K186.凍霜害予測(11)ビニルトンネル内の野菜


著者:近藤純正
夜間における作物の最低葉温は大気放射量と密接な関係にある。快晴夜間の 大気放射量は夕刻の気温と水蒸気圧の関数として近藤(2000)の実験式から 推定することができる。本報告は、ビニルトンネル内のトウモロコシ畑の 葉面温度の予測を目的として、館野高層気象台の夕刻の気温と相対湿度から 推定した大気放射量と翌朝の最低葉温との関係を求めた。最低葉温は誤差 ±1.36℃(標準偏差)で予測できることがわかった。

トウモロコシ畑の最低葉温が-2.7℃(3月15日朝)と、-2.6℃(3月18日朝) に下がった日には被害はなかったが、-3.4℃に下がった3月24日朝、トウモロ コシの20%ほどが凍霜害を受けた。

夕刻の条件から推定される快晴時大気放射量が268 W/m2以下のとき、 夕刻に曇っていても晴れてくれば最低葉温<-3℃となり、凍霜害が発生する 確率が出てくる。また、237 W/m2以下のときはその確率が高くなり、 さらに207 W/m2以下のときには確率は100%となる。

晴天日中、ビニルトンネル内の土壌面に敷いた黒マルチによる過剰な高温を 防ぐため、ビニルトンネルは裾を上げて外気を入れるようにしている。 それでも土壌面温度は気温より20℃以上も高温に、深さ0.1mの地中温度は 気温より10~15℃も高温になる。

快晴微風夜、最低葉温は最低気温に比べて1.43±0.93℃の低温となる。 この温度差は露地の場合に比べて2~3℃小さい。つまり夜間のビニルトンネル の保温効果は2~3℃である。
まとめると、最低気温が-2℃以下になる夜は、葉面温度の最低値はそれより 1.4℃±0.9℃ほど低くなり、トウモロコシの20%が凍霜害がを受ける。 (完成:2019年5月5日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

トップページへ 研究指針の目次


更新の記録
2019年4月29日:素案の作成
2019年5月30日:苗の定植日3月3日と出荷目標日を追記

    目次
        186.1 はじめに    
        186.2  記号と定義
        186.3 観測
        186.4 各温度の概要
        186.5 凍霜害と最低葉温
        186.6  快晴時大気放射量と最低葉温の関係
        まとめ
        参考文献                 


研究協力者(敬称略)
柳橋 成一
村上 史郎

資料の利用
大気放射量の推定に必要な夕刻の気温・湿度と、その他の気象資料は 館野高層気象台の観測値を利用した。

186.1 はじめに

夜間の地上気温や作物葉面温度は地表面温度にしたがって下降する。微風晴天 夜の地表面温度の低下量は放射冷却に従う。その理論式は近藤(1994) 「水環境の気象学」のp.145-p.147に示されている。

これまでの準備研究によって、作物の最低葉温の予測法として、夕刻の大気 放射量のデータのみを用いる方法がある。 「K182.凍霜害予測の実用化(8)秦野市千村」の図182.7の中図に示され、 その原理は182.6節の熱収支計算によって説明されている。

この方法を用いる場合に必要な、夕刻の大気放射量を知る方法として、
(1)放射計で観測する方法(「K178.夜間用の放射計 と葉面温度計、市販化」)。
(2)夕刻の気温・水蒸気圧の観測値を用い実験式から推定する。 その実験式は近藤(2000)の式2.33、および付録の式A2.1~A2.6)による。
(3)気象予報会社の公表する夕刻の気温・湿度の予報値を大気放射量推定の 実験式に用いる。

本報告では(2)の検証試験であり、夕刻の気温・相対湿度として館野高層気象台 の観測値を利用する。検証に必要な観測は、作物の葉面温度を代表する 基準型の葉面温度計(直径0.06mの水平円板)による葉温のみである。 葉面温度計は「K178.夜間用の放射計と葉面温度計、市販化」 に示されている。

なお、(2)の検証試験として、現地で観測した夕刻の気温・相対湿度を用いた 例は前報で示した(「K185.凍霜害予測(10)夕刻の気温 湿度を観測」)。
(3)の検証試験もすでに示した( 「K184.凍霜害予測(9)夕刻の気温湿度予報値の利用」)。


186.2 記号と定義

作物葉面は葉の大きさ・傾斜・位置などによって葉面に対する風・放射量が 異なり、その温度は様々な値をとる。夜間にもっとも低温となる葉面は作物群落 の最上端から少し下、天空が十分に見える水平な葉面である。最上端は風が 当たりやすく低温になり難く、また、下層の葉面は上側の葉面が覆いの役目 として冷却を防ぎ低温になり難い。

