人差、(2)トゥルーパルス360の方位角
測定の誤差を知ることが目的である。
あらかじめ、露場中央付近に測量点を設け、そこから見た方位0°、30°、60°
・・・・330°(概略値)の露場フェンスにビニールテープで方位標識を付けて
おいた。
まず、筆者がセオドライトによって北から方位30°間隔で方位標識の方位角を
測定した。セオドライト用のアルミ製三脚はそのまま残し、今度はトゥルーパルス
360を三脚の頭部に載せて、A氏、B氏、C氏の順番に方位標識の方位角を測定した。
(1)測定結果は表64.6に示すように、3名に個人差は最大0.3°、平均は0.1°で
問題はない。すなわち、
読み取りの最大値と最小値の差(個人差)=0.1°±0.1°
(2)セオドライトとの比較では、北(方位角=0°)から南南東(方位角=150°)
に向かうにしたがって誤差が0.7°に増え、そこから誤差はしだいに減少する特性
を示した。トゥルーパルス360の説明書によれば、方位角精度=±1°であり、0.7°は
この精度内に入っている。しかし、製品によるムラがあり、誤差が2°程度となる
ことも想定しておくべきであろう。
表64.6 方位角測定の比較表(単位:°)―青森地方気象台露場における測定
誤差=(トゥルーパルスの平均値)-(セオドライト値)
概略方位 トゥルーパルス360 セオドライト 誤差
A氏 B氏 C氏 平均 近藤
0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
30 30.2 30.1 30.0 30.1 30.4 -0.3
60 59.9 59.8 59.9 59.9 60.2 -0.3
90 89.9 89.9 89.9 89.9 90.4 -0.5
120 120.3 120.0 120.1 120.1 120.8 -0.7
150 150.0 149.8 149.8 149.9 150.6 -0.7
180 179.6 179.4 179.5 179.5 180.2 -0.7
210 209.2 209.1 209.2 209.2 209.6 -0.4
240 239.5 239.3 239.5 239.4 239.7 -0.3
270 269.7 269.7 269.8 269.7 269.7 0.0
300 299.8 299.9 300.0 299.9 300.0 -0.1
330 330.0 330.0 330.0 330.0 330.2 -0.2
64.1節の注3に示した室戸岬における仰角測定の誤差(個人差+器械による差=
0.4°±0.4°)が今回の方位角測定の個人差(=0.1°±0.1°)に比べて大きいのは、
注3において測量した対象物の多くが樹木で複雑な形状をしていること、さらに室戸岬
ではトゥルーパルス360を三脚に載せないで測ったことによる。また、64.3節
(気象研究所露場)で比較した仰角測定の個人差(±0.3°)が今回より大きかった
のも対象物として形状が複雑な樹木を測量したからである。
つまり、対象物が明確な地物について、三脚を利用して測量すれば、トゥルーパルス
360の個人差(=0.1°±0.1°)はほとんど無視できると結論できる。しかし、
器械そのものの誤差が方位角については±1°はあり、器械によってはこれを越す
場合も想定しておくべきである。
(4-2)三脚の使用
この仰角測量は長期間にわたり行うもので、時代による測量器の変更があっても
よいように、誤差を少なくする方策が必要である。
仰角と方位角の測量誤差を1°以内にするために、方位・水準標識を設置しておく
ことと、三脚(ただし非磁性体材質、止めねじも非磁性体)を使用する。
一般に出ているカメラ用の三脚は止めねじが鉄製のものが多いので、測量用の
三脚の利用を勧めたい。筆者が用いている簡易型セオドライト(牛方のポケット
コンパス)の三脚はアルミ製である。
例えば、図64.21に示す赤色の支柱の先端にトゥルーパルス360を載せて測量する。
三脚の頭部の穴(内径=10mm、深さ=30mm)に廃品のサインペンの芯を取り外して
差し込み、三脚の止めねじで固定する。その上端にトゥルーパルス360の下部に開
けられているねじ穴部分を載せて、手動でトゥルーパルス360を操作すれば、
手ぶれもほとんど無く、測量点(露場に設置した測量用標石)からの狂いも無く、
正確に方位と仰角の測量が可能である。

