K68.露場風速の解析ー深浦2


著者:近藤 純正・西﨑 正二
青森県日本海沿岸・深浦の史跡公園「御仮屋」に設置されている深浦観測所の露場内 で風速を観測した。前回2012年10~11月の露場フェンス外で行った観測に続くもので ある。それら露場風速計の位置は約12mしか離れていないが、風速比の方位 角分布には明らかな違いが見られる。このことから、長期にわたる観測所の管理では、 周辺地物の仰角と露場風速の測量・観測地点は可能な限り同一地点で行う必要がある ことがわかる。

露場内では、南寄りの風の場合、南の方位には樹高の高い松が多いが、公園入り口への 道路があることと風が通り抜け去る北の方位が開けていることにより、露場通風率は 南方位の露場広さが狭い割には大きい。逆に開けた方位からの北寄りの風に対して、 南方位の樹木群が風をせき止め、露場通風率は北方位の露場広さが広い割には小さい。 露場通風率の全資料平均値は47.8%であり、従来の林内開放空間で得た実験式とほぼ 一致する。 (完成:2013年1月10日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新の記録
2012年12月25日:素案の作成
2012年12月26日:図68.7と68.9を追加
2012年12月27日:まとめ(3)を追加


  目次
        68.1 はしがき
        68.2 露場風速計の設置
        68.3 仰角の測量
        68.4 風速比と風向差
        68.5 露場広さと露場通風率
        68.6 まとめ
        参考文献


68.1 はしがき

重要な気候観測所近傍の環境を維持・管理するには次の2つが必要である。 その1は、露場から周辺地物の仰角を方位5°間隔で全方位について測量すること。 これにより露場の周辺、概略30~400mの範囲の環境変化がわかる。 その2は、露場内の高度 1.5~2mで風速(露場風速)を長期間にわたり観測すること。 露場内および露場フェンスの外側に雑草・灌木が生えれば、風速比(=露場風速/測風 塔風速)が変化し、露場内から近傍50m程度までの環境変化が分かる。

仰角αの変化、すなわち1/tanα=X/h(X:露場空間の広さ、h:地物の高さ)の 30%の変化と、風速比(露場通風率)の10%の変化が注意すべき環境変化であり、 これ以上の変化が生じないように管理しなければならない。

重要な観測所の一つである深浦観測所(深浦特別地域気象観測所)では、露場フェンス 外側(2012年10~11月、47日間)で露場風速の観測は終了したが 「K66. 露場風速の解析―深浦御仮屋」、今回(2012年11~ 12月、30日間)は風速計を露場フェンス内へ移して観測した。これら風速計の設置点 は約12m離れている。

前回に続いて行う今回の観測目的は、
(1)観測点のわずかな違いによって生じる、仰角分布(露場広さの方位角分布)の 違いが風速比(=露場風速/測風塔風速)や露場通風率(風通しの良し悪しの程度) にいかほどの差を生じるか?

(2)フェンスで囲まれた露場内では、フェンス網目の防風効果により風速の弱化が あるかどうか?

目的(1)は、露場通風率の長期記録の連続性を考察する場合の参考になる。 目的(2)は、複雑地形に設置されている観測所(例:宮古観測所)の風速比 (または露場通風率)は、仰角分布のほか、傾斜度やその他さまざまな要因に依存 するが、それら各要因の影響を定量的に知っておくことが必要となる。

解析に用いる資料
これまでの他所における解析と同様に、大気安定度の影響を除くために、測風塔に おける10分間平均風速が3m/s 以下の資料は除外する。解析に利用した資料と条件 は次の通りである。

露場風速計の設置場所:深浦観測所の露場内
測風塔風速>3m/s
(この条件のデータを全資料とよび、風向頻度分布を無視した平均値を全資料平均 という)
測風塔風速計の高度:ZA=21.9m
ゼロ面変位:d=0
露場風速計の高度:Zr=1.65m
風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo]
      =6.31/8.90=0.709

だだし、理想露場の地表面粗度は、zo=0.003m(きれいな芝地)とする。

68.2 露場風速計の設置

露場風速は超音波式風速計(ウインドソニック、PGWS-100-1、乾電池式)で観測する。 観測は1秒間隔で風速・風向をデータロガーに収録する。このデータから10分間平均 の風速・風向および風速変動と風向変動の標準偏差を求める。測風塔の10分間平均の 風速・風向と比較し、風速比(=露場風速/測風塔風速)と風向差(=露場風向- 露場風向)、露場通風率の方位角依存性などを求める。