実際に凍霜害が生じたとき、葉面が同じような低温になっても、個体によって 被害の受けかたが異なる。

これら複雑な分布をもつ葉面の温度を測ることは実用的ではない。凍霜害予測 の実用化では、基準の葉面温度計で測った温度を葉面の代表温度とする。 本論ではこの温度を葉面温度(葉温)と定義する。


日付:夕刻の日付を用いる。例えば日付の3月10日は3月10日夕刻から翌11日朝 までを表す。したがって、日付10日の最低気温は翌11日朝に生じた最低気温である。
夕刻:日没の30分前、夜間冷却の初期時刻t=0
夕刻の観測データ:夕刻とその10分前と10分後の3データの平均値を用いる。
R↓-σT:有効放射量、σはステファン・ボルツマン定数、T は気温(K)
R↓:下向き放射量(日射量+大気放射量)
L↓:大気放射量
L↓-σT:夜間の有効放射量
T:気温
G:裸地温度(裸地面下0.02mの地温)
B*:葉温(ビニルトンネル内の葉温:基準の葉面温度計の温度)
G*:土壌面温度(ビニルトンネル内の土壌面に張ったマルチと土壌面の間の温度)
D*:地中温度(ビニルトンネル内、深さ0.1mの地温)
To:夕刻の初期値
Tm, Gm, Bm*, Gm*, Dm*:夜間の最低温度


最低温度は、温度計の時定数および記録の時間間隔によって違ってくる。 本論では、最低気温はファンモータを使った通風式気温計を用い(直径2.3mm Pt1000センサ:時定数は約20秒)、10分間隔で記録したデータから決める。 最低葉温は基準の葉面温度計を用い、同様に10分間隔で記録したデータから 決める。


186.3 観測

つくば市柳橋の野菜畑は、北緯36度3分32秒、東経140度5分0秒、標高24mに ある(「K181.凍霜害予測の実用化(7)つくば 野菜畑」と同じ畑)。図186.1はビニルトンネル内に植えられたトウモロコシ 畑の写真である。

ビニルトンネルの写真
図186.1 ビニルトンネル内のトウモロコシ畑、南西から撮影(2019年4月26日)。
日中はビニルトンネル内が高温になり過ぎないようにトンネルの裾を開けている。


トウモロコシは5月下旬~6月1日の収穫・出荷を目指し、3月3日に苗をビニルトンネル 内の畑に移植した。雑草を防ぐこと、その他の目的から、ビニルトンネル内の 土壌面に黒マルチを敷いてある。本来ならば、乳白色マルチを敷くのだが、 今回は品不足により、黒マルチを用いている。

この畑の3.7km東方には館野高層気象台(標高25m)がある。気象台の夕刻 の気温・湿度の観測値から実験式により快晴夜の大気放射量 L↓ を求める (近藤、2000、「地表面に近い大気の科学」の式2.33、A2.1~A2.7)。

有効放射量=σT-L↓

ここにσはステファン・ボルツマン定数、T は夕刻(日没30分前)の気温 (絶対温度)である。

備考:実験式による快晴日の大気放射量
上記の大気放射量を推定する近藤の実験式では、本来は地上の日平均気温と 日平均露点温度を用いるが、本論では便宜上夕刻の気温と露点温度を用いる。


凍霜害予測の実用化段階では、必要な観測はビニルトンネル内の葉面温度B* (略称:葉温)のみでよいが、本研究では、ほかに気温T、裸地面温度G (裸地面下0.02mの地温)、ビニルトンネル内に張られたマルチと土壌面の 間の地温G*、深さ0.1mの地中温度D*の観測も行った。

気温は近藤式精密通風気温計で観測し、葉面温度は基準型の葉面温度計で観測した (「K178.夜間用の放射計と葉面温度計、市販化」、 プリード社製)。

葉面温度計の受感部はビニルトンネル内の野菜「トウモロコシ」と並べて設置し、 この温度を葉温とする。受感部はトウモロコシの成長に合わせて地面からの 高さを変えた。

すべての温度計は検定済みである。

観測期間は2019年3月10日から4月6日朝までの47夜間である。気温などの記録 の時間間隔は10分間である。


186.4 各温度の概要

図186.2と図186.3の最上段は館野高層気象台の風速と日照時間、2段目以下は 野菜畑の気温、葉温、その他の温度および気温を基準とした温度差について 連続47日間の時間変化である。