図64.21 トゥルーパルス360をアルミ製三脚の頭部に載せる支柱(赤色)
64.5 まとめ
観測・測定には目的がある。その目的と何をどこまで測ればよいか、よく理解して
観測・測定をしよう。そうすれば精度の高い、目的にかなう観測・測定ができる。
完全な人間はいなく、完全な手順書や操作ガイドは存在しない。それらに書かれた
内容よりも優れた方法があれば提案しよう。
完全な測器もない。測器任せの観測・測定はしない。測った値が正しいか、
直感・目測値との比較もしよう。ひとり一人が研究心をもって仕事をしよう。
本章は、観測所の露場周辺の環境変化を仰角の方位角分布の記録として、将来に残す
ためのものである。まとめは次の通りである。
(1)測量器について注意深い取扱いをすれば、仰角の測定は必要な精度
(仰角10°付近で必要な精度は1°)が得られる。特に、レーザー距離計
(トゥルーパルス360)を用いる場合、現場において測量直前に「水平角度コンパス
キャリブレーション」と「デクリネーション値の入力」(磁気偏角の補正)を行う
こと。
(2)方位角は内蔵の磁石によって決められているので、携帯電話機(offでもonでも
影響あり)やデジタルカメラ、金属製時計バンドなど磁気に影響を及ぼす身の回り
品は1m以上離れた場所に置くこと。
(3)測量器の方位角・仰角の精度が下がらぬように、周辺には少なくとも4方位
(または6~12方位)の一定高度に20年以上の長期にわたり「方位・水準標識」
を固定しておくこと。この標識で方位と水準ゼロを確かめながら測量する。
方位だけの方位標識は方位30°ごとに露場フェンスに固定しておく。方位角は、
トゥルーパルス360に誤差があることを想定し、正確な測量器で方位角を決めておく。
あるいは距離を測る三辺測量の原理や、三角関数の基本公式や平面三角法の関係式
などを使って正しく決めておく。
(4)魚眼レンズは、一般に画像の端で歪が大きい。歪の小さい等距離射影方式の
レンズでも仰角10°以下では歪が大きく、仰角に20~30%の誤差を生じることがある。
歪はレンズごとに違うものと思われる。
(5)測量器を設置する位置・地面高度はいつも一定とし、その位置には杭や標石
などで印をつけておく。測量に際して、位置・地面高度のズレは0.1m以内で行う
こと。
鉄製の止めねじ(磁性体)を用いた三脚は使用せずに、トゥルーパルス360はアルミ
製などの三脚に載せて測ることで、手ぶれを防ぎ、測量用標石からの位置のずれを
防ぐことができる。
(6)仰角は方位幅2°の範囲の平均仰角を測ること。遠方の電柱など視野角1~2°
未満の物体は露場風速に影響しないので、仰角測量では無視すること(注5)。
(7)測量は原則として樹木が繁茂する夏季に行うものとする。落葉期に行う場合は、
枯れ枝に着葉した状況を想像して最高部の枯れ枝の仰角を測ること。
注5:方位角の幅1~2°未満の地物は無視
これまでの研究によれば(「研究の指針」の「K57. 森林内の
開放空間の風速」の図57.10を参照のこと)、方位角幅<1~2°の遠方の
電柱などは、「露場風速」にほとんど影響を及ぼさない。
それゆえ、セオドライト(視野2°40’ )で見たとき、
幅が1~2°未満の電柱等の地物は無視することとする。ただし、フェンスなど細棒状
の構造体が存在するとき、その構造体が露場風速に影響を及ぼすと見なされる場合は
無視せず、その仰角を測る。
また、露場内の測器や支柱などは仰角測量に際して無視する。
注6:落葉期の樹木の枝の仰角
測量は原則として樹木の着葉期に行うこととする。もし、落葉期に測量する場合は、
枯れ枝に着葉した状況を想像して枯れ枝の仰角を測る。
注7:トゥルーパルス360の調整時の注意
気象庁観測部の植田享氏によると注意事項(一部は輸入販売元に確認)は以下の通り
(取扱説明書のp.27参照)、
・キャリブレーションは測量現場で直前に行うのが望ましい。
・「調整時の注意点」にある「FIRE」を押すまでに最低1秒間本体をそのまま十分に
安定させたのち、次のステップに移る。
・写真機の三脚の止めねじが鉄など磁性体の場合は使わないほうが無難。
・キャリブレーションは、90°毎本体をくるくる回して、「FIRE」ボタンを押す際、
厳密に90°でなくておおよそ90°の回転でよい。
付録 露場の草刈り前後の露場風速
つくば市内の気象研究所露場では微気象観測が行われている。高度7.5mの風速計
(YoungCYG-5103、風車型、起動風速=1m/s)と高度1mの風速計
(YoungCYG-3002、3杯式、起動風速=1.1m/s)による観測値から風速比
(=高度1mの風速 / 高度7.5mの風速)を求めた(日平均風速の観測値は気象研究所
提供)。
草地の露場は50~100m程度の広さがあり、草刈りの影響は高度7.5mの風速(U7.5)
に多少とも現れる可能性がある。それを見るために、館野高層気象台の測風塔風速
(高度20.4m)に対するU7.5の比を調べた。図64.22によれば、草刈りが行われた
7月24日の前後で、風速の比に明確な違いは認められない。
なお、微風時は風速計の回転が止まるので、図64.22は高度1mの日平均風速(U1)
が1.2m/s以上についての結果である。

図64.22 気象研究所露場の高度7.5mの風速の館野高層気象台の測風塔風速
(高度20.4m)に対する比の時間変化、2012年5月1日から9月4日まで。

図64.23 気象研究所露場における風速比(=U1/U7.5)の時間変化。赤四角印:
1m/s<U1<1.5m/s、緑三角印:U1?1.5m/s
図64.23は気象研究所露場の風速比の時間変化である。草刈り前の草丈は約0.8mで
あり、これが刈り取られると風速比は急上昇している。草刈り後に対する草刈り
前の風速比は0.76(=0.55/0.72:緑プロット)、または0.72(=0.47/0.65:赤
プロット)であり、草の影響によって風速比は24~28%も減少することが分かる。