この超音波風速計は、発信・受信ヘッドに水滴・雪片が付着するなどにより信号が 不正常になったとき、風速・風向の記録が空欄になるように設計されている。 12月7日と8日は防風雪があり、4~5時間の空欄の記録があった。

風速計の設置場所は、測風塔の西側の空間、雨量計の北、積雪計の西である (図68.1)。

露場風速計
図68.1 露場風速計(受感部の地上高度=1.65m)。南側から北方向を撮影 (2012年12月21日)。この風速計が12月21日正午前に取り外されたのち、同日午後に 気象台の同形式風速計が取り付けられている。この写真の右方に測風塔がある。

68.3 仰角の測量

仰角の測量は、今後、気象台が行う測量値と比較する関係上、風速計を設置した場所 の南側、雨量計・温湿度計の中間点(気象台が設置した測量基準点)で行った。 真北は磁石の方位に偏角9.2°西を補正して決め、周辺樹木の仰角αを方位5°間隔 で測量した。

仰角の測量値の結果
 仰角の平均:<α>=17.9±10.8°
 露場広さ1:1/<tanα>=2.93
 露場広さ2:<1/tanα>=7.20±10.06
 パラメータ比:露場広さ2 / 露場広さ1=2.46

ただし、<>は全方位の平均値を表し、パラメータ比が大きいほど方位による空間 広さが一様でなく、一般に、風通しが良くなることを意味している。

これまでと同様の定義によって露場広さの方位角分布を求める。

定義:方位別の露場広さ=X/h=1/tanα

森林など樹木群の場合、仰角αを示す高さ h は各方位の視界内に見えるもっとも 高い樹高の仰角とし、その樹木までの水平距離がXである。

方位は0°が真北、90°が東、・・・である
X は水平距離(m)
h は樹高・建物などの高さ(m)
αはhを見たときの仰角(°)

注1: はるか遠方に障害物があっても、X/h>30~40の距離つまり α<1.4°~1.9°の角度のとき、露場通風率は100%となるので(あるいはα=0 の ときX/h=∞となり発散するので)、X/hの計算を行う場合に限りα<1.8°はα=1.8° と置き換えてX/h=1/tanαを計算する。したがって、α<1.8°のときのX/h=1/tanα= 31.8(最大値)となる。ただし、αの全方位の平均値<α>は測量値のαを用いて 計算する。傾斜地では、標高の低い方位でα<0となることが多い。

注2:測量時の仰角αは瞬間値ではなく、視界内の方位2°範囲の平均値を 読み取る。なお、測量に用いている簡易セオドライト(牛方式ポケットコンパス= レベルトラコンLS-25、望遠鏡倍率=12倍)の視界は2°40’であり、気象台が 使用しているレーザー距離計(トゥルーパルス360、望遠鏡倍率=7倍)の視界=6.5° である。

注3:露場通風率と露場広さ X/h の関係を表す場合、X/h は方位±20°範囲 の平均値を用いる(方位5°ごとに測った仰角9点の移動平均値)。その理由は、 風向は10分間程度の短時間でも左右に変動し、それら方位にある障害物の影響を 受けるからである。

仰角の測量値に基づいて計算した、露場広さ(=X/h=1/tanα)の方位角分布を 図68.2に示した。赤実線は露場通風率の解析(後述)で使用する露場広さである。 破線は参考のために示したもので、露場外の露場風速計設置場所における値である 「K66. 露場風速の解析―深浦御仮屋」

露場広さの方位角分布
図68.2 露場広さの方位角分布。プロットは測量値、赤実線は±20°範囲で平均した 移動平均値、破線は露場外の風速計設置場所で測った露場広さ。実線は全体として 左方にずれている。

両地点(露場内と露場外)は約15m東西に離れており、露場内(赤実線)は露場外 (赤破線)に比べて、おおよそ1方位(16分方位の1、22.5°)だけ左(方位角の 小さい)方へずれた形になっている。次節で説明する風速比のずれの傾向は、 この露場広さの図におけるずれから説明することができる。

68.4 風速比と風向差

10分間平均の露場風と測風塔風を比較する。図68.3(上)は風速比(=露場風速/測風 塔風速)の風向依存性である。風速比の平均値(赤四角印と赤実線)は0.16~0.44の 範囲に分布している。仰角との関係は後述する。