各温度時間変化3月
図186.2 気象要素の時間変化、2019年3月10日~31日、縦線目盛りの位置は 各日の0時を表す。
 最上段:日照時間と風速
 2段目:気温、裸地温(裸地面下0.02mの地温)、葉温、土壌面温度、地中温度
 3段目:葉温と気温の差
 4段目:土壌面温度と気温の差、地中温度と気温の差


各温度時間変化4月
図186.3 前図に同じ、ただし2019年4月1日~26日。
 最上段:日照時間と風速
 2段目:気温、裸地温(裸地面下0.02mの地温)、葉温、土壌面温度、地中温度
 3段目:葉温と気温の差
 4段目:土壌面温度と気温の差、地中温度と気温の差


全観測期間のうち、微風快晴夜は15夜ある。最低気温および最低葉温が氷点下 になった日数はそれぞれ6日間と10日間である。これらは4月3日の夜(4日の朝) までに起きた。深さ0.1mの地中温度(褐色線)は11℃以下にはならず、 15~25℃の間にある。

黒マルチと土壌面間の温度(黒実線)は4℃以下にはならず、10℃前後、 晴天日中は30~40℃となる。

表186.1は気温、葉温など各最低値の一覧表である。上段は全47夜の平均値、 下段は快晴微風15夜の平均値を示している。各段の2行目は高度1.5mの最低 気温を基準としたときの温度差である。裸地面の最低温度と最低葉温は マイナス値であり、最低気温より低温である。ビニルトンネル内の黒マルチ面 最低温度Gm*と地中温度の最低値Dm*の温度差はプラスであり、最低気温に 比べて平均値は9.84℃の高温(全夜)、または12.10℃の高温(微風晴天夜) である。

表186.1 各温度の夜間の最低値一覧表
夜間の最低値一覧表


186.5 凍霜害と最低葉温

放射冷却で凍霜害が発生した3月23日~24日の夜に注目する。
図186.4は夜間の最低気温(赤線)と最低葉温(緑線)の全期間にわたる変化 である。図中に入れた緑数値(-2.7℃、-2.6℃、-3.4℃、-2.6℃)は 3月14日、17日、23日、4月2日の翌朝に生じた最低葉温である。 これら4温度のうち、-3.4℃(3月23日)は24日朝の最低葉温であり、 トウモロコシの20%ほどが凍霜害により葉がしおれて枯れた。

このことから、3月のビニルトンネル内のトウモロコシが凍霜害を受けるか 否かの境界は最低葉温-3℃としてよいだろう。

最低葉温の日々変化
図186.4 最低気温と最低葉温の日々変化。例えば3月10日は10日夜~11朝の 間に起きた最低温度を示す。


注意:最低葉温が最低気温より高い特殊な例
通常は、夜間の葉温は外気の気温より低温であるが、特殊例として、例えば 3月22日の最低葉温=7.39℃は最低気温(23日朝の最低気温)=5.62℃に 比べて高温になった。このように降雨時(雨量0.0mm含む)は夜間のビニル トンネル内の葉温が外気に比べて高温になることがある。


次の図186.5は、凍霜害が生じた3月24日朝までの各温度の時間変化である。 2日前の22日は晴れたり曇ったりで、日中の気温(赤線)は20℃以上となり、 その翌朝は7℃ほどに下降した。23日は曇りまたは雨量0.0mmの微雨で日照 時間もゼロのため、日中の気温はほとんど上昇せず5~6℃、裸地面温度 (黒破線)もビニルトンネル内の土壌面温度(黒線)も普段のように上昇 しなかった。

館野高層気象台の観測によれば、3月16日に3mmの降水があり、それ以後、 21日に0.5mmの降水があった他は降水量0.0mmであった。そのため、 周辺一帯の土壌は土壌水分が増えず熱容量が小さいままであった。そのため、 23日の夜遅くに晴れて、周辺一帯の気温は急激に下降した。こうして 24日朝、-3.4℃の最低葉温が生じた。

3月22~24日の変化
図186.5 最低葉温-3.4℃が生じた3月24日までの各温度の時間変化 (3月22日0時~24日12時まで)。


夜遅くまで曇っていても、夜半から急に晴れた場合、気温や葉温が急激に 下降する例は秦野市千村で2月7日~8日に生じた( 「K182.凍霜害予測の実用化(8)秦野市千村」の図182.4を参照)。

夜間に急に晴れてわずか1時間の短時間に約4℃も気温が下降した極端な例は 図160.9、図160.11に示した(「K160.夜間の気温変動、 積雪期と無積雪期」)。

このように、曇っていても(あるいは天気予報が「曇り」の夜でも)、夜半に 急に晴れてきた場合(天気予報が外れた場合)、葉温は急激に下降するので 注意しなければならない。


