K183.マルチの保温・冷却効果、ビニールトンネル栽培


著者:近藤純正
1月~2月の晴天夜間について、野菜の露地栽培とビニールトンネル栽培における葉面温度 の違い、およびビニールトンネル内に敷かれたマルチ(乳白色の生分解性プラスチック シート)による地温上昇量と葉面温度下降量を観測した。葉面温度は基準型葉面温度計 (直径0.06mの水平アルミ円板、黒塗装)を用い、地温はPtセンサを用いて土壌表面 から深さ0.08mの温度を記録した。

晴天夜26日間のビニールンネル内の葉面最低温度は、露地栽培の小松菜の葉面最低温度 に比べて2.3℃±0.41℃の高温である。

マルチは直下の土壌面との間にできた空気層の断熱効果によって地中からの放熱を 防ぐことで夜間の地温を0.79℃の高温に保つが、ビニールトンネル内の葉面温度は 逆に0.15℃の低温となる。マルチと土壌面の間の所々に小石・小木片を置き、 空気層を0.02mほど厚くすると、地温はさらに0.60℃上昇し1.39℃の高温となるが、 葉面温度は逆に0.14℃下降し0.29℃の低温となった。 (完成:2019年3月12日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2019年3月7日:素案の作成

    目次
        183.1 はじめに
        183.2 観測     
        183.3  観測結果
        まとめ
        付録 観測一覧表                 


研究協力者(敬称略)
柳橋 成一
村上 史郎

183.1 はじめに

つくば市の柳橋の畑では、ビニールトンネルによるトウモロコシの早生栽培が行われ ている。苗の定植後、凍霜害を受ける年もある( 「K169.最低気温、凍霜害予測(3)トウモロコシ露地栽培」)。

ビニールトンネル内の土壌面には、乳白色の生分解性マルチが敷かれている。 プラスチック製の生分解性マルチは、土壌中の微生物などによって分解されるため、 収穫後に剥がす必要がなくそのまま耕運機で鋤き込みをしている。

本研究は準備研究として、夜間のビニールトンネル内の葉面温度が自然状態の葉面温度 に比べて高温になる度合い、およびマルチの地温と葉面温度に及ぼす影響を調べること である。


183.2 観測

ビニールトンネル
ビニールトンネルは農業用に使われている「オカモト農ビ、はやどり0.075、 ム水テキ(農ビ)BHA」を使用した。試験用のトンネルは住宅地の庭に作り長さは約5m、 高さは0.8m、幅は1.5mである。東西方向に作ったトンネルは中央を仕切り、 その一方の土壌表面にマルチを敷いた。

マルチ
モルチは乳白色の薄いプラスチック製の生分解性マルチである。半透明で、弱い空気の 流通性がある。サンバイオ、幅90cm、2列穴(穴径=30mm)である。

備考:2019年3月から、つくば市柳橋のトウモロコシ早生栽培で使用するマルチは、 みかど化エ「スーパードロン」黒180*200である。

気温計
気温(高度1.5m)は近藤式精密通風気温計により観測した (「K126.高精度通風式気温計の市販化」)。

葉面温度計
葉面温度計は受感部(黒塗装された直径0.06mの水平アルミ円板)の中心にPtセンサが 挿入されたものである(「K178.夜間用の放射計と葉面温度計、 市販化」)。

葉面温度は小松菜群落の中と、ビニールトンネル内のマルチ無し、およびマルチ有りの 3か所で観測した。受感部は、小松菜群落では葉群最上端より少し下に設置、ビニール トンネル内では土壌面から0.2mの高度に設置した。

葉面温度計は夜間用のもので、作物が蒸散活動する日中の葉面温度を表すものではない。 日中の葉面温度計は実際の葉面温度より高温値を示す。

地温
ビニールトンネル内の土壌面から深さ0.08mの地温を観測した。ビニールトンネル外の 自然状態の裸地面下0.02mの地温Gも観測した。0.02m深の地温Gは、土壌・小石の 混ざる極局所の温度ではなく、代表地温を測ることが望ましく、受感部は葉面温度計 と同じ直径0.06mの水平円板にPtセンサの温度計が挿入されたものである。

記録期間と時間間隔
2019年1月2日~2月17日まで、観測は晴天夜に行い、気温と地温は10分間隔で記録した。 記録用のデータロガーはいずれもT&D社の「おんどとり」TR-52i を用いた。

観測期間の後半の1月24日正午~2月18日朝までは、おもにマルチの有無による気温・地温 の違いを調べた。

記号
T:気温
B:葉面温度(葉面温度計による葉面温度)
B*:ビニールトンネル内の葉面温度
G:自然の裸地面下0.02mの地温
To、Bo、Go:夕刻(日没前30分)における温度の初期値
Tm、Bm:夜間の最低温度