風速比が年によって大きく変化しないよう、周辺環境の維持管理を行うことになる。 その際の目安として、風速比の10%の変化が大きな環境変化である。それが、 周辺の樹木等の成長によるものであれば、伐採・剪定など行わねばならない。 10%の変化とは、例えば現状値が0.40ならば、0.36になることである。

風速比と風向差
図68.3 風速比(上)と風向差(下)の測風塔風向依存性。小プロットは10分間値、 赤四角印付き実線は平均値である。赤破線は露場外での値(2012年10~11月の露場風速 の観測に利用した)。

図68.3(上)の風速比において、露場外での値(赤破線)について考察する。 赤破線が露場内での値(赤実線)から右方にずれる傾向にあるのは、図68.2において 露場広さが右方にずれていることから説明できる。しかし、S寄りの風向のときの 露場外での風速比(赤破線)が赤実線に比べて小さいのは、風上にある局舎の影響 により地上付近の風速が弱められたと考えられる。

つまり、局舎のように仰角測量にかからない地物の存在の有無が露場風速に影響する ので、露場管理では仰角の測量のほか露場風速の長期観測も必要になってくる わけだ。

ちなみに、図68.3(上)において、露場内での風速比(赤実線)がSW風で小さく なっているのは、露場内風速計設置地点から見て、この方位に局舎があるからである。

次に図68.3(下)によれば、風向差は測風塔風向がSSW~SW(202.5°~180°) で大きく正にずれているが、他の風向では大きなずれはない。これを図68.4に模式的に 示した。測風塔の風向(実線)と露場風向が大きく違う場合を破線で、ほとんど風向 差がない場合はそのまま長い実線で表した。

測風塔で SW と SSW の風は、露場では大きく42~69°も ずれて SSE の風向となっている。 つまり、露場では SW の風向は吹き難く、吹きやすい SSE の風向にずれて いる。観察してみると、SSW~SW 方位の松の下には笹だけ(ヤダケ)が群生している ことと、局舎があることにより、この方位からの風を吹き難くしている。

図68.3(上)の風速比がS寄りの風向で最大値(0.44)であることからも分かること だが、また後掲の写真(図68.6、68.7)からも判断されるように、露場では南―北の 方向に風が通り抜けやすい。

風向のずれ模式図
図68.4 風向のズレの模式図。小赤丸印は露場風速の観測地点、実線は測風塔風向。 露場風向が殆んどずれない場合は実線で、露場風向がずれた場合は破線で露場風向を 示す。露場内の南西隅の長方形は局舎、小赤丸印の西側の小黒丸印は露場外で風速を 観測した位置である。

風速比は露場風速計と測風塔風速計の高度(Zr, ZA)によって変わるので、次節では 露場通風率について調べる。

68.5 露場広さと露場通風率

他の章でも説明してきたように、Zrを露場風速計の高さ、ZAを測風塔 風速計の高さ、UrとUAをそれぞれ露場風速と測風塔風速、zo=0.003mを 理想露場の粗度、dをゼロ面変位とすれば(深浦ではd=0を仮定)、露場通風率は 次のように定義される。

風速比=露場風速 / 測風塔風速・・・・・・観測値
風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo], zo=0.003m
露場通風率(%)=風速比 / 風速比理想値

各方位の露場通風率と露場広さの関係を図68.5にプロットした。上図にNNW, N, NNE を付記したプロットは測風塔風向がNNW, N, NNE(337.5°、0°、22.5°)の場合で ある。これらプロットでは、露場風速が破線に比べて弱めに観測されている。この 方位には樹木がなく露場広さは広いが、風下側には松が多く、地上付近の露場風が せき止められることを意味している(図68.8を参照)。

露場通風率
図68.5 露場通風率と露場広さとの関係、上図は横軸を直線目盛、下図は対数目盛 で表してある。緑破線は林内開放空間における実験式、下図に示す水平の黒破線の 説明は本文を参照。

下図は横軸を対数目盛で表したものである。水平の黒破線の右端のプロットは従来と 同じ風下側の露場通風率である。水平破線の左端のプロットに対する横軸は、風上側 の露場広さの絶対値(マイナスは付けていない値)を表している(図68.8を参照)。

下図に緑のSSE, S, SSWを付記した緑丸印プロットは測風塔風向がSSE, S, SSWの場合 であり、上図のNNW, N, NNEのちょうど逆風向のときの露場通風率である。これら 緑丸印は従来の実験式(緑破線)より大きいほうにプロットされている。