186.6 快晴時大気放射量と最低葉温の関係

表186.2と186.3は快晴時の大気放射量の計算値と観測値の一覧表である。 夕刻の気温・湿度・気圧の列の右に続く飽和水蒸気圧(esat)は気温に対する 飽和水蒸気圧、それに相対湿度を掛け算したeは水蒸気圧、Tdewは露点である。 その右に続く覧は快晴時の大気放射量を推定する近藤(2000)の実験式 (式A2.5)、(式A2.3)、(式2.33)()から求めた放射量などである。 この表はエクセル表であり、夕刻の気温・湿度・気圧を代入すると自動的に 快晴時の大気放射量が計算されるようになっている。

表186.2 夕刻の気温と湿度の予報値とそれに基づく計算値と観測値の一覧表。
例えば日付10日は10日夕刻から翌11日朝までの夜間を表す。したがって10日 の最低気温は翌11日早朝に生じた最低気温である。
観測一覧表

表186.3 表186.2の続き(最低気温、最低葉温、その他)。
観測一覧表つづき


図186.6の上図は快晴時の大気放射量の推定値と最低葉温の関係、下図は 最低気温と最低葉温の関係である。快晴微風夜は大きい白丸印で、雲のある夜 や雨の夜は小印で示した。ただし、快晴夜とは、短時間の雲の通過があっても 夜間全体として快晴が長時間続いた夜である。また、「風あり」は館野高層 気象台の高度=20.4mの平均風速(0時~6時の平均)が2.5m/s以上の場合である。

大気放射量と最低葉温
図186.6 快晴時の大気放射量と最低葉温の関係(上)と、最低気温と 最低葉温の関係(下)。


上図において、実線は快晴夜を表す次の実験式である。

最低葉温(℃)=0.135×快晴時大気放射量(W/m2)-35.04(℃)・・・(1)

この実験式からのずれ(予測誤差:標準偏差)は±1.36℃である。


式(1)の利用:凍霜害の予測
式(1)は次のように利用される。筑波柳橋のビニルトンネル内で凍霜害が 発生するのは最低葉温が-3.0℃以下のときである。-3.0℃を式(1)の左辺に 代入し整理すれば、

快晴時大気放射量=[(35.04-3.0)/0.135] <237W/m2

のときである。予測誤差(標準偏差)1.36℃を考慮すると、同様に次が得られる。

快晴時大気放射量<247W/m2

安全をみるとき、「誤差の最大値≒3×標準偏差」=4.08℃を用いるならば、

快晴時大気放射量<268W/m2

のときに最低葉温<-3.0℃となる可能性がでてくる。誤差が逆方向のときもあり、 その場合は凍霜害発生の確率は大きくなる。

まとめると、夕刻の条件から推定される快晴時大気放射量が 268W/m2以下のとき、夕刻に曇っていても晴れてくれば最低葉温<-3 ℃となり凍霜害が発生する確率が出てくる。また、237 W/m2以下の ときはその確率が高くなり、さらに207 W/m2以下のときには確率 は100%である。


つぎに、下図において、同様に大きい白丸印の破線からのずれは、

最低葉温―最低気温=-1.43℃±0.93℃ ・・・・・・・・(2)

であり、葉面温度の最低値は最低気温より平均1.43℃の低温となる。

式(2)の関係は、表186.4に示すように、これまでの各地の露地における観測値と 異なる。

表186.4 最低気温と最低葉温の差、各地の比較一覧表
基準の通風式気温計と葉面温度計で、10分間隔の記録の場合。
各地の比較一覧表


この表によれば、露地栽培での式(2)の右辺第1項は-3.13℃~-4.42℃である。 それに比べると、今回観測したビニルトンネル内の最低葉温は露地栽培に比べて 2~3℃の高温となる、つまりビニルトンネルの保温効果(昇温効果)は 2~3℃である。詳細に調べた結果でも保温効果は2.30℃である (「K183.マルチの保温・冷却効果、ビニルトンネル栽培」 の表183.1を参照)。

表の3行目は、マルチ無しの試験からの引用である。その試験ではマルチ (乳白色マルチ)の有無による比較も行ったところ、マルチ有りの場合は、 地中からの伝導熱が断熱されるため、夜の最低葉温は0.15℃低くなる (「K183.マルチの保温・冷却効果、ビニルトンネル栽培」 )。

すなわち、表の3行目の-1.30℃は、仮にマルチ有りの場合には-1.45℃となり、 今回の筑波柳橋の結果を示す2行目の-1.43℃と矛盾なく、ほとんど一致している。