183.3 観測結果

図183.1は12時から翌日9時までの気温・地温・葉面温度の時間変化の例である。
第1に気づくことは、破線で表した地温(0.08m深)を見ると、日中はマルチ有りの ほうが低温であるが夜間は逆に高温となっている。その理由は、ビニールトンネル内 の土壌面にマルチを敷くと、小起伏の土壌面とマルチの間に薄い空気層ができる。 夜間はこの空気層の断熱作用によって地中からの放熱を抑え、地中温度を保温して いるからである。

一方、マルチ有りの葉面温度(青実線)は図からは読み取れないほどの僅かではあるが、 夜間は逆にマルチ無しの葉面温度(黒実線)よりも低温となっている。その理由は、 マルチ・土壌面間の薄い空気層の断熱作用で、下からの熱を遮断して葉面温度が低く なっている。詳細は後掲の表183.1に示す。

1月24日~259日
図183.1 12時から翌朝9時までの温度の時間変化(2019年1月24日~25日)。
“内”はマルチ無しのビニールトンネル内を、“マルチ”はマルチ有りのビニール トンネル内を意味している。
上:気温、葉面温度、地温
下:温度差


第2に気づくことは、下図によれば、夜間のビニールトンネル内ではマルチの有無に よらず葉面温度は自然状態の葉面温度に比べて約2.3℃の高温である。また自然状態の 葉面温度(緑)は気温に比べて4℃程度の低温である。前報 「K182.凍霜害予測の実用化(8)秦野市千村」 の図182.6と矛盾していない(ただし、図182.6は葉面最低温度と最低気温の差である)。

表183.1の3段目右端の2.30℃は晴天26夜平均(1月2日~2月17日)のビニールトンネル内 と自然状態の葉面温度の差である。すなわち、ビニールトンネル内の葉面温度の保温効果 は2.30℃である。

最下段は晴天10夜(1月24日~2月17日)についてマルチの有無による温度効果のまとめ である。マルチ有りの方が夜間(0時~6時)の地温が0.79℃高温になるが、葉面温度は 逆に0.15℃低温になる。

下2段目は、マルチと土壌面の間の所々に小石・小木片を置き空気層を0.02mほど厚く したとき地温は1.39℃高温になるが、葉面温度は逆に0.29℃低温になることを示している。

表183.1 夜間におけるビニールトンネルの保温効果とマルチの保温・冷却効果のまとめ。
右端の列はビニールトンネル内の葉面最低温度Bm*と自然の葉面最低温度Bmの差である。
まとめの表

なお、各夜間の観測一覧は付録の表183.2と183.3に掲載してある。これらの表には前報 までと同様に夕刻(日没前30分)の初期値(気温To、葉面温度Bo、地表面下0.02mの 地温Go)、夕刻温度から最低温度までの冷却量(B0-Bm、To-Bm、To-Tm、Go-Bm) および葉面最低温と最低気温の差(Bm-Tm)の一覧を示した。


まとめ

2019年1月~2月の晴天夜間について、露地野菜の葉面温度とビニールトンネル栽培に おける葉面温度の違い、およびビニールトンネル内に敷かれたマルチ(乳白色の 生分解性プラスチックシート)の地温上昇量と葉面温度下降量を観測した。 葉面温度は基準型葉面温度計 (直径0.06mの水平アルミ円板、黒塗装)を用い、地温はPtセンサを用いて土壌 表面から深さ0.08mの温度を記録した。

(1)晴天夜間26日間のビニールンネル内の葉面最低温度は、露地栽培の小松菜の葉面 最低温度に比べて2.3℃±0.41℃の高温である。

(2)マルチは直下の土壌面との間にできた空気層の断熱効果によって地中からの 放熱を防ぐことで夜間の地温を0.79℃の高温に保つが、ビニールトンネル内の葉面 温度は逆に0.15℃の低温になる。

(3)マルチと土壌面の間の所々に小石・小木片を置き、空気層を0.02mほど厚くすると、 地温はさらに上昇し1.39℃の高温となるが、葉面温度はさらに下降し0.29℃の低温となる。


付録 観測一覧表

表183.2は観測一覧であり、最下段の3行には平均、偏差、偏差/平均を示した。

表183.2 晴天夜間のビニールトンネル内の保温効果、その他の観測一覧表。
観測一覧表

表183.3はマルチの効果を観測した一覧表である。ビニールトンネルの中央を仕切り、 その一方にマルチを敷いてマルチの地温の保温効果と葉面温度の冷却効果を観測した。 マルチ有りとマルチ無しでは、周辺地物・建物による日陰やビニールカバーの汚れに よる日射・大気放射の透過・吸収率、その他土壌水分量などが完全に同じではないので、 「マルチ共にナシ」の状態における観測値(2月1日~17日)を基準値として、 平均値(緑数値)に対する補正値「マルチの効果(補正)」を赤数値で示してある。
この表をまとめた内容が本文中の表183.1である。

表183.3 晴天夜間におけるビニールトンネル内のマルチ(乳白色の生分解性 プラスチック材)の保温・冷却効果の観測一覧表。
マルチの効果一覧




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