この関係を理解するために、露場風速計の南・北方向の状況を写真から見てみよう (図68.6、68.7)。

北方向の写真
図68.6 露場の南側から北方向を見た写真(2011年6月25日撮影)。

南方向の写真
図68.7 露場の北側から南方向を見た写真(2011年6月25日撮影)。

露場の北側は樹木が無く開けている。また、南側にはこの公園「御仮屋」の入口への 道路があることで、露場広さは狭い割に風の通り抜けがよくなっており、露場通風率 が大きめになっていると考えられる。

現段階における結論として、次のようにまとめることができる。
『深浦観測所の露場内では、南寄りの風に対して、南の方位には樹高の高い松が多 いが、公園入り口への道路があることと、反対方位の北が開けていることにより、 露場通風率は南方位の露場広さが狭い割には大きい。逆に開けた方位からの北寄りの 風に対して、南方位の樹木群が風をせき止め、露場通風率は北方位の露場広さが広い 割には小さい。』

風下側の障害物(樹木)によって地表面付近の露場風がせき止められることを 模式図68.8によって示した。NNW、N、NNEの風のときの露場広さは23.9、29.7、15.6 であるが、風下の樹木から見ると露場広さはそれぞれ-1.8、-1.6、-1.6であり、 風下の樹木の影響により風が弱められていることになる。

風下樹木の影響模式図
図68.8 北(左)~南(右)の断面模式図、北寄りの風のとき。

角柱風上側との比較
図68.9 一辺が 2h の角柱の風上側(X/h はマイナス、X/h=0 は角柱の風上端) での風速比(=U/U0)と風上距離との関係、ただし U0 は 障害物に影響されない遠方の風速。
実線:非圧縮非粘性流体に対するポテンシャル流のとき、
プロット:露場外(丸印)と露場内(四角印)、いずれも北寄りの風のとき。

「K66. 露場風速の解析―深浦御仮屋」の図66.12で考察 したと同様に、図68.9は風下側の樹木が風速を弱める割合を示したものである。 縦軸は障害物の影響のないときの風速 U で割り算してある。 障害物の風上側の風速は近似的に非圧縮非粘性流体のポテンシャル流で近似される ので(Kondo and Naito, 1972)、これを実線で表してある。

高さ h の松並木など障害物が存在するとき、その風上側の流れをポテンシャル流で 近似する場合、一辺の長さが 2h の角柱の中心軸の方向をy軸に置き、断面の x 軸を 風向、z 軸を鉛直方向にとる(z=0は角柱の中心)。

風が x のマイナス側からプラスの方向に吹くとき、 ポテンシャル流は角柱断面に対して上下が対称な形となる。z=0の面が地面に相当 する。それゆえ、樹高 h の風上側の風速は一辺が 2h の角柱に対する計算値 で近似した。

Kondo and Naito(1972)によれば、障害物の特に地面に近い高度における風上側では、 ポテンシャル流による予測値よりも5~10%程度弱めとなる。したがって、図のプロット が実線より小さくなる割合の一部分が説明できる。

しかし、それだけでは大きくずれていることの説明がつかない。 もう一つ考慮すべきことは、 「K66. 露場風速の解析―深浦御仮屋」の模式図66.13で説明したように、 深浦観測所では、北寄りの風は斜面を登ってくる風となるため、平坦地(露場付近) では剥離の現象もあり、露場風速が測風塔風速に比べて著しく弱まる と考えられる。

この地形による風速弱化の割合について、観測値のプロットから概算してみる。全体の 平均的な値として、

プロット:-X/h=1.6で縦軸=0.5 、
ポテンシャル流:-X/h=1.6で縦軸=0.8、
同上の地面影響:縦軸=0.8 の5~10%減として0.74。

したがって、0.5/0.74=0.68となる。すなわち、露場風速(露場通風率)は 地形的な影響によって30%ほど弱められている。これは現段階における、 おおよその目安としておこう。

表68.1 風速比と露場通風率のまとめ、2012年11月16日~12月16日(深浦)
  強風降雪日の12月7日、8日は解析から除外
  X/h=1/tanα:各方位の露場の広さ(±20°範囲の平均)
   ただし全資料の平均値のX/hは「露場の広さ1」(=1/<tanα>)
  風向:測風塔風向(ZA=21.9m)
  資料数:10分間平均値の資料数、ただし測風塔風速>3m/sのとき
 資料数が20未満の場合、露場通風率は示していない。ただしNNEの風の資料数は20未満
     であるが、南・北の風の通り抜け易さを示す図68.5においてSSW風との関係を見る
     目的上示してある(資料数に*印)。

        風向  風速比 露場通風率 資料数
    X/h  (°)       (%)

