K185.凍霜害予測(10)夕刻の気温湿度を観測


著者:近藤純正・廣幡泰治
夜間における作物の最低葉温は大気放射量と密接な関係にある。快晴夜間の大気放射量 は夕刻の気温と水蒸気圧の関数として近藤(2000)の実験式から推定することができる。 その場合、夕刻の気温は1℃、水蒸気圧は1.2~1.5hPa程度(相対湿度で概略5%) の精度でよく、観測は容易である。

本報告では、夕刻の気温と相対湿度の観測から推定した大気放射量と翌朝の最低葉温 との関係を求めた。快晴微風夜について、最低葉温は誤差 (標準偏差)±0.90℃で予測できることがわかった。 (完成:2019年5月2日)

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更新の記録
2019年4月25日:素案の作成

    目次
        185.1 はじめに    
        184.2  記号と定義
        184.3 観測
        184.4 快晴時大気放射量と最低葉温の関係
        まとめ
        参考文献                 


185.1 はじめに

夜間の地上気温や作物葉面温度は地表面温度とともに下降する。微風晴天夜の 地表面温度の低下量「冷却量」は放射冷却の理論式に従う。理論式は近藤(1994) 「水環境の気象学」のp.146-p.147に示されている。

これまでの準備研究によって、作物の最低葉温の予測法として、夕刻の大気放射量 のデータのみを用いる方法がある。「K182.凍霜害予測の実用 化(8)秦野市千村」の図182.7の中図に示され、その原理は182.6節の熱収支 計算によって説明されている。

これに必要な、夕刻の大気放射量を知る方法として、
(1)放射計で観測する方法(「K178.夜間用の放射計と葉面 温度計、市販化」)。
(2)夕刻の気温・水蒸気圧の観測値を用い実験式から推定する。その実験式は 近藤(2000)の式2.33、および付録の式A2.1~A2.6)による。
(3)気象予報会社の公表する夕刻の気温・湿度の予報値を大気放射量推定の 実験式に用いる。

本報告は,(2)の検証試験である。

なお、(3)の検証試験は前報で示した( 「K183.凍霜害予測(9)夕刻の気温湿度予報値の利用」)。


185.2 記号と定義

夕刻:日没の30分前、夜間冷却の初期時刻t=0
R↓-σT:有効放射量、σはステファン・ボルツマン定数、T は気温(K)
R↓:下向き放射量(日射量+大気放射量)
L↓:大気放射量
L↓-σT:夜間の有効放射量
T:気温
B:葉面温度
To:夕刻の初期値
Bm:夜間の最低葉温


185.3 観測

観測は岡山県内陸にある勝央町の廣幡農園で2019年3月17日午後から4月23日朝までの 37夜について行った。図185.1は観測地点の南西側から撮影した写真である。 観測機器は本観測の目的以外の測器(近藤式精密通風気温計、夜間観測用の簡易放射計、 微風速計)も設置されている。

廣幡農園
図185.1 廣幡農園に設置した観測機器。


本観測に必要な測器は葉面温度計と湿度計である。
葉面温度は基準型の葉面温度計(プリード社製)で観測した( 「K178.夜間用の放射計と葉面温度計、市販化」)。

葉面温度計受感部を背丈の低い雑草の最上端の少し下、天空が十分に見える場所 (夜間の葉面がもっとも低温になる場所)に設置し、この温度を葉温とする。

湿度計は気温・湿度・気圧計が一体となったT&D社の「おんどとり」(センサはTR-3110、 データロガーはTR-73U)を用いた。太陽直射光と夜間の大気放射の影響を小さくする ために、ヤング社製の自然通風式シェルタに入れ、さらに、その上方・横に放射除けを 取り付けた。

測器はいずれも検定済である。

記録の時間間隔は10分間である。

夕刻の気温は日没30分前とその10分前と10分後の3データを平均した値、夕刻の湿度も同様に 3データの平均値を用いる。


185.4 快晴時大気放射量と最低葉温の関係

表185.1は計算値と観測値の一覧表である。夕刻の気温と湿度と気圧は湿度計による 観測値である。その右列に続く飽和水蒸気圧(esat)は気温に対する飽和水蒸気圧、 それに相対湿度を掛け算したeは水蒸気圧、Tdewは露点である。その右に続く覧は 快晴時の大気放射量を推定する近藤(2000)の実験式(式A2.5)、(式A2.3)、 (式2.33)から求めた大気放射量 L(W/m2)などである。

表185.1 夕刻の気温と湿度の観測値に基づく計算値と観測値の一覧表。
観測一覧表


図185.2は快晴時の大気放射量の推定値と最低葉温の関係である。快晴夜は大きい白丸印で、 雲のある夜や雨の夜は小印で示した。 ただし、快晴夜とは、短時間の雲の通過があっても夜間全体として快晴が続いた夜で ある。

この観測地点の周辺では、晴天夜の夜半から朝方にかけて放射霧が発生しやすい。 続報で示すように、日本各地において、晴天夜に放射霧が発生した場合でも最低気温は 霧が発生しない夜の最低気温とほとんど差がないので、図182.2では放射霧が発生した 夜間も晴の夜に含めてプロットしてある。

図において、実線は快晴夜の関係を表す実験式である。実験式からのずれ (予測誤差:標準偏差)は±0.90℃である。

大気放射量と最低葉温
図185.2 快晴時の大気放射量と最低葉温の関係。


図中に示された実験式(実線)は次のように利用される。夕刻の気温・湿度の観測値を 表185.1に代入し、大気放射量(単位:W/m2)を計算する。この表はエクセル 表であり、放射量や水蒸気量の計算式が含まれており、気温・湿度の数値を代入すれば、 自動的に結果が出るようになっている。

大気放射量が分かれば、次式(1)により翌朝の最低葉温を予測する。

翌朝の最低葉温(℃)=0.0856×「大気放射量」-27.4℃ ・・・・・(1)

これまでの各地における試験観測によれば、天気予報は外れることがある。 夕刻に曇天で、ひと晩中曇りの予報であっても、予報が外れて夜半から晴れてくれば、 式(1)で得られる最低葉温となる。曇天の天気予報が正しく曇りの状態が続けば、 最低葉温は式(1)よりも高温となる。図中の実線は起こりうる最低葉温を示すもの である。

なお、作物の凍霜害は作物の種類、生育段階によって異なる。それゆえ、凍霜害の 起きる危険な最低葉温は別途調べておかねばならない。また、葉温が氷点下になって も大気が乾燥しているときには降霜は目視できない。それゆえ、作物を代表する温度 を基準の「葉面温度計」で観測しなければならない。


まとめ

凍霜害予測の実用化を目指す試験である。 夕刻の気温・相対湿度の観測から快晴時の大気放射量を推定し、翌朝の最低葉温 の予測を行った。

岡山県県勝央町の廣幡農園において37夜間について試験した。そのうちの快晴微風夜 について、最低葉温は誤差(標準偏差)±0.90℃で予測できることがわかった。

快晴時の大気放射量と最低葉温の関係は式(1)で与えられる。

式(1)の係数は、作物の種類や季節(土壌水分量など)、その他の 条件によって変わってくるので、実用化の運用に先立って、対象地点において準備観測を 行い図185.2と同様な関係をあらかじめ作成しておかねばならない。あるいは、準備観測 でデータが数個得られた時点から実用化が開始され、データが増えるにしたがって 予測精度が上がってくる。


参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支.朝倉書店、 pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学.東京大学出版会、pp.324.



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