参考までに、図186.7~186.9は他所におけるこれまでの観測で得られた最低 気温と最低葉温の関係である。表186.4には、これらの図のほかに前報 (「K184.凍霜害予測(9)夕刻の気温湿度予報値の利用」 )に示した平塚中里(2019年3~4月)の結果も含めてある。

図中の破線は(最低葉温=最低気温)を表す1対1の関係である。

最低気温と最低葉温の関係、柳橋2018年
図186.7 最低気温と最低葉温の比較(筑波柳橋2018年11~12月)、 実線は快晴微風夜(大きい丸印)を表す実験式である。

最低気温と最低葉温の関係、茶研2018年
図186.8 最低気温と最低葉温の比較(入間茶研2018年11月)、 実線は快晴微風夜(大きい丸印)を表す実験式である。

最低気温と最低葉温の関係、平塚2018年
図186.9 最低気温と最低葉温の比較(平塚中里2018年11~12月)、 実線は快晴微風夜(大きい丸印)を表す実験式である。 


まとめ

凍霜害予測の実用化を目指す試験として、つくば市柳橋のビニルトンネル内の トウモロコシ畑において観測した。

(1)最低葉温の予測
快晴微風夜について、夕刻の気温・湿度から快晴時の大気放射量を推定し、 翌朝の最低葉温は式(1)で予測できる。その誤差(標準偏差)は±1.36℃ある。

この誤差がこれまでに行った露地栽培における誤差(±1.0℃以内)に比べて 大きめであるのは、日中のビニルトンネル内の過剰高温を防ぐために、 トンネルの裾を上げるなどしたことによるのかもしれない。ビニルトンネル 内の土壌面には、本来は乳白色のマルチを敷くのだが、今回2019年は品不足 により、黒マルチを敷いた。

(2)凍霜害時の最低葉温
3月14日(最低葉温=-2.7℃)、3月17日(-2.6℃)、4月2日(-2.6℃) には凍霜害は生じなかったが最低葉温が-3.4℃となった3月23日の夜 (翌朝24日の朝)にトウモロコシの約20%が凍霜害を受けた。このことから、 3月のビニルトンネル内のトウモロコシが凍霜害を受ける最低葉温は-3℃以下 としてよいだろう。

(3)凍霜害発生の確率
夕刻の条件から推定される快晴時大気放射量が268W/m2以下のとき、 夕刻に曇っていても晴れてくると最低葉温<-3℃となり凍霜害が発生する 確率が出てくる。また、237 W/m2以下のときは確率が高くなり、 さらに207 W/m2以下のときには確率は100%である。

(4)微風快晴夜の最低気温と最低葉温の差
最低気温と最低葉温の差=-1.43±0.93℃である(式2)。右辺第1項の温度差 (-1.43℃)はこれまでの露地栽培における温度差(-3.1℃~-4.4℃)と 比較して2~3℃ほど異なる。つまりビニルトンネル内の最低葉温に対する 保温効果(昇温効果)=2~3℃であり、以前の詳細実験で得た保温効果=2.30℃ と矛盾しない。

備考:今後の改良点と注意事項
(5)夕刻の気温・湿度として、夕刻時刻とその10分前と10分後の3データを 平均して使用した。乱流的な変動を除き少しでも精度を上げるために、今後は、 20分前と20分後も含めて5データの平均値を用いることが望ましい。

(6)図186.6(上)に示した「大気放射量と最低葉温」の関係は、つくば市柳橋 のビニルトンネル内における3月初旬~4月下旬のトウモロコシ畑についての関係で ある。熱的な性質を変える地中水分量、その他の条件は季節や作物の生育状況などに よって、図186.6(上)の実線の傾向は似ているが多少変わってくるはずである (「K182.凍霜害予測の実用化(8)秦野市千村」 の原理の図182.9と説明を参照)。

それゆえ、対象地点・作物・季節が異なる場合は、図186.6は作成し直さなければ ならない。なお、季節は1~2カ月程度の短期間であれば、同じ図が使えると 考えられる。

(7)今回の2019年3月に起きた凍霜害から決めた「最低葉温=-3.0℃」 は、データが増えると±0.5℃ほど変わる可能性がある。予測精度を上げるには、 少なくとも3年の経験が必要であろう。それゆえ、今後は葉面温度計のみでよい ので、観測を続けることが望ましい。

さらに、データが増えるにしたがって予測精度は高くなっていく。ただし、気象 現象は乱流的変動であるので、予測精度の限界は±0.5℃程度と考えられる。


参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支.朝倉書店、 pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学.東京大学出版会、pp.324.



トップページへ 研究指針の目次