   29.7      0      0.353       49.8      56
   15.6     22.5    0.316       44.6     13*
    3.4     45      0.356       ----       8
    3.2     67.5    0.258       ----      12
    3.0     90      0.164       ----     10
    2.8    112.5    0.204       28.8      48
    2.5    135      0.324       45.7      23
    1.8    157.5    0.416       58.7      67
    1.6    180      0.438       61.8     231
    1.6    202.5    0.363       51.2     137
    2.1    225      0.252       35.6      88
    3.1    247.5    0.278       39.3     345
    3.8    270      0.369       52.1     620
    5.6    292.5    0.349       49.3     621
    4.5    315      0.291       41.0     428
   23.9    337.5    0.344       48.5     173

    2.93 全資料平均 0.317       47.8    2880


68.6 まとめ

深浦観測所において露場風速を観測し、方位別の露場通風率(風通しの良し悪しを 表すパラメータ)を求めた。これは、前回の露場フェンス外で行った観測 (2012年10~11月)に続くものである。それら露場風速計を設置した位置は 約12mしか離れていない。

(1)仰角と露場風速の測量・観測位置について
風速比の方位角分布には露場外と露場内で明らかな差が見られる。これは、 観測・測量地点のわずかな距離の違いで周辺樹木の仰角分布、つまり露場広さの 方位角分布が異なることから生じたものである(図68.2と図68.3の比較)。

約12mの場所の違い(つまり測量・観測地点の違い)は無視できない距離である ことがわかる。今後の観測環境の管理上の参考になる。

一方、全方位の平均値についての露場広さの違いは無視できる大きさである。 すなわち、露場内・外について、「露場広さ1」=1/<tanα>の違いは 3.14(内)/2.93(外)=1.07、「露場広さ2」=<1/tanα>の違いは 6.78(内)/7.20(外)=0.94であり、それぞれ+7%と-6%の違いである。 この全方位についての違いは±10%以下であり、無視できる大きさである。

(2)全方位平均と全資料平均の違いについて
全方位(16方位)の風速比の平均値は、露場内・外でそれぞれ0.322(外)と 0.317(内)、ほとんど同じになった。一方、全資料の露場通風率平均値は、 42.5%(外)と47.8%(内)で、12%(47.8/42.5=1.12)の違いとなった。 全資料での違い12%は、主に10~11月(露場外)と11~12月(露場内)の 風向・風速の頻度分布の違いから生じたものである。

(3)測風塔と露場間の大きな風向差と局舎・笹だけの関連について
測風塔で SW と SSW の風は、露場では大きく42~69°(平均値)もずれて SSE の 風向となる。つまり、露場では SW の風向は吹き難く、SSE の風向にずれる。 SSW~SW 方位の松の下には笹だけ(ヤダケ)が群生していることと、局舎がある ことにより、この方位からの風を吹き難くしている。

(4)風の通り抜け易い方位について
南寄りの風に対して、南の方位には松が多いが、公園入り口への道路があることと、 反対方位の北が開けていることにより、露場通風率は南方位の露場広さが狭い割には 大きい。逆に開けた方位からの北寄りの風に対して、南方位の樹木群が風をせき止め、 露場通風率は北方位の露場広さが広い割には小さい(図68.5)。 つまり風の通り易い方位が南・北のように対になる方位の場合、両方位の露場通風率 は平均化される傾向にある。

(5)北寄りの風のときの斜面の効果について
北寄りの風のとき、地面付近の風は斜面を登ってくることになる。露場付近では 剥離の効果も加わると予想され、露場風速は測風塔風速に比べて著しく弱められる。 このことによって露場通風率は30%程度小さくなっていると概算された。

(6)露場通風率の全資料平均値について
露場通風率の全資料平均値は47.8%であり、従来の林内開放空間で得た実験式と ほぼ一致する(図68.5の赤四角印)。

(7)フェンスの網目構造による防風効果について
フェンス自体の露場風速への影響は、ほとんど見出せなかった。ただし、 測風塔風速計は、露場内で露場風速の観測を開始した日(11月15日)に取り 換えられたため、正確には分からない。影響があるとしても、測風塔風速計新旧 2 台の 相対的器差(5%以下と推定)の範囲内の数%であろう。今後の他所での観測結果を 待ちたい。

参考文献

Kondo, J. and G. Naito, 1972: Disturbed wind fields around the obstacle in sheared flow near the ground surface. J. Meteor. Soc. Jpn., 50, 346-354.

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